丸の内地球環境倶楽部

第27回地球大学アドバンス  生物多様性シリーズ:2 「生命資源と生物多様性条約」~COP10にむけて


日時:
2010年2月15日 (月) 18:30~21:00 ※終了しました

ゲスト:
長島孝行氏(東京農業大学教授)


モデレーター:
竹村真一氏(Earth Literacy Program 代表・エコッツェリア・コンテンツプロデューサー)

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モデレータよりコメント

近年、その紫外線遮断機能や抗菌作用であらためて注目されるシルク(絹)。考えてみればそれも当然で、生物がその体を守る防護システムとして開発してきた数々のノウハウは、今後人類がそこから多くを学ぶべき未使用の「地球のソフトウエア」といえます。その効能は特に「野蚕」といわれる原種で強く、世界の多様な野生シルクの生物資源としての価値に眼が向けられ始めています。

ところが、こうした生物資源の価値が高まる反面で、それらがいま大きな危機にさらされています。生命のソフトウエアの宝庫である熱帯林などが過剰開発で失われるという物理的な損失と、そうした生物資源の知的所有権をめぐる争いで、人類の公共財であるはずの生物資源の利用が制約されるという人為的な損失です。

1992年の地球サミットで締約された「生物多様性条約」は、こうした地球の多様な生物資源の保全とともに、その利用と利益の公正な分配(特に多くの資源国が属する「南」とその知財としての利用を技術的に推進する「北」の国々との)を促進しようというものですが、アメリカの批准拒否などで実効力が発揮しきれない状況です。

今回の「地球大学」では、生物多様性シリーズ第二弾として、シルクの効能をはじめとした生物資源研究の第一人者である東京農大の長島教授に、いまなぜ「生物多様性」なのか?また「生物多様性条約」の人類史的意義をめぐって十全に語っていただきます。


トピックス

● いまなぜ「生物多様性」か?
● 生物多様性条約の真意とは?
● 種の存続と人間の生産活動の持続可能性を求めて
● 生物多様性からみた持続可能な天然資源としての染料・薬用植物と天然繊維(シルクなどの具体例を通して)
● 未来に生きる私たちがやらなければいけない事

モデレータープロフィール

竹村真一(たけむら・しんいち)竹村真一(たけむら・しんいち) Earth Literacy Program 代表 エコッツェリア・コンテンツプロデューサー

京都造形芸術大学教授。Earth Literacy Program代表。東京大学大学院文化人類学博士課程修了。地球時代の人間学を考究しつつ、ITを活用した独自な地球環境問題への取組みを進める。

Sensorium(97年アルス・エレクトロ二カ・グランプリ受賞)、デジタル地球儀「触れる地球」(05年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」「aqua scape」など、さまざまなプロジェクトを推進。環境セミナー「地球大学」主宰。07年「water」展ではコンセプト・スーパーバイザーとして企画制作に携わる。08年7月の北海道・洞爺湖サミットでは、 国際メディアセンター(IMC)内の環境ショーケースにおける「地球茶室」の総合企画・プロデュースを担当。

新著「地球の目線」(PHP新書)など著書多数。2009年4月26日よりラジオ「GLOBAL SENSOR」がJ-WAVE 81.3にて(偶数月の第4日曜25時?)放送開始。

竹村真一プロジェクトサイト: http://www.elp.or.jp/


イベントレポート

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■モデレーター:竹村氏 イントロダクション

◆COP10 生物多様性条約に向けて

繭は生物を守るシェルターです。それは生物のサバイバルを通して生まれたソフトウエアであり、人類にとっても膨大な宝です。人類の文明は未熟すぎて、自然の価値を正当に評価出来ないため自然を破壊してきたというのが私の持論ですが、自然界に眠っているソフトウエアの価値に気付く程までに、ようやくサイエンスが成熟してきたのだと思います。

ところが、その肝心のソフトウエアの宝庫である自然界、なかんずく生物種の大多数が含まれる熱帯雨林がものすごい勢いで失われている。アマゾンひとつとっても、1日当たり70平方キロ、つまり山手線内分位が毎日消失しており、インドネシアのパームヤシのプランテーションによる破壊などを入れると、世界全体ではその4倍~5倍は失われていくだろうと言われています。

今度のCOP10、生物多様性条約は、こうした多様性の宝庫である自然をいかに保護し回復していくかという問題がひとつ。また、熱帯林やその他の自然資源から得られる経済的な利益をフェアに南北でも分かち合おうという分配の問題も大きな焦点となります。

