丸の内地球環境倶楽部

第25回地球大学アドバンス  「地球の未来を可視化する──最新・地球温暖化予測」

日時:
2009年12月8日 (火) 18:30~21:00 ※終了しました

ゲスト:
江守正多氏(国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室長)


モデレーター:
竹村真一氏(Earth Literacy Program 代表・エコッツェリア・コンテンツプロデューサー)

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モデレータよりコメント

COP15直前シリーズ・第2弾として、今回は地球シミュレーターを使った地球温暖化の予測やその影響評価の第一人者である江守正多氏をお迎えし、気候変動の未来予測について最前線のお話を伺います。

ここ数年間の一時的な寒冷化傾向をもとにIPCCの温暖化予測に異議を唱えたり、太陽活動の影響を重視して「CO2原因説」を批判したりと、地球温暖化の科学的予測を巡ってはいまだに議論がありますが、これらに対しても氏は丁寧に反証を提示しつつ、シミュレーション科学という人類の新たな知の可能性を広げておられます。

また「リスク評価」という面でも、想定しうる近未来の気候変動リスクを内部化した都市計画や国家運営ビジョン、「環境」コストを内部化した「経済」のリデザインが急務です。それは企業の経営戦略から環境税など税制のあり方、ガソリンや電力の価格設定まで、私たちの社会のベースを大きく変えていくはずです。

今回はシミュレーション科学の現在(そこから見える地球の未来)、そして気候変動リスクの「内部化」という2つの側面からお話しを伺います。


トピックス

●シミュレーション科学の現在と「地球温暖化・最新予測」
●「地球温暖化」批判にどう答えるか?~寒冷化?太陽活動?水蒸気・雲?etc.
●気候変動の「リスク評価」について~日本と世界の認識、政策や企業活動への影響
●Mitigation緩和策とAdaptation適応策~内外の動向、環境コストリテラシー
●地球の未来へのまなざし~21世紀初頭に生きる世代としての認識


モデレータープロフィール


竹村真一(たけむら・しんいち)竹村真一(たけむら・しんいち)
Earth Literacy Program 代表
エコッツェリア・コンテンツプロデューサー

京都造形芸術大学教授。Earth Literacy Program代表。東京大学大学院文化人類学博士課程修了。地球時代の人間学を考究しつつ、ITを活用した独自な地球環境問題への取組みを進める。

Sensorium(97年アルス・エレクトロ二カ・グランプリ受賞)、デジタル地球儀「触れる地球」(05年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」「aqua scape」など、さまざまなプロジェクトを推進。環境セミナー「地球大学」主宰。07年「water」展ではコンセプト・スーパーバイザーとして企画制作に携わる。08年7月の北海道・洞爺湖サミットでは、 国際メディアセンター(IMC)内の環境ショーケースにおける「地球茶室」の総合企画・プロデュースを担当。

新著「地球の目線」(PHP新書)など著書多数。2009年4月26日よりラジオ「GLOBAL SENSOR」がJ-WAVE 81.3にて(偶数月の第4日曜25時?)放送開始。

竹村真一プロジェクトサイト: http://www.elp.or.jp/


イベントレポート


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■モデレーター:竹村氏 イントロダクション

地球温暖化の予測に関して、世界でも最先端の研究をされているのが江守さんです。"触れる地球"のメインコンテンツのひとつに「地球温暖化シミュレーション」がありますが、気候変動枠組条約[*1] やCOP15の議論の前提となるIPCC[*2] の報告にも江守さんのご研究がコントリビューションとして使われています。
地球温暖化については様々な議論があり、「温暖化は嘘だ」との批判もあります。そういう議論に対して、江守さんは丁寧に実証的な例を挙げながら説明されています。さらに、国立環境研究所の温暖化対策室長のお立場から、気候変動のリスク評価、それに対する対策のとりまとめのお仕事もなさっています。
今日は、温暖化の最前線の認識から見えてくる、私たち人類の新しい知性のあり方も江守さんのお話から感じていただけるといいのではないかと思います。

≪ 江守正多氏 国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室長 ≫

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■本当に温暖化は起っているの?~過去のデータから

◆地球温暖化は人為起源である?

