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【丸善松丸本舗BookNavi】6月号「アスリート・スポーツの力」 ―江口晃生『ベテラン力』、今福龍太『スポーツの汀』、大村敦志『ルールはなぜあるのだろう』他

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ロンドンオリンピック観戦のお供にオススメの9冊

松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞のコラボレーションでお届けする【丸善松丸本舗BookNavi】。毎月、その季節にピッタリの本をご紹介しています。

今月のテーマは「アスリート・スポーツの力」

・松丸本舗マーチャンダイザー 在岡 正人さん(以下 在岡)
・松丸本舗ブックショップ・エディター 川田 淳子さん(以下 川田)
にお話を伺い、こちらの9冊をご紹介いただきました。

  • 『ボールのひみつ』新星出版社編集部(編)/新星出版社
  • 『SPORTSシューズのひみつ』新星出版社編集部(編)/新星出版社
  • 『天才セッター中田久美の頭脳』二宮清純(著)/新潮社
  • 『ベテラン力』江口晃生(著)/ぶんか社
  • 『スポーツの汀』今福龍太(著)/紀伊國屋書店
  • 『ルールはなぜあるのだろう』大村敦志(著)/岩波書店
  • 『ホモ・ルーデンス』ホイジンガ(著)/中央公論新社
  • 『遊びと人間』ロジェ カイヨワ(著)/講談社
  • 『一流選手の動きはなぜ美しいのか』小田伸午(著)/角川学芸出版

平尾:今回は丸の内地球環境新聞編集部の平尾と池田がお話を伺います。様々な角度から「スポーツ」や「アスリート」を知り、ロンドンオリンピックをより深く楽しむきっかけとなるような書籍をご紹介いただきたいと思います。

スポーツの「道具」を知る

『ボールのひみつ』・『SPORTSシューズのひみつ』
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在岡:スポーツの本と言えばアスリート関連の書籍が多いですよね。でもまず私からは、アスリートを支える「道具」にスポットを当てたこちらの2冊をご紹介します。『ボールのひみつ』では、屋内競技・屋外競技に分けて古い時代からの公式ボールの変遷を、写真付きで紹介しています。例えば、バレーボールは途中でカラフルな物に変わったのですが、それは「見易さを考慮したため」といった解説も添えてあります。

平尾:小学校や中学校のときに使った懐かしいボールが並んでいますね。

在岡:さらに後半には、ボールの中身の構造なんかも登場します。コルクが入っていて、周りはウールが詰め込まれていて......。普段考えたことも無い内容ですよね。『SPORTSシューズのひみつ』も同じような構成の本で、昔の足袋型のランニングシューズなんかも載っています。マニアックですが、分かり易いのでオリンピック観戦のお供にオススメです。

アスリートの頭脳をビジネスに活かす

『天才セッター中田久美の頭脳』・『ベテラン力』

川田:私はスポーツが苦手だったのですが(笑)、まずは、中学生からプロの世界に入った中田久美さんとスポーツライターの方の対談本『天才セッター中田久美の頭脳』をご紹介します。バレーボールのセッターは、勝つための戦略を立てる役割で、チームメンバーの調子やモチベーション、達成感の感じ方まで全て計算しているそうです。この本では淡々とお話をされているだけなのですが、中田さんは、体力だけでなく、瞬時の判断力や情報収集能力にも優れた方なのだとわかります。

在岡:スポーツ選手の考え方にビジネスマンが興味を持つのもわかりますよね。

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川田:「いかにうまく人を動かして相手に勝つか」という視点なので、本当にビジネスの考え方そのものですよね。同じようにアスリートにスポットを当てた本として『ベテラン力』もオススメです。競馬の武豊さん、サッカーの中澤佑二さん、野球の工藤公康さんなど、いわゆる「ベテラン」と言われるトップアスリートの方々が登場する対談集になっています。語られている内容は、『ヘタくそで進んできた道』(中澤佑二さん)、『難しい環境こそ勝負を楽しむ』(武豊さん)など、帯にも書いてあるタイトルに凝縮されています。

在岡:これもビジネスにも大いに役に立ちそうです。アスリートって天才的な人が多いですよね。その天才的な方が本では普通の言葉で語ってくれるから、私たちの心に届くのかもしれませんね。

平尾:「ベテラン」と呼ばれるまで現役でいられるからには、何かあるんでしょうね。若いときは語れなかった内容なのかもしれないと思いました。

川田:そうですね、苦しみながらも長く続けて来たからこそ、語れること。お父さんたちにもオススメしたい本です。

スポーツを文化としての視点で捉える

『スポーツの汀』・『ルールはなぜあるのだろう』・『ホモ・ルーデンス』・『遊びと人間』
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在岡:今度は文化的な視点から見たスポーツの本をご紹介します。『スポーツの汀』は、スポーツの文化論で、1977年に書かれた本です。スポーツは今、政治やビジネス的側面が強いものになっていますが、その大元は芸能や宗教につながっていたものなのではないか、ということを、「文化とスポーツの狭間」という切り口で語った本です。

