
第26回地球大学アドバンス 生物多様性シリーズ:1「地球の担保『種子』(タネ)を守る」
日時:
2010年1月25日 (月) 18:30~21:00 ※終了しました
ゲスト:
野口勲氏(野口種苗研究所 代表)
モデレーター:
竹村真一氏(Earth Literacy Program 代表・エコッツェリア・コンテンツプロデューサー)
モデレータよりコメント
生物多様性は地球の安全保障の担保である。今日のお話の主題になりますが、F1種と言われる非常に効率の良い、収量の高いものにほとんどの農家が傾斜して、地域の固有な種が失われていっている。こうした暮らしの中に潜む多様性に対するリスクを、私たちはどう解決していったらいいいのか?
例えば、農家の経済論理と、固有種を守っていく事が成り立たない時に、世界の野菜や植物の多様性を守っていく大きなシーズベッドになるのが、都市生活者のベランダ菜園、家庭菜園かもしれない。そういう意味では都市農業の可能性も出てくるでしょう。
また、農家にとってF1種は、収量は高いかもしれませんが、毎年新しく種を買わなければならない状況は、果たして農業、農家としてサステナブルなのか? これから私たちは、宇宙船地球号の農業のあり方、食のあり方をどうデザインしていくのか? その課題としても、種の多様性の問題は避けて通れないと思います。
こういう問題意識で、今日の野口先生のお話をキックオフに、私たち地球大学もこの問題を今年来年と考えて行きたいと思っております。
トピックス
●野菜と種子の「モノカルチャー化」~日本と世界の状況
●そもそもF1種とは何か?地域の固定種とのちがい
●いろいろな野菜の隠れた「物語」(地球史的な来歴など)
●生物多様性を保持してゆく主役はプロの農家より一般市民
●種苗戦争~タネの自給率、F1種から遺伝子組替え作物へ、地球の「タネ」の行方
モデレータープロフィール
竹村真一(たけむら・しんいち)
Earth Literacy Program 代表
エコッツェリア・コンテンツプロデューサー
京都造形芸術大学教授。Earth Literacy Program代表。東京大学大学院文化人類学博士課程修了。地球時代の人間学を考究しつつ、ITを活用した独自な地球環境問題への取組みを進める。
Sensorium(97年アルス・エレクトロ二カ・グランプリ受賞)、デジタル地球儀「触れる地球」(05年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」「aqua scape」など、さまざまなプロジェクトを推進。環境セミナー「地球大学」主宰。07年「water」展ではコンセプト・スーパーバイザーとして企画制作に携わる。08年7月の北海道・洞爺湖サミットでは、 国際メディアセンター(IMC)内の環境ショーケースにおける「地球茶室」の総合企画・プロデュースを担当。
新著「地球の目線」(PHP新書)など著書多数。2009年4月26日よりラジオ「GLOBAL SENSOR」がJ-WAVE 81.3にて(偶数月の第4日曜25時?)放送開始。
竹村真一プロジェクトサイト: http://www.elp.or.jp/
イベントレポート
■モデレーター:竹村氏 イントロダクション

生物多様性は地球の安全保障の担保である。今日のお話の主題になりますが、F1種と言われる非常に効率の良い、収量の高いものにほとんどの農家が傾斜して、地域の固有な種が失われていっている。こうした暮らしの中に潜む多様性に対するリスクを、私たちはどう解決していったらいいのか?
