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【地球大学アドバンス速報】第43回「地球大学アドバンス〔コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ 第3回〕 "3.11"後のエネルギー政策をめぐって」(植田和弘氏)

2011年度の地球大学アドバンスのテーマは「コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ」。その第3回は、ゲストに環境経済学の第一人者である京都大学大学院経済学研究科教授の植田和弘氏をお迎えし、8月22日に開催しました。

■ 揺らぐ安全神話~竹村氏

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この新丸ビルというのは実は大変なエコビルで、青森の風力発電所で作った生グリーン電力というのを使っています。これは東京で作らなくても、全国にグリーン電力を普及させていく起爆力になりうることを示していて、今日はそんな場所から、震災後のエネルギー政策をどうするかについて考えていきたいと思っています。

今回の震災では、原発の安全神話が問われたわけですが、危機というのは実は震災だけではありません。震災以前から石油の価格が上昇し、化石燃料の輸入コストが2008年には23兆円になっていて、化石燃料に依存した社会というのは持続可能なのか?ということを私たちは何年も前から問うてきました。

つまり、実は経済的に見ても安全神話というのはすでに揺らいでいたんじゃないか?それが原発事故を契機に明るみに出ただけじゃないのか?そう思うわけです。そして、それをみんなが考えるようになったということは、実は原発のみならず私たちの社会のコストを値踏みした上で「どういう社会をデザインしていくか」というある意味ではわくわくした冒険が始まるということなのではないでしょうか。

今日は環境経済学の日本での第一人者でもあり、復興構想会議の委員としてご一緒させていただいている上田先生におうかがいします。

■ 震災前と震災後

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震災前と震災後で何が変わり、そして何が変わらなければいけないのでしょうか。まず、震災前は原発に依存し、原子力発電所を作ることが前提になっていました。気候変動計画もエネルギー基本計画とは別に作られているものの原発新設が前提で、しかも気候変動政策の観点からエネルギー政策に文句を言えないという非対称な関係だったんです。

震災を受けて復興構想会議では持続可能エネルギーを推進していくと宣言しています。それはまず一番大事なのは「命」だという大前提にたった議論で、生命・安全の基盤となっているエコロジーを具体化するためのパラダイム変換が必要だということなのです。

しかしその場合、命にとって何が「より安全」なのかということを誰の知見に基づいて誰が決めるのかというのは非常に難しい問題です。例えば放射能汚染や被曝についてはわからないことがあるという前提で物事を決めていかなければならない、その社会的政治的判断を誰が下すのか、それを決めていかなければいけないわけです。

■ 震災復興とエネルギー問題

被災地復興と自然エネルギーの推進これが大原則です。

その中で、東北地方は風力のポテンシャルだけで今の東北電力の供給量以上あると考えられます。この可能性を追求するのに、先行事例として電力の20%を風力が占めるデンマークについて見ると、普及したのは所得になるから。先進国で農業だけでやっていくというのは大変なので、農業以外の所得があることで農村地域の持続可能性が高まるのです。

もう一つ大震災からの教訓として電力依存多消費社会の脆弱性というのがあげられると思います。それを解消するためには、「節電所」という考え方が参考になります。節電は電気を生み出すことで、しかも節電所は発電所と違ってすぐに出来る。実際にモチベーションとインセンティブがあれば節電できたわけで、これを続ければいいのです。

特に日本の場合は、スタイルを変えながら電力消費を減らすことでよりよい生活ができるのではないでしょうか。たとえば、夏の節電は7月8月はみんなが半分ずつ休めば簡単に実現できます。

■ 本当の発電コストとは?

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発電コストは原子力が一番安いいや安くないなどという議論が見られますが、実際のところはどうなのでしょうか?

結論を言うと原子力の費用というのはじつはよくわからない。発電原価を計算する方法というのは決まっていて、資本費+燃料費+運転維持費を発電電力量で割ったものです。原発の場合、資本費が圧倒的なので長く使うとどんどん安くなる。でもその期間というのは法定耐用年数の16年なのか、日本の基準の40年なのか、国際基準の60年なのかがはっきりしてません。また、揚水発電の費用を含めるのかどうか、核燃料リサイクルを前提として廃棄物のコストも燃料費として計算しているのはどうか、などはっきりしないことが多いわけです。

これに対して、自然エネルギーのコストは立地によってすごく変わってくるので、一般論として言うことは難しい。風力なら風況の良い所ならすごく安くなるし、バイオマスは間伐材がいっぱいあるところなら安い。これが意味するのは、自然エネルギーというのは地域資源だということです。

この発電コストの問題は本当に複雑で、このあと竹村氏との間でながい議論が展開されました。再処理工場の建設費、保険料などなど...

しかし、もっと重要なのは価値創造の問題だとの指摘が竹村氏からありました。「311後の大きな変化としてあげられるのは節電がポジティブなものとして語られるようになったこと」だと。上田氏は「実は、本当の意味でよい生活をしようと考えたほうが節電は進むわけで、電気は本当に大事なエネルギーなので大事なところだけに使うべきだという倫理的な消費を行えば、それがある種の価値創造になるはずです」と答えました。そして「原発についても色々と意見が分かれるが、たくさんアイデアを出して議論できるような社会にあることがパラダイムの転換であり、どういうエネルギーを選択するかは議論の結果であるべきだと思います」とも。それに対し竹村氏は「いまは高い目線で日本と地球のエネルギーシステムを考え、議論する、そして地域で価値創造していくチャンスの時」だと締めくくりました。

次回
第44回地球大学アドバンス[ コミュニティ・セキュリティの再構築]シリーズ4
企業の災害対応能力とBCP(事業継続計画)

日時:2011年9月26日(月) 18:30~20:30
詳細はこちら

地球大学

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