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【地球大学アドバンス速報】第50回「地球大学アドバンス〔コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ 第10回〕3.11後の日本からはじまる新たな「地球基準」の文明」原丈人氏

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2011年度の地球大学アドバンスのテーマは「コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ」。最終回となる第10回は、「3.11後の日本からはじまる新たな「地球基準」の文明」と題し、世界中でベンチャー企業を立ち上げる事業経営者であり、アライアンス・フォーラム財団代表理事でもある原丈人氏をお迎えして3月19日に開催しました。

■ 日本から世界へソリューションの提案を~竹村氏

今年度は「コミュニティセキュリティ」をテーマに1年間やってきました。それは、遠くから運ばれてくる食糧やエネルギーに依存し、沿岸部に人口半分と資産の75%が集中している日本社会の脆弱性が3.11で露呈したわけですが、それを日本がそれに対する答えを出すことで世界にソリューションを提案できるチャンスだと捉えてのことです。

このシリーズの最後に迎える原先生も、震災直後から同様の指摘をされてきました。そして、経済をフィールドとされているので、金融資本主義やグローバリズムの軋轢が色々出てきている中で新しい公益資本主義も提案なされている。さらにはまだまだ幼年期というべきデジタル文明をどのように構築していくかについても色々提案し実践されています。今日は3.11を出発点として20年、30年というスケールで文明のリデザインについて話していただけるのではないかと思います。

■ 株主資本主義への疑問と公益資本主義~原氏

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まずは自己紹介から。若いころは考古学に興味があってマヤ文明の研究をしに南米に行きましたが、その資金を稼ぐために儲けようとスタンフォードのビジネススクールに入りました。そこで学生起業をしたのが79年、光ファイバーを使ったディスプレイシステムの会社を作りました。それはそれでうまく行ったんですが、会社が大きくなると真剣味が無くなってしまう、潰れるか潰れないかぐらいのほうがチームの波長があうので、その会社はやめてまた別の会社を作りました。そういう風にしていろいろな新しいベンチャーを作ってきました。

90年代半ばになると、会社は株主のものだと考える大株主が出てくるようになり、自分たちのイデオロギーを株主総会で主張するようになります。「取締役は会社の利益を最短で最大にするために働くべきだ」という間違った考え方を吹聴して90年代の終わりくらいになるとさらにネットバブルの時代に。そして2000年代にはあらゆるものを民営化するという流れが出てきます。70年代にフリードマンが提唱した新古典派経済学がそれを後押ししていたわけですが、私には違和感がありました。

昔の金融機関は預金を仲介する存在だったわけですが、株主が「自己資金を使って儲けろ」というので、商業用不動産モーゲージを皮切りに金融デリバティブなどが出てくる。株価を上げるためにはなるべく短期的に利益を上げるのが一番で、そのためにはファンドをファンドで動かして、技術投資なんてしない。そういう手法が金融危機の元凶になっているんです。だから、株主資本主義の息の根を止める方法を考えなきゃいけないと20世紀のはじめから考えて来ました。

そこで考えたのが、公益資本主義です。これは彼らの強欲なやり方を利用しながらやっていく方法で、社会に貢献したほうが利益が出るんだという考え方を株主に植えつけるというものです。例えばJR東海は新幹線に一回も死亡事故がないんですが、その理由を聞くと、「鉄道会社は乗客の安全を守るのが第一の目的だから保線には文句なしにお金を使う」ということが答えが帰って来るんです。「株主に『保線にお金を使いすぎだ』といわれたら『株を売れ』という」んだと。それでJR東海は利益を上げているわけです。

つまりは改良改善にお金を使う。会社はサステナブルでなければいけないし、そのためには富の公平な分配が必要です。会社は従業員のためのものだと考えれば自然とそのような形になっていくのではないかと思います。

英米では企業に資金があるとファンドが「配当しろ」というのでこのような考え方は通用しませんが、ヨーロッパや途上国の人達には通じます。こういう投機家は「現代の奴隷商人だ」と私は言ってます。100年前は花形商売だった奴隷商人のように100年後には非合法になっていますよと。

