丸の内地球環境倶楽部

第21回 地球大学アドバンス 「水素社会のグローバル・エンジニアリング」

日時:
2009年8月24日 (月) 18:30~21:00 ※終了しました

ゲスト:
岡田佳巳氏(千代田化工建設株式会社・研究開発センター技師長、水素エネルギーグループ・リーダー)

モデレーター:
竹村真一氏(Earth Literacy Program 代表・エコッツェリア・コンテンツプロデューサー)

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モデレータよりコメント

新たなエネルギーの通貨として注目される「水素」――。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを貯蔵・輸送する媒体として、ガソリンに代わるクルマの燃料として、さらに発電や製鉄などの製造部門でも炭素フリーな代替エネルギーとして期待されます。また水素はその抗酸化作用において健康・医療部門での効用も注目され、今後「水素市場」の爆発的な拡大が予想されます。

しかし需要の高まりとは裏腹に、水素の供給面でのインフラ整備は進んでいません。どこでどう水素を効率的に生産するのか、そして何より「水素の大量・長距離輸送」の技術が確立されなくてはなりません。今回取り上げる千代田化工建設の"水素の安定供給にむけたグローバル戦略"は、その意味で画期的なソリューションとなる可能性を秘めています。

天然ガスや石炭などの化石燃料から(供給国側で)水素を大量生産。その時点で炭素を回収(CCS)しながら"クリーンエネルギー化"して、既存の石油やガソリンの流通インフラをそのまま使って輸送・供給する。自然エネルギーで人類のエネルギー需要の大半が賄えるようになるのは早くても20~30年先と考えると、それまである程度依存し続けねばならない化石燃料をクリーン化しつつ、次代の自然エネルギー社会の「通貨」としての水素流通の基盤づくりをこの時点で進めておくことには大きな意味があるでしょう。

またパタゴニアの風力、サハラ砂漠の太陽光など、僻地の大量安価な自然エネルギーをグローバルに流通(融通)させる態勢を構築するためにも、こうした水素の大量・長距離輸送システムの確立は重要なGeo-Engineering課題といえます。

過去と未来をシームレスに接続しつつ、20世紀の"炭素メタボ社会"をソフトランディングさせるこうしたビジョンが、今後エネルギー需要の急増が予想される中国・インドをはじめ、地球全体のエネルギー安全保障にとっても必要不可欠となるはずです。


トピックス

● いま、なぜ水素か?──21世紀・水素社会ビジョン

●CO2「半減」のためにも不可欠な一次エネルギーのクリーン化

●水素の大量・長距離サプライチェーン構想──その社会経済的なフィージビリティ

●日本の、そして地球のエネルギー安全保障ビジョン

●真の「地球工学」(Geo-Engineering)とは?


モデレーター プロフィール


竹村真一(たけむら・しんいち)竹村真一(たけむら・しんいち)
Earth Literacy Program 代表
エコッツェリア・コンテンツプロデューサー

京都造形芸術大学教授。Earth Literacy Program代表。東京大学大学院文化人類学博士課程修了。地球時代の人間学を考究しつつ、ITを活用した独自な地球環境問題への取組みを進める。

Sensorium(97年アルス・エレクトロ二カ・グランプリ受賞)、デジタル地球儀「触れる地球」(05年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」「aqua scape」など、さまざまなプロジェクトを推進。環境セミナー「地球大学」主宰。07年「water」展ではコンセプト・スーパーバイザーとして企画制作に携わる。08年7月の北海道・洞爺湖サミットでは、 国際メディアセンター(IMC)内の環境ショーケースにおける「地球茶室」の総合企画・プロデュースを担当。

新著「地球の目線」(PHP新書)など著書多数。2009年4月26日よりラジオ「GLOBAL SENSOR」がJ-WAVE 81.3にて(偶数月の第4日曜25時~)放送開始。

竹村真一プロジェクトサイト: http://www.elp.or.jp/

イベントレポート

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<竹村真一氏:モデレーター>

◆はじめに

「水素市場」は、二酸化炭素を排出しないエネルギーとして、燃料電池車などの交通機関の代替燃料や家庭用燃料電池など、ユーザー側の需要はかなりイメージされてきています。しかし、需要に応えるだけの供給システムや生産体制、特に、大量大規模かつ長距離を輸送するにはどうしたらよいのか、こうしたことはあまり議論されてきませんでした。

