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【環境コミュニケーションの現場】 都市の環境を生かす住まいづくりで、長く快適に住まえる ― 旭化成ホームズの「ロングライフ住宅」

kan_com_akh_01.jpg企業による環境やCSRに関する広報・普及の現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。第16回は、ヘーベルハウス40周年を迎える旭化成ホームズ(株)を紹介します。日本の住宅の平均寿命が31年と欧米(アメリカ44年、イギリス75年)に比べて非常に短い中で、ロングライフ住宅で環境負荷の軽減と安全で快適な住まい、資産価値の維持などを実現している同社の取り組みについて、広報室長の岩本教孝さんと旭化成リフォーム(株)マーケティング部長の秦考一さんにお話しをうかがいました。
旭化成ホームズ

― 1998年にロングライフ住宅宣言をされていますが、その基本思想はどのようなものですか?

岩本: 当社では、1998年にロングライフ住宅宣言を行い、点検やメンテナンスの仕組みの整備から材料の見直しなどさまざまな改善を積み重ねて現在に至っています。しかし、ロングライフ住宅への取り組みは、ここからスタートしたわけではなく、創業以来一貫してALCヘーベルというコンクリートを使用し、鉄骨の構造体による耐久性に優れた素材の組み合わせによる建物をつくり続けてきています。

一般的には寿命の長い住宅をつくれば、新築住宅のビジネスでは基本的に拡大は難しく、事業として成立しないのではないかという見方が出てきます。当社でもそういう議論がありましたが、少子高齢化の進展など日本の将来を考えてみれば、どんどん新築しては壊し、また新築するということを続けていけるだろうかと。それよりは、まちを含めて時を重ね、住み継いでいって社会資産として維持していくことが、"安心で豊かな暮らし"を実現するために必要だと考え、1998年に改めて宣言したわけです。
旭化成ホームズの「ロングライフ住宅」

― 60年のロングライフ化を可能にするのは、ヘーベルや鉄骨構造だからでしょうか。

秦: もちろん、ヘーベルのもつ耐久性は欠かせませんが、住まいというものは、建てた当時の状態で50年、100年もつということはありません。それは欧米の住宅も同じです。100年もつ住宅もありますが、すべてきちんと手を入れて、建物を機能的に長もちさせるメンテナンスをしているわけです。

そこで、当社ではロングライフ住宅宣言をしたときに、メンテナンスプログラムというものを住宅メーカーで初めて導入しました。これによってお客さまは、住宅を新築した後、これだけの期間でこれだけのメンテナンスでいくらお金がかかるのかがわかります。戸建て住宅の場合は、マンションのような修繕積立はありませんが、やはりそういう腹づもりをもって準備をしていただくことが大事だろうと思います。

kan_com_akh_02.jpg kan_com_akh_03.jpg 60年にわたり定期的に点検を実施する「60年点検システム」と、長期間のアフターサービスのための「邸別ハウスカルテ」などの仕組みも導入。

岩本: 以前、首都圏の主に宅地分譲団地に20年以上住み続けていらっしゃる住宅を対象に調査をしたところ、平均で256万円のメンテナンス費用をかけていらっしゃることがわかりました。この数字がお客さまにとって「えっ!」と驚くものなのか、納得できるものなのか、いろいろあると思いますが、実際にそれだけの金額をかけていらっしゃるんですね。そうしないと快適に住めないということがわかった。ですから、そういうことを明示したうえで、メンテナンスやリフォームまでの期間をさらに伸ばしてお客さまの負担を減らしながら、皆さんの快適な暮らしのために必要なことは胸を張って言うべきだと考えているわけです。

― 住む人のライフスタイルや家族構成の変化などへの対応についてはいかがですか?

秦: 住宅がロングライフになればなるほど、住む人の状況やニーズは大きく変化していきますから、その都度、快適な状態にしていくことが大切です。そこで、メンテンスプログラムに沿って資産価値を維持しつつ、お客さまのニーズに対応したリフォームを行うために、ヘーベルハウス専門のリフォーム会社として旭化成リフォームが設立されました。建物は構造体部分と内装・設備という、いわゆるスケルトンとインフィルに分けられます。インフィルは後からどうにでもなる部分です。ところがスケルトンは簡単には更新できません。ですから、スケルトンをしっかりとメンテナンスしておけば、インフィルは住まう人が自由に変えていくことができます。

メンテナンスプログラムの導入にあたっては、材料の耐久性をある程度そろえることで、15年ごとにメンテナンスを設定していました。60年の間で3回です。その後、お客さまの負担がより少なくてすむよう製品開発を進めてメンテナンス時期を30年に伸ばして1回にしました。30年というのは、一般の住宅では寿命を迎える時期で、住宅ローンの返済も終わるころですけれども、ヘーベルハウスではローンが終わったところで、もう少しお金をかけていただければ、また30年・次の世代までもつようになっています。

