エコッツェリアについてCSRレポート

2050年へのまなざし
サステイナブルビジョンは、人とコミュニティの活動を重視しています。
人がいきいきと活動していくためのヒントをお二方からうかがいました。

社員を大切にし、顧客に愛され、地域社会に貢献する
「おもてなし経営」が、日本を元気にする

吉田 敦子(よしだ・あつこ)

2013年2月から経済産業省サービス政策課課長補佐(取材当時。現在は経済解析室参事官補佐)。
東京大学大学院都市工学専攻修了後、経済産業省に入省。以来、文化庁国際課、経済産業省の通商機構部や伝統的工芸品産業室などに所属。石川県出身。

柏木 佳奈子(かしわぎ・かなこ)

2013年4月から経済産業省サービス政策課にて、「おもてなし経営企業選」を担当。
一橋大学法学部卒。福岡県出身。


「おもてなし経営」は三方良し

現在、経済産業省のサービス政策課では、日本のサービス産業を盛り立てようと、さまざまな施策に取り組んでいます。その背景には、日本のサービス業がGDP比、従業員比ともに約7割以上を占めているにもかかわらず、昨今の少子高齢化や都市部への人口集中による国内市場の競争激化、グローバル化への対応などにより、サービス事業者の多くが激しい価格競争にさらされている現状があります。一方で、価格競争に陥ることなく、顧客からも地域からも愛され、安定的、継続的に経営を行っている優良企業が存在するのもまた事実です。そうした企業の特徴を探ってみると、多くの場合、①社員の意欲と能力を最大限に引き出し、②地域・社会との関わりを大切にしながら、③顧客に対して高付加価値・差別化サービスを提供している、ことがわかります。これはいわば、かつて商い上手と言われた近江商人が大切にしていた「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の3要素、すなわち「三方良し」の理念に通底するものです。高度経済成長期以降の経済活動のなかで忘れられていた日本独自の経営の心に、これからの時代を生き抜くヒントがあったといえます。

そこで経済産業省では、この3要素を備えた経営を「おもてなし経営」と名付け、2012年度から「おもてなし経営企業選」を実施しています。これは、応募された自薦企業のなかから、有識者による選考委員会の選考を経て優良企業を選出、表彰するとともに、その取り組みをレポートとして報告書やHPで紹介するという事業です。おもてなし経営をサービス事業者、ひいては日本の多くの企業が目指すべきビジネスモデルの一つとして推奨するのが狙いです。

ところで、おもてなし経営というと、その言葉の意味から「顧客に尽くす」経営というイメージを持たれるかもしれませんが、そうではありません。過剰なサービスにより社員が疲弊してしまうようでは、継続的な経営は難しいでしょう。初めにおもてなしをするのは経営者が社員に対してであって、それにより幸せを感じる社員が、顧客が真に望むサービスを提供し、地域にも貢献する—-つまり、皆がおもてなしをし合い、幸せであるということが、おもてなし経営の真髄です。そして、その結果として収益を確保できている。そうした持続可能な取り組みに光を当てようとしています。

顧客が真に望むサービスを提供するには、単にマニュアルに頼るのではなく、社員が現場で臨機応変に対応することが求められます。そのためには社員一人ひとりに経営理念が十分に浸透していることが重要です。その理念がいかにして生まれたのかをストーリーとして紹介することにより、その取り組みの根底にある経営者の考え方に触れていただき、多くの企業の経営のヒントにしていただければと考えているのです。

重要なのは経営理念と職場の雰囲気

具体的な選考方法としては、企業の現状の取り組みや顧客や地域との関係性、企業の強みなどを書類に記載していただくところからスタートします。応募書類に記入することにより、会社の現状を整理し、見える化できることから、自社の強みや課題を見直すきっかけとなったという企業もありました。また、どんなにいい取り組みをしていても、経営が成り立たないようでは評価できません。そのため、持続可能な経営の指標として、売上げや離職率といった、定量的な視点も審査の対象としています。