地球は太陽からエネルギーをもらい、赤外線を宇宙に出しています。温室効果ガスが増えると、赤外線が出にくくなり地表付近の温度があがる。これが地球温暖化です。
過去、大気中の二酸化炭素はほぼ一定でしたが、過去1万年のデータを見ると最近200年くらいで垂直に増えています。また、世界の平均気温は100年の間に約0.7度、海面水位は約17センチ上がっています。雪の面積も減っており、IPCCの結論では、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇は、人為起源の温室効果ガスの増加による可能性が非常に高い。この可能性は90%以上である」と報告されています。


◆20世紀の温暖化人為起源を実証する。


シミュレーションとは物理の法則を解いてコンピュータで計算した理論的予測です。例えば、20世紀の気温の変化を求めるには、20世紀に起ったこと、例えば二酸化炭素をはじめ人間が出しているものがどのように増えたのか。また、太陽の活動、火山の噴火といった自然の活動など、人為起源であるような条件もないような条件も全部コンピュータに教えてあげます。
そのシミュレーションと、実際に温度計で観測された20世紀の世界の平均気温の変化を重ね合わせると、最近50年は観測と理論が非常に良くつじつまが合っています。これは非常に大事なことです。
次に、「もし地球上に人間がいなければ、20世紀の地球の温度はどう変化していただろう」というシミュレーションをつくります。
そうすると、20世紀後半の50年、実際には温度は上がっているのに、「もし人間がいなければ地球の温度は下がっていたはずである」という計算結果が出てきます。つまり、人間が二酸化炭素を増やしたことを考慮しないと、実際に観測された気温上昇は説明できない。私たちは単に二酸化炭素が増えて温度が上がっているという理由ではなく、理論的な計算をきちんとしているので自信があるのです。


■懐疑論に対して

◆温暖化は止まった?

今年二月の日経新聞科学面に「地球の気候当面寒冷化」という記事が出ました。見出しが「昨年の気温21世紀で最低」。昨年とは2008年です(笑)。まるで100年に一度ぐらいの寒いことが起ったような気になりますが、2001年から2008年までの8年間の間で最低という意味です(笑)。このように、懐疑論者の方々は短期間の推移を見て最近は温度が下がっている、予測は外れているではないかとおっしゃるわけです。
しかし、地球温暖化は長期的な傾向で、短期的な上下の変動はエルニーニョ、ラニーニャ、あるいは火山が噴火して地球が少し冷えた時期など自然の変動によるもので、少し下がったぐらいで一喜一憂することではありません。降水量や海面上昇など、すべてにおいて年単位で自然起因のゆらぎがあります。ですから、最近起っている異常気象についても、個々のケースが温暖化のせいであるとは科学的には言えませんが、それが100年の傾向であれば「温暖化のせいかもしれない」とは言えます。
また、私たちのシミュレーションでは、モデルや条件を変え、何回も何回も計算し様々な結果を得ています。我々はその計算結果を平均し、わざわざ短期的な変動を消して、長期的な傾向だけを見ています。ですから、短期的な変動を含む実際の観測データとシミュレーション比べて、「ここが合ってないじゃないか」と言われても、これはいちゃもんです(笑)。とにかく、温暖化はとまっていません。


◆太陽活動が弱くなれば温暖化しない?

次に、太陽活動が弱まると、太陽から地球に来るエネルギーが減り、地球の温度が下がるという説があります。また、太陽活動が弱まると"宇宙線"がたくさん入り、雲が増える。雲が増えると太陽の光を跳ね返して地球が冷える、という仮説があります。
長期的な傾向を見ると、確かに1985年くらいをピークに太陽活動は弱まっていますが、気温は上がっています。もし、太陽活動の弱まりで気温が下がっているとすれば、この頃から気温が下がっていなければおかしいわけです。


■地球温暖化が進むと将来はどうなるの?