今日は、最前線の生命のソフトウエアに毎日驚きながら、それを地球的にいい形でコンサーブしていく方法を模索されている長島先生に、その辺りのことも含めてお話いただければと思います。

≪ 長島孝行氏 東京農業大学教授 ≫

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◆絶滅危惧種ホモサピエンス

人類は、再生しない地下資源の石油、石炭を間もなく枯渇させようとしています。同時に、再生する資源である水や植物、動物などの自然も枯渇させようとしている。これは他の生き物には見られない非常に不可解な戦略です。当然、資源がなくなれば人口激減というシステムパニックが生じます。東北大学工学部の石田先生は「このままの行為を人間が続けると絶滅危惧種になるのはホモサピエンスだ」と言いました。この危険を回避する方法はないのか? 私たちが提案するのは「千年持続学」です。そのくらい長いスパンで物事や社会を考えていかなければならない。石油が使われ始めてからたかだか半世紀です。この半世紀を、「長い人類の歴史史上そういう時代もあったんだ」という程度の話にしなければならない。それが21世紀の科学の役割だと思いますし、私の研究の基本です。


◆アメリカの「バイオミメティックス」、日本の「自然に学ぶものづくり」

いま、私たちは「ネイチャー・テクノロジー研究会」を立ち上げています。アメリカでは1999年から「バイオミメティックス」が国家戦略として出てきました。一方、日本では「自然に学ぶものづくり」が言われました。よく似ているのですが、「バイオミメティックス」はナノ構造を真似てものづくりに活かそうというところにウエイトを置きますが、私たちはそれだけではなく、自然素材、分泌物、個体を活かしていくことを大事にしています。

例えば、蚊は我々の血を吸う時、自分の口の中で血液が固まってしまわないように唾液を出します。逆に我々の血管にその唾液を放出してやると血液はサラサラになる。つまり、蚊が脳梗塞を治すわけです。では危険はないのか? 人類は長い年月、蚊に吸われていますが、蚊がウイルスを媒介した事はあっても、蚊の唾液で病気になった人はいない。安全性は実証済みです。

また、2008年の洞爺湖サミットにゼロエミッションハウス出しました。玉虫の発色の原理を応用し、着色ではなく発色という概念で塗装をしたものです。つまり石炭石油由来の色素を塗っていない。なぜこういったものを推奨するかというと、ステンレスに化学塗料を塗ると、リサイクルがしにくくなります。ところがナノの発色ですと無垢なステンレスのままですから、リサイクルが容易になります。逆にステンレスの流し台にもこんな楽しい色が登場するかもしれない。いま、私たちはいま、200色を再現する事が出来ます。

他にも、何十年も眠る昆虫のシステムを応用しガンを眠らせる、モンシロチョウのガンを抑制物質、台湾カブトのMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を撃退するタンパクなど、生物は人間には真似のできないナノ構造、機能性、安全性を持っている。こうした生き物の戦略を私たちのこれからに活かす。それが私たちの目指す「インセクト・テクノロジー」です。


◆シルクダイバスティ

私たちはこの広い動物界の中で、蚕という1種に注目してシルクを考えてきました。ところが蚕を含むカイコガ科、蛾の仲間のヤママユガグループ、蝶や蛾を含むチョウ目、蜘蛛や貝など、総合的に足していくと、約30万種の生物が糸を吐いています。しかも、羽を広げると30センチもあるアタカス、ラグビーボール大の繭をつくるアナフェをはじめ、幼虫や繭の大きさも多様で、繭の色も緑や金銀銅など様々です。


◆シルクの機能性あれこれ

私たちはシルクを糸というよりタンパク質と捉えました。まずカビません。つまり菌を増やさない。しかし殺さない。これを「静菌性」といいます。アミノ酸に分解せず、シルクタンパクのままで餅にまぶすと、通常の切り餅よりも3日ぐらい長く持ちます。また、手術用の糸にシルクが使われていたのはご存知だと思いますが、アレルギーが起きにくい。傷にシルクを塗るとものすごく早く傷が治ります。つまり生体親和性が高い。紫外線もカットします。油を吸着します。味も臭いもありません。食品に混ぜてあげると非ニュートン流体現象が起きてきて、柔らかく混ぜやすくなる。保湿性もあるので、ケーキを5時間ぐらい置いてもパサパサしません。

