「石の美術館」「竹の家」など、土地の自然素材を活かし環境に調和する建築を手がけ、世界的に活躍する建築家・隈 研吾が、これまでのまちづくりを振り返りながら考えた、2050 年のまちとは──。

菌が育つ「村」
都市を「村」の集合体だと考えればいいのではないでしょうか。昔の古典的な定義で言えば「村」はコミュニティであり、そこに住んでいる人のつながりです。しかし、現代の「村」は、思い入れを持った人がそこに絶えず出入りをしているような場所だと思います。そこは、人間の出入りを拒まないインターネット社会的な自由さがありながら、思い入れをもつ者同士のリアルなフェイス・トゥ・フェイスの関係の強い社会でもあります。
「村」的な空間とは、大きな建築の塊から外れたものです。建築物は、塊になると人間にとって決して快適ではない、建築自体のロジックのようなものをもちはじめます。「村」はそういった大きなコンクリートの塊から外れ、ヒューマンスケールのオープンボックスから成っているイメージです。オープンボックスの中には、まるでしいたけが育つように「村」の菌が育ちます。コンクリートには菌はなかなか育たないし、菌が育つには大きな塊は向かないんです。
2050年、未来の都市
私が考える2050年の未来の都市は、しいたけ畑のようなやわらかいオープンボックスでできた「村」の集合と、都市を支える超高層の大きなボリュームから成っています。オープンボックスの中ではさまざまな菌が育ち、菌の変化によって「村」は新陳代謝していきます。今の建築法規上は難しいですが、新陳代謝する建築は仮設建築のようなものでもいいかもしれません。大きなパーマネント建築の本体と、仮設建築のしいたけ畑スペースが組み合わさって広がっているような都市を、日本が先陣をきってつくったら、それは世界に発信できるひとつの都市モデルになるでしょう。
「村」では自然素材をたくさん使えるといいですね。これに関しても現在の法規では都心の大きな建物ほど自然素材が使いにくいのですが、大きな建物で防災が担保されている分、足元の「村」では自然素材が使いやすい。サステナビリティというと、エネルギー問題に目がいきますが、太陽光発電の導入などには、かなりの意気込みが必要です。素材のサステナビリティならば、個人の小さな家やインテリア、小さなショップでも、挑戦できるものです。身近にできるサステナビリティにもっと注目するといいと思いますね。
また、これからは「屋外スペースのリデザイン」がキーワードになるのではないかと思います。2 0 世紀の都市のテーマは「屋内化」でした。空間を囲い、空調し、いかに快適な屋内空間をつくるかを追求してきました。しかし、屋外空間はエネルギー面で有利ですし、屋外にいることは人間の心身のバランスにとても良いことです。都市の中にも膨大な屋外空間が存在していますが、現在その多くは自動車のために存在しています。今後自動車の定義や価値が変わったとき、この膨大な屋外空間をどうリデザインするかが、都市において重要になるでしょう。また、限定された都市空間に自然を導入することで、その自然に人間の意識を集中させ、大自然の中にいるよりも効果的な自然と人間のコミュニケーションを創出することができます。そういった技法を用いて進める都市の屋外化に大きな可能性を感じています。
長期的ビジョンをもったまちづくり
まちづくりには時間がかかります。そのため、実現したときにはすでに過去のものになっているという宿命がつきまといます。だからこそリーダーは、長期的なビジョンをもっているべきです。中途半端なリーダーは要望が来ると、とりあえず短期的に応えようとしますが、社会システムが変わる数十年先を見据えていれば、早急に解決すべきではない問題もあるはずです。短期的なニーズが来たとき、数十年後の未来をイメージし、多様な視点をもって、その時点で本当に重要なことを選別できるのが、本物のリーダーだと思います。今の日本には長期的なビジョンのもとに発言できるリーダーはあまりいません。ただ、都市計画家や政治家だけに将来的な視点をもてと依存するのも無理な話。まちに関するあらゆるステークホルダーが積極的に将来像を語り、考えていくことが大事だと思います。
建築とは巨大なノアの方舟
建築とは巨大なノアの方舟のようなものです。ノアが方舟に積み込んだように、建築物は、柱や壁といったエレメントに地域や歴史や文化を積み込んで、次の時代へ運ぶことができる乗り物だと思うんですよね。そのような思いをもって建築物をつくっている立場からすると、日本では、今つくっている建物が大事にされていないことに問題を感じます。建築保存の議論でも、昔の建物のメッセージには敏感ですが、今つくっている建物が何十年、何百年後に伝える将来へのメッセージはなおざりではないでしょうか。自分たちがつくっている建物に、メッセージを込めて宝物にしていこうという意識をもち、何十年、何百年先の人たちに向かってコミュニケーションしている気になると、まちづくりはもっと楽しくなると思います。
- 隈研吾(くま・けんご)
- 1954年生まれ。建築家。隈研吾建築都市設計事務所主宰。東京大学大学院工学系研究科教授。79年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、01年より慶應義塾大学教授。09年より東京大学教授。『森舞台/ 登米町伝統芸能伝承館』、『水/ガラス』、『那珂川町馬頭広重美術館』、国内外での建築賞受賞歴多数。近作にサントリー美術館。著書に『自然な建築』(岩波新書)、『負ける建築』(岩波書店)、共著に『新・都市論TOKYO』(集英社新書)




















