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【丸善松丸本舗BookNavi】4月号「国際森林年」 ―河合雅雄『サルからヒトへの物語』、田中康弘『マタギ』など

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松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア・丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。

2011年は国連が定める「国際森林年」。国連総会決議により、現在・未来の世代のため、森林の持続可能な森林経営、保全、持続可能な開発を強化することに努力すべき年とされています。今回は、それに際して、「森」「アウトドア」「狩猟」などのキーワードで、本をご紹介いただきました。

お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター 今氏 源太さん(以下今氏
・松丸本舗スタッフ 山本 佳子さん(以下 山本
* 地震の影響により山本さんは本の紹介のみ。対談の代理は松丸本舗マーチャンダイザー 宮野 源太郎さん(以下宮野)が担当しました
* 終盤で松丸本舗ブックショップ・エディター 大音 美弥子さん(以下 大音)も参加してくださいました

このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!

○ 4月のオススメ本

  • 『私は虫である-熊田千佳慕の言葉-』 熊田千佳慕(著) 求龍堂
  • 『サルからヒトへの物語』 河合雅雄(著) 小学館
  • 『木を植えた男』 ジャン・ジオノ原作 あすなろ書房
  • 『冒険図鑑―野外で生活するために』 さとうち 藍 (著)、松岡達英 (イラスト) 福音館書店
  • 『荒野へ』 ジョン・クラカワー (著)、佐宗鈴夫 (翻訳) 集英社
  • 『マタギ 矛盾なき労働と食文化』 田中康弘 (著) エイ出版社
  • 『森の思想』 南方熊楠(著)、 中沢新一(編集) 河出文庫

アクビ: 2011年は国連が定める「国際森林年」です。あまり広く知られていないかもしれませんが、巷ではアウトドアが流行して「森ガール」「山ガール」などの森や山に親しむ女性たちの呼称が生まれたり、自然の中で行われる音楽イベントの増加や、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)では、丸の内朝大学に「環境学部 アーバン木こりクラス~森と身近になる3ヶ月~」が開講されたりと、注目してみると身近なところで森林に関する話題は増えつつあるようです

今回は、そんな森林をテーマにお話を伺います。地震の影響で松丸本舗スタッフの山本さんはメールでの参加、この場での代理を同じく松丸本舗の宮野さんにおつとめいただきます。松丸本舗ブックショップ・エディターからは、今年大学を卒業した若手の今氏さんにご参加いただきます。早速本をご紹介いただきましょう

booknavi1104_02.jpg 宮野: 今回は伝言役ということで、よろしくお願いします。
まず山本から紹介する1冊目は熊田千佳慕さんの『私は虫である-熊田千佳慕の言葉-』です。 細密画家、童画家として、生命感溢れる生物画を描いてきた故熊田千佳慕氏の言葉を、絵画作品とともに紹介した一冊ですね

「特に印象的なのは、本のタイトルにもなっている『私は虫であり、虫は私である』という言葉。常人には到達できないような、虫へ寄せる並々ならぬ思いが表現されていると思う」と、山本から。この言葉は、70歳のときに神様からいただいたそうですよ。(写真を見ながら)ほら、本当に虫と一体化しちゃったかのような目をしてらっしゃいますよね

アクビ: この本は「生物多様性」というテーマの時にもご紹介いただいた本で、わたしも持っているのですが、自然に対する謙虚な気持ちやそれと共に生きている感謝に溢れた素敵な本ですよね

宮野: 山本はまた、こうも記しています。「(本文中の)『動物でも植物でも根は一緒』という言葉から、自然界のなかで人間が生きるということはどういうことなのかということを考えさせられた」

アクビ: 先日、東京で地震が起きた直後に撮った映像を友人から見せてもらったんです。その中に欧米の方が地震に向かって「止まれ!」と命令するように叫んでいるのが写っていて。一概にはいえませんが、欧米と東アジアの自然観の違いを感じました。自然を支配すべき他者ととるのか、人を自然の一員としてとらえたりアニミズム的に信仰の対象とするのかとか、ああいった非常時に思わず出てくるものがあるなぁ、と

宮野: なるほど。咄嗟にでた言葉には価値観が出ますよね。
次に紹介するのも自然に生きる生き物についての本で、河合雅雄さんの『サルからヒトへの物語』です。河合隼雄さんのお兄さんで、京都大学名誉教授で京都大学霊長類研究所所長、サル学の世界的権威だった方です。この本は、サルとヒトの話で、ヒトとは何か、ヒトはなぜサルから進化してきたのかという話を、梅原 猛さんや山折哲夫さんなどとの対論も交えて、わかりやすくまとめられています

