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“スマートコミュニティ”時代1――生グリーン電力の先へ

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1. スマートグリッドとは何か ――低炭素社会に向けたインフラ・基本システム

【はじめに】
1990年を基準にすると、現在、大丸有地区の床面積は、再開発による高度利用により増加している。加えて多用途化やIT化に伴うビルスペックの向上により、消費エネルギーも増加し、地区のCO2 排出の総量は、90年比で明らかに増加した。

大丸有地区では、新丸ビルや丸の内パークビル等、新設のビルにおいて、新技術の導入や環境性能の向上を図り、都内の代表的なビルと比較して単位面積当たりのCO2 排出量を大きく抑えるとともに、オンサイトでの再生可能エネルギー(太陽光発電パネル等)の活用によりCO2 削減を進めている。しかしそれでも、政府目標である25%減を達成するには、電力会社による排出係数低減を加味したとしても、さらなる削減努力が必要な状況である。

そこで期待されるのが、次世代エネルギーのインフラの導入だ。その一例が、昨年10月に発表された、新丸ビルへの[[生グリーン電力]]の導入。今年4月から、新丸ビルでは全国に先駆けて、再生可能エネルギー100%の「生グリーン電力」に切り替える試みがスタートする。これは、青森県などで風力・水力等により発電された再生可能エネルギーを、出光興産により設立されたPPS(特定規模電力事業者)が、新丸ビルに直接供給するというもの。これにより、新丸ビルから1年間に排出されるCO2 の3分の2に当たる2万tを削減できる見込みだ。

生グリーン電力を皮切りにして、都心型の[[スマートコミュニティ]]やエネルギーマネジメントを今後どのように進めていくべきか。今回は、次世代送電網「スマートグリッド」をテーマに、について考えてみたい。

1. スマートグリッドとは何か
――低炭素社会に向けたインフラ・基本システム

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野城: 海外のエネルギー事情に精通しておられる山家さんですが、現在はどのようなことを手がけているのでしょうか?

山家: 現在私は、日本風力開発株式会社が一昨年の9月に設立した「エネルギー戦略研究所株式会社」で、所長を務めています。ここでは、「CO2フリー」をキャッチフレーズに、環境技術、環境ビジネス、環境政策などについて幅広く研究・開発を手がけ、アイディアや情報を発信・提供しています。こちらに来る以前は、日本政策投資銀行で、電力、物流、食品業界の担当を経た後、環境対策支援室で環境政策を見てきました。その後に調査部をも経験し、2008年にオバマ大統領が打ち出した政策提言「グリーン・ニューディール」をフォローするとともに、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーについて、調査をしてきた経緯があります。

野城: そういった経歴をおもちの山家さんにぜひお伺いしたいのですが、再生可能エネルギーに関連して、最近、にわかに注目を集めている次世代送電網「スマートグリッド」という言葉。使う人によって意味合いがまちまちで、言葉だけが独り歩きしている気がしますね。山家さんは、スマートグリッドの定義をどのように捉えていらっしゃいますか?

山家: 私自身は、スマートグリッドというのは、「低炭素社会に向けたインフラ・基本システムである」と考えています。低炭素社会実現のためには、省エネは当然のこととして、CO2 フリーの電源の開発を進める必要があり、とくに再生可能エネルギーの活用が不可欠です。また、モビリティに関しては、[[電気自動車]]に代表されるように、今後はバッテリーを積んだ移動手段が主体になっていくでしょう。これらのインフラをいかに普及させ、活用していくのか。すなわち低炭素社会実現のために、これまで想定してこなかったような課題を、新しいインフラやシステム、テクノロジーで解決していくための方法論が、スマートグリッドだと考えています。

野城: なるほど、よくわかりました。

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2. スマートグリッドをいかに実現するか ――環境への"覚醒"と「需要シフト」

2.スマートグリッドをいかに実現するか
――環境への"覚醒"と「需要シフト」

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野城: 一方で、再生可能エネルギーの問題点は、生産量が不安定な点にありますね。変動の大きな再生可能エネルギーが従来の電力系統に相当量入ってくると、その変動影響を小さくすることが重要な課題になっています。双方向に制御しつつローカルに需給バランスをとり、再生可能エネルギーを最大限活用していくというのが、スマートグリッドの一つのかたちということですね。

山家: ええ、具体的にはそういうことなのですが、そうしたことを実現するためには、今後、迎えるであろう次なる社会や環境に対して、私たちが"覚醒"していることが大前提になります。というのも、ヨーロッパで再生可能エネルギーがなぜ受け入れられているかといえば、低炭素社会を支える主体〈人間〉が、環境に対して覚醒しているという前提が成立しているからです。そうでなければ、スマートグリッドというしくみを動かすことができません。日本では再生可能エネルギーの普及はまだこれからですから準備ができていなくて当然なのですが、再生可能エネルギーが日常に浸透しているヨーロッパではすでに、スマートグリッドを受け入れる心構えができているということなんです。

"覚醒"でキーワードとなるのが、「需要シフト」。電力需要が最大になる時間帯を他の時間帯にずらすことをピークシフトと言いますが、需要シフトとは、発電量に合わせて需要を調整すること。つまり、これまでは需要に合わせて発電量を調整するのが常識だったわけですが、低炭素社会では、発電量に合わせて需要を調整する等、従来のやり方を大きく転換していくことが求められます。あるいは需給に合わせて、エネルギーを選択することも重要となります。たとえば、熱エネルギーなら、蓄熱することで多少の時間的なズレをカバーできますね。あるいは、バッテリーに電力を貯めておくことも一つの方法です。