◆将来のシナリオを描く。
 
将来のシミュレーションをつくるには、「温暖化は人間が起こす」という前提に基づき、人口やGDP、技術など、人間がつくり出す社会経済が将来100年の間にどのような経路を辿るのか、幾つかのシナリオを描きます。
その上で、コンピュータに、地球の大きさ、太陽からのエネルギー、海と陸の分布、地形、植物の分布、大気の成分、地球の回転など、地球の基本的な条件を教えます。そこに物理の方程式をつっこみますと、勝手に雲ができたり雨が降ったり、温度が上がったり下がったりする。これがシミュレーションです。
緯度・経度・高さ(海については深さ)の3次元で大気と海を升目に切ります。升目は水平方向に一辺約100キロです。升目の一個一個で約10分ごとに計算していき、100年先まで計算したのが100年後の温暖化の予測です。


◆将来気候はどういう風に変わるの?~温度、降水量、海面上昇

計算結果では、もし私たちが何も対策をとらず二酸化炭素を出し続けた場合、将来100年で世界の平均気温は2度から4度ぐらい上がるという答えが出てきます。温度の幅はシナリオによって違います。しかし、世界の研究グループ結果に多少のばらつきがあったにせよ、気温がマイナスになる、あるいは20度上がるといった極端な答えは出てきません。
また降水量は、高緯度や熱帯の海上で増える様子が2050年くらいからはっきり見えてきます。一方、砂漠のある亜熱帯はさらに雨が降りにくくなると予測されます。
海面上昇については、海水の熱膨張と陸上の氷の融解により起こりますが、我々の計算例では100年後の世界の平均海面上昇は約50センチになっています。これまで、南極は温暖化しても0度よりも低いため、むしろ雪が増えることで氷が増え、海面を下げる方向に働くと考えられていました。しかし最近分かってきたのが、南極の周りの突き出しているところの氷が緩んで氷が崩れると、つっかえ棒を失ったように上から氷が滑ってくる。実際そういう観測もあり、人工衛星で南極の氷の重さを量ると、この数年間減っているようだと。これが温暖化によって加速すると、今世紀末までに1m、あるいはもっと上がってしまうのではないかと心配されています。


■温暖化をするとどのような影響があるのか?

◆温暖化は怖い?~温暖化による悪い影響、良い影響

温暖化の影響ですでに現れている現象は、氷や凍土が融けている、雪崩が増えている、生態系の時期の変化などです。このまま温暖化が進めば、水不足人口の増加、種の絶滅、サンゴの死滅、森林火災の増加、風水害や熱波の増加。栄養失調や下痢、呼吸器疾患、感染症など。被害人口は何百万人という規模で増えていく。途上国が大被害を受けると難民が増えるのではないか、紛争が増えるのではないか。あるいは、オーストラリアで干ばつが続いて小麦が高騰したように、貿易を通じて日本の食に影響が出るかも知れない。
さらに、地球規模の変化が引き起こる臨界点があるのではないかということも心配されています。例えば、グリーンランドの氷が全部なくなって、海面は6m~7m上がってしまうのではないか。アマゾンの熱帯雨林がどんどん減っていくのではないか、海流の大循環が止まってしまうのではないか。海流については、シミュレーションの研究者は、急に止まることは今世紀中には起らないだろうと考えています。ただ、この流れが遅くなって温度上昇が遅れる所はあります。こうした海流の変化もシミュレーションの計算の中には入っています。
逆にいいこともあります。寒いところでは生産性が上がるかもしれないし、寒いストレスは減る。雨が増えるところは水不足が減る。また悪いことは何でも温暖化のせいではない。温暖化の象徴としてよく扱われるツバルの海面上昇は温暖化だけではなく、人口増加も大事な要因です。あるいは、「適応」でなんとかなるかもしれない。温暖化の影響がどのくらい大変なことなのかというのは非常にわかりにくい。


■温暖化はどうしたら止めることができるの?~その対策と目標

◆どのくらいCO2排出を減らせばいいの?

では、二酸化炭素の排出量をどのぐらい減らせば温暖化は止まるか? 仮に「濃度一定:排出=吸収」を目指します。そのためには、世界全体で100年後には現在出している量の8割~9割を削減しなければならない。最終的には、人類は二酸化炭素をほとんど出さないような文明に移行しないと、温暖化は止まりません。
IPCCの報告書には、2度までの温度上昇ならば、悪いことはあるが、いいこともある。2度を越えると悪いことが増え、地球規模の悪影響が始まる可能性が高くなる。4度を越える相当大変ですというニュアンスのことが書いてあります。現在の国際社会の主流議論としては、一番厳しい2度を目指しましょうという動向になっています。この数字はCO2換算500ppm、世界で2050年までに90年比50パーセント削減を目指した数字です。
その時に2度で止まるのかというと、実は、2100年地点で2度を越えない確率が50パーセントです。では何十パーセントの確率で2度を越えないようにしたいのか? 