本日ご紹介する千代田化工さんのご研究は、世界でも群を抜くソリューションであり、いま、相当リアルな道筋を示せるところまできています。これが実現すれば、地球の低炭素化とエネルギー安全保障にも繋がるでしょう。

本日は、地球のエネルギー通貨としても期待される水素の安定供給に向けたビジョンを共有しながら、はっきりと日本の政策課題の中にも入れていくことを考えていきたいと思います。


◆いまなぜ水素なの?

これまでの地球大学でも学んできたように、太陽エネルギーはもとより、太陽由来の風力、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギー(Renewable Energy/RE)は、いまや「これを基幹産業と捉え、化石燃料を代替エネルギーとして蓄える」と概念を逆転できるところまで来ています。そうした動きがグリーン・ニューディールにも象徴され、10年前では語れなかったポスト石油時代の新しい「希望の地球」のビジョンが机上の空論ではなく語れるようになりました。しかし、実は風力や水力や太陽光などの発電ユースが普及拡大しただけでは解決できない問題があります。

第一に、電気は送電ロスのために電線による輸送距離には制限があります。リチウムイオン電池などの新しい電池技術の進歩は著しいですが、海を越えての大量輸送は最新の電池技術を駆使しても困難といわれています。

第二に、超電導送電も技術開発が進められていますが、長距離を大量に送電するには、常温付近でも超伝導状態を実現できる新しい材料の開発が必要です。

第三に、電力を地産地消していたのでは、大産業の電力需要に対応しきれません。また、出力が揃わない再生可能エネルギー由来の電力は、既存のグリッドシステムでは対応することが難しく、21世紀型の自立分散型のインフラには20世紀型の電力供給インフラに新しい機能を付加することが必要です。

第四に、再生可能エネルギーには地域偏差があります。よく、再生可能エネルギーはユビキタスであると強調されますが、実際には、地域によって風力や太陽光の強弱大小が違うため、発電効率などに大きな差があるので、同じレベルでは語れないのです。

第五に、再生可能エネルギーに傾斜投資がなされたとしても、それが成熟するまで10年から 20年の間は化石燃料に依存しなければならない現状があります。これから、中国やインドなどの膨大なエネルギー需要に応えつつ、低炭素化という地球全体の課題も達成していくためには、化石燃料のクリーン化が重要な課題となります。

これらの問題を解決する鍵が「水素」というわけです。人類は、物々交換の不具合を、貯蔵がし易く時間や空間を超えやすい「通貨」という媒体に変換して経済を成り立たせてきました。「水素」にはエネルギー分野において同様な通貨としての役割を期待できる資質が備わっています。

即ち、水素は再生可能エネルギーや化石燃料などのあらゆる一次エネルギーから製造可能な二次エネルギーである性質と、水しか排出しない究極的にクリーンなエネルギーである性質の両方を持ち合わせているからです。電力も同様に、あらゆる一次エネルギーから製造可能な二次エネルギーで、何も排出しないクリーンなエネルギーですが、大陸間輸送や国家備蓄のような大量貯蔵はできないので、電力のままエネルギーの通貨として世界に流通させることは技術的に困難な状況です。

したがって、水素の大陸間の大量輸送や国家備蓄が可能になると、化石燃料や再生可能エネルギーを地球規模でクリーンに利用することが可能となります。このように水素をクリーンエネルギーの共通の通貨として、世界に流通させることによって、様々な一次エネルギーをクリーンな水素エネルギーとして、地球規模で融通し合っていくシステムが構築できることになります。

また、当面は化石燃料も利用して水素を製造し、発生した炭酸ガスを処分した後の水素をクリーンな補助燃料として炭酸ガスの削減分に必要なだけ利用するとともに、将来は太陽の恵みである再生可能エネルギーによって水から製造した水素を流通させ、利用後は水に戻すことで、太陽と水による究極的なエネルギーシステムへと発展させることができます。このように「水素」に対するエネルギーのキャリアとしてのニーズが急速に高まっているのです。


◆現状のエコは本当にクリーンなの?