例えば、農家の経済論理と、固有種を守っていく事が成り立たない時に、世界の野菜や植物の多様性を守っていく大きなシーズベッドになるのが、都市生活者のベランダ菜園、家庭菜園かもしれない。そういう意味では都市農業の可能性も出てくるでしょう。
また、農家にとってF1種は、収量は高いかもしれませんが、毎年新しく種を買わなければならない状況は、果たして農業、農家としてサステナブルなのか? これから私たちは、宇宙船地球号の農業のあり方、食のあり方をどうデザインしていくのか? その課題としても、種の多様性の問題は避けて通れないと思います。
こういう問題意識で、今日の野口先生のお話をキックオフに、私たち地球大学もこの問題を今年来年と考えて行きたいと思っております。
≪ 野口勲氏 野口種苗研究所 代表 ≫

■はじめに~神秘の「種」
◆人類文明の礎である「種」を扱って
埼玉県の飯能市で、祖父の代から三代続けて種屋をやっております。どうしても手塚治担当のマンガの編集者になりたいと思い、2年で大学を中退して虫プロ出版部に入りました。その後虫プロが倒産して、30歳で家業の種屋を継ぐことになりました。
ひょうたん博士"と言われる東京農業大学の湯浅浩史先生は人類最古の栽培植物はひょうたんではないかという説を唱えています。アフリカ大陸原産のひょうたんが、9000年前の日本で発掘されているんですね。1万年前の縄文時代の人間が、アフリカと交易しているわけがない。種というのは人類文明の礎で、ひょうたんに入れた水と一緒に各地へ行って、その種を蒔いて暮らしを立てながら、またそこから移動していった。そういうことだったのではないかというわけです。
◆F1(一代雑種)とは
"ひょうたん"は苦くて食べられませんが、同じひょうたんでも "夕顔"俗に言う"かんぴょう"は苦くないので食用になります。湯浅先生によれば、ひょうたん型はメンデルの法則でいう劣性形質で、苦味のあるかんぴょう型の方が優性形質であると。一代目の子供(F1)は、優性だけが出ますから、ひょうたんとかんぴょうをかけ合わせると、かんぴょう型で苦いものだけが出る。そこからまた子供をとると、メンデルの分離の法則で、1:2:1の割合で、優性と雑種と劣性の形質が出る。雑種に出る形態は優性が表現されますが、その中で一つだけ劣性形質が出てくる。これがひょうたん型で食べられるものということになる。
優性形質の中には劣性が隠れていますが、劣性形質には優性が隠れていません。ですから、劣性形質は翌年から種をとって、食べられるひょうたん型のものが出る。こうして遺伝子を固定されたものが固定種です。
メンデルの法則は優性だ劣性だと言うから、話がおかしくなってくるんですね。現れる方を"顕性"と潜っちゃう方を"潜性"と言った方がわかりやすい。よく種屋が「F1は、父親と母親のいいところだけ、優性、優れているものだけが出るからいいんです」と言うのですが、全部嘘っぱちです。
■現代F1事情
◆流通に不都合な固定種の三浦大根
三浦半島に本来の三浦大根を復活させる夢を持ちまして、F1の三浦大根をつくっている人に昔ながらの固定種の三浦大根の種を渡してつくってもらいました。固定種の三浦大根は多様性を持っていますから、いろいろな大根ができる。ですから今の流通には向かないんですね。みんな同じ格好をしていて、同じ金額で売れる大根でないと商品にならない。
ウリ科のスイカも昔は"旭大和"といって縞が無かったんです。甘くておいしいのですが、残念ながら皮が薄いので輸送に耐えられない。そこで、うまくはないけれど丈夫な品種をかけて皮が固くて輸送に耐える大きなスイカが出来た。各社この方法でやりましたから、日本中のスイカが縞のあるスイカばかりになっちゃったんですね。
◆農家に効率のよいF1、家庭菜園にぴったりの固定種
コカブも私たちの"みやま小かぶ"という固定種以外F1になってしまいました。F1カブは、例えば今日ハウスの中に1列蒔けば、2カ月後にはその1列を全部収穫できます。後は水洗いして束ねて、箱に積めれば一度に出荷出来ます。
ところが、固定種の場合は、大きいのを選んでその分だけを出荷する。引っこ抜いたところは、また1カ月位して大きくなる。つまり、選別の手間が掛かるわけです。こんなものをつくっていたら農家は金にならない。
しかしこれは家庭菜園にとってはありがたいのです。大きいのから順番に採っていくと、長期間収穫が出来るんですね。F1カブを蒔いてみてください。いっせいに出来ますから、近所中に配ったり、いらないという親戚に送ったり、そういうことをして、また改めて蒔かないと次の収穫が出来ない。そういうことになるわけです。
◆失われゆく植物の本性
種がみな同じに成育すると、台風や虫の被害に遭えば、子孫を残すことが出来ない。生育にばらつきがあるから、気候の変化や虫の発生などに対しても、早く育ったやつは食われても、後で育ったやつが子孫を残すことが出来る。その植物本来の姿が、生産する方にも、出荷する方にも出荷される方にも、スーパーにとっても都合が悪い。ですから揃いも良く、成育が早くて収穫しやすく、日持ちが良いように改良されたF1ばかりを食べる時代になった。F1はメンデルの分離の法則で1:2:1の割合でバラバラになってきますから、種はとれません。種屋にとっても毎年種が売れます。
◆固定種は自分の畑向きの野菜をつくる
一方、固定種の利点は味が良いこと、自家採種が出来るということです。しかも、遺伝子は多様性を持っていますから、自分のやり方、自分の畑に種を蒔いて、その中で一番良く育ったものから種をとっていくと、どんどん自分の畑向きの野菜になっていきます。
ただ、種というのはよく交雑しますから、交雑すると変なものも出来ます。しかし逆にそれを固定するとオリジナル野菜を生むことになります。そうやって生まれてきたのが今の日本中の菜っ葉や大根です。
本来、大根は中国の南方から入ってきた植物ですが、日本の土質の中で、土が深かったり寒さの厳しいところでは土の中へ潜る系統になったり、乾燥気味のところにはどんどん細く固い大根ができたり、高温のところでは首が出て、それが青首大根のようになってくるわけです。
要するに、その土地とその気候によって、どんどんその地方に合った形に適合していく。江戸時代には200種類とも言われる各地の大根が生まれるわけです。ところが現代は、日本中がF1の青首大根の時代になってしまった。
◆F1は戦後の後遺症?
