世界の持続可能性のために、大丸有には何ができるのだろう?
世界の持続可能性に貢献しながら、自らも持続可能な地域であり続けるために何をすればいいのか。ステークホルダーを代表して6名の方々に集まっていただき、ご意見をうかがいました。ファシリテーターを都市ジャーナリストの森野美徳氏に務めていただきました。

参加者プロフィール(敬称略)
- 青山 佾(あおやま やすし)
- 明治大学 公共政策大学院 教授(都市政策)
36年間にわたり東京都庁職員として、東京都のまちづくりに関わる。その後、1999年から2003年まで東京都副知事として危機管理、防災、都市構造、財政等を担当。2004年より現職。
- 安西 英明(あんざい ひであき)
- 財団法人日本野鳥の会 普及室主任研究員
1981年、日本野鳥の会職員として、北海道ウトナイ湖バード・サンクチュアリで初代レンジャーとなり、以後自然や環境教育等をテーマに全国で講演を行っている。新有楽町ビル内「丸の内さえずり館」の運営に関わり、皇居や大丸有を拠点とした自然観察会も手がけた。
- 伊藤 雅人(いとう まさと)
- 住友信託銀行株式会社 不動産コンサルティング部 不動産鑑定室 鑑定第一チーム長、不動産鑑定士、再開発プランナー
1983年に住友信託銀行入社。現在、不動産鑑定評価業務に従事するかたわら、環境に配慮した不動産の付加価値を研究。2005年10月には論文「不動産に関する『環境付加価値』の検討」が(社)東京都不動産鑑定士協会設立10周年記念論文最優秀賞受賞。
- 仲條 亮子(なかじょう あきこ)
- ブルームバーグL.P. 在日副代表
放送局に勤務後、ブルームバーグテレビジョン入社。代表取締役社長、アジア環太平洋統括責任者を経て、2003年からブルームバーグL.P.に移籍、現職。NPO法人 大丸有エリアマネジメント協会の理事を務め、大丸有で働くママやOLの情報交換の場「ママカフェ」などの取り組みを行う。
- 山崎 芳明(やまざき よしあき)
- 千代田区 政策経営部長
1975年に千代田区に入所し、一貫して再開発事業や都市計画、防災対策などを担当。環境安全部長として温暖化対策条例の制定やヒートアイランド対策の戦略プログラムの策定などに携わり、2008年4月より現職。
- 中嶋 利隆(なかじま としたか)
- 大手町・有楽町・丸の内地区再開発計画推進協議会 事務局長、三菱地所株式会社 都市計画事業室副室長三菱地所に入社し、横浜みなとみらいや丸の内のまちづくりを手がける。行政やエリア関係者等との協調性あるまちづくりの議論の場「大丸有まちづくり懇談会」の設立や、「まちづくりガイドライン」策定等に携わる。
- ファシリテーター:森野 美徳(もりの よしのり)
- 都市ジャーナリスト、日本経済研究センター主任研究員1972年に日本経済新聞社に入社し、編集局地方部記者、編集委員などを歴任。都市政策や地域経済の専門ジャーナリストとして活動する傍ら、慶応大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師、東京都立大学都市研究所客員研究員。

ステークホルダーにとって大事なこと

持続可能性にとって大事なこと
- 森野:
- では、大丸有の持続可能性に対する影響が大きなことは何か、プラス面・マイナス面含めてお話しください。
- 伊藤:
- 今後、環境配慮が大丸有の経済価値を左右すると思います。私たち投資用不動産に関わる者から見れば、単純に収益性の観点から省エネ対策は水道光熱費負担を減らし、不動産の純収益を増やせます。また今後、環境規制が強化されることが予測される中、環境配慮していない不動産は大きなリスクを抱えていることになります。これは地球温暖化だけでなく、生物多様性や土壌汚染などその他の面でも同様です。日本のトップエリアである大丸有で、環境配慮による経済価値の向上を示していく意味は大きいと思います。
