クリエイティビティを生み出し、地域に誇りと活力をもたらす
温暖化防止のためのCO2対策は、課題ではなく、実行すべきステージに入っています。大丸有では再生可能エネルギーである生グリーン電力を導入しました。これからの大丸有が健康的で「持続可能なまち」となるためには、個別の技術の向上だけでなく、多様な領域がインテグレーションされることによる課題解決や、地方も含めた後背地とのコラボレーションが、重要なテーマになっています。これから大丸有が目指すべき方向性について4人の有識者にご意見を伺いました。
開催日:2010年6月8日、開催場所:エコッツェリア(東京・丸の内)

参加者プロフィール(敬称略)
- 千葉 稔子(ちば・としこ)
- 東京都 環境局都市地球環境部
改正都条例によるCO2削減義務の検討に携わる。企業側からのポジティブな反応があり大変勇気づけられている。
- 福田 洋 (ふくだ・ひろし)
- 順天堂大学 医学部総合診療科
「ワークプレイスヘルスプロモーション」のキーワードのもと、地域・企業・そこに働く人びとの健康に向けたビジョンの共有が課題。
- 藤野 純一(ふじの・じゅんいち)
- 国立環境研究所 地球環境研究センター
低炭素社会に向けたシナリオづくりが専門。企業や日本の成長につながる持続可能なCO2削減にチャレンジしている。
- 村上 清明 (むらかみ・きよあき)
- 三菱総合研究所 科学技術部門統括室
環境問題と高齢化問題を解決してワンステージ上の社会(プラチナ社会)へ移行することで、新産業を創造する「プラチナ構想」の普及活動に取り組む。
低炭素社会を実現していく上で、大丸有にどのような役割を期待しますか
- 千葉:
- 新丸ビルで導入している生グリーン電力は、東京地域と地方との連携によって、東京で利用する再生可能エネルギーを地方から供給する仕組みです。大丸有地区のCO2削減という効果だけでなく、地方に勇気や元気を与えられる大変素晴らしい取り組みです。自分のまちでつくられた再生可能エネルギーが、日本の中心である大丸有のサステナビリティに貢献している、そして大丸有で働く人は自分たちの取り組みが地方の経済活性化に貢献している、という「誇り」をお互いにもてることは、非常に大切なことだと考えています。
- 藤野:
- そのためには、生グリーン電力の供給元である地方の人にこの取り組みをもっと周知していく必要がありますね。また、供給を受ける大丸有側への周知も、まだ十分とはいえません。
- 福田:
- 都市に生活していると、目の前に当たり前のようにある食べ物や水、電気がどこでつくられているか、皆さんよく知らないんです。どこで誰がどのようにつくり、それがどこでどう使われているのかの「見える化」が必要です。
- 千葉:
- 生グリーン電力という言葉が充分に普及しているとはまだいえないかもしれませんが、ネーミングの由来は「東京で電力が使用されているその瞬間に、同じ量の電力が東京以外の地域でリアルに発電されている、ライブ電力」というところからきています。ネーミングの背景なども含めて周知していくといいですね。
- 村上:
- 大丸有はビル群があることによって、オフィスを効率的に集約することができます。オフィスが集まることで、このエリアだけのCO2排出の総量は増えるかもしれませんが、他のエリアで分散的にエネルギーを使用するよりも、最新機能を有する大丸有にオフィスを集約したほうが、東京都全体でみるとCO2削減に大きな貢献をすることになります。またエリア内や周囲に住空間が増えれば、移動は徒歩と自転車ですみ、CO2削減だけでなく健康対策にもなるでしょう。
- 福田:
- エリア全体の、環境と健康を一緒に考えてみるのは面白いですね。たとえばエリア内4,000社のメタボ率、自転車通勤率、あるいは喫煙率などを、環境データとあわせて分析すれば、何らかの関連性を見出せるかもしれません。エコプロモーションとヘルスプロモーションの相性は良く、きっと新たな施策につながると思います。
大丸有の取り組みをほかのエリアや地方に波及させていくには
- 藤野:
- 単なる広報活動だけでは難しいと思っています。まちと人の「役割分担」ではないでしょうか。まちづくりをする人、そのまちで活動する人、まちの活動を普及させるコミュニケーションを担う人。いろんな人が多層的に関わる多様性が重要だと思います。多様性を保つためには、そのときどきで活躍できる人材をこのまちが継続的に育んでいけることがポイントになります。
- 村上:
- 東京に出てきている地方の出身者が、安心して都心で働き続けられる環境づくりも必要かもしれません。地方出身の人々は郷里にご両親がいらっしゃいますね。オフィスの集積度を高めることで都内に利用可能な土地が増え、その土地をより有効に活用することができれば、山手線の外側などで郷里のご両親と一緒に住める環境が整えられる、といったアイデアも必要になってくるのではないかと思っています。
- 藤野:
