Insight 2050年へのまなざし

井口 典夫(青山学院大学総合文化政策学部 教授)

井口典夫

  • 多様で異質な人たちとの交流で新しい価値の創造を
  • フラットな組織とゆるい空間がクリエイティビティを生む
  • 海外ネットワークを強みに世界への玄関口としての役割を果たす

メッセージの完全版は、丸の内地球環境新聞で御覧いただけます

クリエイティビティの母体はコミュニティ

クリエイティブ・シティには「集積→交流→展示→創造→発信」といった機能のサイクルが内在しています。大丸有の特徴をハード面から見ると、先端的なビルが集積し、多くの人が集まってきていますので、集積・交流においては一定のレベルに達している。次 は展示でしょうか。たとえば都市空間の面白いつくり方や使い方のモデルを多くの人々に見てもらう。そこに四番目の創造機能が加われば、さらに存在価値が高まるでしょう。

一方、ソフト面から見たとき、三つの特徴をあげることができます。第一に知的で均質な人材が集まっていること。高学歴のビジネスパーソンですね。第二は日常生活や社会一般との距離感があること。第三は海外との緊密なネットワークがあることです。第一と第二の特徴は裏表の関係にあります。同質・同レベルの人たちとの交流は、共感が得られやすく効率的である反面、そこから社会全体を大きく変えるようなものを創造するのは難しいのではないか、と見ています。

第三の海外ネットワークは大きな強みですね。大丸有にはグローバルに事業を展開する企業が多く、海外での経験が豊富な方も多いでしょう。ですから、海外から見て日本として、いま何が注目されているのかを、ほぼリアルタイムで感じとれる。それを企業の現 場サイドや一般の生活者につなげることができれば面白いと思います。そのために、多様で異質な人たちとの交流を積極的に図っていく必要を感じます。

丸の内朝大学は、エリアの創造機能を高めることにもつながり得る興味深い取り組みです。受講生は、そこで得た知識や情報を自らの生活の場において実践し、活用してみる。そこから一般の生活感覚で物事を見ることができるようになり、その感性が職場にフィードバックされる、といった構図が期待されます。

クリエイティブ・シティをつくること自体を目的にすると、それは「仕事」になってしまいますし、思うような結果を出すことは難しいでしょう。むしろ、ビジネスパーソンが個人として共感でき、それぞれがやりたいことができるようなコミュニティをつくってあげれば、それが自然とクリエイティブ・シティにつながっていくのです。

この時代、大丸有が真剣になって取り組めることを例示するならば、それは「防災」と「エネルギー」でしょう。日頃の安全・安心のためなら、企業の論理で考えても真剣に参画、交流できる。都市の防災性の向上やエネルギーを浪費しない生活、あるいは自然エネルギーの開拓に関連する知識・技術・ノウハウがエリア内に豊富にありますので、助け合いとしての企業間の交流も活発になるでしょう。

日本のビジネスの中心である大丸有におけるそのような動きは、非常に大きな社会的インパクトをもたらします。とりわけ海外に向けて発信していくことは、観光面や金融面などでの日本の評価に大きな意味があるはずです。この分野で各企業やビジネスパーソンのクリエイティビティが十分に発揮され、実験され、さらに新しい産業の創出にも結びついていく。それこそが、クリエイティブ・シティとしての大丸有の一つの姿ではないでしょうか。

フラットな組織の効用とゆるい空間の必要性

冒頭、大丸有には均質な人が集まっているとお話ししました。第一線のビジネスパーソンは、おしなべて有能なジェネラリストです。ファシリテートに長けたジェネラリストが集まるこのエリアで、もし新しい価値を生み出そうとするならば、スペシャリストあるいはクリエイター、イノベーターを、新たに企業の内部に生み出す仕組みが必要です。

次に何をつくればよいかがわかっている時代には、ピラミッド型の組織が有効に機能していました。いまは何をつくり提供すればよいのかがわからない時代であり、ジェネラリスト集団だけでは対応できない。アイデアを次々と生み出し、その場で試行錯誤を即座に展開できるようなフラット型のスペシャリスト集団も強く求められている。生産や営業の現場をはじめ、本社業務においても、ピラミッド型組織のメリットが失われつつあります。軍隊的なものを崩して、自由にヨコにつながれるような形にすれば、それぞれの企業や部署においても創造機能を発揮しやすくなります。

その際、ハード面で大丸有に必要なものは「場所」だと思います。芝生の広場のような不特定多数が集まれる何にでも使える空間です。必ずしも屋外である必要はなく、地下街の中でもよい。大事な点は「ゆるい空間」であること。大丸有はあまりにも整然としすぎており、隙がなく敷居が高い。それを崩すような空間にする必要があります。その空間に社内で生み出したスペシャリスト、クリエイター、イノベーターが日常的に立ち寄り、会話し、何となく時間をすごすことが奨励されるような雰囲気が出てくればいいですね。

最近の丸ビルや新丸ビルは、魅力的な店舗を増やすことで足もとを工夫しているので、だいぶよくなっていますが、全体にもっとゆるいイメージを出せればと思います。その際、企業や地権者などが気にする" 管理" の部分をどこまでゆるくできるか。それが大丸有の交流・創造・発信機能の鍵となるでしょう。

都市文化におけるHub機能を

最近「クールジャパン」といって、日本の文化や食、製品などが国際的に評価され、たとえばゲームやアニメなどが外国人の支持を集めています。それらは海外から観光客を呼び込むコンテンツの一つになっていますが、大丸有は海外とのネットワークを活かしていくことが大切です。つまり日本の玄関口として外国に出していくものを選択する、あるいは入ってくるものを最初に受け止め、銀座・日本橋、渋谷・青山あるいは地方につなぐ、といった機能を担うことが期待されます。言わば、都市文化におけるHub&Spokeの Hubの役割です。東京はモザイク状の都市ですから、「ゆるい空間=解放区」をチャンネルにしてそれぞれの地区と連携できれば、東京の玄関口としての大丸有ならではの存在価値が出てくると思います。数多くのユニークでクリエイティブな魅力を持つ地区からなる 東京の中心で、その玄関口となり得る大丸有の機能的・地理的位置を改めて自覚し、その役割をしっかり果たしていかれることを強く希望します。



井口典夫 井口典夫(いぐち・のりお)

1956年東京都渋谷区生まれ。80年東京大学卒業後、運輸省(現国土交通省)入省。94年青山学院大学経営学部教授を経て、2008年より現職。07年から同大学社会学連携研究センター所長も兼務。専門はクリエイティブ経済論、創造都市論。学外では文化経済学会理 事、NPO 渋谷・青山景観整備機構理事長、NPO 明日の神話保全継承機構理事、東京都歴史文化財団運営諮問委員会委員などを兼務。近著に「青山文化研究」(宣伝会議)、訳書に「クリエイティブ資本論」「クリエイティブ都市論」(ダイヤモンド社)などがある。


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