さらに、ラット実験では、シルク摂取による中性脂肪の上昇抑制および低下、コレステロールの低下作用も見られました。フィブロインというタンパクが一番効果的でした。血糖値とHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:Hemoglobin A1c)の両方に効く薬も出始めてきました。桑にも世界で唯一血糖値を下げるDNJ(デオキシリノジリマイシン)が含まれています。しかもCO2を吸収する世界三大植物の中に桑は入ります。


◆シルク活用法~製品として

我々はシルクの液状化、再結晶、ゲル化、固形化、凍結化、糸を短くする、糸を粉にするなど形状変化に成功し、それを活かして様々なデザインをしています。
例えば、シルクタンパクと水だけの美容液をつくりました。その製品はいま、「エシカルコスメ」と言われています。

インドのサールシルクの遮蔽率を利用して日傘をつくりました。ものすごく薄い生地です。何も加工していませんが、UVAを96.6%、UVBは98%もカットします。
草木染めも面白くて、焙煎の組み合わせで99%もの紫外線遮蔽が出来る。さらに草木染めには防虫効果があります。特にシルクはカツオブシムシが嫌うので、草木染めと組み合わせると様々に活用できます。

また、シルクは接着剤にもなります。トビケラという川虫は水中で石をくっつけますが、その成分は絹です。葉っぱ、石、肉、プラスチック、ガラス、テフロン、全部くっつきました。とすれば、手術中に使えませんか? というアイデアが浮かぶのです。

さらに、シルクはリサイクルが出来ます。昭和初期の着物をハンガーにしました。ゴルフのピンをつくっても生分解性ですから、そのまま自然の養分となり、やがてまた植物が育ち、それを食べた虫がまた資源をつくるという生態系循環型リサイクルシステムを可能にします。


◆共生系のデザインとしての「配分」

愛知万博の『中部千年共生村』というパビリオンの四隅に金色に光っているのはインドネシアのクリキュラの繭です。この金色の繭は糸にすると黄色になってしまいます。そこで糸にするという感覚をやめて金色のプレートにしました。畳2畳位のものを何枚もパビリオンに貼りつけています。

今までクリキュラはアボカドの木を食い荒らす害虫でした。私は現地の人に言いました。「クリキュラが人間と大きく違うのは自滅させないことだ」と。つまり、アボカドの木を全部食い荒らすことは絶対にしない。適度に食べて違うところへ移る。クリキュラは現在益虫で、いろいろな資源になります。しかも9年の特許です。もちろんアボカドの実もとれます。もっと言えば、人と植物と動物、そして昆虫が、みんないい形で共生出来るサイクルになってきた。
この金色のもとになる色素はルテインでした。ルテインとは、白内障や加齢黄斑変症の薬です。今までそれを捨てていたのです。

「なぜ先生はクリキュラを日本に持ってきて培養して儲けようとしなかったのか?」とよく言われます。しかし、それでは20世紀の繰り返しです。インドネシアにしかクリキュラはいません。それならばインドネシアの産業とすべきです。それを支援するのが科学技術であると私は思っています。生物多様性の「配分」という問題はまさにここです。

では、私たちは何をすればいいのか? クリキュラの製品を買います。そうするとそのお金の一部が植樹支援に回っていきます。それによって気候変動や大洪水が少なくなる。いわゆる一石三鳥、四鳥を生む。そういう形に生物多様性条約がなっていけばいいと思っています。

難しいのは、西洋の場合、経済の中に環境、農業、工業を入れています。つまり自然より神といったニュアンスがある。日本は地球環境の中に経済を入れています。神=ほぼ自然のような感覚です。ですから、自然と言っても西洋と私たちでは随分感覚が違う。文化の違いというのか、人類史というのか、ここの部分をどう解釈するのか? 非常に難しい部分だと思っています。


◆平和とガバナンス

人間は、工業、農業、医療、文明、文化、心・・・と細分化したがります。しかし、自然はシステムである、地球は生き物であるということをもう一度再構築しなければならない。科学とは、その持続性を手助けするひとつの手段にしか過ぎない。そのことにもっと謙虚になるべきだと思います。
もうひとつは、このまま人工産物的社会を続けていくのか? それとも自然との共生を求める社会をつくっていくのか? そのどちらを選ぶのだ? ということなのです。実質上、AかBかは非常に選択しにくい。なぜなら、私たちが目指すイメージがまだつくれていなからです。ですから出発しようにも動けない。

私個人としては、戦争のない「豊かで平和な社会」の持続性を構築する為には、「サステナビリティのディべロップメント」だと思います。つまり成長の方向性を変えていく。それは「成熟した国家への移行」でもいいかもしれない。もっと日本的に言うのであれば「懐かしい未来」とでも言いましょうか。そういう言葉で私は自著を結びました。

