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都市と地域の連携による人“財”育成が、日本の地域を元気にする(木村俊昭氏)

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1. 地域の強みを活かして、新たな価値をつくり上げる

東京など大都市がサステナブルであるためには、食材や水、空気や人財を供給する地域も、またサステナブルでなければならない。そのため大丸有には、持続可能な地域社会の実現も視野に入れた活動が求められている。そこで今回は、地方公務員から国家公務員への転身で注目を集めた地域活性化伝道師・木村俊昭氏に、地域活性化のポイントと大丸有と地域のサステナブルな関係を語ってもらった。

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1. 地域の強みを活かして、新たな価値をつくり上げる

私は小樽市から内閣官房・内閣府、農林水産省に出向し、この春に小樽に戻りましたが、6月から再び農林水産省勤務となりました。本業、また、地域活性化伝道師、地域活性学会の理事(広報交流委員長)として、地域活性化のために多くの地域と大学等の連携や活性化策の策定・実現のためのお手伝いをしています。

東京駅近辺には、地域を感じられる場所がたくさんありますね。八重洲には北海道の物産館がある関係で、大丸有地区を訪れる機会は多いのですが、ほかにもサピアタワーには大学フロアがあり、北大、東北大、東大、立命館大、関西大など全国各地の大学が入居しています。また、日本産学フォーラム(BUF、代表世話人=豊田章一郎氏)の活動もお手伝いすることがあるのですが、たとえば私が企画に参加した立命館アジア太平洋大学の留学生と各国大使との懇談会もこの近辺で開催されました。

そのたびに感じるのは、ヒト・モノ・カネ、そして機会が集中している東京という都市の強みです。ただ、これまでは経済効率、経済価値をいかに上げるかという視点から機能集積が図られていたように感じます。

これに対して、地域には文化や歴史、自然など東京などの大都市にはない強みがあります。ですから、地域はこれら自らの最も優れているところを活かして、東京などがもつ効率性や機能軸に対抗する価値を見出し、想像していく必要があると考えています。しかし、単に「わがまちに来てください」と、東京で発信すればいいという姿勢だけでは十分ではありません。地域側も、東京に寄りかかるだけでなく、東京をテコに地域の広がりをつくっていこう、というビジョンや企画をどんどん出していくべきだと考えています。

たとえば、地域が東京で発信する手段としての物産展。「物産展でブランド力を高めよう」とよく耳にします。ところが、そのまちにある企業のうち何社がその物産展に関わっているのかに注意しなければなりません。多くの場合は、10から15社程度で、しかも毎年同じ企業だったりするわけです。物産展を開催できるまちの規模は、だいたい人口が20万から30万人の自治体です。そこには何千社と企業があるのに、わずか十数社を宣伝するだけに終わってしまいがちで、もったいないと思います。たとえば、ブランド力のある企業とない企業を組み合わせたり、食のブランド力を観光と結んだりと、より大きな効果を生み出すようなアプローチ、将来につなげる戦略性をもってこそ、地域の継続的な向上、進化につながるのだと考えています。

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2. 全体最適を実現する事業構想力ある"人財"育成で連携を

2. 全体最適を実現する事業構想力ある"人財"育成で連携を

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私のところには、さまざまな地域から多くの経済団体や企業の人々が相談に来られますが、全般的な事業構想力が不足している印象があります。企業に限らず行政や商工会議所、農協、漁協、地域金融機関、小中高校の教員などを含め、全体を描くデザイン力のある人財が少ない。その企画提案が果たして、まち全体に有効に働いていくのか、どう広がりが出てくるのかを考える。つまり部分最適ではなく全体最適を実現させていく力が必要なわけです。「この製品をこう活用すればいい」というアイデアだけでは、その企業、あるいは産業はいいのでしょうが、それ以上は広がっていきませんね。肝心なのは、一昨年より昨年、昨年より今年と、一人当たりの県民所得、市民所得が上がったかどうか、という視点です。一部の地域や産業に資源を投入したにもかかわらず、まち全体の所得は一向に上がらないのでは、その取り組みは成功とは言えないでしょう。

実は、行政も商工会も、たぶん地域金融機関もそうだと思いますが、その職員は外部と交わらなくても、ある程度は仕事がやっていけるわけです。しかし、本当に地域のみなさんが幸せになるように努力するためには、その分野のさまざまな専門家と出会う機会や、外部から自分の地域を見る視点が不可欠です。