一方で「せっかくエネルギー効率を半減しても、容積率緩和で床面積が増えたり 24時間勤務のテナントが入ってきたりしたら総量ではCO2排出量が増えてしまうではないか」という意見もあります。しかし、私はもっと全体的な視点が必要だと思います。
コンパクトシティのような発想に立って、日本の交通の結節点にある大丸有にオフィス機能や店舗機能を集約し、なおかつエネルギー効率を高めれば、都市全体で見た場合での CO2 削減ができるはずです。集約によってオフィスがなくなった所は都市型住宅になるかもしれないし、郊外部では都心回帰によって豊かな自然再生を進められるかもしれません。こうした全体的な視点での議論が必要になっていくと思います。 - 中嶋:
- 地球全体のCO2が減らないと大丸有の持続可能性もないわけですし、そのために大丸有だからこそできることもあると思います。エネルギー資源がない日本は非常に省エネが進んでおり、アメリカはGDPあたりのエネルギー使用量が日本の約2倍、ドイツでさえGDPあたりのエネルギー使用量は日本の約1.6倍です。今後、BRICsなどが発展する中でCO2排出量を地球全体の総量で抑えていくために、先端的エリアでありながらエネルギー効率を高める都市のあり方を、大丸有が世界にどんどん発信してこうと努力しているところです。
- 伊藤:
- 個人的に生物多様性には非常に興味を持っています。例えば東京ではカラスが増えすぎて人間が駆除したりしていますが、世界の大都市の中には高層ビルにハヤブサが巣を作っているようなところも多く、こうした生態系ピラミッドの頂点にある生物が生息できている所では生物数がきちんと調整されるようです。皇居にはオオタカが繁殖しているそうですが、こうした生物に大丸有までテリトリーを広げてもらうような仕組みづくりをすると、生態的にもバランスのとれた都市になるのではないでしょうか。そして、自然共生は人間にとっての快適性や生産性を高めることになりますから、きっと大丸有の経済価値につながると思います。
- 安西:
- 確かに、大丸有だけではなく、全体のつながりの中で考えることは重要ですね。例えば、皇居のお堀ではかつてユリカモメが水浴びしていましたが、今ではセグロカモメやオオセグロカモメなど大型のカモメが来ています。実は、カラスよりも大きなこれらのカモメは、春夏の繁殖期には北海道やロシアに渡り、現地の海鳥のヒナを食べているんです。お堀周辺を散策していて「あっ、カモメだ」なんて気軽にエサをやる人もいますが、実はこのエサやりが大型のカモメを増やし、気づかずに生態系に影響を与えていることにもなる。これは一例ですが、他にも同様の事例はあります。他地域の持続可能性を阻害しては、持続可能な地域とは言えません。
- 仲條:
- 生物多様性のお話が出ましたが、人のダイバーシティ(多様性)も持続可能性の観点で重要だと思いますね。女性の働き手やワークライフバランス * 2 への配慮もまだまだ十分ではありません。
私は、このエリアで働くお母さんが情報交換をする「Ligare ママカフェ」という集いを2カ月に1回行っていますが、最近はパパだって育児に参加するようになっています。急病時のベビーシッター情報が得られたりする「ペアレンツカフェ」のようなものを設置するのはいかがでしょう?こうした取り組みが「大丸有はワークライフバランスやダイバーシティを重要視している」というメッセージになると思います。
それから、特に金融では海外の知識や人材がもっと入ってこないと厳しいでしょう。国際都市としては、英語対応の病院だけでなく地名や施設等の案内表示(サイン)の外国語表記など、もっと就業者や来街者にとって"ユーザーフレンドリー"にしなければいけない。また、「住まい」の問題も再検討してはどうでしょうか?