◆地球の未来を決める人類の選択

最後は、価値判断によるのではないかと思います。例えばよその国で大被害が起こって、仮に間接的な影響がない時にそれでいいかどうか。あるいは、将来世代への影響をどれだけ真剣に考えられるか。野生生物種の絶滅や景観などの自然の価値に対する考え方もあります。
社会の人々の価値判断も含めて、リスクをどれくらいのところで引き止めようとするのか? リスク評価はゼロリスクを求めると、とてもとても大変な対策が必要となってしまいます。また、他にも我々が全く気がついていない大事な要素があるかもしれない。ですから、もしかしたら万が一起ってしまうかもしれないけれども、ある程度覚悟する、ほどほどのところで対策を見つけるという考え方も同時に必要なのではないかと思います。そういう複雑な関係になっておりますが、現在人類がどこまで覚悟をして何を目指そうとするのか、合意形成で決めていかなければならない問題だと思っています。ありがとうございました。

江守氏&竹村氏《対談》

■急激な気候変動は起らないのか?~フィードバックの問題

◆地球は自ら安定化しようとする。

<竹村>
いま、私たちは様々な科学的知見に基づいて、人類社会の意思決定をしようとしていますが、極めて理想的なシナリオで80パーセントを削減したとしても、間もなく400ppmに近づこうとしている状況は変えられない。また、ヒマラヤの氷の融け方は急激ですし、単純な温度上昇だけでは説明できない要因があると思うのですが、CO2を減らしさえすれば温暖化が止められると言い切っていいのか? もっと急激な気候変化をリスクとして考慮しなくていいのでしょうか?

<江守>
現在の科学の認識では、2050年までに50パーセントを削減し、最終的にゼロ近くにできれば温暖化は止まると言っていいと思います。もちろん、まだ解明されていないことはあります。例えば、温暖化してシベリアの凍土からメタンが出てくると、さらに温暖化が進みメタンが出てくるフィードバックがかかる。
そういうことが始まれば大きな影響があると前々から考えられてはいるものの、どのぐらいそれが起きるのかが全くわかっていないので、先ほどのシミュレーションには入っていません。逆に、温暖化することですでに起っている水蒸気増加や氷の減少によるフィードバックはシミュレーションの中に入っています。
重要なのは、そういうフィードバックが起ると温暖化が暴走して止まらなくなるかというと、地球は温度が高いほどたくさんの赤外線を宇宙に出そうとします。これはあらゆる物体の温度を安定に保つ本質的なしくみです。現在は、この安定化作用の方が加速させようとするフィードバックよりもトータルで勝っていますので、大気中の温室効果ガスの増加を止めれば温度上昇は止まるはずである、というのが現在の理解です。

◆森林の問題は大きい。

<竹村>
CO2濃度が高くなるとより光合成をして森がたくさんCO2を吸収しますが、いまアマゾンだけでも2万6千k㎡という膨大な面積が一年間に失われていますし、インドネシアでもプランテーションによる森林破壊で、泥炭層から排出されるCO2は日本の排出量に匹敵するのではないかなどいろいろな話題がありますが、森林のフィードバックの問題はいかがですか?

<江守>
もちろんCO2が増えることによって植物が育ちやすくなるという効果はありますが、植物は光合成だけではなく呼吸をしますので、温度が高くなると、呼吸が増えてCO2が逆に出てくる。また、土に蓄えられた炭素の分解が早くなってCO2が出てきてしまう。もう一つ挙げるとすれば、温暖化によって雨の降り方のパターンが変わって、アマゾンの熱帯雨林で雨が降りにくくなる。これは必ずそうなるかはっきりしていません。あるいは、乾燥化と高温化による森林火災が増える。このあたりが森林に関して心配されることです。
本日お見せしたシミュレーションは2004年頃に計算しました。現在、IPCCの第五次報告書を2013年~2014年に向けて作成中です。前回のモデルは、二酸化炭素の濃度の変化を与えて、大気と海の物理的なところを解くモデルでしたが、今回はそれに加えて生物の入った気候モデルになっています。海の中には植物プランクトンや動物プランクトンがいて、植物プランクトンが光合成をして食物連鎖がある。陸の上には植物が生えていて光合成をして土に炭素を蓄えたりする。大気中にはCO2が風で輸送される。それらが入ったシミュレーションをいよいよ本格的に世界中で始めました。