― 都市部においては住み替えということもめずらしくなくなってきました。そういう場合でも、しっかりメンテナンスされている物件は売りやすそうですね。

秦: はい。リセールバリューですね。日本では家を建てたらずっと住み続けて、子どもに譲ることが多い。途中で売却するという考えは欧米に比べて少ないんですが、これからさらに高齢化が進んでくると、その家に生涯、住み続けるケースは減ってくるでしょう。そのとき、築20〜30年経った物件は建物に価値がつかず、土地だけの値段になってしまうと、そこにお金をかけようということになりませんので、リセールバリューを提供できる流通の仕組みが必要になってきます。私どもでは、「ストックヘーベルハウス」という、自社の流通部門で建物価格を査定して、買い手を募集するサービスを展開しています。メンテナンスをしっかり行っていれば、住み替えのときには建物にも値段がついて売れるという仕組みです。

― ロングライフ住宅の取り組みについて、何か課題はあるのでしょうか?
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「ストック流通が一番の課題」と話す、旭化成リフォームの秦考一・マーケティング部長

秦: 戸建ての住宅の流通が一番の課題だと思います。少子高齢化が進んでいく中で、戸建ての自宅で人生をまっとうする以外にもいろいろ選択肢が増えていくでしょう。そこで考えなければならないのは、住まいを資産としてどう活用して、暮らしを豊かにしていくのか、ということではないでしょうか。さらに、建物を次世代がどう継承していくのか。それは直系の親族だけの問題ではありません。社会全体で住み替えモデルをどうつくっていくのかが一番大きな課題だと思います。

岩本: 価値観の転換は徐々に起こってきていますが、まだ世の中の大きな流れにはなっていません。ヘーベルハウスで子育てを終えられた方がマンションや海外に移られたりと、住み替えをされている方も結構いらっしゃいますし、ストックヘーベルハウスの仲介実績も年間200以上はあるのですけれども。

秦: それから、リフォームをやっていて感じるのは、ファイナンスや税制など、リフォームやメンテナンスへのインセンティブがわくようなサービスや制度が不十分だということ。そこが整備されると、もっとマーケットは広がっていきます。住宅ローンにしても税制にしても、新築に向けたものがほとんどです。これまでは新築のマーケットが大きかったのですが、年間の新築戸数は一時期170万戸だったものがいまは80万戸まで減少し、さらに60万、50万戸に落ちようとしている状況ですから、もう少しリフォームに向けたものが必要です。新築なら35年フラットで低利で融資が受けられますが、リフォームでは15年とか10年の期間になり、金利も高くなります。リフォームは資金を貯めて現金でやることが圧倒的に多い。ローンは消費を誘発する効果がかなりありますよね。100万円貯まるまであと1年待ってからというのでなく、ローンが利用できればすぐにできるわけですから。そういうところを民間を含めてみんなで考えていかなければならないと思います。

― ロングライフ住宅は環境負荷軽減の観点から注目されていますが、改めて環境についてのお考えをお聞かせください。

秦: ヘーベルハウスが60年のロングライフということは、設備更新を前提にしたものです。蓄電池や太陽光パネルなど環境技術は日進月歩で、最新のものを採用していくのはとても重要ですが、建物の構造、家の造りそのものは変わらない。ですから、環境に配慮した住宅というときも、そこが重要だと考えています。都市の環境をいかにとり込んで健康で快適に暮らせるかというのをメインテーマにして、風や光をどう家の中にとり込んでいくのか、その場所の環境を生かす住まいづくりを一番大事にしています。

岩本: 環境負荷の少ない効率のいい設備を入れる、再生可能エネルギーを使うなどの提案はもちろん行っていますが、それはどんどん更新されていくものです。エアコンは10年、20年経てば更新されますが、住まいは60年使うわけですから、最初にお客さまに考えていただきたいのは、環境を生かす住まいづくりです。そのために、一例をあげますと「住環境シミュレーションシステム」で、ご提案した間取りでどのような日照や通風になるのかを、お客さまに示して提案するといった、各種システムも整備しています。

kan_com_akh_05.jpg 日照・日射・採光・通風・CO2排出量を検証できる「住環境シミュレーションシステム」の採光シミュレーション

秦: 日本は先進国の中で最も緯度が低く南に位置しています。欧米は寒いため、基本的に断熱性を高めてセントラルヒーティングを採用するといったつくりです。日本には四季があり、冷暖房が必要なのは年間でおよそ4ヵ月と言われています。残りの8ヵ月は冷暖房がいらない。それは自然エネルギーをとり入れているということ。ですから、日本にあった省エネ基準が必要だし、いかに環境にフィットしていくのかを、本来考えなければいけないと思います。

都市型住宅のヘーベルハウスは自然の光や風とはなんとなくイメージが合わないんですが、私たちの提案によって、お客さまもそういう暮らし方があるんだとご納得いただける方が非常に増えてきています。自然環境をよりうまく取り込んでいくための中庭や吹き抜けの設計など、その方向に商品を進化させながら真の意味で環境に寄り添った暮らしを実現していく。それに加えて安全と資産価値もしっかりと守っていく。そういう全体のバランスのとれた家づくりを、今後さらに追求していきたいと考えています。

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