実は、水素は既に古くから石油精製や石油化学、製鉄などのいろいろな分野で使われており、これらの水素は石油や天然ガスなどの化石燃料を原料に製造されているため、二酸化炭素を出しながら水素を使っているのが現状です。また、家庭用燃料電池も、エネルギー効率は高いけれども、都市ガスや灯油を燃料としている限りは二酸化炭素を出してしまうことになります。電気自動車も、その車はエコでも、元の電力はどのくらいクリーンなのだろう? という疑問が出てきます。仮に、ガソリン車を水素自動車に簡単に改造できるとしても、クリーンな水素をどこで入れられるの?という問題が残ります。

つまり、いくら太陽光発電プラントができても、グリーン・ニューディールで風車をたくさん建てても電力として利用できるのは、その周辺地域のみなのですから、化石燃料に当面の間は依存しなければならない世界の現実を考えると、化石燃料をクリーン化してグローバルなニーズに応えられるくらいの規模で流通させるエネルギー・システムがなければ地球温暖化問題を根本的に解決することはできないと思えるわけです。

一番いいのは、石油や石炭や天然ガスを掘り出した原産地で炭素を取り除き、水素というクリーンな形で流通させることです。そうすれば、中国で使おうがインドで使おうが、絶対に炭素は出ません。その際、既存のインフラを利用できるならなお良いということになります。


◆過渡期を支えるジオ・エンジニアリング

その夢のような水素の大量長距離輸送が「できるんです!」というところまで目処をつけているのが、本日のゲスト、千代田化工さんの「水素サプライチェーン構想」です。
大量の水素を安定して供給することができれば、燃料電池を大型化して炭酸ガスを排出しない発電所を実現することが可能ですし、天然ガスに必要分の水素を混ぜて火力発電することで、各発電所で二酸化炭素を回収・処分する必要がなく、効率的に二酸化炭素の削減目標を達成できます。またCool Earth 50で取り上げられている還元製鉄の技術も、CCS[*注1]をしたクリーンな水素が安定供給されるような回路ができて初めて、現実的に産業を支えるものになっていくわけです。

究極的には、パタゴニアの風力やサハラ砂漠の太陽光など、安価で大量供給が可能な再生可能エネルギーを水素に変換し、それをグローバルに流通させることでしょう。こうなれば、貴重な化石資源を燃料として燃やす必要は無くなり、化学原料として有効に利用できる期間を長くすることができるでしょう。

しかし、そうなるまでには相当の期間が必要です。その間、化石燃料にどっぷり浸かった我々の社会の中でも実現できる化石燃料をクリーン化して使用するシステムを確立しておけばシームレスに再生可能エネルギー社会に移行していける。

また、こうしたグローバルな社会インフラができれば、再生可能エネルギーを豊富に有する国々がエネルギー輸出を通じて自立していける。これまで、中東の資源をめぐって繰り返されてきた戦争や資源外交を振り返ってみても、クリーン化した化石燃料のエネルギーや再生可能エネルギーのエネルギーを水素に変換して、グローバルに輸送できるシステムの確立は、安全保障にもつながりますし、特に中国やインドの高まるエネルギー需要に応えながらソフトランディングさせていく、真の意味でのジオ・エンジニアリング(GEO-Engineering)に成り得ると思うのです。そういうご認識をいただきまして、詳しいお話を聞いて参りましょう。


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≪岡田佳巳氏:千代田化工建設株式会社・研究開発センター技師長≫

◆「水素サプライチェーン構想」とは?

