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都市を生き物と自然が人と触れ合う空間に~「1000年続くまち」をめざして

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1. 自然の恵みを大都会で享受するために

生物多様性の保全に向けた企業の動きが本格化している。2010年のCOP10で採択された「名古屋議定書」や、新たな戦略計画の「愛知ターゲット」の達成に向けて、国だけでなく企業による生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取り組みへの期待が高まっているのだ。2020年までの「国連生物多様性の10年」は始まったばかり。しかも、2012年6月にはブラジルで環境の国際会議「リオ+20」が開かれる。都市を、生物と自然があふれ人と触れ合う魅力ある空間に発展させていくことは、大丸有が目指す「1000年続くまち」を実現するためにも欠かせない。鹿島建設、竹中工務店、大成建設、清水建設、大林組といった企業が、本業の中でソフト・ハードの両面で続けている生物多様性保全活動をレポートする。企業を支援するツールや、大丸有界隈の自然発見ポイントも紹介する。

1. 自然の恵みを大都会で享受するために

■ はじめは「生物多様性」という言葉すら知られていなかった

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鹿島建設環境本部 地球環境室次長の山田順之さん。本業を通じて自然と上手に付き合い、利用する「ワイズユース」が重要と話す

鹿島建設は、2005年に上場企業として初めて定めた「鹿島生態系保全行動指針」を、2009年に「鹿島生物多様性行動指針」として改訂した。「初めから生物多様性という言葉を使おうという意見もありましたが、一般的にはほとんど知られていない用語だったため、生態系に落ち着きました。それが、2010年のCOP10を前に認知度が格段に上がったので、改訂にあたり採用することになったのです」。環境本部地球環境室次長の山田順之さんは、制定から改訂に至る経緯をこう振り返る。指針のポイントは、土木や建築などの建設事業を通じていかに自然環境と上手に付き合い、保全し、環境資源をうまく使う「ワイズユース」を実現していくかだ。

そのために、「全社員の参加」、「建設事業への展開」、「調達における配慮」、「研究開発の推進」、「社会的要請の尊重」、そして「コミュニケーションの促進」―の6項目を掲げて、人と自然が共生する社会の実現に貢献していくことを約束している。「環境の専門部署だけではなく、工事や管理などあらゆる部門が連携して、全社的に取り組みを進めることが大事です。また、いくら生物多様性の保全が大事といっても、お客様の関心やニーズがないと一方通行になりがちなので、社会に向けて生物多様性の重要性について発信していく努力が欠かせません」(山田さん)。

こうした理念のもとに取り組んでいるのが、自然の恵みを都市でも享受することが可能な「生物多様性」都市の実現だ。現実に進められているプロジェクトを見てみよう。

■ 「ニホンミツバチプロジェクト」には環境教育の効果も

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ミツバチプロジェクトを成功させるため、鹿島の社員たちは養蜂業者などに「弟子入り」して、ミツバチを育てるノウハウを一から学んだ

鹿島による取り組みの中でも軌道に乗りつつあるのが、「ニホンミツバチプロジェクト」だ。「ミツバチと人間との付き合いの歴史は3000年以上にも及ぶといわれ、日本書紀にもミツバチに関する記述があることからもわかるように、私たちにとってなじみの深い昆虫です。このプロジェクトでは養蜂業で広く用いられているセイヨウミツバチではなく、蜂蜜の生産量は少ないのですが日本の気候風土に合った在来種のニホンミツバチを採用しました。ただ飼育するだけでなく、受粉活動が周辺の植物に与える影響を調べたり、近隣の子どもたちへの環境教育などを実施したりしています。」(山田さん)。

2009年のプロジェクト開始当初、同社はミツバチの病気や蜂蜜の生産などに関する経験やノウハウをほとんど持っていなかった。そこで、養蜂業者や先行していた銀座ミツバチプロジェクトなどに教えを請い、養蜂について一から学んだ。その甲斐もあって、現在は都内にある社宅の屋上や調布の同社技術研究所で数群飼育するほか、中高一貫校や商業施設などが実施するミツバチプロジェクトの支援を実施している。生産される蜂蜜の量は年間25kgほどだ。小さな瓶に入れて関係者に配っているほか、同時に採れる蜜蝋を利用してハンドクリームなども精製している。