山本は「ヒトを生み出す母体としてのサルが、森林でどのように暮らしてきたのかがわかって興味深い」とコメントしています。たとえば、森の植物の葉にはサルが消化しきれない毒があるらしいんです。葉を食べつくされて枯れてしまわないようにという樹木の知恵なんですね。それを知ったサルは、様々な種類の木の葉を"つまみ食い"するようになった。こうしてサルと樹木の共存関係が成り立っているんです

booknavi1104_03.jpg「ヒトは森林で暮らす中で、サルから進化してきた生き物であるという認識をあらためて強く持った。熊田さんにちなんで、『私はサルであり、サルは私である』という言葉が思い浮かぶ」 ......山本の言葉です。なるほど。うまいこと言いますね。

アクビ: オランウータンはマレー語で「森の人」という意味なんです。ヒトのルーツであり、究極的な森との共生スタイルがオランウータンをはじめとするサルの姿なのかもしれないですね

宮野: そして、最後はジャン・ジオノ原作の『木を植えた男』です

アクビ: 色使いの綺麗な絵本ですね

宮野: 妻と子供を病で亡くした孤独な老人が、ただ一人で荒れはてた地を緑の森によみがえらせる物語です。同名の短編映画は1987年のアカデミー賞短編映画賞を受賞しています

老人が山奥でどんぐりの実を一粒ずつ荒野に植えているところにひとりの青年が訪れますが、青年ははたして芽が出るのか疑わしく思いながら山を去ります。その後青年は戦争に駆り出され、戦後に再び山を思い出し訪れます。するとそこには森が広がり、荒廃していた山里には若い人が住みはじめ、人々の顔は明るく希望に満ちていた。というストーリーです

山本は、「読後、木が人にもたらす恩恵の大きさを思った。木は集まれば、森になり、水を蓄え、生物を、人間を潤す。森林を守るということがなぜ大切なのか、子どもたちにも伝わる絵本」と言っています。人がいるから木を植えるのではなくて、木があるから人が集まるのかもしれません

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今氏: そういう意味ではアウトドアも木があるところに人が集まるということの一端かもしれません。『冒険図鑑―野外で生活するために』は、アウトドアに出かけるときの必携本です

アクビ: 図解が多くて楽しいですね!

今氏: そうなんですよ。見開きに文章とイラストでひとつの話題が完結しているので読みやすいです。出かけなくても家でパラパラとめくっているだけでアウトドアに出かけているような気持ちになれます。楽しいんですよ

宮野: この本はロングセラーですね。初版は1985年ですが、いまだに色あせません

アクビ: 流行りのアウトドアでこの知識を披露したらモテそうです。天気図の読み方や料理の基本、傷の処置など、日常生活でも役に立ちそうな情報が多く載っていますね。災害時のサバイバル術として備えておいてもいいかも

booknavi1104_04.jpg 今氏: 2冊目はノンフィクション小説で、『荒野へ』。ショーン・ペンが監督した『Into the Wild』という映画の原作になった本です。私の本棚には先ほどの『冒険図鑑』と一緒に並んでいます。主人公の青年は途中で毒草を食べて亡くなってしまうんですが、もし彼が『冒険図鑑』を持っていたら今でも生きているんじゃないかな、という勝手な想像から(笑)

アクビ: 自宅の本棚も松丸本舗式なんですね(笑)

今氏: 裕福な家庭に育ち、いい大学を出てスポーツも万能で、エリートコースまっしぐらな主人公が、大学卒業と共にすべてを捨てて持っていた貯金もすべて慈善団体に寄付をしてアメリカ横断の旅に出ちゃうんです。自分の中のもやもやとしたものを晴らすように真実を求めてひとり旅に出たその道中を、彼の死後に著者が追いかけるという、全米でベストセラーになったノンフィクション小説です

主人公は本をよく読む青年で、特にジャック・ロンドンの小説を好んで読んでいました。ジャック・ロンドンの小説は野生でかっこいい印象がある反面、作者本人は実は飲兵衛だったり、積極的に執筆活動をせず、40歳で自殺をしてしまったりと、負の側面を持っているんですね。でも、主人公のクリスはそういうところを見てみぬふりをする。そうじゃなきゃやっていられなかったところとか、その幼稚さ、おろかさ、情熱なんですけど、わからないでもないです

アクビ: どちらかというと人生をサバイブするということに関する小説のようですが、この本は森でのサバイブにも役立ちそうですか?