「水素サプライチェーン構想」は、CCSやEOR[*注2]などの環境が揃っている化石燃料の井戸元で、天然ガスなどの化石燃料から水素を製造し、この際に発生する炭酸ガスを処分することでカーボンフリーとなった水素をガソリンの主要成分であるトルエン(芳香族化合物)に化学的に固定(水素化)することで水素を持たせて、常温・常圧で液体のメチルシクロヘキサン(水素化芳香族化合物)という化合物の状態で、大規模貯蔵・輸送を行い、使用場所で水素を取り出して(脱水素化)利用するという一連のシステムです。化学的には「有機ケミカルハイドライド法」と呼ばれています。脱水素された抜け殻は再びトルエンとなって、井戸元に返して何度もリサイクルできます。


◆恐るべし、トルエン&メチルシクロヘキサンの実力

トルエンがシンナーの匂いがするのに対し、メチルシクロヘキサンは無臭で、ほとんど水のような状態です。ほぼ、見分けがつきませんが、トルエン10ccにその体積の500倍に相当する5リットル以上の水素ガスを固定することができます。

現在実用化されている水素の輸送技術は、「液化水素法」と「圧縮水素法」の二つですが、貯蔵容器を考慮すると、有機ケミカルハイドライドは液体水素や圧縮水素よりも高いエネルギー密度で貯蔵できます。通常、原油を中東などから持ってくるVLCC (ベリー・ラージ・クラス・タンカー/Very Large Crude Oil Carrier)は25万キロリットルの原油を運んできますが、原油の代わりにメチルシクロヘキサンを積載すると、比重が約0.8なので、おおよそ20万トンのメチルシクロヘキサンが積載され、水素の質量貯蔵密度が約6パーセントありますので、約1万2千トンの水素を一隻のタンカーが運んでくれる計算になります。

トルエンもメチルシクロヘキサンもガソリンの成分ですから既存のガソリンの貯蔵設備や輸送機器をほとんどそのまま活用することが可能です。しかも長期間、大規模にロスすることなく貯蔵出来ますので、水素エネルギーを国家備蓄することもできます。


◆成功の秘密は触媒にあり

この「有機ケミカルハイドライド法」は、1980年代に、カナダの豊富な水力による電力で製造した水素をヨーロッパに海上輸送することを目的にしたユーロ・ケベック計画の中で検討された技術ですが、利用地で水素を発生させる脱水素触媒の開発がままならないまま計画が終了して、この研究はその後、欧米ではほとんど行われなくなりました。今回、その触媒の開発に世界で初めて成功したというわけです。

これがその触媒です。どうしてユーロ・ケベック計画では出来なかった触媒が出来たかと申しますと、触媒として働く白金の粒子を水素分子の5倍程度の1ナノメートル[*注3]程度にまで微粒子化することに成功したからです。これが安定した脱水素反応を可能にする触媒の種明かしです。

弊社で開発した触媒は、現在市販で手に入る高性能の白金触媒の10倍程度の寿命を得ることができます。我々の世界では1年に相当する8,000時間以上の間、連続してきちんと動くというのが工業化の際の触媒寿命の目安で、ようやくこれを実証することができました。

また、メチルシクロヘキサンは、1回反応器を通過するだけで95%以上の水素を放出してくれます。その際に起る反応の99.9パーセント以上の反応が目的の水素だけを放出する反応です。このことは、余計な反応がほとんど進行しないので、不純物が非常に少なく、精製の負荷が低いことを意味するものです。また、この触媒は1時間に自分の体積の1000倍の水素を発生することができますので、毎時1,000リットル(1Nm3:ノルマルルリューベ[*注4])の水素を発生させる際に必要な触媒量は、牛乳のパック1つ分に相当する1リットルの触媒ですみます。

一方、水素を貯蔵する側の反応はどうかと申しますと、井戸元でつくった水素を100としたとき、1回の反応で99パーセント以上をトルエンに固定するプロセスがすでに実用化されています。したがって、水素を貯蔵する側の反応は開発要素がなく、既に大型プロセスとして実用化されている技術を利用することができます。

後は、この開発した脱水素触媒を組み込んだ脱水素工程を全体のシステムとして、エンジニアリング的にチューンナップすることで、ほぼ実用化する準備が完了するところまでやってきました。これからは、国の方々などに働きかけまして、ナショナルプロジェクトなどとして、ユーザー企業の方々と協力して実用化に結びつけたいというのが、これからの段階です。


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◆気になるコストは?