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■ディスカッション

◆21世紀の工学~自然界をつなぐ人間の「工」

<竹村>
先ほど、アメリカのバイオミメティックスとの違いを話されていました。また、農学、工学と、分けたがるとおっしゃいました。実は日本語の「工」が工業を意味するようになったのは最近で、むしろ工芸や工(たくみ)的なニュアンスがあったのですね。「工」という字そのものが、横棒の天と地を結ぶ人の営みという意味で出来ている。つまり元々、我々のニュアンスの中に於ける工業は、人工物をゼロからつくりだすという19世紀のドイツから始まった化学(ばけがく)の方向よりも、むしろ自然界にあるものを人間がもう少し上手く繋げればもっと自然のポテンシャルが上がるというものだった。それが21世紀の工学なのではないかと思いました。

<長島>
おっしゃる通りです。例えば、この靴下はサクシルクというシルクでできています。2日間でも履くことができます。というのも、このシルクには穴がたくさんあるため、臭いもあまりつきませんし、菌もあまり発生させないのです。実はNASAが試験をしてトップ通過しました。その時、「お前たちは一体どのようにしてこれをつくったんだ?」と聞かれました。遺伝子を改編したと思ったのでしょうね。しかし、「私たちは逆に何もしないんだ」と。つまり生き物の個性、その特徴をただ利用しただけなのです。彼らにはこういう発想は無かった。


◆生物多様性における政治とガバナンス

<竹村>
もうひとつ、長島先生は、現地から要素だけを日本に持ってきて工業化するのではなく、現地の生態系やそれを使う人々の文化やライフスタイルにまで含めて保全していこうという発想ですね。これはCOP10に参加する生物多様性が大事だと思っている人達の中でもまだマイノリティではないですか?

<長島>
そうだと思います。けれども、そこがすごく大事で、配分の部分をきちんと具体化する必要がある。やはり文化の違いが大きいですよね。例えば日本の「里山イニシアチブ」をどう表現すれば彼らの理解が進むのか? 非常に難しい部分があると思います。実は、生物層、種類数が最も豊富なのは、人間がほどほどに手を加えた里山のような場所なんですよね。

<竹村>
特に日本は、水田と里山によって多様性が増進してきた典型です。そういう日本的なOSをインドネシアやブラジルに広げることが出来るといいと思うのですが、いまは結局、ブラジルやインドネシアの資源をアメリカが研究し、その知的資源を経済的に利用し、ある意味では全世界がアメリカの工場になろうとしている。これはCO2削減などの問題以上に非常に大きな問題だと思うのですね。

<長島>
まったくその通りだと思います。この生物多様性条約がいい形で進んでいけば、結果的には資源の確保になるわけです。資源が少ない日本も、もっと積極的に資源の確保をしなければならないと思いますが、その形が進めば私は持続性というものが見えてくると思います。


■共生系をシステムでデザインする

<竹村>
同時にそうした視点が社会的に共有されていけば、田んぼや里山の農業生態系はこれだけの資源ネットワークを担保しているのだから、経済価値で計ったとしても膨大なものがあるよね、と評価関数が変わってくるのではないかと思うのですが。

<長島>
おっしゃる通りです。田んぼの生き物をごはん1杯で割ってみるとミジンコ5093匹、オタマジャクシなら35匹いるそうです。それぐらい私たちは生き物の恵みを受けている。2009年3月現在の調査では、田んぼに関わる生き物は、昆虫、蜘蛛、ダニ、両生類、爬虫類、魚類、植物、単子葉植物、シダ・・・何と6147種もいるんです。

<竹村>
人と虫と樹木、あるいは植物の共生系をどうデザインしていくかは、いままであまりサイエンティストが言わなかったことですが、シルクの草木染めもそうですよね? 植物と昆虫が関わって人間の住環境をデザインしている。先生のような発想ですと、システム全体に価値がある。もうこれは、「懐かしい未来」というだけでは済まない、ものすごく先進的なものを感じます。

<長島>
これまでは、そういったシステムを科学が活かさなかったのですね。やはりシステムであるということをもう一度私たちは認識しなければならないし、アウトプットしようと常に考えています。昨年末、COP10に向けて、国連大学で「Silk Diversity(シルクダイバスティ)」という展示を一ヶ月間したのもそんな気持ちからです。

