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【環境コミュニケーションの現場】 不動産環境評価版「ミシュラン」めざす ― 日本政策投資銀行「DBJグリーンビルディング認証」

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DBJグリーンビルディング認証第1号案件の丸の内パークビルは、同制度のフラッグシップビルだ

企業による環境やCSRに関する広報・普及の現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。第10回は、日本政策投資銀行(DBJ)が2011年4月に創設した「DBJ Green Building認証(以下「DBJグリーンビルディング認証」という)」を紹介します。環境や社会への配慮がなされた不動産を「Green Building=グリーンビルディング」と位置づけて評価、認証し、顧客の取り組みを支援するこれまでにない金融サービス。不動産環境評価版「ミシュラン」とも呼べる同制度の目的と概要、効果などを、同行アセットファイナンスグループ副調査役の福吉隆行さんにお聞きしました。

不動産がもつ環境や社会的な側面を「見える化」

― 環境や社会への取り組みを不動産への評価を通じて支援する金融サービスは、これまでなかったものです
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「DBJグリーンビルディング認証」の立ち上げに携わった、アセットファイナンスグループ副調査役の福吉隆行さん

福吉: DBJグリーンビルディング認証は、環境や社会への配慮がなされたグリーンビルディングを対象として、当行が独自に開発した総合スコアリングモデルを用いて総合的に評価して認証を行う制度です。当行では投融資を通じた不動産開発や改修資金などのサポートを行っていますが、不動産に対するステークホルダーからの要請やテナントニーズが、単なる経済性の追求から環境や社会への配慮を含めたものへと大きく変化しています。

実際に日本を代表するオフィス街である大丸有エリアの物件をつぶさに見ると、よいオフィスビルとはおのずから環境や社会に配慮したものであることがわかります。このような不動産市場の進化に対応して私たち金融機関に何ができるかを考えたとき、グリーンビルディングを実務や実需に合ったかたちでわかりやすく評価するツールを開発して普及させることで、これまで評価されてこなかった不動産がもつ環境や社会的な側面を「見える化」して、不動産価値に反映することができるという結論に至ったのです。

― 評価の仕組みはどのようなもので、何を重視するのでしょうか
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DBJ グリーンビルディング認証のスコアリングモデル

福吉: 最大の特長は、環境性能だけでなくさまざまなステークホルダーとの関係性も含めて総合評価を行う点です。まず、グリーンビルディングの特長や性能を、「エコロジー(環境)」、「アメニティ(快適性)とリスクマネジメント(防犯・防災)」、「コミュニティ(地域・景観)とパートナーシップ(ステークホルダーとの連携)」の3項目5分野で整理します。そして、各100点満点、合計58の質問を設けて、スコアリングシートへの回答やインタビューなどを踏まえて評価を行います。

認証は4段階あり、環境や社会への配慮について国内トップクラスであるビルを4つ星の「Platinum(プラチナ)」、きわめて優れたものを3つ星の「Gold(ゴールド)」、非常に優れたものを2つ星の「Silver(シルバー)」、優れたものを1つ星の「Bronze(ブロンズ)」と評価します。また、既定の設問項目以外でも革新的な取り組みが見られる場合には、「イノベーションポイント」として加点する仕組みもあります。

DBJ Green Building認証

― 飲食店やホテルでいうところのミシュランのようですね

福吉: まさにミシュランのような格付けシステムを目指しました。ですから、1つ星でも低い評価というわけではないんです(笑)。料理にたとえれば、個別にどんな栄養素がどれだけ含まれているかといった定量的なことも重要ですが、一番大事なのは一つの料理としてバランスがとれて「おいしい」ということですよね。当行の認証制度でも、グリーンビルディングがもつ環境や社会に配慮した要素を5つの軸によってバランス良く評価することで、その物件がもつ強みと課題の両方が見えてきます。同時にイノベーションポイントを加えることで、オーナー独自の「隠し味」的な工夫や目新しさを引き立てることができます。また、設問についても必要最小限のものにおさえて、新設物件だけでなく既存物件における利便性や汎用性を意識した問いかけを行うように意識しています。

コミュニティやパートナーシップなどステークホルダーとの関係性を重視

― ビルの環境性能を評価するCASBEEやPALなどのシステムとの違いは

福吉: CASBEE(建築環境総合性能評価システム)は、ビルの環境性能や室内の快適性、景観への配慮などの環境に関する品質を総合的に評価するものとして、高度な専門性や網羅性に優れた評価体系です。私たちは、決して建築の専門家ではありませんが、逆に金融機関としての視点でビルオーナーとステークホルダーとの対話ツールとなり得る、実務や実需に則したわかりやすい評価モデルを目指しています。国内のグリーンビルディングを一層広げていくために、CASBEE等の既存の枠組みとも連携しながら、広くお客さまの取り組みを支援したいと考えています。

― 認証を受けることでどのようなメリットが期待できるのでしょうか

福吉: お客さまが不動産の分野で行っている環境や社会への取り組みを、第三者である当行が評価してその結果を公表することで、ステークホルダーへの社会的なアピールにつながるというCSRやPR支援の側面があります。また、評価結果などの情報は当行の専用サイトで公開しているので、投資家への対話ツールとしても有効です。