この方法の海上輸送コストは非常に安価と考えられ、1Nm3(ノルマルルリューベ)の水素の地球の裏側から日本に持って来ても数円程度です。但し、水素化や脱水素化の部分は別途にお金がかかります。

また、「液化水素法」の水素ステーションで燃料電池自動車に水素を供給するコストを100とすると、「圧縮水素法」では8割、我々の方法ならば約7割のコストで燃料電池自動車に圧縮水素を供給することが可能と考えています。

燃料電池自動車は1ノルマルリューベ(90gの水素)で約10km走行できます。この方法で水素ステーションをつくった場合、燃料電池自動車に水素をいくらで供給できますか? というと、現状の燃料電池自動車は350気圧の高圧水素を積んでおりますが、その昇圧コストも含めて、1ノルマルリューベ当たり60円程度で供給することが可能と考えています。そこに現状のガソリンと同様に60円か70円の税金が加算された場合、約130円で10キロ程度走る水素が供給できるようになりますので、現在のガソリン車と比較しても同程度です。したがって、自動車用燃料としては、既に経済性が成立していると申し上げてよいかと思います。

このほかにも水素の用途はいろいろと考えられますが、大規模な水素の貯蔵輸送費としては、輸送する水素の原価が15円だとするなら、現状の技術でも40円程度の値段で水素を大量供給できるものと想定しております。この程度のコストで大量の水素を供給することが可能であれば、大型の燃料電池による発電所向けなどで、炭酸ガスを排出しないグリーンな電力を発電する場合の経済性も夢ではないと考えています。


◆エネルギーの安全保障を支える国の技術として

しかしながら、水素の価格は天然ガスや石油、石炭に比べてまだまだ高価ですので、そのままの価格では経済性が成り立ちません。しかしながら、水素を炭酸ガス削減に必要な分だけ利用することを考えると、これによって、炭酸ガスの回収や処分をしなくてすむわけですから、これらにコストを水素の値段に加味することが可能となります。当面はそれでも割高感があるかもしれませんが、昨年にガソリン価格の高騰のように、化石燃料の価格は今後、上昇基調を続けることが予想されておりますので、この10年くらいの間に経済性が成り立つクロスポイントが来ることも意外なことではありません。

そうした時に、日本がしっかりした技術を持っていないと、どんどんどん化石燃料の値段はつり上げられてしまいます。そのようなときに、必要であれば他の国々から風力などの再生可能エネルギーを輸入して利用できる技術を確立しておくことは、エネルギー・セキュリティの面からも大きな強みになると思いますので、こうした技術を国の技術として確保することは、非常に重要なことだと思っています。


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◆質疑応答

何かと関心の高い水素。「なかなかインフラが整わないということで、遠い将来の技術かなと思っていたところ、この話を伺ったら今すぐにでも実用化できる技術であるということで非常に期待を新たにしました」などの声も聞かれ、会場からは続々と質問が出されました。


▼質問者
すばらしいお話ですが、あえて技術的な課題やこれを普及させるためにクリアしなくてはいけない事はどんなことですか?

●岡田氏
水素が貯蔵する時は熱がたくさん出るので、エネルギー投入が要りませんが、脱水素反応を起こさせる時には、逆に反応熱を入れてあげないといけない。その反応熱を別なエネルギーを使って反応させると、水素の持っているエネルギーの2割強をロスしてしまいます。例えば天然ガスのガスタービンの排熱を利用して脱水素するような、利用先の機器とのハイブリット化が課題でしょうか。


▼質問者
専門の学会では、どのような質問や論見がありましたか?

●岡田氏
やはり質問はコストに集中します。「いつ頃可能になるの?」「いくらで供給できるの?」と、大方その2本の矢が飛んで参ります。その時には、今日お話したような話をすると納得していただけます。


▼質問者
高価な金属でナノ粒子というプロセスも難しい技術だと思いますが、コストの上ではいかがですか?