■ 先進国の時代とコンピュータの時代の終焉~原氏

これから世界は大きく変化して発展途上国が先進国を引っ張る時代になります。2050年までにアフリカ、アジア、ラテンアメリカが人口の85%を占めるようになる。中国、インドは2040年くらいから人口が減ってきますが、アフリカは人口増加を続け、アフリカが世界の中心になっていくはずです。

そのこれからの時代に起きることはデジタル革命の進化です。ある人が「パソコンは2015年以降は使われなくなる」と言っているのですが、それを強く感じます。コンピュータというのは計算技術を発展させるためのものですが、今は計算よりもコミュニケーションのために使う人が増えてきました。そうなると、人間が機械にあわせるようにできている現在のアーキテクチャーには限界があります。アップルがやっているのは出来上がった技術を組み合わせてその限界に迫りつつファッション産業のようにブームを作っている、言わばコンピュータ技術の最後の火花です。

90年代のはじめ電動タイプライターが1年余りで消えてしまったように何年か後にパソコンも消えてしまうはずです。そしてそのあとはパーベーシブユビキタスコミュニケーション(PUC)の時代が来るとわたしは言っています。これは使っていることを感じさせないどこででも使える相互通信機能であり、「機会が人間にあわせる」というコンピュータとは根本的に異なるアーキテクチャーに基づくものなのです。

■ 多様性、原発、エネルギー、サステナビリティ~原氏、竹村氏

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これを受けて竹村氏は「人間が機械に従属しているこのシステムでいいの?株・マネーに従属していていいの?というのをずっといってきたのが原先生」と話し、「原発もそう。原発は危ないとわかったけれど、経済成長のためにはやめられない。それは人の命よりも経済成長を重視しているということ」と原発の話題を投げかけます。そしてさらに「今年「リオ+20」がありますが、この20年は経済がいびつになった20年でもあったけれど、宇宙の中の地球ということがすごく見えてきた20年でもありました。何よりはっきりわかってきたのは、人間のような柔軟な情報処理はコンピュータとは根本的にロジックが違うということ。この20年というのは人間の再発見の時代だった。それがどーんと途上国に行くと、途上国はこれからの文明のハイウェイになるんじゃないかと思います」とコンピュータから人間へ、先進国から途上国へというシフトについても問いかけます。

原氏は「先進国が文化文明を力で押し付ける時代はもう終わり、これからは多様性の時代。違いをはっきり認めた上で相手の文化を尊重し自分の意見もはっきり言える時代になるはずです。そうなると一神教の文化というのは強くなくて、先進国で唯一、八百万の伝統のある日本人のDNAが生きてくるとも言えます」と答え、原発問題については「原子力発電はやめるべきではないとわたしは思います。(福島第異1原発の)マーク1は確かに不良品で、GEが責任を取るべきだと思いますが、原発は人類の知恵を使って新しい技術を開発する途上にあるものです。地震や津波で壊れない原発はいまや常識で、カトリーナで水没しても壊れなかった原発もあります。それでもプロトニウムは問題なのでトリウムのようなプルトニウムを出さない燃料を使ったものが出来るよう研究は続けるべきだと思います」と話します。そして、エネルギー問題については「日本は地熱発電に力を入れるべきです。立地的にも技術的にも圧倒的に強い。ソーラーや風力はピークカットのためにはいいですが、メガソーラーなんてのはあまりやらないほうがいい」と発言しました。

これに対して竹村氏は「地球大学はずっと多様性を言ってきました。4種類の文字を混ぜて使っている日本の文化OSは多様性をもともと持っているのではないかと。3.11以前はCO2さえ削減すればサステナブルだったけれど、原子力や石油依存など環境がサステナブルでも経済がサステナブルでないということに311以降みんな気づいてきています。だからこれからは経済のサステナビリティをまともに語っていかなきゃいけないということです」とエネルギーにおいても経済においても多様性が重要であり、それがサステナビリティにつながると結論づけます。

そしてさらに「見えないところでファーストフードに健康と生命を売り渡してきました。それで人間のサステナビリティも低下してしまっている。そんな中で日本の食のOSというのは地球全体に使えるのではないかというのが来年度の地球大学のテーマになります」と来年度へとつなげました。

地球大学

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