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■地域的なリスク評価~適応

<竹村>
先ほどのシミュレーションでは、日本は黒潮の付近で海面上昇のリスクが世界より高いように見えました。(江守注:これは、実はよく見るとそうではありません。黒潮の変化で海面上昇が高くなるのは、日本の海岸から少し離れたところです。)仮にIPCCの言うとおり1mも上がらないで終わったとしても、例えばこの丸の内は四百年前まで海だった場所です。日比谷交差点は標高約1.5mですから、高潮と大潮、台風などが重なると、都心部の浸水など大きなリスクになってくる。私は、人的、経済的被害が出ない都市計画という選択肢も、未来への投資、未来世代への責任として国民に示されてしかるべきだろうと思うんですね。
例えば、アメリカのフロリダでは、1階2階が浸水しても大丈夫な設計を最初からしています。未然の対策を講じるのは、国土交通省の大きな課題だと思うのですが、一つのガイドラインを提示する環境省の国立環境研究所のリスク評価室長というお立場からすると、ご研究と国の意思決定はどのようにリンクしているのでしょうか? 科学と政治は持ちつ持たれつのような形で進み始めているのですか?

<江守>
環境省のプロジェクトでは、日本が温暖化した時の具体的な影響を計算していますが、やはり洪水、高潮の被害が経済的に一番高くつきます。では、それに対し、どういう治水や防災インフラ、あるいは、ソフト的な熱波警報システムや、非難システムなどをするのかというところは、役所特有の考え方があるかもしれませんし、一概に言えないところがありますが、役所が自分の役所だけで最適化してものを考えないように、俯瞰的なビジョンを持って横断的な政策を立てていく、それに期待したいという気がしています。
また、ある意味で政治は科学を待っていられません。今後、科学的な知見でさらに新しいことが明らかになった場合、政治的な意思決定、社会的な意思決定をそれに基づいてフレキシブルにアジャストするしくみもあった方がいいと思っています。
また、途上国など自然災害に対して脆弱な国には、先進国が技術とお金を出して、「防災インフラを整備してあげますので、低炭素化も協力して下さい」と協力関係を築いていく。そういう観点も非常に重要な点だと思います。

■複合的リスクへのトータルデザイン

<竹村>
気候変動によって食料生産が減った時にピークオイルが来てさらに食料供給が減る、輸送が出来なくなるなど複合的なリスクを想定すると、トータルなリスク評価、また、どういう方向へ社会が転換していくべきかという大きなデザインをどういう形でやっていったらいいとお考えですか?

<江守>
フランスには持続可能省というのがあるらしいですが、現在、東京大学の住明正教授が中心になって、「サスティナビリティ学連携研究機構」をつくっておられます。前の東京大学総長の小宮山宏さんは「知の構造化」と言って、細分化されすぎた知を繋ぎ合わせて見取り図をつくらなければいけないとおっしゃっています。
私もそういう方向で考えて行きたいと思っておりまして、国立環境研究所では、低炭素と、廃棄物などの循環型社会と、科学物質リスクの安全・安心の話と、生物多様性を含めた自然共生など、いくつかの軸を持っていますので、それら軸の間のトレードオフやシナジー、例えば、温暖化対策でこれをやったら実は廃棄物に問題が出たなど、横断的に考えられるとカバーできると思います。同時に、資源や安全保障、食料など様々なセクターと、きちんと繋がっていくと、現在の研究のリソースである程度のことはできるのかなと思い描いています。

<竹村>
政治や政府に反映させるだけでなく、市民、国民にもっと広く知見をアウトリーチしていくと考えると、私は江守さんのような方が研究の最先端から出て来たことそのものが新しいメディアだと思うんですね。今日のように江守さんの声を聞いて関心を持つ人も出てくる。それと同じように膨大な研究リソースをもう少し分りやすく魅力的に提示する方法があれば、もっともっとリソースが活かされるのになぁという思いもあります。是非、皆さんにもそういう声を出していただきたいと思います。