今氏: そういう意味ではあまり役に立たないかもしれないです。主人公は、現代的な過剰にものを与えられる生活の中で、これが本当に幸せなのかとかという疑問を持って、アラスカの山で土地が与えるものだけを食べていこうとします。それで300kgもあるヘラジカをハントするんですけど、それを腐らないように処理したり切り分けたりすることができなくて、結局大部分を腐らせてしまい、無駄な殺生をしてしまったと落ち込む場面があります。その後、トルストイの作品を読んで、幸せというのは人と分かち合って初めて得られるものだと悟り、帰りたいと思い始めた矢先に亡くなってしまった。そういうところにもドラマがありますね

宮野: 決められたコースを"いい子"で進んでいく中で、本当に自分がやりたいことはこれか、本当に自分はこれでいいのかと葛藤した結果の旅だったんですね。与えられたものに乗っかって生きてきたから、自分から何かにぶつかっていくとか自分から生きる術をつかみに行くことへの欲求があるんでしょうね、きっと。

今氏: 『荒野へ』の主人公は、無知や一人だったことで失敗をして死んでしまうんですが、土地が与えてくれたものを食べていく知恵と文化を持って現代を生きている人たちが日本に今でもいます。最後に紹介するのは、『マタギ 矛盾なき労働と食文化』です。クマやウサギをバシバシ開いて(解体して)いったりする場面がなかなか......

アクビ: あわわ......、これは凄いですね。丸剥きですね。そこまで載せるか、というくらい生々しいですね

宮野: あらまあ......

booknavi1104_07.jpg今氏: けっこうゴリゴリの写真がガッツリと載ってて(笑)。最初にページをめくったときの衝撃でお気に入りの一冊になりました。捕ってその場ですぐに開くことが大事らしくて、2時間くらいですべて解体しきるらしいです。開いた以上は血までも無駄なく使っていく、そういう部分に山への敬意を感じます。山はご神体なので狩りに入る前には必ず祈りを捧げるそうですよ

あと、「マタギ勘定」といって、捕らえたものをみんなで平等に分け合うらしいんですね。狩りに出られなかった人も含めてみんなで平等に分けていくそうです

アクビ: そういう支えあって生きているところも『荒野へ』の主人公にはなかったところですね。マタギの人たちは仲間同士で支えあっているだけじゃなくて、山や森とも支えあって生きているんですよね。狩りにも単純な殺戮ではなくて、"命を頂いている"という感覚がある

今氏: 食べてみるとあんまり美味しくないらしいんですけど、それでも食べ残しはしないらしいですね

アクビ: 行き過ぎた動物保護の動きやマタギが減っている影響もあるのでしょう、鹿などが増えすぎていることから最近は「ジビエ」と呼ばれる獣肉の流通が増えているようです。ただ守るだけではなくて適度に頂きその分を返していくことが共生だし、自然と人間がひとつの大きなサイクルいるという本来のあり方なんでしょうね

宮野: 都会に住んでいるとそういう感覚が薄れますね。マタギの世界は、人間がいて自然があるのではなくて、森という生態系の一要素として人間がいる。私たちはいま都会にいるけれど、"都会"が生態系かというと、そうではなくて。今回の震災では電車が止まって電気が消えて人間は何もできなくなってしまった。都会と人間は全然別の生態系にいて人間は孤立してしまっているということが明らかになりました

大音: 都市の"主役は電気"なのかもね。今回の震災では、自然をまもろうなんておこがましいって思いましたよね。まもるどころじゃない、まもっていただいてたんだ、と

アクビ: あれ、大音さん何かもってらっしゃいます?

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大音: 『森の思想』という本です。作者の南方熊楠さんは粘菌とかキノコの研究をされていた方です。表紙の写真は何か布のようなものを一枚だけまとっていますが、そんな野生児のような人なんです

宮野: でも、若い頃はオックスフォードに留学していたというエリートなんですよね

大音: 大天才。天皇の前で講義をしたこともあるんですよ。キャラメル箱の中に標本が入っていて、それをひとつひとつ天皇に見せていったらしいです(笑)。よく見ると日本人離れした顔立ちのいい男なんですよ

アクビ: 本当ですね(笑)。それで、これは、キノコの本なんですか?

大音: これは、熊楠さんの生と思想を育んだ"森"についての論文や資料を中沢新一さんが編集した本です。粘菌とは動物でも植物でもないその間のものなんです。動物や植物の死骸を発酵させて、次の生命体のための栄養にするという役割をしていて死と生をつなぐものでもあるんです。その中でキノコだけはああいう形をしているから私たちの目に留まるんですが、よく考えてみるとそういうものを食べちゃう私たちって凄いですねぇ!

森では粘菌によって生命が閉じる。そしてその粘菌を栄養にして、また命が再生する。「私はキノコであり、キノコは私である」みたいな感じですかね!

アクビ: つまり、すべてひっくるめて「私は森であり、森は森である」ってことですかね

宮野: 上手くしめた!

アクビ: お後がよろしいようで......。

「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、今回の話は森を見て人との関わりや都市社会の構造についても見えてくるものがありました。国際森林年をひとつのきっかけとして、もちろん森林のことや、身の回りのものや社会との関わりについて考えてみてはいかがでしょう。松丸本舗には考えるヒントになる本がたくさん用意されていますよ。

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