この本で興味深いのは、スポーツ選手の弱い部分を「強さの源」として捉えているところです。スポーツは一般的には万能的な強さを求められますが、例えばイチローのような選手はスポーツ選手の基準から見ると細くて、力強いイメージはありませんよね。その、一般的にはマイナスなイメージになりがちな要素を、「スポーツ選手としての実力の源泉にしている」と捉えているのです。同じように、お相撲さんのような巨体の人たちの持っている「悲哀」のような部分にも注目しています。「競争で勝っている選手が美しい」という一般的な視点とは違う切り口で、スポーツを見ることができる本です。

川田:私からも、スポーツを違う側面から見ることのできる本を紹介します。まずは『ルールはなぜあるのだろう』。お父さんと、サッカーをやっている息子の対話という設定で話が進み、息子にルールを教えていくのですが、「じゃあそのルールをなんで決めたの?」「なんでルールを守るの?」という疑問から、最終的には法律の話へと展開していきます。スポーツのルールがゲームをうまく運ぶためのものなら、社会の秩序を守るためのルールが法律ですよね。つまりは、「スポーツから理解する法律の本」なんです。

池田:「法律の本」と聞くとハードルが高くなりますが、スポーツのルールから、なら入り易くなりますね。

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川田:そうですね。ではそのルールという側面からもう1冊、「人類が存在するよりも前にルールがあった」という大前提の下に書かれた本がありまして、それが『ホモ・ルーデンス』です。「ホモ・ルーデンス」は「遊ぶヒト」という意味。人間は常に聖なる遊びと共に生きていて、「遊ぶから人間なんだ」という視点で書かれています。この中に「遊びと法律」という章がありまして、スポーツも裁判も戦争も全てゲーム、つまり遊びで、競って達成感を得て、それを遊びにしながら生きてきたのが人間なんじゃないか、と語られています。

オリンピックも元々は、古代ギリシャの宗教儀式から始まったものと言われていますが、今はすっかり変わってしまいましたよね。この本の最後には、現代スポーツが「遊び」の領域から去って行くことへの嘆きも書かれています。

在岡:オリンピックは、スポンサーとか経済効果とか、そんな面ばかりが表に出てきてしまっていますよね。プロの試合でも放映時間に入らないためにルールを変えるような動きもありますが、それでは本末転倒かな、と思ってしまいますね。

川田:そうですよね。それでは選手も辛いのではないかと思います。また、『ホモ・ルーデンス』の「遊びと人間」の部分を引用しながら「遊びとは何か」を分析し、違う視点も投げかけている『遊びと人間』という本も、併せてオススメしたい1冊です。

アスリートの身体の動きを科学する

9:『一流選手の動きはなぜ美しいのか』小田伸午

川田:最後に、アスリートの身体をテーマにした本『一流選手の動きはなぜ美しいのか』をご紹介します。「どのように身体を使えば能力が出せるか」ということを科学的に解明した本で、図やエピソードも入っていて、「この通りに身体を使えばいいのか」と様々な気付きを得られます。

私の経験からお話しすると、小学生の頃はすごく足が遅かったのですが、中学3年生の頃に、急に早く走れるようになったんです。それは、自分で筋肉の使い方を考えて、それに身体が対応して動いてくれるようになったんですよね。

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在岡、平尾、池田:えー、それはすごいですね!

川田:身体を使うことを意識することができるようになった年齢だったのかもしれません。それまではそのことに全然気付いていなかった。でも運動神経のいい方は、考えなくても自然に使えてしまうのかもしれませんね。

平尾:足の速さはてっきり才能だと思っていましたが、今はこういう本を読めば、子供たちも体育祭やスポーツテストを苦痛に感じたりすることもなくなるのでしょうか。

在岡:足が早くなる本なんて、私たちの子供の頃には考えられなかったですけどね。

川田:今は子供に体育を教える塾もあります。無理に行くことはないと思いますが、子供が楽しめるのであれば、行ってみるのもいいかもしれませんね。

池田:今日ご紹介いただいた9冊は、スポーツに興味の無い方でもどれか1冊は、興味が持てそうですね。スポーツには、ビジネス、文化、社会など様々な側面があることに気付きました。

川田:そうですね、1冊でも気になっていただけるといいかな、と思います。スポーツは何にでもつながっていくし、いろいろな切り口がある。そこにみんなが魅力を感じているんでしょうね。

平尾:だからオリンピックもこれだけ盛り上がるんでしょうね。普段スポーツに関心が無くても、みんながひとつくらいの競技は見る。そういうイベントって他に無いですよね。

在岡:そうですよね。オリンピックが楽しみになってきました!

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