たとえば栃木県小山市の「道の駅による地域活性化」では、百貨店経営のノウハウをもつ人財を市の職員として招き、1年をかけて地元の人々と一緒に設計・準備し、オープン後2年にわたり店長として、そのノウハウを周囲に伝え、教え込んでもらいました。優れた才能と地域スタッフが一緒に汗をかくことでスキルが向上し、高い売上を達成することができたのです。

地域にあっては特に意識的に専門家の話を聞く、相談できる機会をつくり、視野を広げてくれる人とのネットワークが大切で、都市とりわけ東京との連携が重要です。大丸有の[[丸の内朝大学]]は、出勤前の時間を利用して学びと人との出会いを提供していますが、すばらしい取り組みだと思います。特に農業クラスや環境・ソーシャルプロデューサークラス、地域プロデューサークラスは地域との関わりが深い分野ですから、地域活性化のための人財の育成と供給という面からも期待しています。

また「地域大学アドバンス」や[[丸の内地球環境倶楽部]]WG(ワーキンググループ)等、持続可能な環境共生都市の実現に向けて、大丸有に集う企業等の環境・CSR 活動を支援、連携を推進する研究会が開催されていますね。ここに集まるみなさんの地域の持続可能性に向けた知恵との連携も、地域活性化のために大いに役立つだろうと考えています。東京などの大都市がサステナブルであるためには、食材や水、空気や人財を供給する地域も、またサステナブルでなければなりません。その意味で、大丸有には持続可能な地域社会の実現のために、東京や日本をリードするチャレンジングな取り組みを率先して行っていただければと、大いに期待しています。

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3. 地域・企業間での人財交流と子どもたちが地域を知る機会をつくる

3. 地域・企業間での人財交流と子どもたちが地域を知る機会をつくる

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人財の育成についてもう少しお話しすると、たとえば地方自治体や地方企業のリーダー候補が、大丸有の企業で数年間まちづくりやにぎわい創出のプロジェクトを体験するような人財交流が実現できれば素晴らしいと思います。インターンシップでは難しいとしたら、たとえば自治体は大学院生を公募して2年間、研修生として企業に派遣するというのはどうでしょうか。企業側は自社の社員をはりつけて面倒をみなくてもよくなりますし、大学院生として関わるわけですから最終的には企業に何らかの提言を行い、その後も関係を継続していくようなイメージです。

また、地域活性化のためには商品開発力の向上も課題となっているわけですが、地域の企業では商品開発に十分な人員を割くのも、能力のある人を雇えるだけの給料を支払うのも簡単なことではありません。ですから、たとえば給料の3分の1は企業が、残りの3分の2は国や自治体がもつようにする。開発担当スタッフは、大学の研究室でポスドク(博士研究員:博士号取得後、任期制の職に就いている研究者)に就いていてもいいけれども、地域内の企業で商品開発をしっかり行い、2から3年で何点か提案をしてもらうというような仕組みはどうかと考えています。

このような取り組みを、首長をはじめ商工会や農協、漁協が企業と協定を結んで5年くらい実施すれば大きな成果を生み出すことができるのではないかと考えています。地域ではたとえ一人でも人財を育てていくのは大変なことです。1年間に1人でも大学を卒業して地域に戻ってくれたら10年間で10人になります。真剣に地域のことを考える10人がそろって「一緒に連携してやるんだ」となったら、すごいことですよ。私はいま49歳ですから定年まで11年あります。ですから定年までに地域にそういう人財を11人送り込めたら最高だなと思っています。

以上のような仕組みは短期的な戦略ですが、中長期的には地域の子どもが小・中・高のうちから地域の産業や文化に触れる機会をつくることが大切です。そういう機会をつくることによって、自分の生まれ育ったまちにはこういう人がいて、こういうことで地域産業を支えてくれているということを知るわけですね。そして汗を流して頑張って地域を支えている人たちを顕彰する、歴史に名を刻むなどモチベーションを高める仕組みをつくっていけば、後に続く子どもたちも出てくるでしょう。そうなってきますと、高校の先生の評価にしても、どれだけの生徒を有名大学に進学させたかだけでなく、どれだけの生徒を地元の企業に送り込んだかということも加味されなければおかしいですね。

このように、地域活性化には全体を最適化していく中で、各方面と連携をとりながら所得を確保する仕組みをつくっていくと同時に、そこに送り込む人財をどう育てていくのかといった戦略的システムデザインを設計したうえで、トータルにマネジメントしていく必要があるだろうと考えています。

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