「大丸有に暮らす」という発想があってもいい。半年から 1 年位仕事で来る外国の方が結構いらっしゃって、六本木などに住むことが多いのですが、そういう方々のためにこのエリアのホテルの一部がサービスアパートメントになってもいいと思います。 - 青山:
- 大丸有が居住の場所にもなるのは、まちのあり方としてとてもいい影響を及ぼす一つの方策だと思います。ただ、大丸有の約120haという線引きにこだわらず、もう少し周辺も含めて考えてもいいかもしれません。その際、勤務する方々だけではなく、 事業継続計画(BCP)*3 の観点で、このまちの機能を24時間メンテナンスしている方々に住んでいただくことも重要です。電気系統や通信など機械の保守・操作だけでなく、ガードマン、清掃関係者、ボイラー技師などの方々がすぐに駆けつけられるかが復旧のスピードを左右します。これは公共住宅政策とも関連することになるでしょうが、今後のさらなる発展を考えれば、検討が必要な課題です。
- 仲條:
- 医師や看護師が駆けつけられる体制も重要ですね。海外の企業が日本にオフィスを設けようとしたとき、そうしたサポートがあれば安心感につながる大きな魅力になりますし、大丸有の競争力になると思います。
- 山崎:
- おっしゃるとおりですね。行政としても、大災害時に日本経済の中心地である大丸有がすぐに事業継続できるかどうかはとても重要なことと考えていますので、中枢機能を支える方々の住まいも考える必要があるのではないかと思います。
持続可能性という点では、大丸有はエリア外の影響を考えることが重要になると思います。この地区には日本を代表する企業が集まり、世界中の様々な地域と関係を築いています。大丸有ではまだ地球温暖化の大きな影響を直接受けていないかもしれませんが、企業が取引している各国で海面上昇や天候不順による不作などが起これば、当然ビジネスに影響してきます。大丸有がこの問題を認識し、率先して環境問題に取り組むことは、他地域にも大きな、そしてよい影響を与えると考えています。各企業が積極的に取り組むことはもちろん、大丸有の場合には再開発計画推進協議会などのコミュニティがありますので、地域全体として取り組むことでより大きな役割を果たせると思います。
また、85万人の昼間人口、つまり就業者等に、会社でも個人の生活の中でも環境に配慮した行動を実践していただければ、より大きな効果が期待できます。千代田区ではすでに個人が行う環境マネジメントシステムとして、千代田エコシステム(CES)を構築し、それを運営する第三者協議会も発足しました。 - 安西:
- そうですね。就業者を巻き込むことはポイントだと思います。この地域での自然観察から学べることは多いので、ここで働く方やその家族が自然観察に参加して様々なことに気づいていただくことは、このエリアの、そしてさまざまな場所のまちづくりにも還元されていくと思います。就業者・来街者への環境教育や他地域への提言など、大丸有から情報を発信していくべきですね。

大丸有が取り組むべきこと
- 森野:
- ステークホルダーのみなさまのご関心もうかがい、大丸有が持続可能性にどんな影響があるかもお話しいただきました。それでは、それらを受けて大丸有は実際にどんなことをしていくべきかを議論いただきたいと思います。
- 青山:
- やはり大丸有にとって重要なことは「ここから発信する」といことだと思います。例えば、政府の審議会によると、都市再生において、既存建物では1m2あたり年間115kg排出していたCO2を、新築高性能ビルでは約65kg に減らしている、という試算もあります。こうした都心における環境配慮の取り組みを、ちょうど工場見学で生産ラインを見せるように、大丸有のまちの中で見せていけばいい。このエコッツェリアも環境への取り組みを具体的に表現する見学場所のひとつで、とてもすばらしいことだと思いますね。
- 仲條:
- 外に向けた発信と同時に、大丸有の中に向けた発信も必要ですね。せっかく大丸有の中では色々な取り組みが行われているのに、その情報が伝わっていない。例えば「朝EXPO」も素晴らしい企画なのに、うちの社員に聞いたら全然知らなかったんです。むしろ、メディアで見た一般の方々のほうが知っていることだってあります。エリア中に情報が流れていかない理由は、働く人たちのコミュニティがないことが原因かもしれませんね。
- 伊藤:
- 確かに、10年ほど前までは企業間の情報交換の場など交流も活発でしたが、最近は少ないですね。エリアでの横のつながりだけでなく、企業内のコミュニティさえ薄れている現状があります。オフタイムが少なくなって交流を持つ余裕もなく、ひたすら自分の業務能力を投入して、アウトプットが終わったら帰るという場所になってしまっています。ちょっとはみ出した部分でのコミュニケーションが薄れてきていることは、将来的には人や企業の活力を失う端緒になるかもしれません。