- 数多くの先進的な取り組みも、大丸有だけがスペシャルな存在で終わってしまっては、やがては廃れてしまう。「1000年続くまち」には、周囲にも波及的にいい影響を与えてくれるようなクリエイティブな人材が、常に生まれてくる環境を用意することが重要です。その意味では生グリーン電力は一つのチャンスだと思います。地域で電力をつくる、そして都心に提供するというやり取りの中で、お互いの気持ちがつながり、それが波及的に外に広がっていくと良いと思います。
- 千葉:
- 地域活性化の観点では、生グリーン電力開始時の枠組みがとても参考になると思います。行政が地域連携の枠組みを提示し、企業が実際に活動する。あわせて地域はどのような具体的な協力ができるかを検討する。こういった取り組みを、地域社会の経済活性化に実際につなげていくためには、地域にお金が落ちるスキームにしていくことも重要だと思います。
- 村上:
- クリエイティビティは重要ですね。クリエイティビティを生み出すには、いろんな異質なものが混じりあうことができる環境が必要です。都市の中で多様な人が交流できる場所、さまざまな分野の「知」が混じりあう環境を、このエリアにつくることができればいいですね。
- 千葉:
- アイデアは、ふだん接している環境とは異なる環境にいる方と対話しているなかで生まれる場合があります。都市と地方はそれぞれ課題もできることも違いますから、たとえば地方の人に集まっていただいて議論をしてもらうなど、一緒に考えていくことでクリエイティブなアイデアづくりのきっかけにもなるのではないかと思います。
大丸有が目指すべき方向性とは
- 藤野:
- 地方で成立する産業の創出を東京がリードしていくことも大きな課題です。地方のお金の8割は東京や海外に流れているのだそうです。本来地方にあるはずのクリエイティビティも十分に活かされていない。地方の特色を活かし、地方にお金がまわる生グリーン電力のような連携を、地域活性化の契機として活用していく必要がありますね。
- 村上:
- 大丸有の圧倒的な知的パワーを、全国のさまざまな分野でシェアすることも、検討する価値がありますね。生活の基盤を地方においた500万人が、月に1・2回の出社でテレコミューティング(在宅勤務)すれば、都市で受けた刺激を地方にもち帰ることができます。環境だけでなく、ワークライフバランス、自身の健康や家族の介護、子育ての問題の大半が解決できるのではないでしょうか。
- 福田:
働く人々が暮らすまちという視点からは、健康と生産性の評価がもっと必要です。例えば欠勤による「アブセンティーイズム」より、出社はしていても不調で業務効率が低下する「プレゼンティーイズム」の方が企業にとって生産性への影響が大きいと言われています。社員が、身体的だけでなく心理的にも健康なら、企業にとっても生産性の向上や利潤追求の上でプラスになります。
また、少子高齢化が進むこれからの日本では、定年になったら職域から地域にリタイヤするというキャリアモデルだけでなく、元気で働きたければいつまでも働けるような、エイジレスなキャリアモデルやまちづくりも必要です。衣食住と働くことを同時に成り立たせることで、女性も含めた若い人からお年寄りまでが安全・安心に働け、健康的に暮らせるまちになるでしょう。
- 村上:
フランスのストラスブールやグルノーブルでは、市街地の中心1キロ圏内でクルマを完全にシャットアウトすることで、都市の中心部ににぎわいをつくりだすことに成功しています。制度の導入までに労力や時間はかかりましたが、環境への貢献だけでなく商業的なメリットも享受できることを示しました。公共交通機関とEVのパーソナルモビリティを利用すれば、大丸有地区でも同様のことが可能かもしれません。
ドイツには「環境定期券」という制度があります。親が通勤定期乗車券をもっていると、休日は家族全員がその定期を無料で使えるというものです。親が働いている環境を家族が知ることにもつながりますし、クルマでなく電車で都心に人が集まるので環境にも優しく、消費活動によって経済にもいい影響を与えます。
- 藤野:
- 親が働いている場所の近くに、家族みんなで行ってみることは大事だと思いますね。家族間のコミュニケーションのサポートをするまち、というのも、大丸有の大きな魅力になるのではないでしょうか。
- 千葉:
- 大丸有には施設、システム、働き方など、さまざまな先駆的な実例を見せる場、見ることができる場になっていただきたいと思います。一見さまざまに向いているように見える取り組みも、結果的には目指す方向が同じであったりします。お互いの協力を引き出す場をつくり、関係者を結び付けていく役割を果たす行政でありたいと考えています。
ポイント
○ 地域を活性化させることで持続的な発展を目指すまちに
○ 環境と健康、生産性をあわせた評価で幸福度を高める
○ 知的パワーを生み出し、それを他の地域にシェアをするまちに




















