過去のレポート2050年へのまなざし

命の力をまち作りに活かす(足立直樹氏)

続きを読む
1. まち作りの知恵を生き物が提供する

サステナビリティ・プランナーとして
経済と環境の調和を考え続ける
足立直樹が思う未来の大丸有の姿とは―。

足立直樹

1. まち作りの知恵を生き物が提供する

「1000年続くまち」と大丸有エリアでは印象的な目標を掲げています。これを達成するためには生き物の力を活かすことが必要です。人間が生き物との関係を考えるべき理由は2つ。1つは「生き物は他の生き物と良い関係をつくらなければ存続できない」という事実です。忘れてしまいがちですが、生き物である私たち人間は、食料や酸素など生活に必要なほとんどすべての資源を他の生き物から受け取っています。

もう1つは生き物の知恵が私たちに役立つことです。例えばアリ。地球上に推定1京匹もいて、体重数ミリグラムのアリ1京匹分の体重と人間の総人口の全体重はほぼ同じと推計されます。しかし人間と違い、アリは環境問題を引き起こしているという話は聞いたことがありません。キノコ栽培を行ったり他種との共生関係を築くなど、高度な社会を築いている彼らの生活スタイルに、人間が学べるヒントがたくさん隠されているのです。

report_100715_05.jpg
けやき並木が美しい丸の内仲通り

現在の日本では生き物とのかかわりについて、「生物の命や種類を大切にしよう」という議論が目立ちます。それはとても重要なことですが、生き物を活用する、知恵を学ぶなど、もっと広い視点から考えるべきテーマだと考えます。2010年秋に名古屋で生物多様性条約COP10(第10回締約国会議)が開かれるため、日本でも[[生物多様性]]への関心が高まっています。会議では「生物を保全する」とことに加えて、「生物資源を持続可能な形で使う」「遺伝子資源から得る利益を公正に分配する」というテーマも議論されます。つまり社会や経済の問題でも生き物は私たちと密接につながっているのです。

続きを読む
2. 命の姿から学ぶ「変わり続ける」大切さ

2. 命の姿から学ぶ「変わり続ける」大切さ

report100715_04.jpg

まちが発展するには、生き物のように変わり続けることが必要です。生き物は自分の子孫をなるべく多く残すために、進化や環境への適応を合理的に行います。同様に「まちが持続可能になるために、何をすればよいのか」というテーマで理想を掲げ、それを目指すことが、まちを生物同様に持続可能な姿に導くでしょう。生き物は個体としては死により必ず消滅します。しかし遺伝子は子孫へと引き継がれ、存続するのです。また、個体の中でも細胞レベルではつねに入れ替わるのは、人間でも他の生物でも変わりません。まちの成長においても、そこに住む人や存在するモノは変わっても、新陳代謝を適切に繰り返すことで、まちの機能は存続できるはずです。

また、まちの発展の方向を探る際にも、生き物がつくりあげている生態系から多くのことが学べます。私が大丸有地区の取り組みで感銘を受けるのは[[環境ビジョン]]などのガイドラインを地権者などステークホルダーが集まって作り上げ、それに基づいてまちを運営している点です。生物の世界にも、関わりあいが複雑にあり、直接的な利害関係者だけでなく、周囲とも配慮、協調しあう関係が構築されています。大丸有エリアでのガイドライン策定や運営は、こうした自然界のあり方に沿うものだと感じています。

report_100715_03.jpg生物に関する書籍でいっぱいの足立氏の書棚
report_100715_06.jpg皇居では毎年多くの渡り鳥が見られる

さらにまちの魅力を高める方法についても、生き物から学べるヒントがあります。生き物はつながりの連鎖の中で、必ず複数の役割を持っています。役割を何重にも持つ生き物は大切な存在になります。まちもさまざまな役割を持つことで魅力が増すのです。

日本の都市は高度経済成長の中で単機能化と効率化が進みました。これとは逆にオフィス空間だけではなく街路樹や公園が整備されて、文化イベントや商業でにぎわうようになった大丸有地区は、多機能化へと向かっていて、そのために魅力が増しているように思います。ただ、各スペースを見るとまだまだ単機能にとどまっています。生き物の世界の成功例を学び、オフィス空間をビジネス以外にも、緑地を憩いの場以外にも、道路を自動車交通以外にも使うという視点が広がっていくことを期待します。

さらにもう一つ別の役割も挙げておくと、この地区はもともと皇居、そして日本の玄関の一つである東京駅に隣接した「日本の顔」という役割があります。そして日本経済の中心地でもあります。この役割を再確認し、それを深めることが、都市、として大丸有には必要なのではないでしょうか。

続きを読む
3. 生き物との共存が一段と必要になる

3. 生き物との共存が一段と必要になる

report100715_02.jpg

生き物は具体的に活用することもできます。自然を適切に組み込むことでまちの価値は高まります。自然は接する人に安らぎを与えます。公園や[[街路樹]]などで適切に緑を配置し、鳥や昆虫が集うようにデザインする思想が必要でしょう。大丸有地区はもともと巨大な緑のある皇居、また日比谷公園に隣接しています。その自然とまちが今以上に有機的に結びつく方法を考えることで、生き物も増え、集う人たちが自然からの便益を日常的に自覚できるでしょう。また、水辺は多くの生き物を育て人に安らぎをもたらします。大丸有は、皇居のお濠や日本橋川等の水辺とつながることで、まちの魅力をより高めるでしょう。

私は、未来の大丸有地区が、生き物と共存する持続可能な都市の成功例になってほしいと思います。温暖化の進行や食糧不足など、地球環境問題は今後厳しさを増し、生き物とのかかわり方をより深く考える必要に迫られます。まちも持続可能な環境都市へ変わる必要がありますが、想像や言葉だけでは物事はなかなか動きません。目標となる具体例をつくり、社会がよい方向に変わっていくために人々が目指すべきイメージを見せることが、「思いを持つ都市」が担う役割です。

都市緑化丸の内パークビルディング中庭の水景施設


行幸通り東京駅と皇居をイチョウ並木でつなぐ行幸通り

2050年ごろまでの近未来を考えると、その時も大丸有地区は重要なまちであり続けるでしょう。他の国ではまち作りにおける「パブリック」を広くとらえ、私有の建物であろうと外部に接している空間、景観には厳しい規制が求められています。それが時間を経て積み重なって「まちの文化」をつくり、それが「まちの価値」を大きく支えることにつながっているのです。大丸有も理想に近づけるため、共有したまちのビジョンを実現するため、規制を厳しくすることも必要な場面もあると思います。働く人も観光客も、景観の裏側にあるもの...まちの歴史に惹かれて、集まるようになると思います。

大丸有地区が、生き物があふれるさまざまな魅力ある都市に発展し、環境共生のまちとして日本と世界の成功の目標となる。そんな未来を期待しています。

* この文章は、大丸有CSRレポート2010に掲載されたインタビューの全文です。

大丸有CSRレポート

過去のレポート一覧