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質疑応答

■温暖化を伝えるためのコミュニケーション

<質問者:A>
環境分野のリサーチの仕事をしています。今後、どこを重視してコミュニケーションしていったらいいのか、参考にさせていただければと思います。

<江守>
温暖化予測研究プロジェクトの一部にコミュニケーションの部門をつくり、社会心理学や認知心理学などの人たちと協力を始めています。私たち研究者がやるからには、温暖化は怖い問題があって、白くまはかわいそうで、レジ袋を断ってくださいねといった話ではなく、科学的な正確さや不確かさも含めて、どれだけその世の中とコミュニケートできるか。当然、双方向にやっていくべきだろうと思っています。
対象としては、一つには一般市民です。やはり「何十パーセント削減が必要なのだ」ということを、科学的な情報をもとに判断、納得してもらうために、マスメディアの人たちと定期的に意見交換をしています。しかし、現在の温暖化の影響に関する報道についてアンケートをとると、メディアの人は「やや物足りない」と感じていて、研究者は同じ状況を「ややおおげざだ」と感じている。また、メディアの人たちは短中期的に何が起るのかを伝えたいが、研究者は長期的に何が起るかを伝えたいと思っている。こういう違いが出てきます。では、そこでどういうコミュニケーションしていくと正確にかつ分かりやすく伝えられるのか。そんなことを始めているところです。
また、適応の関係では、企業の皆さんと勉強会をしています。現在の我々がどういうデータを科学的に提供できるのかをお話し、そのデータをもとにどんなことが考えられるかを聞くなどのコミュニケーションをしています。
また、 "ONコミュ"というホームページを立ち上げ、自治体の温暖化防止センター推進員の方や、自分は温暖化のことを伝えたいと思っている人や、学校の先生などが情報交換をするプラットホームをつくるなど、いくつか多面的にやっています。


■リスクに対するコストベネフィットは?

<質問者:B>
温室効果ガスを削減する時の金額やリスクの金額は各国でつくっていて、大量に温室効果ガスを削減しても、リスクや影響のほとんどない国が出てくることを題材に、COPやいろいろなところで会議がかわされているのでしょうか?

<江守>
国によって研究の進み方が違うと思いますが、自国の温暖化対策コストいくらで、何もやらなかった時に被害額がいくらで、それで最適化する計算をしているという話はあまり聞かないですね。結局CO2はどこの国が出しても同じように溜まります。もしかしたら倫理的に世界レベルで考えなければいけない意識が働いているのかもしれません。
有名なのは、数年前にイギリスのニコラス・スターンが「スターン・レビュー」という世界レベルの温暖化の対策コストと影響被害の経済学の報告書をつくりました。それによると対策費用の方がずっと安く、しかも早くやればやるほど安い。
しかし、温暖化影響被害を計算するのは結構難しいです。価値観も入りますし、経済学で言うと、割引率をいくらにするかによって答えが全く変わってきてしまう。非経済、非市場的な価値をどうやって経済価値に換算するかというのは非常に難しいですし、なかなかコストベネフィットできちんと決められる段階まで把握が進んでいないところです。経済学の枠組みでこの問題を議論して、他にも、温暖化対策をした時に雇用をどうするのか、長期的な成長の見通しをどうするのかなど、誰もが納得できるようにする必要があると感じています。


■平安時代は今より暖かかったから温暖化対策はいらない?

<質問者:C>
懐疑論者の意見で、平安時代は今より暖かかったので温暖化対策という意見もあるのですが、どう反論なさっていますか? また、そういったことは科学的に事実なのでしょうか?

<江守>
まず、過去1000年のデータで、温度計で測った気温以外の古い年代は、木の年輪や氷や堆積物などからデータが復元されています。まだ研究がされている最中ですが、このデータを見る限り、最近の気温上昇は、1000年前よりももっと暖かいだろうとされています。
ただ、最近一部で "クライメイトゲート疑惑"というデータ捏造問題が盛り上がっておりまして、おそらく私は、この図をつくる上でのテクニカルな相談で、捏造などの種類の話ではないと思いますが、仮にそのデータの信頼性がこの話で少し損なわれたとしても、最初に申し上げた通り、「最近の気温上昇は、人為起源による温室効果ガスの増加を勘定に入れないと計算が合わない」というのが一番強い根拠なので、温暖化がうそっぱちだということは全く起らないと思います。

■温度変化の後にCO2濃度が変化する?