F1ができた背景には戦争が関っています。第二次世界大戦が終わって、いろいろな兵器が余った。一番余ったのは爆弾です。爆弾は窒素が原料です。この余った爆弾を肥料として売ればいいではないかというわけで、化学肥料が大量につくられた。
しかし、肥料もほとんどやったことのない畑に窒素をたくさんやると、植物はどんどん葉っぱばかりをつくって、光合成を盛んにして窒素を抜こうとするんです。ですからどんどん背が伸びて倒れてしまう。そうすると今度は、多肥栽培に向くように品種改良が進むわけです。丈が低く、腰の強い品種を使って、とにかく肥料をやればやるほど成育が早まり収量が上がる、そういう品種改良に方向転換するわけですね。これが"緑の革命"と言われるものです。
もう一つは農薬です。だいたいドイツなどの毒ガスが農薬に転換されていきます。さらに、石油産業がビニールなどを開発し、ビニールハウスができてくる。そこで重油を焚いて、1年中同じ野菜を食べられるような現代の魅力的な世界が成立するわけです。それに合わせてその環境に適応したF1野菜がどんどんつくられ、今の市場を占拠している。
◆新種の野菜をつくると500万?
小松菜も、遠くに出荷できるよう、茎の太い青梗菜(チンゲンサイ)と掛け合わせて日持ちを良くしています。また、緑色の濃い野菜は栄養価が高いと思っている女性が多いので、緑を濃くするためにター菜と掛け合わせるなどしていますが、こうした野菜を小松菜として売っている。
何故、小松菜ではないものを小松菜として売るかというと、農水省が小松菜ならばこの農薬を使ってもよしというという基準があるんですね。例えば、青梗菜と小松菜を掛け合わせて"友好菜"という名前で売り出した会社があるのですが、この名前ですと小松菜に使える農薬が使えない。小松菜と同じ農薬をかけてもいいように農水省に申請するためには、ひとつの品種に対して500万円のお金がかかるんです。ですから、みんな「何とか小松菜」と称して売るようになっている。

■F1はいかにしてつくられるか
◆雄抜き雄掛け一代雑種
F1づくりの基本のキーワードは除雄(じょゆう)です。雄を除く。例えばトマトは自家受粉性ですから、花びらの中に雄しべと雌しべが同居しています。放っておくと自分の雄しべの花粉で雌しべが種をつくる。しかしそれでは雑種になりませんから、トマトの花が蕾でまだ受精能力を持ってない時に、細かいピンセットで花びらを開いて、雄しべを全部引っこ抜くんです。そして、裸になった雌しべが成熟するのを待って、他の掛けたい品種のトマトの花粉を裸になった雌しべにつけてやる。こういうことを1回やるとだいたい500粒前後の種がとれます。この種がF1、一代雑種の種として売られるわけですね。トマト同様ナスもで、これがすべての基本です。とにかく雄を取り除いて、雌に別の系統の雄を持ってくる。
◆蕾受粉で莫大に増えるクローン種
アブラナ科の野菜は「自家不和合性」という性質があって、自分の花粉では種がつきません。ただ、同じアブラナ科の、例えば小松菜の種を蒔いてやると、その花粉で種が出来る。その「自家不和合性」の性質を利用してF1をつくります。
ところが、成熟した花では自分の花粉を受け付ないのですが、蕾の時には受け入れちゃうんですね。ですから小さな蕾を開いて、この自分の成熟した花の花粉をつけてやると蕾が自分の種をつくっちゃう。「蕾受粉」というのですが、これを2年3年続けていくと、何万というクローンの種ができる。
こうしてできたカブのクローンと白菜のクローンを蒔くと、カブの花粉がついた白菜と白菜の花粉がついたカブが種を実らせるわけです。もし、目的とする種が白菜にカブの花粉がかかったものならば、白菜の方だけを残して花粉を提供したカブの方は全部ブルドーザーで潰してしまう。これで目的とするF1白菜の種が出来上がります。
◆「蕾受粉」も効率の良い新技術