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楽しむことにかけて子どもたちは天才。ミツバチについて学んだことを、親に教える子もいるという

いくら身近な昆虫といっても、街中でハチを飼うことに疑念をもつ人は少なくない。しかし、ミツバチを飼育することによる環境へのよい影響や、環境教育上の効果などをきちんとデータで示して説明すれば、ほとんどの人が納得してくれるという。巣箱の設置について協力を頼む際に、維持管理も含めて提案していることも信頼につながっているようだ。地域との関係性構築を、具体的なプロジェクトで実地で取り組んでいくことは、企業姿勢として欠かせない点だろう。

■ ヤギによる除草は「トリプルゼロ」のスゴ技

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同社では2010年から、社宅でヤギと烏骨鶏を用いた緑地管理のプロジェクトも行っている。ヤギやヒツジによる除草は、古くから欧米を中心に行われてきた。芝刈り機などの機械に比べて騒音が起きず、エネルギーを使わないので二酸化炭素の排出もゼロ。しかも、刈った後に植物性廃棄物が発生せず、ヤギのフンはたい肥化することができる。つまり、「トリプルゼロ」が可能な環境に優しい手法なのだ。ヤギを飼うようになってセイタカアワダチソウなどの外来種が激減し、代わりにアオスゲやチガヤなど在来の野草が伸び始めた。また、ヤギの嫌いなドクダミを烏骨鶏が食べ、ヤギがいるので鳥を狙う猫やカラスが近寄らないなど、生物同士の不思議な関係が生まれている。

海の生態系についても意欲的な挑戦を行っている。東京・芝浦の湾岸部には、かつて多くのカニがいて生態系において要の役割を果たしていたが、コンクリートによる護岸造成で姿を消してしまった。そこで、カニが好んで生活する石積護岸の形状と機能を備えたコンクリート製の「カニ護岸パネル」を開発して同地に設置した。これにあわせて、潮が引いた際に干潟や潮だまりができるように護岸を施工し、古くから運河などにいたクロベンケイガニを放流した。すると1年ほどで、カニの幼生を食べるハゼやウナギなどが多くみられるようになったという。

都市を、鹿島が目指す「いきものにぎわうまち」にするには、ただ森林や緑地を増やすだけではなく、地域の生態系ネットワークを考慮して緑地計画を行うことが重要になる。その手法として開発したのが「エコロジカルネットワーク評価技術」だ。解像度の高い衛星写真で都市における緑の割合を二次元的に把握した後に、樹の高さや地形などのデータと組み合わせて、その土地における生態系の指標となる種の生息域を割り出して、緑地保全の効果を「見える化」する。指標種の例としてはコゲラやエナガ、ウグイス、メジロなどが用いられてきたが、都市部で減少している草地の再生を目標に、草地を好むヒバリなどが選ばれるケースも増加しつつある。

企業による生物多様性保全が目指すべき方向性を、山田さんに聞いた。「企業が事業として取り組む場合には目標設定が求められますが、『何種類増えました』という風に定量的な評価を行いがちです。それも確かに重要ですが、その土地にとって重要な種が何かを把握して、その保全を通してバランスのとれた生態系を保全、創出する定性的な評価に基づいた活動が大事です。また、幼稚園でミツバチの生態を教わったお子さんがお家の人にその内容を伝えたり、外で虫に出くわして慌てるお母さんにお子さんが対処法を教えたりと、地域や家族の新たなコミュニケーションも生まれています。生物多様性や生態系というと難しい話題になりがちですが、面白い面や楽しい部分もあると多くの人に知ってもらい、社会的なムーブメントに育てていきたいですね」。

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2. 生物多様性への配慮と企業の経営戦略との連携に向けて

2. 生物多様性への配慮と企業の経営戦略との連携に向けて

■ 都市に「緑のくさび」を打ち込んでいく

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名古屋センタービルの屋上に植えられたミカンの樹では、ナミアゲハの幼虫がすくすくと育つ

