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これからの地方と都市の連携を探る 〜震災復興イベント「Rebirth東北フードプロジェクト」にみる食を通した連携〜 第2回

「Rebirth東北フードプロジェクト」を通して、これからの都市と地方の連携を探る第2回。2月20日から東京丸の内で始まるプロジェクト第2弾「\いきなり、んめっ!/はらくっつい 宮城食堂」にあわせて、東京の仕掛け人、三菱地所(株)CSR推進部の寺坂琴美さんと同商業施設業務部の井上友美さんに、プロジェクトのきっかけから今後の展望まで話をうかがった。

震災復興イベント「Rebirth東北フードプロジェクト」を通して、これからの都市と地方の連携を探る連載の第2回は、2月20日から東京丸の内で始まるプロジェクト第2弾「\いきなり、んめっ!/はらくっつい 宮城食堂」にあわせて、東京からの仕掛け人である、三菱地所(株)CSR推進部の寺坂琴美さんと同商業施設業務部の井上友美さんに、このプロジェクトスタートのきっかけから今後の展望まで話をうかがった。

動き出した丸の内シェフズクラブ

今回の「Rebirth東北フードプロジェクト」で大きな役割を果たしている丸の内シェフズクラブは、丸の内エリアに店舗を構えるオーナーシェフを中心に、日本を代表する和食、フレンチ、イタリアン、アジア4ジャンルのシェフ26名によって、「食育丸の内」プロジェクトの推進役として構成されている。この丸の内シェフズクラブの運営にも深くかかわっている井上さんによると、東日本大震災以前からシェフたちは東北の生産地にもたびたび足を運ぶなど、地域とのかかわりを大切にしていたという。震災の一週間前には福島県でのイベントを終えたばかりだった。それだけにシェフたちは震災を"自分ごと"として受け止め、個々に被災地に出向き炊き出しを行ったり、物資や寄附金を送るなどの支援を行っていたが、今こそ面となって丸の内から何か支援ができないかとの連絡がシェフから入った。

そんなシェフたちの想いを受け、この動きを広げていきたいと考えていた井上さんと、「本業の中でどのような支援ができるか」を考えていたCSR推進部の寺坂さんの二人が発起人となり、三菱地所グループとして取り組む「Rebirth東北フードプロジェクト」が、仙台ロイヤルパークホテルと泉パークタウン「タピオ」でスタートした。

プロジェクト第1弾が都市にもたらしたもの

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三菱地所㈱商業施設業務部の井上友美さん

8月の丸の内シェフズクラブ総会での決定から11月14日の開催まで短い準備期間の中で開催された二つのキックオフイベントは大成功に終わった。この第1弾イベントの意義を、仕掛け人たちはどうとらえていたのだろうか。

「今回のように、テナントと企業のCSR部門が組んで、復興プロジェクトに取り組むのはあまり例のないこと」と、井上さんは言う。これまで、三菱地所が丁寧に築いてきたテナントとの信頼関係が構築されていたからこそ、ネットワークをフルに生かし、プロジェクトを立ち上げることができた。このプロジェクトのコンセプトワードである「シェフの絆」という言葉は、「つながり」のもつ重要性を表している。

丸の内シェフズクラブの中心的人物でもあるミクニマルノウチの三國清三さんは若い頃から全国のシェフたちと交流をもち、さまざまな試みをしていたという。今回のプロジェクトで東北代表として登場する赤間善久さん(「RESTAURANT CHEZ NOUS」オーナーシェフ・宮城県塩竈市)や、佐藤和則さん(「Restaurant Chez papa」オーナーシェフ・宮城県仙台市)の二人のシェフも、長年にわたる三國さんとの交友関係から今回の参加を決断した。

現在では三國さんの若い頃のようなシェフ同士の交流は少なくなっているようだ。そんな時代だからこそ、次代のシェフたちも巻き込み、世代を超えてシェフが交流することで、食材、メニュー、技の継承、さらには地域産業の活性化まで拡がる可能性があるのではないだろうか。そんな想いも込められた「シェフの絆」という言葉は、復興支援という取り組みを超えて、地域と地域が連携することによって生み出されるものの可能性を感じさせる。

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三菱地所㈱CSR推進部の寺坂琴美さん

もう一方の主役である生産者も「11月14日をきっかけにつながり始めている」(寺坂さん)という。今回のイベントで出会うまではまったく面識のなかった生産者同士が、実は現地ではクルマで10分程度の距離にいることを知って新たに交流が始まった。