●岡田氏
先ほどの触媒は、アルミナの担体にその重量の約0.5~1%程度の白金を使います。実は、石油精製の工場では、白金触媒が年間に何万トンというオーダーで入れ替えられながら使われています。私どもでは、白金量あたりの反応量を向上させるために、金属の微粒子化を図って、白金粒子の表面に露出している白金原子の比率を上げて触媒の活性を格段に向上する触媒設計をしています。脱水素反応は化学平衡という規制を受ける反応で、例えば、メチルシクロヘキサンの脱水素反応の場合、常圧で320℃の温度を与えたときに、理論的な反応量が初めて100%となる性質を持っており、従来は95%以上の反応を進めるためには400℃以上の温度が必要でしたが、現在の開発触媒では、320℃で95%以上反応を進めることが可能となっています。この開発に7年かかりました。


▼質問者
原子力の電気を使って水を電気分解して水素をつくるというお話がありましたが、再生可能なエネルギーとしての水素を広めるという意味では、あまり推したくないと思ったのですが、学会や、周りのみなさんの考え方はどのような状況ですか?

●岡田氏
原子力もカーボンフリーな一次エネルギーですので、原子力を水素に変えて遠隔地に運ぶ必要性がある地域では有効と思います。したがって、原子力分野の研究者の方々も、狭い日本の中で原子力を水素に変えて輸送する必要はないと考えておられると思いますので、グローバルな視点にたって、原子力の平和利用が確保できる海外の国で、そういった選択があれば、日本がその技術を提供することは可能と考えられていると思います。


▼質問者
日本の電力を賄うために、水素の輸送媒体となるトルエンは、現在、日本で精製されているトルエンの何倍くらい用意しなければならないのでしょうか?

●岡田氏
この方法ではトルエンをほとんどロスすることなく再利用できますので、普及に応じてトルエンの利用量を増やしていくことが可能です。トルエンは工業溶剤として年間160万トンが汎用化学品としてすでに流通しています。この160万トンのトルエンに固定できる水素量は約10万トンで、メチルシクロヘキサンの量は、先ほどの大型タンカーで8~9隻分に相当します。この水素量は、燃料電池自動車が5kgの水素を充填して走行しますので、20万台の燃料電池自動車が100回充填できる計算になります。また、トルエンはハイオクガソリンの主要成分でガソリンの約10%以上がトルエンです。ガソリンとして消費されている量を含めると、さらに十分なトルエンが国内ですでに利用されているので、普及に応じて問題なく必要量を調達できると思います。

▼質問者
水素なり燃料電池が都市の中にインフラとして入っていくための課題は、どの辺にあるでしょうか?

●岡田氏
まず課題の一つは、これまで水素を大量に供給する技術がなかったので、水素エネルギーの利用機器が、家庭用燃料電池や自動車用燃料電池といった小規模用途の開発に限定されている現状があります。燃料電池はクリーンかつ高効率でエネルギーを転換できるため、省エネルギーの有力な手段として研究開発されてきたわけです。言い方を変えれば、水素の大量供給技術が確立されていないので、そこに制約されてきたとも言えると思います。

ところが水素を大量に供給できる技術があれば、天然ガスのガスタービンに水素を混合して火力発電してもいいし、現在の燃料電池で大型の燃料電池を構成して、街一つ分をカーボンフリーな電気で供給することなどの現実性も見えてきます。そういったところが、今日ご紹介している水素チェーン構想の一番重要なところであります。

さらに、日本は電気自動車と燃料電池自動車の両方の開発に力を入れています。また燃料電池や蓄電池を積む対象は、自動車ばかりではなく船や電車も可能です。現状の電気自動車は1回の充填でも約160キロ程度の航続距離がありますので、首都圏などの自家用車用としては非常に利便性が高い自動車といえますが、夜間の高速ハイウェイバスや宅急便のトラックなどの大型車両の炭酸ガスを削減しようとすると、途中での充電は時間がかかりますので、燃料電池自動車の利便性が高いといえると思います。これらから、電気自動車と燃料電池自動車は、鉄道や船舶なども含めて、その特性によって使い分けできるようになることが望ましく、国による開発も双方の技術を実現することが重要であるとの認識から進められているものと考えています。


▼質問者
相当おおざっぱな議論をすると、都市内輸送は電気自動車、都市間輸送は燃料電池自動車ということですか?

●岡田氏
そうですね。夜間の高速バスで、途中のドライブインなどで充電する時間は、所要時間に影響すると思いますし、首都圏で日常の買い物などに利用するには電気自動車で十分だと思います。一方、一般の車のユーザーも車で行楽などをする場合は、電気自動車では不便と感じる方もおられると予想されます。こういった背景から、水素ステーションを2015年から整備する国の開発プログラム進められていると認識しています。


▼質問者
R水素[*注5]社会が基礎ながら、そこに行くまでのブリッジとおっしゃっていますが、逆に言うと、R水素に行かない理由は何だと思われますか?