<竹村>
東京工業大学の丸山茂徳さんがよく出される件で、過去数万年単位のCO2濃度の変化と温度変化のグラフを重ねてみると、確かにシンクロはしているのだけれども、厳密に見ると、温度変化の後にそれを後追いするようにCO2濃度が変化すると。そういうグラフについてはどういう風にお答えになっているのですか?

<江守>
数万年単位の話ならばそのとおりです。 "氷期・間氷期サイクル"の繰り返しがありまして、このサイクルの原因は軌道の関係ですので、温度がスタートです。そのことと最近の温暖化で、人間が二酸化炭素を出すことがスタートになっていることは両立する話なので、それは何ら人為起源温暖化という話の反論にはなりません。


■認識論としての温暖化

<竹村>
江守さんの『地球温暖化の予測は正しいか』というご本のあとがきに、地球温暖化のことを考えたり、こういう時代というのは非常にわくわくすると書いておられました。私も同感です。確かに我々が直面するリスクは決して過少評価できない大きなものがありますが、同時にこういうことを通じてカーボンフリーで石油に依存しない新しい文明をつくる、その転換を加速するチャンスだと考えられるわけですし、地球文明という一つの新しい大きな物語をつくることに参画しているという感覚を持てるんですね。

<江守>
そうですね。それこそ価値観によると思いますが、環境問題を大学でテーマに選んだ頃から、やはり人類はこの先どうなるのだろうと非常に興味を持っていて、いまこういう問題が起って、まさに転換点を迎えて、大きな問題を解決する方向を目指して動いている。でも一筋縄ではいかない。いろいろな対立があって、ギリギリのせめぎ合いをやっている。そこに生きていて非常に楽しいなと。このエキサイティングな時代で、世の中の行く末をドキドキしながら見守りつつ、自分もアクションしたいと。皆さんもぜひそういう気持ちで温暖化の問題を捉えて欲しいなと思います。
 
<竹村>
例えばパレスチナ問題も、基本的に石油に依存しない社会をつくるのが一番近道なわけです。それを加速するのが温暖化の認識であると考えると、非常にエキサイティングな時代に私たちは居合わせていると思います。今日は私たちの地球認識はこういうところまで来ているのだなと勇気づけられるお話をいただきました。どうもありがとうございました。


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当日デモンストレーションしていただいたシミュレーションは、以下のウェブサイトから、江守氏の解説付きで見ることができます。
http://www.team-6.jp/cc-sim/
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*脚注

*1【気候変動枠組条約】正式名称:気候変動に関する国際連合枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change:UNFCCC、FCCC)は、地球温暖化問題に対する国際的な枠組みを設定した条約。国連気候変動枠組条約、地球温暖化防止条約、温暖化防止条約ともいう。
大気中の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素[亜酸化窒素:N2O]など、HFCs、PFCs、SF6)の増加が地球を温暖化し、自然の生態系などに悪影響を及ぼすおそれがあることを、人類共通の関心事であると確認し、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ、現在および将来の気候を保護することを目的とする。気候変動がもたらすさまざまな悪影響を防止するための取り組みの原則、措置などを定めている。

*2【IPCC】《 Intergovernmental Panel on Climate Change/気候変動に関する政府間パネル》人為起源による気候変化、影響、適応、緩和の方策について、科学、技術、社会科学の面から評価を行うために、世界気象機関 (WMO)と国連環境計画 (UNEP)との協力の下に、約80か国の政府関係者と科学者が参加し、昭和63年(1988年)設立された。その任務は、二酸化炭素等の温室効果気体の増加に伴う地球温暖化の科学的・技術的(および、社会・経済的)評価を行い、得られた知見を、政策決定者始め、広く一般に利用してもらうことにある。90年に第1次報告書を出したのを皮切りに2001年に第3次報告書を公表、さらに07年に第4次報告書をまとめた。
江守氏によれば、IPCCに所属しているといえるのは、パチャウリ議長と各ワーキンググループの議長団と事務局スタッフで、10人~20人と少ない。他は世界の研究者のボランタリーな貢献からなる。活動費としては国連に各国が出す分担金がWMO等の予算になり、そのうちの一部が充てられているのではないか。旅費などは、先進国では自国の政府や研究所の予算で賄い、途上国にはIPCCのファンドやノーベル平和賞の賞金が活かされている。

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