環境と調和する空間創造を目指した環境建築(サステナブルワークス)の創出を、事業活動の柱に据えた企業もある。竹中工務店は2012年3月、生物多様性への配慮を重要課題として位置づけた「生物多様性活動指針」を制定した。同社は1971 年から「設計に緑を」をスローガンに、「都市に緑のくさびを打ち込んでいく」ことを目指してきた。ここでいう「緑」とは単に樹木や草花を意味する言葉ではなく、豊かな環境の創造を表すキーワードだ。こうした考えに立って、環境方針「環境と調和する空間創造に努め社会の持続的発展に貢献する」を定めた。

2010 年には、「2050 年に向けた環境への取り組みの方向性」と環境メッセージ「人と自然をつなぐ」を制定し、重点領域として自然共生社会、低炭素社会、資源循環社会の3つを掲げた。生物多様性活動指針は、その一つである自然共生社会の実現に向けた取り組みを全社一丸となって進めていくために、企画、設計、調達、施工のあらゆる段階の建設活動と研究開発、自社施設の運用・管理などの企業活動全般において、生物多様性への配慮を重要課題として位置づけ、社内外へ示したものだ。

■ 名古屋では企業、市民、行政が協働し蝶の飛来状況を調査

竹中工務店による生物多様性保全活動の中でも高い評価を得ているのが、2009年から名古屋で行っている「名古屋 蝶の飛ぶまちプロジェクト」だ。身近な昆虫であるチョウをシンボルかつ指標種として位置付け、人と自然が共生する豊かな環境を目指す研究だ。「弊社では、高齢化や都市化が急激に進む現代社会だからこそ、多様な生物を都市に呼び込んで『人と自然をつなぐ』環境をつくることが大切だと考えています。このプロジェクトでは、誰もが理解しやすく、身近なところで取り組める豊かな都市環境づくり活動への実践的な知見を収集し、提供することを目指しています。」(同社地球環境室談)。

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従業員による「蝶の飛ぶまち観察隊」は、プロジェクトの人気メニューだ

プロジェクトを成功に導くには、市街地の中に緑を適切に配置して緑地と緑地とのつながりを高め、近隣の都市公園など比較的大きな生息地からチョウを誘導することがまず必要だった。そのため、名古屋都心部に誘導可能なチョウ24種を選び、成虫や幼虫の餌となる食草・食樹や蜜源植物を植えたプランター約200基を、プロジェクトに賛同した企業14社の前庭や屋上に配置し、チョウの飛来状況を調査することから始めた。「企業や専門家、市民など幅広いステークホルダーの協力を得て継続調査したところ、多くの種類のチョウが飛来して産卵していることを確認できました。研究の域を超えて、企業と市民、行政の協働による生物軸からの都市環境づくりにも広がっています。」(同)。

また、「蝶の飛ぶまち観察隊」による出前授業など地元の子どもたちを対象とした環境教育や、社員が生物多様性についての認識を深める場として、さらには社員と地域住民とが交流する地域参画の機会にもなっている。同社ではプロジェクト専用のホームページを立ち上げて情報発信を行っている。

■ 環境配慮と「いやし」の両立で「居心地の良い」病院に

同社によると、近年はクライアントから建築計画における生物多様性への配慮を求める要望が強く、民間工事では自社保有地の自然環境や周辺のポテンシャルを活用する計画が求められるという。特に、敷地内の緑地や植栽、屋上や壁面の緑化、ビオトープなどを採り入れて、都市や地域の環境価値を高める施工例が増えている。2012年1月に竣工した東洋製罐(株)の本社ビルは、都心部の立地でありながら島津山や御殿山など豊富な緑に囲まれ、そばには目黒川が流れる。地歴や自然環境調査、緑のネットワーク性などを解析して、周辺にかつて生息していたウグイスを目標種とし、よりよい生息環境となるよう敷地に高木・低木・下草などを組み合わせた複層林を配した。

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コヒューマンホスピタル」の第1号、篤友会坂本病院の屋上庭園

また、大阪の篤友会坂本病院は、自然のシステムと人のシステムを建築空間の中で融合させることを目指す「エコヒューマンホスピタル」の第1号だ。屋上庭園に棚田や小川など自然と共生した日本の風景を感じられる景色をデザインし、患者や家族、そしてスタッフは、季節感溢れる樹木を眺めたり、小川のせせらぎを聴いたり、稲の生長を楽しんだりすることができる。環境への配慮といやしを両立した居心地の良い病院が誕生した。