●岡田氏
それはまさに、これまで大量輸送ができる技術がなかったからだと思います。例えば北海道では風力発電の光景をよく見るようになりました。けれども現状は、そのポテンシャルの10パーセントしか利用されていませんし、これから増える見込み少ないと思います。これは、国内での風力発電単価が比較的に高価なことと、系統電力に変動のある風力の電気を入れられる量が限定されるためと考えられます。
「水素サプライチェーン構想」では、2020年頃をターゲットにR水素を地球の裏側からでも輸送できるように開発を進めることは可能と考えています。開発を進めることができれば、2020年くらいには大規模な水素を積んだタンカーが日本に向けて出航することも夢ではないと思います。


▼質問者
再生可能エネルギーは、風力や地熱以外にも波力、潮力、温度差発電など、本当に身近なところでいくらでもできます。しかし、そこに投資がいかない。あるいは政府がなかなか再生可能エネルギーに力を注がないことが大きな理由だと思うのですが、その辺はいかがですか?

●岡田氏
やはり投資対効果の観点で、潮力、波力、温度差などの場合は、日本国内でなかなか大規模に取り上げにくいので、優先順位が下がっているのが実情ではないかと思います。しかし、一つの街や村のエリアで地産地消するようなエネルギーの使い方は成立するところも多々あると思いますので、大変だとは思いますが、どのようなメリットが、どれくらい得られるのかを明らかにして、国や自治体に働きかけていくご努力が必要と思います。


<竹村氏 モデレーター>

今日はどうもありがとうございました。本当に敬服すべきイノベーションによって、トータルなビジョンが現実化しているわけですが、改めて、リニューアブル・エナジーベースの社会への加速期である、これが一番大きなメッセージだと思います。

また、もう一つは、先ほど電気自動車か?水素自動車か?という議論がありました。やはり思い出していただきたいのは、電気自動車で使っている電力はクリーンなのか? という問題です。つまりエンドユーザーが自分の使っている視野を超えて、トータルなライフサイクルにまで思いを至す。こうしたシステムが普及することによって、そういうきっかけにもなると思います。ですから、「水素サプライチェーン構想」はエネルギーのインフラではあるのですが、私たちの感性が地球の裏側まで届いていくための「感性のインフラ」になり得るかもしれない。
控え目に2020年をターゲットにとおっしゃいましたが、こちらの方はもっともっと前倒しして実現していけるように、みなさんぜひ応援しましょう。それが我々の役割だと思います。


*注1:CCS
CCS=カーボン・ダイオキサイド・キャプチャー・アンド・ストレージ(Carbon Dioxide Capture and Storage)。帯水層のキャップロックの下にパイプでCO2を圧入すると液化炭酸ガスになって自重で沈む。それと同じように、海底や地層にCO2を溜める方法。実際には海底にあるキャップロックを使おうとしているのが現状。日本にはなかなかそういう場所がない。

*注2:EOR
原油の油田に液化炭酸ガスを注入して、その圧力で、自圧で上がってこない原油を回収する方法。石炭層にも同じように液化炭酸ガスを入れて炭層にあるメタンガスを持ち上げるなど、エネルギーの二次回収に炭酸ガスは使われている。残念ながら日本にはこういうことに適した場所がない。

*注3:nm(ナノメートル)
1nm(ナノメートル)は10オングストローム(ångström, 記号:Å)で、水素の分子の大きさが大体、両端2オングストロームくらい。

*注4:Nm3(ノルマルリューベ)
1Nm3(ノルマルリューベ)= 0度、1気圧(標準状態)の状態でガスが持っている体積1立方メートル分。日本では、石油精製と製鉄の分野で、年間に約300億Nm3(ノルマルリューべ)の水素が使われている。

*注5:R水素
R水素のRはRenewable/再生可能の意味。再生可能エネルギーを水で電気分解してできる水素を言う。


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