シェフと生産者の間での直接取引や、東北に拠点をもつ企業と生産者のつながりも生まれ始めている。前回、「みやぎ・食の流通ネットワーク」にかかわる千葉大貴さんが地方の課題としてあげていた、生産者の意識改革にも少なからず良い影響を及ぼしているのだろう。

キックオフイベントの成功という実績は、三菱地所のCSR活動にとっても大きな成果となった。社外からは「三菱地所グループだからこそ実現できた企画と評価された」(寺坂さん)という。また、社内においても「継続的に三菱地所グループが取り組む復興支援プロジェクトとして位置づけることができた」と寺坂さん。このようなイベントは一回限りのものも多い。一過性のブームではあとに残るものは少ない。その意味で、社内で認められ、継続的な取り組みのための基盤をつくることができたのが最も大きいことと言えるだろう。

東北からスタートした活動で、交流が生まれ丸の内でもつながる。丸の内、東京がハブになるいい循環が生まれ始めているようだ。

今後の「Rebirth東北フードプロジェクト」が生み出すもの

寺坂さんも井上さんも口を揃えて、このプロジェクトを「ただの復興支援のイベントにはしたくない」と話す。「豊富な食材を背景に非常に魅力的な食文化を育んできた一つの地域を、東京からも楽しみながら、みんなで盛り上げるプロジェクトに育てていきたい」(寺坂さん)、「生産者の方が、新しい流通ルートを自分で開拓することができるということに気付くきっかけになってほしいし、都市はそのルートがしっかりと根付くための支援をしていきたい」(井上さん)と、次の展開を見据えている。

昨年11月の仙台でのキックオフイベントで現状確認と地方と都市の連携のきっかけづくりを行い、丸の内で開催される第2弾では首都圏での東北食材の流通のきっかけを、さらに次に予定されている仙台での第3弾では宮城県内での生産者、飲食店、消費者をつなげて、さらに地域を元気づける。そのような循環から被害を受けた東北エリアの生産者と都市の飲食店・消費者がつながる、新しい流通の形が生まれて行けば、との狙いがある。

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プレス発表会でのシュフたち。左から中島武さん(際コーポレーション)、笹島保弘さん(イル ギオットーネ)、赤間善久さん(RESTAURANT CHEZ NOUS)、三國清三さん(Mikuni MARUNOUCHI)

「\いきなり、んめっ!/はらくっつい 宮城食堂」の命名者である井上さんはこう続ける。「一流シェフのランチという敷居の高いものではなく、もっと気軽に宮城の食を楽しんでもらうために、あえて"食堂"という身近に感じられる名称にしました」。ちなみに、"はらくっつい"とは、"満腹"を意味する宮城の方言だ。一般消費者の方にこの企画・メニューを楽しんでもらうのはもちろんのこと、首都圏の飲食店関係の方にも足を運んでもらい、宮城の食材とメニューに触れてもらうことで、具体的な取引につなげる−−この流れができたとき、成功するプロジェクトに必要不可欠な「化学反応」が起きるのではないか、と二人は期待する。

丸の内シェフズクラブから投げられた石から生じた波紋は、少しずつだが確実に地方と都市の連携へと広がりをみせている。それをより力強く継続していくためにキーとなるのは、やはり「ひと」だと二人は話す。山梨県で「空と土プロジェクト」も手がける寺坂さんは「それが横展開して、人と人をつなげるコーディネーターと、それぞれをゆるやかにつなぐネットワークのモデルになれば」と、期待している。

都市と農山村をつなぐ「空と土プロジェクト」

仙台での第3弾イベントは近日発表の予定である。二人の言う「ただのイベントには終わらない、外ものが前に出るだけでなく、地域の人が中心に、主役となって回していく、都市と地域がお互いリスペクトしあう形」をつくることを目指して。みやぎ・食の流通ネットワークの千葉さんや寺坂さん、井上さん、丸の内シェフズクラブ、仙台のシェフに生産者の方々。多くのプレイヤーが参加してきたこのイベントには、これからも新たなプレイヤーが登場してくるであろう。

氏家滉一(うじいえ・こういち)

株式会社都市設計 H.O.M.E. Project 取締役。 東京と仙台の二拠点で建築設計、コンテンツプロデュース、地域活性など 幅広いプロジェクトを手掛ける。 丸の内朝大学にはコンテンツプロデュースで関わる。 昨年7月に行われたMIYAGI AID in GINZAでは実行委員長、 Rebirth東北フードプロジェクトではイベントディレクション、 その他、名取・美田園ひまわりプロジェクトなど、 多くの復興関連プロジェクトに東京と宮城をつなぐ役割で積極的に参加している。 宮城県出身。

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