かつてこの「蕾受粉」は、菜の花の時期、何百人というパートのおばさんたちがやっていました。とても小さな資本の会社で出来る事ではなかった。ところが現在は、二酸化炭素を使うのだそうです。まず、ビニールハウスいっぱいになるくらいクローンをつくっておき、花が咲く頃に、炭酸ガスを入れて、通常約0.03%の二酸化炭素濃度を5%くらいに高めるんです。ここにミツバチを放す。ミツバチの体液にはヘモグロビンが無いので、酸欠状態の中でも蜜を集めるために花の間を回ってくれるのです。そうすると、二酸化炭素濃度を高めたことによって、植物の生理が狂って、本来ならば自分の花粉では種が出来ないはずのものが種をつくっちゃう。そうやって親種を増やしているのだそうです。
◆「除雄」から「雄性不稔」へ
いま、一代雑種(F1)の歴史は「除雄」から「雄性不稔」に変化しています。雄性不稔とは、 男性原因の不妊症、要するに無精子症です。
例えばニンジンの正常な花は、雄しべの中に花粉が詰っている葯(やく)があって、花粉が雌しべについて種が出来ます。「雄性不稔」は葯が無いので花粉が出来ないのです。こういう異常な個体が見つかると「しめた!」とこれを使ってF1にする。要するに「雄性不稔株」を見つければ、雄しべを引っこ抜く「除雄」の手間が省けるのです。
最初に見つかったのは1925年、アメリカのカリフォルニアの農業試験場のイタリアンレッドという赤玉ネギでした。それから何年も研究を重ねて、1944年にF1として商品化されて売り出されます。この「雄性不稔」の玉ネギは、自分では花粉をつくる能力がないけれど、他の株の花粉がかかれば種をつける。出来た子供はみんな「雄性不稔」になるということが分かっています。
◆「雄性不稔」をつくり出す「戻し交配」「バッククロス」
「雄性不稔」では、日本語で「戻し交配」、英語で「バッククロス」という技術が使われます。まず、このたった1個体の赤玉ネギに黄玉ネギをかけます。そうすると、減数分裂して赤50%、黄50%の遺伝子持った子供が生まれる。この子供にまた黄玉ねぎをかける。そうすると赤が25%、黄75%の遺伝子を持った孫が生まれ、この孫にまたこれをかけると赤12.5%と黄87.5%の遺伝子を持ったひ孫が生まれる。これを5回~6回、5年~6年繰り返していくと、限りなく黄色の玉ネギだけど、母親、お祖母さん、先々代のお祖母さん譲りの「雄性不稔」の黄玉ネギが生まれる。それが基準になって品種改良がどんどん進んでいきます。株に子孫をつくれないという遺伝子を取り込みたいためだけに、こういうことを繰り返し植物の性質を変えていく。「雄性不稔」の玉ねぎは見るからに貧弱で、とれる種の量も正常な玉ネギの2分の1か、3分の1位だと思います。恐ろしいでしょう。こんなのは序の口です。
◆「雄性不稔」はミトコンドリア遺伝子の変異に関係する
では、「雄性不稔」がなぜおこるのか? 何万何億という個体の中に突然、無精子症だとか、子孫をつくれない、花粉が出ない個体がなぜ生まれるのか? これはミトコンドリアの遺伝子異常によるということが2006年の筑波大の研究で分かりました。ミトコンドリアはすべての植物、動植物の細胞に存在する、我々の進化のもとになっている貴重な存在です。この遺伝子は、母親からだけ子供に伝わります。ですから、母親の異常が子供に全部伝わっている。
◆「雄性不稔」株で増やした結果の大凶作
さて、この「雄性不稔」でどういうことが起こるかというと、アメリカでたった1株のトウモロコシから「雄性不稔」見つかったのが延々と無限に増やされて、ある時アメリカ全土のF1のトウモロコシはみんな「雄性不稔」になりました。
ところが、1960年、「ごま葉枯れ病」という病気が大発生します。そうしましたら、この「ごま葉枯れ病」に対する抵抗性を、異常を起こしたたった1株のお祖母さんのお祖母さんのお祖母さんが持っていなかった。そのために「ごま葉枯れ病」で大凶作になっちゃった。たった1株から増やされたためにそうなったわけです。
種というのは、「一粒万倍」と言うでしょう? お米もそうですし菜っ葉もそうですが、1粒の種がだいたい翌年には1万粒に増える。要するに種の生命力というのはそれだけあって、そうやって広まってきたものなのに、たった1株見つかった異常な子孫のつくれないかたわを、「これは都合がいい」と、種苗会社がどんどん増やしてこういう事態を引き起こしたわけです。
■波及するF1
◆拡大しつつある「雄性不稔」市場