<竹村>
蚕が自分でつくり出した糸で服をつくって繭になる。こんなすごいことを人間は到底真似出来ないのですが、そういう自然界のものを人間もいただいて身にまとう。いわゆる装いや化粧を意味する「コスメティックス」という言葉は「コスモス」からきています。つまり「宇宙を身にまとう」。そうやって人間の文化は、天地を結んだ「工」として自然にトリビュートしながら、自然のエッセンスを身にまとうというノウハウを開発してきた。それがどれだけ素晴らしい共生系のデザインであるのかという評価関数をいま、このサイエンスの最前線でつくりつつあるのかなと思います。「ここで絶滅するわけにはいかないな人間は!」というくらい楽しい未来になってきましたね。


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■質疑応答

●シルクで家が建つ?!

<質問者:A>
シルクや自然素材のデザインを通して人間のライフスタイルはどのような方向性に向かっていくのか、具体的にどのようにお考えでしょうか?

<長島>
例えば、ウスバカゲロウの幼虫は土とシルクを上手く使って家をつくります。それを真似て、挾土秀平(はざとしゅうへい)さんと土とシルクを使って快適な家をつくってみようじゃないかと話しています。また、虫のサイズと繭のサイズの関係はどうなっているのか? そこから実は最終的な人間の生活の空間みたいなものに応用出来るのではないかと考えています。

■持続可能性と経済活動の現状

<質問者:B>
持続可能性をお金やビジネスにしていくというのもひとつの形かと思うのですが、先生の今までのご研究の中でどうやったらお金になって、いまの経済システムに組み込まれる事があり得るかなど、面白いお話を頂ければと思います。

<長島>
先ほどのクリキュラの金色の繭の話ですが、糸にすると黄色になってしまう。けれどもあの色素をクリキュラによく似た糸に載せてあげれば金色の糸が出来るのです。それでいま岩手県を支援していまして、これはかなり経済効果もあると思います。

<竹村>
もう少しシビアな話になりますと、長島先生のなさっている方向とは逆に、例えばインドネシアからその要素のいいところだけをとってきて、それを特許化して、極端な場合にはインドネシアがその資源を利用できなくなるようなリスクと戦っていくフェイズも出てくると思うのですが、クリキュラやこういうシルクの分野は、アメリカはまだ狙っていないのですか?

<長島>
基本的にアメリカは綿で国家を築いた国です。逆に日本はシルクで国家や経済を築いたと言っても過言ではないと思うのですね。そういう部分でアタックしにくいということがあるかもしれないですね。

<竹村>
中国やインドは、こういうナノレベルの生物資源や、生物のソフトウエアを産業化していこうという発想はまだないのでしょうか?
 
<長島>
ナノテクがまだそれほどそういった国々普及していないというのがひとつあると思います。工学部ではナノがごく普通になってきましたが、私たちのような生物系の人間でナノを研究しているのは実はものすごく少ないのです。もうしばらくはリーダーシップをとっていけるのではないかと思っています。


■多くの人を巻き込む科学として

<質問者:C>
自然や農業に近いところで研究をされている方たちが、より全体感を見やすい環境にいらっしゃるという印象を受けました。現時点で全体的なことが学べるような学部などはあるのでしょうか?

<長島>
「千年持続学」という言葉を出しましたが、そのメンバーは農学だけではなく、地球物理学者、水学者などみんな分野が違うのですね。そういう中でお互い揉まれて、たぶんそんな考え方になったのだと思います。ですから、私たちの周りの研究者がみんながそうかというと、生物学なんてシステムを見る学問なのに、みんな一方通行になっている。きちんとシステムを見ていく教育を展開していかなければならない時期に来ているとは感じていますし、少なくとも私の研究室ではそういう風にやっているのですが、なかなか他の大学でそこまで取り組んでいるのは少ないと思います。

<竹村>
ものすごく重要な問題ですね。工業化時代にはGDPの1%だと二の次にされていた農学部が遺伝子や、生物資源で脚光を浴び始めている。それはチャンスでもあるのだけれど、そこを本当にシステム論的なサイエンスに活かさないと、また農業工業学部になってしまう。かといって、こういう話が農大の中でメインストリームになるのはなかなか難しい。やはり国連大学でおやりになったようなことを、常時どこかでやっていただく。このエコッツェリアも含めて、都市の多くの人たちが目に触れるところで、田んぼの豊かさや文化の価値を全然違うレベルから再評価させてくれる、可視化させてくれる窓をデザインしていくということですね。

<長島>
そういうレベルでシナプスを結んでものづくりをしていく方がきっと早いですよね。ひとつの組織やグループ、大学などの中でやるのではなくて、外側に向けていってやっていった方がきっと早いのだろうなと思います。


■日本の養蚕を守るには?

