過去のレポート都市の“グリーンワークスタイル”を探る

まち・都市における『環境教育』のあり方とは ――啓発からアクションへ

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1.クールビズはなぜ成功したのか? ― ライフスタイルをデザインする

大丸有地区では、[[環境共生型都市]]を目指し、ビル単体のグリーン化に加え、地区の面的なハードの整備として、電気シャトルバスやベロタクシー、コミュニティサイクルの導入などグリーンモビリティの推進や、地域冷暖房や保水性舗装道路などインフラ整備を進めている。しかし、環境共生型都市のまちづくりを推進していくためには、ハード整備とあわせて、それを使う地区内のワーカー一人ひとりの環境行動が不可欠だ。
そこで今回は、温暖化防止を目指す国民的プロジェクト「チーム・マイナス6%」を担当している環境省の小森繁氏に、環境問題の啓発から、環境教育、環境アクションの促進まで、人々をいかに自発的な行動を引き出すか、その仕掛けづくりについて話を伺った。

1.クールビズはなぜ成功したのか? ― ライフスタイルをデザインする

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大丸有地区では、環境情報の発信や[[打ち水プロジェクト]]などの各種イベントの企画、丸の内[[朝大学]]に代表される学びの場によるコミュニティづくりなど、低炭素社会づくりのためのさまざまな仕掛けづくりに取り組んでいる。感度の高い人がたち集積する街だけあって、その先進的な動きは、他都市からもつねに注目されてきた。
しかしまだ現状では、大丸有で働く大多数の人たちを巻き込むほど大きな環境アクションにまでは至っていない。オフィスワーカーに対して、どう環境問題を啓発し、環境アクションを促していけばいいのか――そのヒントとなるのが「チーム・マイナス6%」の活動である。

小森: ご存知のように、2005年に京都議定書が発効され、2008?2012年までの期間中に、日本では温室効果ガスの合計排出量を1990年に比べて6%削減する必要があります。現状ではCO2 排出量は産業界、一般家庭ともに伸びていて、90年比で4割増とも言われています。つまり、CO2 削減のためには、産業界だけでなく、オフィス等も含めて国民全体で環境アクションに取り組むことが不可欠なのです。そこで、温室効果ガス6%削減を目指して国民一人ひとりができることから取り組もうと、日本政府の主導のもとスタートしたのが、国民的プロジェクト「チーム・マイナス6%」です。

チーム・マイナス6%では、冷暖房時の温度設定や節水、アイドリングストップ、エコ製品の使用、過剰包装防止、節電など、誰もが簡単に取り組める6つの具体的なアクションを掲げており、参加者はこうしたアクションからできるものを選択、申請して実践します。現在、個人会員は300万人を超え、企業などの団体も3万2000を数えるまでになりました。

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これだけ多くの方に賛同いただけたのは、頭ごなしに啓蒙活動や環境教育を行うのではなく、一人ひとりが、自分自身のこととして思い描けるような次代のライフスタイルをデザインし、呈示できたからではないかと思います。なかでも、大ヒットしたプロジェクト、「クールビズ」があります。クールビズでは、オフィスで働く男性に、夏場、ネクタイを外してもらい、服装の軽装化を促しましたが、その目的は冷房の設定温度を28℃にすることにありました。単に「28℃でがんばって働いてください」というだけでなく、取り組みやすく具体的な新しいライフスタイルを呈示できたことが、成功の秘訣といえるでしょう。

夏の服装の軽装化の動きは、以前からありました。半袖の背広や開襟シャツによる「省エネルック」はご記憶にあるかと思いますが、なかなか普及しなかった。また、当時は男性のビジネスファッションに多様性が少なく、時代が早すぎたのでしょう。現代の、人々の価値観の多様化に加え、地球環境問題への関心の高まりが、クールビズの受け入れを容易にしたのだと思います。つまり、思想やキャッチーなネーミング=〈ソフト〉に加え、かっこいいシャツや高機能スーツ=〈ハード〉が揃って、〈アクション〉が生まれたと捉えています。〈ハード〉と〈ソフト〉と〈アクション〉が掛け合わされることで初めて、大きな波が起こっていくのです。

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2.クールビズからウォームビズ、クールビズ・トレインへ ―自走化により活動を発展させていく