種会社のカタログを見てみましょう。いま、ある会社の春の大根のカタログに載っているのは全部「雄性不稔」です。大手の2社のキャベツのカタログにはEXとSPという記号がついた品種が並列されています。SPというのはスペシャル、EXはエクストラでしょうね。これが「雄性不稔」の種です。
要するに、新しく出来た種はまだそこまで量がない。しかし、やがてこのエクストラであり、スペシャルである「雄性不稔」が、どんどん大量にとれるといつの間にかもうSPやEXは消えて「雄性不稔」ばかりのキャベツを食べるようになると思います。
しかし、彼らは、「雄性不稔」なんてどうせ言ったって分からないだろうから表示しない。カタログに書いてあるのは、「より揃いがよくなりました」ということです。「揃いをよくした」というひと言が、どれだけ農家には魅力的な言葉なのかということです。
今までのことはすべての種苗会社に行って「本当?」と聞いても「ウソ」とは言えない事実です。
◆ミツバチがなぜいなくなったか?
ここからは私の仮説になります。2007年にアメリカの40%のミツバチが突然巣箱からいなくなりました。後に残された女王バチの幼虫やオスバチの幼虫はそのまま死ぬしかない。日本では「蜂群崩壊症候群」、海外ではCCD(Colony Collapse Disorder)と言われています。
F1の畑では、ミツバチが花粉の出る株から花粉を持って、花粉の出ない株へ移って種をつけます。しかし彼らは、「雄性不稔」の花粉をつけるために働いているのではない。あくまでもこの蜜を集めて子孫をつくるために働いている。結果ミツバチは花粉の出ない花の蜜を集めて女王バチやオスバチを育てていることになります。
6月の日本農業新聞に「卵を産まない女王が続々」と見出しがありました。その瞬間に私は「もしかしたら・・・」と思いました。要するに、女王バチが卵を産まないのではなく、オスバチが不妊症になっているのです。
1944年から花粉をつけられないミトコンドリア異常の蜜を集めてきた結果、ミツバチという種にもそれが蓄積されて、精子をつくる能力がどんどん減ってきた。そして自分たちが一所懸命、次の子孫をつくるために巣箱の中で育ててきたオスバチに受精する能力が無いと絶望したメスのミツバチたちは、巣を見捨てていなくなっているのではないか。
ただ、世界中でこんなこと言っている人は誰ひとり他にいません。しかし、そんなことがあってもおかしくない時代です。そういう危険性だけ知っておいて頂きたいと思います。
去年1月にNHKスペシャルで放送した『女と男』というテレビ番組では、男性の精子が世界中で減少していると報じていました。もしかしてこれもミツバチと同じように食べるものからおこっているのかもしれません。
皆さん、明日から野菜を見る目が変わると思いますが、他にも、種の品種改良に放射線が使われているとか、遺伝子組み換えのことなど、問題はいろいろあります。種苗会社は遺伝子組み換え産業に買収される時代です。ぜひ畑がある人は昔ながらの野菜を蒔いて、健康な野菜を食べてくだい
■ディスカッション
<竹村>
ありがとうございました。「雄性不稔」は思っていた以上に広がっている現実を突き付けられました。単に多様性が減っている、自分の種がとれなくなっているという以上のリスクが私たちの文明の根底にあることを今日は教えていただいたと思います。
自給率1%以下の東京で、都市農業と言ってもピンとこないかもしれませんが、FAO(国際連合食糧農業機関)の発表では、世界で7億人、地球人口70億としても、1割の人は既に都市農業で自活している。
逆に工業化した農業という論理ではどんどんF1種が広がっていかざるを得ない。しかも「雄性不稔」どころか、これから先、GMO遺伝子組み換えへどんどんいこうとしている。生活というのは「生命を活性化する」と書くわけですが、私たちも半分生産者にもなりながら、自分たちの野菜を育てていく。そういう活動が安全保障の部分になっていくのだろうと思うのです。
そのあたり、野口種苗には、多くの生活者のファンがいらして、そういうネットワークをお持ちだと思うので、いろいろな情報も寄せられているのではないでしょうか?