本企業選では、選考の一つとして経営者ヒアリングを行います。経営者に話を聞くと、おもてなし経営に行き着くまでには、紆余曲折あったことがうかがえます。挫折や失敗を経験し、そこから経営理念や人材育成の大切さを学び、おもてなし経営に取り組むようになったといった事例が多数あります。そのため経営者から直接これまでの経験をお伺いし理念に触れることができる経営者ヒアリングは、選考に欠かせないと感じています。

選考委員の方々が社内の雰囲気を見ればおもてなし経営を実践しているか一目瞭然だとおっしゃいます。選出企業では全社に理念が浸透しており、理念に基づく価値を共有・実践できていると、それが社内のいい雰囲気に現れるようです。 

サービス業だけでなく、すべての企業に通じる心

たとえば、2013年度に選出された十勝バス株式会社という北海道・十勝のバス会社では、経営破綻寸前の会社を二代目社長が立て直し、地元から愛されるバス会社へと変貌を遂げました。地域住民がバスに乗らない理由を探るため、沿線の世帯へ訪問ヒアリングを実施した結果、バスの乗り方や目的地までの行き方自体が周知されていないことを知り、改革に乗り出したのだと言います。その後、目的地や乗り方、経由ルートなどを案内することによって、乗客数を増やすことに成功し、今では地元の足として欠かせない存在となっています。

2012年度に選出された飲食店や食品販売を行う株式会社エー・ピーカンパニーもユニークな取り組みを行っています。アルバイトスタッフに対しても社員と変わらない教育を施し、現場において、ある程度の裁量権を与えているのです。そのことにより働き手に高いやりがいが生じ、ひいては顧客満足度の向上に寄与しています。また、エー・ピーカンパニーでアルバイトをしていたことが他企業への就職活動の際に有利に働くということもあるようです。社員を大切にし、彼らが最大の力を発揮できることが会社の知名度を上げ、ブランド戦略にも貢献しているというわけです。

これらはほんの一例でしかありません。選考された企業はサービス業のみならず、製造業や建設業など業種や企業規模もさまざまで、おもてなし経営の取り組みも実に多様です。おもてなしの経営マインドは、サービス業や中小企業だけでなく、すべての企業に共通するものだと言えます。そして、その多様な事例を見てみると、まだまだ日本も捨てたものじゃないと思えてきます。今後、おもてなし経営を実践する企業が増えていけば、日本の未来は明るいでしょう。

2012年度は50社(147社中)、2013年度は28社(165社中)が選出されました。各企業の取り組みは、以下のホームページから見ることができますので、ぜひ、ご覧ください。
平成25年度おもてなし経営企業選

広がりゆく「おもてなし経営」

経済産業省では、「おもてなし経営」の認知度を向上させるとともに、今後も継続的に優れた経営を選出することによって、サービス産業のイメージアップ、および選出された企業の人材確保やブランド戦略に貢献できればと思っています。すでに、大学の経営学部やビジネススクールなどで選定された企業の取り組みが授業で紹介されたり、就職セミナーや大企業の人材研修などへ選定企業の経営者が招かれ講演会を開催するなどといった動きも出てきています。おもてなし経営に選定されたことで、「ホワイト企業」としての認知度アップにもつながることになるというわけです。

さらにはおもてなし経営が非財務価値として認知されることで、金融機関から融資を有利に引き出すといったことも今後は可能になってくるのではないでしょうか。大丸有の大手企業、とくに金融機関の方々には、おもてなし経営という非財務価値の重要性にぜひ、気づいてほしいと思います。

一方で、選出された企業を集めた交流会、勉強会を実施していて、おもてなし経営のネットワークづくりが始まっています。こうした取り組みがきっかけとなって、おもてなし経営企業間のコラボレーションも生まれつつあります。いずれ私たちの手を離れたところでおもてなし経営が全国に広がり、この日本の優れた価値が社会をよりよく変えていくことを願っています。

吉田敦子さん(左)
「選定企業の社員の方へのヒアリングのなかで、月曜日に会社に行くのが楽しみだという声を聞くことがありました。仕事が楽しくて仕方ないと言うのです。羨ましい限りです(笑)」

柏木佳奈子さん(右)
「さまざまな事例に触れ、しっかりとした理念を全社で共有し、実践している企業は強い、と感じています。理念と社員、そして地域との関わり、その三位一体がおもてなし経営には不可欠なんですね」