<質問者:D>
シルクという商品をもっと普及させていくことも踏まえると、生産と研究開発と消費という一連の大きなシステムが国内にある程度根付いく必要があると思うのですが、国内の養蚕産業の現状と未来みたいなところのご意見いただければと思うのですが。

<長島>
いま、養蚕が日本からなくなろうとしています。実はあと1年半で補助金がなくなります。養蚕は労働がものすごく大変なので、補助金がないとやってならない。恐らく1キロ 3万円位かかってしまう。それはいい糸をつくる、安定した糸をつくるという概念があるからです。例えば、美容液にするのならば、糸の太さが太かろうが細かろうが不均一であろうがいいのです。シルクのパウダーをつくることを前提に養蚕をしている青年もいます。そうすると1キロ30万円近くでパウダーが取引きされるのです。そのように付加価値を出して成功事例を世界に発信していく。今まで農業はコスト削減をあまり考えてこなかった。そこのところの知恵を使っていくともしかしたら開けるかもしれませんね。 

■時間稼ぎのCOP10?

<質問者:E>
付加価値をつくっていく過程での配分の問題ですが、適正な配分を実現していくための先生としてのお考え、その道筋や課題、COP10でどこまで決まるのか、どういう議論になるのかなど、ご意見お伺い出来ればと思います。

<長島>
難しい話で、「その利益を公平に配分する」には、国と国との問題も関わっています。私ならばやはり、その相手国の資源を持っている人達との合意だと思います。もちろんマックスとマキシマムは、それはある程度決めておかなきゃならないでしょうけども。
結局、洞爺湖サミットなどでも原発をいくつつくるかというビジネスで終わったわけです。今回も、結果的に後進国はここをかなり要求してくるだろうし、という話になってきますよね。生物多様性の話はよく経済の問題だと言われますが、私は政治の問題だと思います。ただ政治だけの問題にしていいのかどうか、実際の場面ではもっと全然違う動きがありますからね。

<竹村>
少なくとも、社会の浸透まで含めて、あるいは今日お話にあったようなことを我々がもっと発見していくためには、まだまだトランプカードが足りない。まだ20年30年先だろうと思います。そうすると、対処療法であっても、南の国々が森を保全することを通じて、あるいはマングローブが増えることを通じて経済的に成り立つ、両方ウィンウィンの関係が出来れば、時間稼ぎとしてのCOP10は非常に意味があるだろうと私は思っています。本当の議論はたぶん10年後位かな? という感じがします。

<長島>
時間稼ぎというのはいいですね。やはりあれだけの国が集まると現状に差があり過ぎるのですね。この間のCOP15にしても、先進国のいくつかはリアリティを持って認識しているでしょうが、そうではない国はたぶん何も感じてないはずです。それどころではないという国ももちろんある。そういう次元でこのCOP10も開催されると思うので、まずは認識することから始まるのではないですかね。

<竹村>
生物多様性の利益の分配について、ブラジルを中心とする南からの要求を、パパブッシュの時代に拒否しましたよね。そういう傾向はいま、少しは風向きが変わりそうな雰囲気は現場におられて若干感じられますか?

<長島>
どうでしょうね? 本当にCOP10をやってみなければ分からない。ただ私たち、COP10のちょうど1カ月前に、シルクを題材にして各国の代表を入れてCOP10のような議論をしようと思っているのです。しかしそこでも、国による差があり過ぎるなということを感じると思います。そうすると議論が全くちぐはぐになってしまうということもありますよね。

<竹村>
ただ、逆から言えば、全然揃っていない意識を揃える大チャンスであることは確かですよね。COP15に行って感じたのですが、とにかくいろいろな人が集まる。ですから会議そのものの結論は別として、意識をシンクロさせるような可視的な構造がデザイン出来れば、COP10名古屋は大変な画期的な役割を果たし得ると思います。国連の会議を触媒にして私たちが何か出来るか? そういう風に社会全体が考えないともったいないことだと思います。

<長島>
まったくそうですね。COP10を上手く使って、私たちも知恵を使っていった方がいいですね。政治の話だけになってしまうと元も子もないので、やはりこういった議論をきちっと重ねる。認識を共有するという場になればと思います。

<竹村>
気候変動、温暖化の議論以上の比較にならない位、この分野での日本の役割は大きいと思います。それを心してCOP10に向かいましょう。

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