<野口>
いま、インターネットのオンラインショップで1万2000人を超える顧客リストが出来ています。お客さんの層が二つに分かれていて、60歳以降、要するに定年になって自分で畑を始めて、「昔食べた野菜が忘れられない、あれをもう一度食べたい!」という思いでつくられている人と、30代で子供が出来て、とにかく家族の健康のために自分でつくった野菜を食べさせたいという、この二つの両極がありますね。
また、私の講演会を通じて知った人たちがまた講演会を主催してくれることが非常に多いんです。そんな感じで広がっているようではあります。
<竹村>
一方で、この方向性は、農業にとって果たして持続可能なのか? 毎年どんどん種や肥料を買わなきゃならない。世界の農家を見ていると、種代や、肥料代でほとんど破産寸前で、農業そのものが世界中で壊滅しているような感じがします。
<野口>
実際に経費が多く掛かり過ぎてみんな泣いていますよね。だいたい農水省が管理するために、大市場に出荷されたものの箱の数を数えて「大根何トン」、そういう計算をしているわけです。それを奨励されていますから、箱に合わない野菜は出荷出来ない。しかし、農家の人は、自分がつくった野菜で食べていくことは出来ていますからね。
自然栽培の農家はいいこと言いましたね。「私は箱に合わせた野菜はつくっていません。口に合わせた野菜をつくっています」。そういう人がガンとしていますので、この輪が広がっていくことを願っています。

■質疑応答
<質問者:A>
規格固定種や規格外品を大量に流通させるためのアイデア、もしくはそういう流通をさせるべきかどうかという是非についてご意見をお聞かせください。
<野口>
たぶん情報発信力ではないかと思います。Oisix(おいしっくす)"では、規格外のものを集めて、F1だろうと何だろうと「商品にならないもの」を売り物にして、すべての収益の中で一番になっています。当たり前です。仕入れ値が安くて高く売れるのですから。大地さんや、らでぃっしゅぼーやさんには、固定種でそういう発信力のある商品をつくっていただきたいと思います。
<竹村>
いま、地産地消という言葉だけは広がってきていますが、やはり選択肢が可視化されてないということがネックになっていると思います。私もささやかながら、いまこの地域ではこれが旬になっている、こういう固有種がある、こういう選択肢があるということを、ライブマップで可視化する取り組みをしています。その先駆けを今年の春から大地さんと組んで"田んぼスケープ"という形で、日本列島の田植え前線の北上を、農家からの携帯の報告を日本地図上に可視化してやっていこうとしています。私も情報環境デザインの問題であると思っていますので、実際に実例をつくりながら大地さんと一緒に考えて行きたいと思います。
<質問者:B>
いまの仮説を聞いて、恐らく花も同じ状況なのかなと思いました。都市でミツバチを成育することも研究しているのですが、園芸種として配られている花鉢なども、もし不稔種であるとすると、これは相当深い問題だなというように認識しました。
<野口>
花の「雄性不稔」はものすごく進んでいます。最近のひまわりの品種はみんな「雄性不稔」です。売り物は衣服を汚さないように花粉が出ないようにする。また、花粉症の人のために「雄性不稔」のスギを東京を取り囲んで増やそうとしていますよね。すべての植物で「雄性不稔」を無限に増やす努力を一所懸命やっている。そんな時代です。
<質問者:C>
アメリカの酪農家の人と話した時に、畜産の方でも人工授精がほとんどになってしまったと。同じ様な事が行われているのでしょうか?