竹中工務店では、多様な生物と共生する都市環境づくりが生物多様性の保全と生物資源の持続可能な利用に貢献し、持続可能な社会の構築につながると考え、調査・設計・施工・調達の各段階での取り組みを強めている。そのために、植栽や緑化などの緑地創出だけでなく、認証木材の採用やグリーン調達を促進するとともに、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)をはじめ、関係団体との連携による生物多様性評価基準や手法の研究開発や、プロジェクトへの適用に力を注ぐ。従業員や関係者の啓発にも取り組む考えだ。

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3. その土地の生態系と人の営みを知った上で開発に取り組む

3. その土地の生態系と人の営みを知った上で開発に取り組む

■ 「エコロジカルプランニング」で地域の自然と暮らしを読み解く

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『緑』に囲まれた「札幌ドーム」

生物多様性を保全しつつ、人と自然との共生を図っていくためには、その土地の自然と生態系を十分に知った上で開発を行う必要がある。大成建設の「エコロジカルプランニング」は、その代表的な手法だ。同社は、2010年9月に制定した「生物多様性宣言」に基づき、各地の建設現場などで生物多様性の維持に取り組んでいる。

大成建設は、総合建設会社としてインフラ施設やオフィスビルなど数多くのプロジェクトを手がける中で、自然から学び、活かす取り組みを積極的に行ってきた。それと同時に、自然環境を劣化させないようにする手法を1990年代から模索してきた。その答えの一つがエコロジカルプランニングであり、2001年に竣工した北海道にある日本最北の全天候型ドーム「札幌ドーム」の計画、施工で、成果が実を結んだ。

「エコロジカルプランニングは、生態系の原点とも言える『水』、地域の生活の歴史とともにはぐくまれてきた植生などの『緑』、四季折々に吹く『風』、そして『人』という4つの要素について深く知ることで、地域の自然と暮らしの有様を読み解き、魅力を高め、いきいきとした社会とその未来をつくり出す計画技術です。札幌ドームの建設計画では特に『緑』とそこに生息する生物についての環境設計技術が求められました。」(大成建設環境本部)。

広さ31haもの農業試験場跡地に建設された札幌ドームは、周辺に広がる広大な緑地との連続性を維持するように開発された。この緑地では水辺の創出を視野に入れた設計・施工が実施され、竣工後も維持管理・運営に力を注いだ結果、建設前に比べて倍以上の生きものが息づく環境が生まれた。完成から10年以上経った現在、90種を超える鳥や虫が飛来しているというから驚きだ。

■ 地域住民と行政、企業の協働による新しい森へのアプローチ

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静岡県富士宮市の「富士山南陵工業団地」もエコロジカルプランニングの事例の一つ
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南陵工業団地では、NPOや企業、行政の参画を得て植林や環境教育に取り組んでいる

エコロジカルプランニングは、名古屋市の「ノリタケの森」などその後のプロジェクトに次々に採用され、市街地における大規模開発計画の環境設計へと発展しつつある。2010年2月に竣工した静岡県富士宮市の富士山南陵工業団地も、エコロジカルプランニングを導入して生物多様性の保全に取り組んだ事例の一つだ。

富士山南陵の自然と豊富な伏流水に恵まれた同地での開発に当たり、大成建設は環境に配慮した最新技術を惜しみなく投じた。掘削した表土を造成後に使用するとともに、樹木間競争を誘導し強い森をつくる「自然配植緑地技術」を適用することで、地域にもとからあったであろう自然植生の再生を図った。その他、水路に落ちた小動物を救出する脱出用のスロープを設置する等、工事区域内に生息する希少な動植物の保全にも力を入れた。今までにない試みとして注目すべきは、工事完了後10年をかけて森をつくるという「富士山南陵の森 フォレストセイバー・プロジェクト」だ。地域の環境NPOを核として、富士宮市、事業者、研究者、進出企業が協力して植林や環境教育に取り組むという、新しい森へのアプローチであり、環境時代に相応しい開発のかたちとして期待される