- 青山:
- 日本の特徴として挙げられる、地域のコミュニティ力が強いことは、防災や防犯、危機管理、助け合い、孤独を防ぐなど、色々な意味で役立ってきたと思います。「都市はコミュニティが弱い」なんて言われますが、むしろ東京に親子3代で住んでいるような地域のコミュニティ力は結構強いんですよ。大丸有にも会社コミュニティ以外の横断的なコミュニティができれば、ここの文化はもっと育つでしょうね。
- 伊藤:
- 省エネの面でもコミュニティ内での協力が必要なことがあります。よく「テナントビルではなかなか省エネ投資が進まない」と言われます。ビルオーナーが省エネ投資をすると、テナントの電気代は削減されるわけですが、「その投資分の賃料を上げる」と言っても必ずしも理解が得られない。するとオーナーは投資回収できないので、省エネ投資ができないわけです。また、空調費などの経費が固定になっていると、テナント側も経費が変わらないならクールビズに努めようとする動機が生まれないという構造もあります。そこで、オーナーとテナントの共同体で省エネルギー効果を分け合うような仕組みづくりも、現在研究しているところです。
- 青山:
- あと、私が気になっていることに水の問題があります。皇居のお堀にこれだけ水があると安心してしまうかもしれませんが、実は大丸有エリア内には水って本当に少ないんです。現在、屋上緑化・壁面緑化やオープンスペースの緑地を設けることは奨励されているし、様々なインセンティブもありますが、水場を対象にした推進策も必要だと思います。
- 安西:
- 生態系とのつながりという意味でも水辺は重要です。特に多くの生物には浅瀬が重要です。地球で最も生物生産の高い場所は、干潟などの浅瀬なんです。江戸時代より昔の大丸有地域は江戸前の干潟だった。それを埋め立てて現在の発展があるわけですから、生物多様性や持続可能性のことを考えたとき、この地域にどう浅瀬を作るかは重要な視点だと思います。浅瀬で子どもたちが生き物と遊ぶ姿を見られるようになったらいいですね。
- 森野:
- 私は「日本橋川に清流を取り戻す会」という N PO の会員として活動していますが、様々な方の取り組みのおかげで日本橋川がだいぶきれいになってきて、最近ではカワウがボラを飲み込む姿なども見られるようになりました。こうした生き物のつながりや水系のつながりの恩恵を受けて、今の大丸有があるのだと思います。
様々な地域に支えられて日本の、世界のヘッドクォーターの役割を果たしている大丸有が、社会の持続可能性のためにできることは、今日の限られた議論でもこれだけ多くの意見が出たように、非常に大きいと思います。 - 中嶋:
- さまざまなお立場からの貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。ご意見を糧にさらに大丸有コミュニティの社会的責任に基づいた取り組みを、これまで以上に推進していきたいと思います。

*1 RPI:Re sponsible Property Investment の略。環境や地域社会に配慮した不動産を評価し、責任ある不動産投資を行おうとする考え方。SRPI(Socially Responsible Property Investment)ともいう。
*2 ワークライフバランス 老若男女誰もが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態
*3 事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan) 企業がビジネスコンティニュイティに取り組むうえで基本となる計画のこと。災害や事故などの予期せぬ出来事の発生により、限られた経営資源で最低限の事業活動を継続、ないし目標復旧時間以内に再開できるようにするために、企業を守るための経営戦略。





















この大丸有が社会的責任を果たしながら将来にわたって発展していくために、みなさまからご意見をおうかがいしたいと思います。まず、みなさんがステークホルダーとして大丸有についてどんな関心を持っているかをお聞かせください。
また、エリア就業者の立場で言うと、働く環境をさらに充実させてほしいと思います。最近、知的生産性の研究会などにも関わっているのですが、例えば自然の光や風を取り入れ、窓から豊かな緑が見えるようにすることは、単に環境配慮というだけでなく、新たな発想やビジネスを生み出すためにも有効なのではないか、と議論しています。