<野口>
動物の場合には、男性不妊症ならば子孫をつくれませんので、「雄性不稔」ではないのですが、ニワトリもウシもブタも確かに人工授精でみんなF1にしています。野菜の揃いと同様に、大量生産、大量屠殺して大量に部材をとっていくためには遺伝子がバラバラでない方がいい。こうなると工業生産です。生き物ではなく完全に食材になっている。そういう世界がどんどん生物をF1化しているのが現実です。
<竹村>
食料生産というと、ほとんどがアメリカの一部の穀倉地帯、あるいは生産地に偏ってきています。そうすると世界の食料生産量の中の不稔のパーセンテージは出しやすいような環境だと思うのですが?
<野口>
そろそろ出しやすくなっていると思いますね。日本国内では、沖縄で発見された日本米の「雄性不稔」株にインディカ米をかけ合わせて、三井アグロという会社が"みつひかり2003"と"みつひかり2005"の、2品種開発して売っているだけで、まだそれほど大した量ではないのですが、中国ではどんどん増えています。ですからやがてはパーセンテージにのってくるのではないかと思います。
<竹村>
「雄性不稔」の表示を義務付けて、消費者の方が「雄性不稔」を選ばないようにしていくと、バランスは戻っていく可能性はあるんでしょうか?
<野口>
理解が進めばありますが、今それを表示しても、何のことだか分からないので、不安をあおるだけだというのでやらないでしょうね。一番問題なのは、種苗法で決められている表示義務の中に品種名はあるのですが、交配種か固定種なのかという表示義務がないんですよ。
一番頭にきているのは、大和野菜の"ひもとうがらし"を売ってみたわけです。ところが今年入ってきた種が、「○○交配ひもとうがらし」と書いてある。でも中身は固定種なんです。「営業の都合でしょうね」ということでした。別の種屋から届いた種にも「△△交配相模半白胡瓜」と書いてありました。何でもそうやって交配にしちゃう。固定種を交配種にした方が高く売れるし、交配種と書いてあれば絶対に農家は種をとらない。「このウソつき種屋!」。どうしようもないです。
<質問者:D>
丸の内に24万人就業者がいる中で、「大人の食育」ということで、生産地にリスペクトした食べ方をしようというプログラムを始めたばかりです。都市で固定種をきちんと食べるような場をつくるには、どういったところから取り組んでいくのがいいのか、ヒントがあれば、いただければと思います。
<野口>
固定種が入っているものを売り物にしているのは、「大地を守る会」さんの"とくたろうさん"シリーズと、「らでぃっしゅぼーや」の"いと愛(め)づらし百選"というシリーズです。また、自然農法の「ナチュラルハーモニー」も自家採種したものを勧めています。そういう野菜が少しでも多く売れれば生産者も増えますし、それしかないのではないかと思います。
<竹村>
都市24万人のインテリジェンスの高い就業者を一歩進めて、家族まで入れると100万人。やはりただ食べるだけの消費者である段階を超えて少しでもつくる。住宅業界も、家庭菜園付きの住宅が人気です。そういうところでやはり自分で種をとり、多様性のある固有種を育てる。野口種苗と住宅メーカーがタイアップして、どんどんこれからの都市をつくる。そういう時代にならなきゃおかしいと思っています。そういう大きなグランドデザインをする段階にきている。丸の内もどんどん先鞭をつけて、ビル毎に植えてある品種が違う、そういう丸の内にしようではありませんか。
最後に、野口さんが『いのちの種を未来に』というご本の中で、手塚さんの『火の鳥』にこと寄せて語っていらっしゃるのですが、やはり『火の鳥』のようにあらゆる生命が光り輝く地球になることは、野口さんのお仕事全体のコンセプトだと思いますし、私たちもそれを願っています。
ただ、最近の地球環境議論は、CO2削減論ばかりに偏り過ぎです。それも大事ですが、CO2対策さえすれば地球は大丈夫であるかのような幻想を与えていたところがある。もっと重要なテーマがたくさんあるということを、2010年の開始にあたって改めてご認識いただければと思います。どうもありがとうございました。


