大成建設は、エコロジカルプランニングに代表される環境活動をいっそう深めていくために、2012年5月、環境省に対して環境保全の取り組みを実施することを宣言して「エコファースト企業」としての認定を受けた。同社では認定を機に、建設事業を通じて生物多様性に貢献する技術や取り組みをさらに推進する。また、施工現場における環境負荷低減への意識を高めるために、「生き物と建設工事」を全作業所に配布するなど社内教育にも熱心だ。今後は、自治体やNPOと連携して樹上動物の保護や緑地保全、環境関連の体験プログラムなどを実施するという。

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4. ICTが保全活動の知恵と思いのすそ野を広げる

4. ICTが保全活動の知恵と思いのすそ野を広げる

■ 都市における生態系ネットワークの広がりを評価

都市や地域を生き物と自然にあふれた空間に変えていく上で、その効果を予測しながら生態系に配慮した計画を立案する作業は欠かせない。清水建設は、事業活動における生物多様性配慮の取り組みの一環として、都市域の生態系ネットワークの広がりを評価する「UE-Net(R)」を開発した。事業地周辺における生物のすみごこち(生息適性)を地図により「見える化」して、緑地を整備することによる波及効果を定量評価する。注目すべき生物は、都市の生態系の回復の目標となる「指標生物」を、樹林、草地、水辺などのネットワークごとに、鳥やチョウから複数設定する。たとえば鳥では、街路樹で虫などをついばむシジュウカラや、原っぱで虫などを狩るモズ、水辺や湿地で魚を捕るコサギなどが想定される。

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清水建設の「UE-Net(R)」は、都市における生態系ネットワークの広がりを地図で「見える化」して、評価や予測を行うシステムだ(図はコサギの例)

UE-Netでは、食べ物をとる場所、隠れる場所、繁殖する場所など、それぞれの生物が生きる環境の条件をモデル化する。それをもとに、超高解像度の人工衛星データを用いて、事業地とそのまわりの街路樹や植込みなど、地域のすべての緑を対象に、生物ごとのすみごこちを評価して地図にする。これにより、事業地でどのような環境の緑をつくれば、周辺の生態系を利用するどんな生物にとって、現状と比べてどれだけの効果があるかがわかり、緑の波及効果を定量的に評価することが可能となる。2009年の開発以来、11件の大規模再開発等の緑地計画に使われた。また、評価のデータベースを拡充し、東京都心部約200平方km圏における生態系のつながりを「見える化」した。東京都臨海副都心地域のまちづくりにも活用されている。

清水建設はこのほかにも、野鳥データベースによる建設地への野鳥の飛来予測サービスや、ダムやトンネル工事などの土木工事における希少種の着工前移植や移動、モニタリング、猛禽類の繁殖期の工事休止、夜間照明の制限、小動物保護側溝の設置、環境手帳の配布や作業所勉強会などに取り組んでいる。こうした活動の基本にあるのが、2010年6月に策定した「シミズ生物多様性アクションプラン」だ。「シミズ生物多様性ガイドライン」に則った具体的な活動内容や目指すべきゴールとともに、生物多様性についての基本理念や、企業として取り組むべき考え方などを示している。同社では今後、サプライチェーンを通じた生物多様性の配慮など難易度が高い取り組みにもチャレンジしていく。

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5. 生物多様性に触れる場を身近に

5. 生物多様性に触れる場を身近に

■ 身近な生きものを知り、生態系保全への気づきを促進

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大林組の「つながる生きもの」により、従来は建設業との接点が少なかったユーザーの閲覧が増え、生物多様性保全の普及に貢献した

インターネットによる啓発も盛んだ。大林組が公開している「つながる生きもの ― 知ろう、学ぼう、みんなの生物多様性」は、さまざまな生物が生態系の中でつながりあって生きていることを分かりやすく学ぶことができるとして、人気のウェブサイトだ。生態系を、生物と人間の関係によって里山、奥山、街、水辺、海の5つのエリアに分け、それらの場所に生息する生物の特性を紹介している。また、同社や施主による事業活動を通じた、自然再生や絶滅の危機に瀕した種の生息環境の維持と回復などの取り組みも、エリア別に紹介している。