2.クールビズからウォームビズ、クールビズ・トレインへ
―自走化により活動を発展させていく

クールビズは、小泉政権下の2005年に提案され、わずか4年ですっかり浸透し、新たなライフスタイルとして定着した。その後、冬場に暖房の設定温度を20℃にするため、寒いときには暖房器具に頼らず衣類を着込むという「ウォームビズ」が提案され、広がりつつある。一つの成功体験が、次へのステップへと繋がり、相乗効果を生みつつあるのだ。

report091021_02_01.jpg小森: さらに最近では、オフィスから外に出た場所でもクールビズを展開しています。その一つがクールビズ・トレインというもので、鉄道会社の協力を得て、冷房の設定温度を高めにした電車を走らせ始めました。以前から、電車の夏場の設定温度については、女性を中心に「寒すぎる」という声もありましたし、設定温度を上げれば、CO2削減にも貢献できる。実は、車両ごとの温度の微調整というのは難しくて、今のところは新型の車両しか導入できないのですが、導入の車体にはステッカーを、駅構内にはポスターを貼って、大々的にアピールしました。電車を利用する人はもとより、電車を眺める人、電車好きの子どもたちにもクールビズを知ってもらうことで、クールビズがオフィスから広がって、街全体へ波及していくきっかけになれば、ということも狙っています。

チーム・マイナス6%はスタート当初は国民運動ということで役所が始めたことですが、浸透するにつれ、民間の力によって新しい技術や新素材が開発され、活動の輪が自走化していきました。「自走化」こそが、環境問題の取り組みには不可欠なのです。

report091021_02_02.jpgちなみに、自走化の流れをつくった仕掛けの一つに、チーム・マイナス6%のロゴがあります。チーム員になれば、誰でも自由にポスターや名刺にこのマークを刷り込むことが可能なんですね。いちいち許可を取る必要がないので、最近では、「店内の冷房を控えめにしています」とか、「私たちは地球環境問題に取り組んでいます」と書かれたポスターにこのマークを使っている店舗をよく見かけるようになりました。それだけ裾野が広がってきたということでしょうね。

もはや、上からの言葉で皆が一斉に動くほど、単純な時代ではない。クールビズにしても、まさに自ら走る、自走する人たちが同時多発的に環境アクションを起こさななければ、一つのワークスタイルとして確立することは難しかったに違いない。

チーム・マイナス6% ハロー!環境技術 クールビズ ウォームビズ
(左から、「チーム・マイナス6%」、「ハロー!環境技術」、「クールビズ」、「ウォームビズ」ロゴマーク)

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3.低炭素社会実現への次のステップ ―子どもたちのために大人たちがビジョンを示せ

3.低炭素社会実現への次のステップ
―子どもたちのために大人たちがビジョンを示せ

今冬、デンマークで開催されるCOP15において、京都議定書の定めにない2013年以降の地球温暖化対策が話し合われることになる。それにさきがけ、国連気候変動サミットでは、鳩山由紀夫首相が「鳩山イニシアチブ」を提唱、温室効果ガスの排出について、2020年までに1990年比で25%削減することを表明した。すでに、世界全体で2050年までに1990年比の半減が国際的な合意になりつつある現在、低炭素社会の実現は喫緊の使命である。では、いかに社会システム全体を変換していったらいいのだろうか――。

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小森: まずはできることから積み重ねていくことが大切ですが、次のステップとしては、新しい技術や製品を次々に生み出し、並行して制度を変え、ライフスタイルを変えることで、社会全体を低炭素社会へと導いていく必要があります。

そこで現在、低炭素社会づくりのさきがけとして、[[環境モデル都市]]である千代田区では、さまざまな取り組みを始めています。その一つが「エコまちあるき」というもので、大丸有地区も含む千代田区内の、環境対応施設や[[屋上緑化]]や[[壁面緑化]]のポイント、エコイベントの情報、エコ公園や都会の菜園などをめぐるモデルコースなど、環境情報を盛り込んだマップを小冊子にまとめ、その普及に努めています。また、大丸有地区では、[[電気自動車]]を活用したカーシェアリングと急速充電器の活用、地域内の「エコポート」(サイクルポート)で借りた自転車をどこでも返却できるコミュニティサイクルなど、新しいモビリティに関する社会実験も行っています。

実は先日、こうした活動を普及するためにイベントを行い、多数の小学生にも参加してもらいました。「コミュニティサイクルが印象に残った」とか、「ビルの中に緑があってびっくりした」といったさまざまな感想がありました。2050年の社会とは、遠いように感じますが、彼らにとって2050年は、41年後、まさに今の私くらいの年齢であり、そう遠くない将来なんですね。だからこそ私たち大人が責任をもって、さまざまな可能性を示しながら、未来のグランドデザインを子供たちに提案していかなければならないのだと、改めて強く感じました。