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KDX名古屋栄ビル(外観)

さらに、物件の価値を維持・向上させる修繕などをきちんと行っていることを「見える化」すれば、IRの面で高く評価されることが期待できます。たとえば、日本における中規模オフィスビルを対象とする不動産投資法人(J-REIT)の草分け的な存在であるケネディクス不動産投資法人は、保有するオフィスビルで「シルバー」や「ブロンズ」の認証を取得しています。同社の認証取得における評価ポイントとなったのが、改正省エネ法への対応をきっかけとする環境に配慮した改修の取り組みです。

従来は、修繕等に積極的に取り組んでもIRの面からするとステークホルダーへ伝わらないことが多かったのですが、手間ひまかけている部分を「見える化」して評価することにより、お客さまと投資家とのコミュニケーションが図れるようになります。事実、同社の取り組みは国内にとどまらず海外でも高く評価されています。
ケネディクス不動産投資法人

― エコロジーやアメニティはともかく、コミュニティとパートナーシップは評価が難しそうですね
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「お客さまの目線に立った評価を行っていきたいですね」と話す福吉さん

福吉: コミュニティとパートナーシップはDBJグリーンビルディング認証の大きな特色であると同時に、難しい部分であるのも確かです。この認証制度をリリースしたのは2011年4月ですが、構想自体はその1年ほど前からもっていて、5つの軸を構築するまでには試行錯誤の連続でした。不動産に対する世の中の感覚とずれないようにしたい、よいサービスにしたいという思いから、開発の過程で30社以上のデベロッパーをはじめとするお客さまと直接お話しし、100物件のサンプル調査を行いました。

その結果、不動産は利用者を含めたステークホルダーによって成り立っていると確信して、地域とのかかわりやオーナーとステークホルダーとの関係など周辺環境への配慮を評価軸に入れたのです。具体的には、テナントとの省エネや節電に関する連携、バリアフリー設計、会社自体のCSR活動、環境情報の発信などの設問を用意しています。また、打ち水プロジェクトやお祭りへの参加など、地域との協働も大きなポイントです。省エネに関しては、今後、BEMS(ビル・エネルギー管理システム)等の広がりも評価していければと思っています。

― イノベーションポイントとして加点される取り組みにはどのようなものがありますか

福吉: 特徴的なものとしては、2011年6月に福岡市の福岡リート投資法人が市内で保有する2物件に対して、「シルバー」の認証を行いました。福岡リートは日本を代表する地域特化型リートで、その資産運用会社である福岡リアリティという会社がツイッターなどで情報を発信しているのですが、自社だけでなく地元の情報などを提供しているのです。このように、ステークホルダーを含めた地域の魅力を高める取り組みも、イノベーションポイントとして加点の対象となります。

福岡リート投資法人twitter

見ただけではわからない、最新のエコオフィスに光を当てる

― 御社の顧客が評価対象ということですが、主な認証事例を教えてください

福吉: これまでに開発中の地区計画を含めて、17案件に対して認証を行っています。なかでも第1号案件として最高ランクの「プラチナ」を取得した千代田区の丸の内パークビルディングは、最先端の環境性能をもつだけでなく、広場や美術館を併設するなどゆとりある都市空間を創出することに成功しています。アメニティの高さや防災・防犯上の工夫、オーナーとテナントとの協働などあらゆる面でレベルの高い取り組みが行われており、この認証制度のエッセンスが詰まったフラッグシップと呼ぶにふさわしいグリーンビルディングです。

丸の内パークビルディングの環境性能 

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港区にある虎ノ門清和ビルは一般的な中規模オフィスビルのようで、実は高い環境や防災・防犯性能をもつ

また、「ゴールド」を得た清和綜合建物の虎ノ門清和ビルは、延床面積約 1万㎡とオフィスビルとしては中規模ですが、同社の設立50周年記念プロジェクトとして、最新の環境・省エネ性能を備えています。また、テナントの安全・安心を確保するために防災・防犯面で最大限の努力を行っています。このように、外から見ただけではわからない環境性能の高さを「見える化」することが、DBJグリーンビルディング認証の大きな目的です。

― DBJグリーンビルディング認証を含めた金融サービスについて、今後の展望などをお聞かせください

福吉: 不動産分野における環境や社会への配慮の評価と促進にいっそう力を入れていくため、2011年9月に不動産の鑑定と評価を手がける日本不動産研究所との間で、DBJグリーンビルディング認証に関する業務協力協定を締結しました。グリーンビルディングに関する分析・評価についての意見・情報交換や、認証制度の普及促進に向けた情報発信などについて相互連携を行っていきます。
日本不動産研究所とのDBJ Green Building認証制度に関する業務協力協定締結について

また、企業の環境経営を支援するために2004年から行っている「DBJ環境格付」融資や、BCP(事業継続計画)に対する取り組みを支援する「DBJ防災格付」などについても、これまで以上に力を入れていきます。とくに後者については、東日本大震災の発生や欧米におけるBCM(事業継続管理)規格などを踏まえて、2011年8月に評価システムの内容を大幅に見直したところです。これらにより、本業を通じたCSRとコミュニケーションの充実を図っていく考えです。

DBJの金融サービス

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