「生物多様性への関心が高まる中、建設事業を通じて自然環境と密接に関わる会社として、生態系を守ることの大切さやその保全活動を紹介することが社会的責任であると考え、2010年に開設しました。生きものという幅広い世代の方に興味を持ってもらえるテーマなので、大人も子どもも理解できるよう、イラストや動画を使い『直観的な分かりやすさ』を重視して作成しています。」(大林組広報部)。

その結果、子ども向けのポータルサイトやデザイン系のサイトで紹介される機会が増え、これまでは建設業との接点が少なかったユーザーからの閲覧が多くなったという手ごたえを感じている。また、ウェブサイトを起点として社内報や顧客向けのパンフレットなどに展開するなど、社内の環境教育にも役立っているという。

■ 1万㎡の屋上公園はオフィスワーカーの「憩いの場」

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大阪市浪速区にある「なんばパークス」の屋上公園でヤマボウシの実をついばむメジロ。多くの鳥や虫が集まっていて、都市の新たな生態系をかたちづくりつつある

大林組は2009年の「生物多様性に関する方針」に続き、2011年に「Obayashi Green Vision 2050」を策定し、2050年のあるべき社会像の一つとして「自然共生社会」を設定した。生物多様性が適切に保たれ、自然の恵みを将来にわたって享受できる社会の姿だ。この理念に基づき、建設活動を通じ地域特性に応じた固有の生態系を保全・再生・創造する事業に力を入れている。その代表的なものが、大阪の中心部に位置する「なんばパークス」の設計と施工だ。なんばパークスでは、都市に開かれた大きなオープンスペースを実現することをデザインの主眼に置き、地上から9階までの商業施設の屋上全体を、緑と広場からなる第2の大地にした。南海電鉄なんば駅に向かって段丘上の傾斜を見せる屋上公園の広さは約1万㎡に及び、その約半分を緑地が占める。オフィスワーカーなどが自由にくつろげる国内最大級の屋上緑化空間だ。

この屋上公園には、ヤマボウシやコウヤマキなど大阪の風土になじむ樹種を中心として約300種、約7万株もの草木が植えられており、多くの鳥や虫が集まって新しい生態系を形づくっている。2009年6月から2012年5月までの約3年の間に、ヒヨドリ、モズ、ジョウビタキ、イソヒヨドリ、シロハラ、ツグミ、センダイムシクイ、キビタキ、コサメビタキ、メジロ、アオジ、キジバト、ハヤブサなど28種の鳥たちと、オオシオカラトンボ、ハラビロカマキリ、ウスイロササキリ、クマゼミ、クマバチ、ハキリバチ、ニホンミツバチ、トビイロケアリ、ナミハナムグリ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ、ツマグロヒョウモン、アオスジアゲハなど152種もの虫たちが観察された。大林組では、なんばパークスなどで培った実績を踏まえて、生物多様性の保全に役立つ都市緑化の調査・研究を今後も進め、ランドスケープの設計ツール開発などへ反映していく。

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6. 企業と生物多様性のかかわりや活動の成果を「見える化」

6. 企業と生物多様性のかかわりや活動の成果を「見える化」

■ 土地利用に当たって生物多様性に配慮

ゼネコンなど多くの企業が生物多様性の保全に力を入れる一方で、これから取り組む企業にとって、事業を通じた生物多様性の保全はなかなかハードルが高い課題だ。こうした企業による取り組みを支援するために、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)は、さまざまなツールを開発している。企業と生物多様性のかかわりを「見える化」した「企業と生物多様性の関係性マップ(R)」や、企業が生物多様性保全に向けた主体的な取り組みを自社内で推進するための支援ツール「取り組みヒント集」などを公開している。

そのJBIBが2012年に開発したのが、「いきもの共生事業所(R)推進ツール3点セット」だ。ガイドライン、土地利用通信簿(R)、いきものモニタリングシートの3点から成り、土地利用に当たって生物多様性に配慮する際の基本的な考え方を示すとともに、取り組みの成果を「見える化」してそのような土地利用を促進することを目的としている。初心者から経験者まで必携のツールがたくさんあるので、JBIBのウェブサイトで確認してほしい。また、会員の募集や講習会も行っており、2012年5月にはエコッツェリアで、企業で事業所の敷地管理や生物多様性の保全に携わる社員やビジネスパートナーを対象とした講習会が開催された。
企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)