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そして、われわれ大人たちの使命は、社会の組織人として役割を担うだけではない、と小森氏は言う。家に帰れば、家庭人としてできることがあるはずだ、と。

小森: 私の場合は、自分の結婚式で面白い試みをしてみました。結婚式というのは私たちにとって重要な文化の一つではありますが、食べ物などが無駄になる部分も多い。そこで、残り物がなるべく出ないように立食形式にしたり、森林認証の木材を使用した紙で招待状をつくったりしました。遠方からの出席者の移動や新婚旅行でオーストラリアに行った分のCO2 を算出して、カーボンオフセットによって相殺すべく、ブラジルのもみ殻発電プロジェクトによるクレジットを購入したしたのです。結婚式というイベントだけでなく、旅行など日々の暮らしの中でも、こんなふうに少し工夫するだけで、楽しみながら環境アクションを実践することができるんですよ。自分でやってみることで、アクションする意味をより深く感じることができ、人々に伝えていく説得力も増したんじゃないかな(笑)

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4.街が変われば、社会が変わる ―照明、自転車、ワークスタイル

4.街が変われば、社会が変わる ―照明、自転車、ワークスタイル

真の低炭素社会の実現のためには、いわゆるアーリーアダプターだけが率先して行動したとしても充分ではない。むしろ、環境問題に関心はあるものの行動が伴わない大多数の人たちを巻き込んだ、アクションを促していく必要がある。そのためには、街は何ができるのだろう。

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小森: やはり街自体が変っていくことだと思います。カーシェアリングやコミュニティサイクルも、環境のことをさほど意識しなくても、便利であれば皆使うでしょう。クールビズ・トレインも同様で、公共空間の中に選択肢が増えていって、裾野が広がることが重要ではないでしょうか。むしろさほど意識しないで、自然に、当たり前のこととして広がっていく仕組みが効果的かもしれません。

また、建物の照明をLEDに変えれば白熱電球よりも8割近く消費電力を削減できます。LED照明は、少し前まで調光ができないとか、色味のバリエーションがないなど使い勝手が悪かったのですが、現在では、技術革新によってさまざまな製品も登場しつつある。そうしたこともあり、現在、環境省では、「省エネ照明デザインモデル事業」を実施していて、すでに一部のファストフード店やスーパー、居酒屋などで実験的な取り組みが始まっています。つまり、LED照明のお店で飲むだけで省エネに貢献することになる。それに気づかない人も多いかもしれませんが、気づかない人も巻き込んで、「街ぐるみ」で取り組んでいくことが、社会全体の構造を変えていくことにつながるのです。その観点では、オフィスの知的照明実験を行う、エコッツェリアの取組みにも、注目しています。

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街のもつ可能性――それは、多様な人が多様な目的で集うことにこそ、ある。コミュニティサイクルや省エネ施設を通じて、未知の人同士が出会い、共有して、共感することが、低炭素社会への取り組みを加速させていくのだと、小森氏は言う。

小森: 街にさまざまな人が集い、実際に顔を合わせることで、多種多様なアイディアや技術が生まれていくことに大いに期待したいと思っています。そのとき重要なのは、原点に立ち返ること。街というのは、「食べる」とか「歩く」とか「働く」とか「買う」とか、人間の基本的な行動によって支えられています。そういう基本的な行動の中に、環境アクションを取り込んだライフスタイルをデザインできれば、共感を呼ぶことができるはずです。今後も、皆さんのお知恵を活用しながら、ワークスタイルのリデザインを手がけていきたいと思いますので、ご協力よろしくお願いいたします。

MADOKA's EYE 今回の取材を終えて、編集記者からのヒトコト

昨年、ご結婚されたばかりという小森さん。結婚式にカーボンオフセットを採用するとは、さすがです! 奥様は、小森さん以上に環境問題に関心が高い方だそうで、お二人で楽しみながら結婚式の準備を進められたといいます。ただ、実際に低炭素結婚式を実践しようとすると、招待状の封筒探しにも一苦労。大阪からの招待客の方が、思いがけず飛行機で来られて、CO2の排出量を計算し直すハプニングも。「出席者の方たちにもゲーム感覚で楽しんでいただくことができたようです」と小森さん。日々の行動を、低炭素社会づくりという目で見直してみると、まだまだいろんなことができそうだなと、改めて感じた取材でした。

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