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そういう意味では、[[電気自動車]]というのは電気を使うものであると同時に、電気をつくるものであり、蓄電池の役割も果たす。したがって、電気自動車の電力をどの時間帯に使い、どの時間帯につくるかというのも、スマートグリッドの課題の一つです。余剰な電力が出た場合は、近隣に電力を融通するためのしくみづくりも必要になるでしょう。

* 写真2枚目: 充電中の電気自動車i-MiEV

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3. スマートグリッドの要となるプライシング ――価格付けを行うことで需給バランスを図る

3. スマートグリッドの要となるプライシング
――価格付けを行うことで需給バランスを図る

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山家: 低炭素社会実現のために再生可能エネルギーを活用しようとすると、非常に変数が多い複雑なものをどう扱うか、という問題に突き当たります。気分的にはなんとなく理解できたとして、大変複雑なだけに、もう少し客観的な指標が必要になってくるのだと思います。そこで有効なのが、ローカルに通用する価格付け、すなわち"プライシング"です。電力をどうつくり、どう制御し、どう活用するかを、プライシングによって明確にしていくことが、スマートグリッドを実現に導く大きな鍵になるのではないでしょうか。

このような考え方は、ヨーロッパで目指されているスマートグリッドの姿に近いものといえます。これを俗に「地産地消モデル」という場合もありますが、単に再生可能エネルギーを地産地消で賄うという話ではなく、プライシングをすることで最適化を図ることが重要です。

そのためには、空調や冷蔵庫といった個々の機器や太陽光発電設備をはじめ、さまざまなものにITセンサーをつけて、供給側も需給側も独立したかたちでシグナルを発信し、それをスマートメーター(電力使用量などを自動的に供給側に知らせるなど、双方向通信できる次世代型メーター)により収集・仲介し、需給の状況をトータルに見ていく必要があります。そうやって需給のバランスが可視化されることで、ローカルなプライシングが可能になる。ここで初めて、どう発電し、どう電力を配分していくべきかという、複雑に入り組んだエネルギーの流れに、解を与えることができるのではないかと考えています。

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さらに個別のセンサーなりスマートメーターなりの情報をローカルに集約させ、グリッド・オペレーター(送配電ネットワークの管理者)がプライシングをつねに確認できる状態にすると同時に、電力を使用する側も情報を共有できる――それこそが、理想的なスマートグリッドの姿だと思います。こうした方法であれば、地方でも都市でも、どのような状況でも応用が可能でしょう。

野城: つまり、センシング技術を活用して需給状況に応じて電気の値付けをしていくことにより、需給バランスをとっていくということですね。単にセンシングをするだけでは不十分で、たとえば、今の1kWと10分後の1kWでは値段が違うというくらいのことをやって、有機的にプライシングを活用することで、需要シフトのスムーズなしくみをつくるというところがポイントなんですね。

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4. 生産者であり、消費者であること ――低炭素社会にもとめられる"プロシューマー"

4. 生産者であり、消費者であること
――低炭素社会にもとめられる"プロシューマー"

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山家: はい。そして冒頭にお話しましたように、その前提には、個々人が環境に対して覚醒していることが不可欠なんですね。みなが省エネを行い、再生可能エネルギーを使うんだというマインドがなければ、センシングによる情報発信を徹底することは難しいでしょう。たとえば近代経済学でいえば、主体が企業であれば利益最大を、消費者であれば効用最大を志向するという前提があるように、スマートグリッドを実現するためには、主体が環境に対して覚醒していると同時に、経済性を志向する必要がある。言い換えれば、みなが「プロシューマー」、つまりプロデューサー〈生産者〉であると同時にコンシューマー〈消費者〉であることが求められるのです。環境と経済の両方を軸において行動する人たちが実行しなければ、その実現は難しいでしょう。プロシューマーという言葉には、「環境に覚醒している主体」という前提と響きがあり、これが欧州スマートグリッドの基礎あるいは構成員になっています。

野城: なるほど、昨年末に亡くなられた東京大学の教授で、アーバンデザイナーとして活躍された北澤猛先生も、プロシューマーの重要性を説いていらしたお一人でした。ある会でお話されていたのは、グリーン電力を活用したローカルな電力会社をつくろうというご提案で、[[生グリーン電力]]などの投資ファンドを市民がつくって、ある一定の需要を確保できるよう需要組合をつくれないかというアイディアでした。まさに、市民が生産者であると同時に消費者となって、初めて成り立つわけですね。

山家: 通常の電力よりも、生グリーン電力のほうが価格は高いけれど、そういったものがマーケットに入ってくるようになってきたのは、低炭素社会に生きるプロシューマーの価値観と政策が相まって、それに見合ったマーケットが新たに生まれつつあるということなんだと思います。新たなマーケットが確立されれば、CO2 フリーだけれど、不安定で従来より質の低い電力をいつどうやって使うのか、という議論も進展する。単に再生可能エネルギーを広めましょうというのでは無理で、市場機能をうまく使っていくことが重要なのだと思います。しかしすでに、ITがそれなりに発達したことで、スマートグリッドを実現する基盤は整いつつあるのではないでしょうか。

つづきを読む:
"スマートコミュニティ" 時代2――地域連携とセンシングと

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