■ 皇居エリアのとなり、実は自然豊かな大丸有界隈

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三菱一号館とパークビルの間(写真下)を抜けると、一号館広場の緑が目に飛び込んでくる(写真上)

これまで見てきたように、生物多様性の保全や再生は持続可能な都市づくりのために欠かせない要素だ。私たちの地元である大丸有地区には、計画の初期段階から生物多様性への配慮を織り込んで開発、建築された地区や建築物がたくさんある。それは、休み時間や仕事の合間、オフの日などに少しゆっくりと歩いてみるだけで、すぐに実感できる。

なかでもおすすめなのが、丸の内2丁目にある「丸の内パークビル・三菱一号館広場」だ。丸の内にそびえる高層のオフィスタワー棟と三菱一号館ビルに囲まれた広さ約1,500㎡の中庭型広場には、周辺の建築デザインとの調和を図りつつ、バラをはじめとする多様な植物が植栽されている。また、3本の巨大な柱には壁面緑化が施され、広場全体を緑にあふれた空間として演出する。保水性舗装の通路を歩けば、木や花のまわりで多くの鳥や虫の姿や声を見聞きすることができるだろう。

時間があったら少し足を伸ばして馬場先濠を渡れば、そこには皇居外苑の広大な緑の芝生が広がり、黒松とのコントラストが実に美しい。環境省によると、江戸時代初期につくられた皇居外苑にはホタルやベニイトトンボ、ヒカリゴケなど多くの種が確認されている。しかし、近年はアオコが大量発生したり、ブルーギルなどの外来魚が侵入したりして、在来種の生息や生育が脅かされているという。

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皇居外苑に広がる広大な芝生には、夜間を除いて入ることもできる。

それでもお濠の周りを歩くと、多くの渡り鳥やカメ、コイの姿を目にすることができる。ひときわ目を引くのが、白い羽毛に包まれた大きな体で水面を静かに泳ぐコブハクチョウたちだ。野生ではなく約60年前に放鳥されたそうだが、ヒナの誕生が確認されたことがあるなど、すっかりこの地になじんでいる。2012年5月、丸の内1丁目にグランドオープンしたパレスホテルに面する「和田倉濠」のほとりには、コブハクチョウが営巣しやすいようにとの配慮か円形の大きな台座が設置されている。ベンチもあるので、タイミングが良ければ餌をついばむ姿を見ることができる。

大丸有の自然環境を知る上で忘れてならないのが、有楽町1丁目にある「丸の内さえずり館」。都会の真ん中で自然を身近に感じられるスペースをつくろうと、1999年に新国際ビル1階に(財)日本野鳥の会と三菱地所との共同運営によりオープンした。その後、地所が直接運営するようになり、今では「自然環境情報ひろば」として自然保護団体との協働企画をはじめ、さまざまな展示やイベント、セミナーを行っている。

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皇居外苑のお濠では、コブハクチョウたちの姿を見ることができる

大丸有界隈が大都市・東京の中心にありながら、緑あふれる空間になっているのは偶然ではない。企業や地域住民、行政の連携による努力のたまものだ。この地区の地権者などでつくる「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」(大丸有協議会)は、まちづくりガイドラインや環境ビジョンの中で、「緑のネットワーク」などの構想を打ち出している。地域を緑化して生物を呼び戻し、都市にうるおいを与えるとともに、温暖化やヒートアイランド現象など環境問題の解決にもつなげていく壮大な構想だ。

働くエリアの近くに息づく、「自分が身近に感じられる」都市の生態系を見つけてみてはいかがだろうか。
パークビル・三菱一号館広場(PDFファイル)
丸の内さえずり館

編集部から
ある企業の生物多様性担当者が「2012年はブラジルで『リオ+20』が開催される記念の年なのに、日本では生物多様性の保全を含めてほとんど盛り上がっていない」と嘆いていた。確かにCOP10の時はもう少し報道などでも取り上げられていたが、あれから2年も経たないのに「生物多様性」という言葉を耳にする機会はすっかり減った。ほかに重要な社会問題を抱えていたり、広報が不足していたりと原因はいろいろあるが、それはどこの国も同じこと。一人でも多くの人が、リオ+20を機に人と生き物とのつながりを見つめなおしてほしい。

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