Insight 2050年へのまなざし

村上 周三(独立行政法人建築研究所 理事長)

村上周三

  • ハードの集積と多様なサービスの提供が「都市の魅力」を生む
  • 経済波及効果に注目して社会全体の利益最大化を目指す
  • 人間的感覚を大切に世界を惹きつけるまちづくりを

メッセージの完全版は、丸の内地球環境新聞で御覧いただけます

多様なサービスの提供が都市の魅力を生む

大丸有地区は20年以上、協議会をつくって官民合意型まちづくりを進めています。現在の高評価の一端は、江戸時代の大名屋敷の区割りをそのまま活かしながらエリアを一体的に整備してきたことにあります。日本全国を見渡してみてもビジネスセンターとしてこれだけ整っているのは大丸有だけではないでしょうか。個々の建築主の主権が強い日本では、景観を統一した美しいまちづくりがなかなかできません。ですからパリなどと比べ常々日本の都市の景観は貧弱だと言われてきました。しかし、こと大丸有に関してはエリアとしての統一性が十分に達成されています。しかもそれを民間の力で実現している。これは素晴らしいことです。大丸有はまさに東京のビジネスエリアの代表格ですから。大丸有のまちが日本の都市のあり方の一つのモデルだという意識で今後とも一層優れたまちづくりを進めてほしいと思います。

ところで、東日本大震災を機に、都市機能の分散化議論が出ています。防災・セキュリティの観点からすると、確かに分散化は検討課題の一つです。ただ「都市の魅力」と防災は別です。なぜなら都市の魅力は、ハード的にもソフト的にも" 集積" が大きな効果をもたらすからです。発達した交通網や快適な通信環境といったハード面の充実とともに、金融や法務等専門分野をはじめ医療や教育面の問題も含め外国人が満足できるサービス水準の質と量が魅力の源泉です。ビジネスから日常生活まで上質なサービスが提供されれば世界中の優秀な人材、資本が集まりだす。ヒト・モノ・カネが集まるようになれば、そこに新しい価値が生まれる。新しい価値が生まれると、また人が集まってくる。この好循環のダイナミズムが、東京などのグローバルシティと呼ばれる都市の魅力の源泉なのです。

経済波及効果に注目して社会全体の利益最大化を

今回の大震災を機に、節電対策が求められていますが、今後のエネルギー供給の仕組みやエネルギーの使い方に関しては、もっと活発な議論が必要でしょう。その際のキーワードの一つが「分散化」です。既に空調ではセントラル方式から分散型のビル・マル方式への転換が進んでいます。電力の分野ではまず電源の分散化の議論が想定されますが、検討のポイントは電力供給の安定性、防災性、省電力化や低炭素化への貢献等が考えられます。私はさらに他産業への経済波及効果にも注目すべきであると考えています。

たとえば、アメリカではダイナミック・プライシングというサービスの導入がグリット網の建設やスマートメーターの普及を後押しし、スマートシティという形で大きな経済効果を生み出しつつあります。最終的には分散と集中を有機的に連携させるといった解決策が有効かと思いますが、社会全体の利益最大化を目指す上で何が一番合理的か、聖域を設けずに議論し、合意点を見出すべきであると思います。

経済波及効果に関しては、政府が掲げる環境未来都市構想のテーマの一つでもある「健康」に関連して面白いデータがあります。たとえば断熱住宅と非断熱住宅とでは新築の際に100 万円くらい初期費用の差があります。これを暖房費用の削減分だけで回収しようとすると30 年程度かかります。しかし一方で、断熱住宅に住む人はカゼをひきにくくなる。カゼをひくと薬代や診察料が発生します。断熱住宅ではこのような健康維持の費用が削減されます。私はこのような便益を、省エネというエネルギーの直接的便益でないという意味で、ノンエナジー・ベネフィットと呼んでいます。快適性や健康がもたらすベネフィットです。病気になりにくい、よく眠れる、そういう便益を金額換算して投資回収年数を計算すると約16 年で回収できる計算になります。

健康増進の便益は個人にとっての利益にとどまりません。医療費は国が7割を負担しており、国にも大きなメリット、ひいては税金を納める国民全体の利益にもつながります。海外を含め優秀なナレッジ・ワーカーに選んでもらう意味でも、健康サービスは大切です。

まちづくりに大切な人間のスケール感

世界各国の都市を見て思うのは、自動車が発達する前に歴史を重ねてきたまちには心地良い空間が多いということです。アメリカの都市のほとんどは自動車による移動を前提につくられています。私の感覚ではどうしてもヨーロッパの都市のほうが魅力的に感じられます。一体その魅力はどこからきているのか。その主なる源泉は"スケール感"であると思います。ヨーロッパの歴史あるまちは自動車文化に耐えるだけの強さがあり、100%スポイルされなかった。人間が自分の足で行動するのに最適なスケール感を大事にしています。歴史の積み重ねを蔑ろにせず、むしろそれを尊重しながら時代に適合させてまちを進化させています。

いいコミュニティをつくることは大変難しいものです。日本で顕在化しつつある昔つくったニュータウンのコミュニティ崩壊問題は、モータリゼーションと無関係ではありませんが、むしろ開発の進め方にも原因があります。高度経済成長時代のニュータウン開発 の多くが、一気に団地を建てて短期間に一斉分譲したため、時代とともに一様に高齢化してコミュニティが成り立たなくなっているのです。それと対照的に、千葉のユーカリが丘ニュータウン(千葉県佐倉市)のように非常にうまくいっている例もあります。最初にモノレールなどインフラを整備し、戸数を限定しながら段階的、継続的に分譲してきたため、若年層の人口も多く、幅広い世代構成になっています。

いずれにしても、コミュニティの崩壊はエリアのサステナビリティを損なう深刻な問題です。ビジネスセンターでありながらサステナブル・コミュニティを指向する大丸有の取り組みは、ハードルは高いかもしれませんが大変意義深く、世界の模範になり得るものです。自動車中心ではなく、人が主役となるまち、安心安全で歩きやすい快適なまち、人と人との交流が盛んで社会的連帯感の強いコミュニティになってほしい。そのためにはヒューマンスケールでまちをデザインしていく必要があります。明治以降、日本の近代化 と経済発展を牽引してきた歴史を大切にしつつ、これからの日本の発展のために世界中のビジネスパーソンを惹きつける魅力あるまちづくりの努力を今後も続けてほしいです。



村上周三 村上周三(むらかみ・しゅうぞう)

1942年生まれ。65年東京大学工学部建築学科卒業。工学博士。東京大学生産技術研究所教授、慶応義塾大学理工学部教授などを経て、2008 年4 月より現職。この間、建築環境・省エネルギー機構理事長、国交省中央建築士審査会会長、日本建築学会会長、空気調和・衛生工学会会長などを歴任。研究分野は計算流体力学、建築・都市環境工学、地球環境工学、サステナブル建築など。


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