Insight 2050年へのまなざし

2050年を語る 小泉 武夫

醸造学,発酵学の第一人者として大学の教壇に立つ傍ら、食文化に関する驚異的に幅広い知識と洞察を生かし、数々の著書、新聞や雑誌各紙のコラムを執筆し、テレビ、ラジオにも出演、『発酵こそが世界を変える』と力説する農学博士、小泉武夫が考える2050年とは──。

小泉 武夫
こいずみ たけお
1943年、福島県の酒造家に生まれ育つ。東京農業大学応用生物科学部醸造科学科教授。エッセイスト、小説家、コピーライター、発明家など多方面で活躍。著作は『不味い!』(新潮文庫)など、80作を超える。「食あれば楽あり」(日本経済新聞)を16年間にわたり連載中。農学博士。

2050年の都市は、ビルそのものを農業地帯にするといいですね。幅を大きくとって、60階ぐらいの建物にすると、東京都の人たちが食べる米や野菜なんてみんなできちゃいますよ。ビルの屋上に、ちょっとした田んぼをつくるところが増えていますが、あんな小さな空間でさえ、トンボが来て卵を産むんですね。そこらじゅうに、いのちが満ちあふれる。そういうのがいい。江戸は、すごかったんですよ。天明年間の江戸の人口は148万3千人。人口密度は世界一。江戸にはたくさんの水路があった。船で生活に必要な物資を運び、「おわい船」が糞尿を全部集める。そしてそれを、千住あたりの農家の畑に蒔く。そこで農作物をいっぱいつくって、それを食べてまた回収してという、循環型社会でした。それを、もう一度作るべきです。

もうひとつ考えなくてはいけないのはエネルギー。たとえば、夜霧に似合うガス灯。東京都では、もったいないことに、残飯とか糞尿を燃やしたり、埋めたりしている。これをメタン発酵させりゃいいんです。そのうえ、地下工場に100mのレーンを120本つくれば、毎日、東京の生ゴミと糞尿は土になりますよ。そして水素細菌で発酵させてね、水素燃料を生産する。石油に頼らないエネルギーの自給なんて、やればできちゃうんです。そして、発酵し終わった堆肥を鉄管で農村地帯まで運び、有機農業しちゃう。余った堆肥は山に戻す。山が豊かになると、田んぼも畑も豊かになる。雨降ると川や海まで豊かになる。そのような循環型の都市計画が必要です。

そして、東京はふるさとだ!って思えるまちにするべきですね。そのためには教育です。子どもたちに昔の生活を体験させる小学校をつくったらいい。木の教室、木の机で学ぶ。校庭は本物の芝生。学校給食もやるんだったら、東京の地物。郊外の調布や府中、八王子などの農家がつくった米や野菜ばかりを食わせる。子どもたちに、自分のまちを好きになってもらわなくてはダメです。東京郊外の農家が朝取りの野菜ばかりを持ってきて、田舎料理を食べさせる農民食堂、漁民食堂をつくるといい。魚は東京湾の魚ですよ。子どもたちもそれを食べて育ったんだっていう感覚も持てるようになります。そして、なんと言っても、学校に漬け物蔵を作る。はい!ここの部屋はぬか漬け、隣にはたくあん漬け、その隣が白菜漬け......その隣はピクルス、味噌漬け、麹づけなんてあったりしてね。それから、都心に酒蔵をつくるといいでしょう。都心で生一本が飲める。いいですね。都会に温泉なんて作るんだったら、酒蔵か味噌蔵、漬け物蔵を作った方がよっぽど粋ですよ。そして、やっぱり夢を持たせてくれるのは、蝶ですよ。ビルの上にすばらしい蝶々園をつくり、10日に1回ぐらい蝶々を放す。大手町・丸の内・有楽町に行ったら蝶々がたくさん飛んでいる。あちこちに花があるから蝶はどんどん増えて、ビルの中にまで蝶が入ってくる。んー、いいですね。誰にとっても心が落ち着くまち、ここから離れるのがイヤだよっていうまちを、つくっていってほしいですね。


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