丸の内地球環境倶楽部

第29回地球大学 "TOKYO SHIFT"へのビジョン――竹村真一基調講演

日時:
2009年4月12日 (月) 18:30~21:00 ※終了しました

地球大学モデレータ・基調講演:竹村真一氏(Earth Literacy Program 代表・エコッツェリア・コンテンツプロデューサー)

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モデレータよりコメント

地球大学アドバンス、2010年度のテーマは"TOKYO SHIFT"――。
ずばり東京と日本の未来を「地球目線」でリデザインしてみようという企みです。
いま地球の70億近い人口の半分が都市に集中し、資源制約や環境負荷の面で都市そのものが人類最大のリスクとなっています。東京も例外ではなく、地球温暖化やヒートアイランド現象、エネルギー・食糧・水のきわめて低い自給率、そして5年後には首都圏の高齢者人口が1000万人を突破するという少子高齢化問題と、従来の思考の延長では到底対処しきれない大きな「断層」がすぐ目の前に迫っています。また特に東京駅以東の東半分がゼロメートル地帯であるという東京の地形を考えれば、今後数十年の間に海面上昇や洪水のリスクが相当深刻になる可能性もあります。

20世紀的な目隠しをはずして事態をまともに見据えれば、東京は世界で最も「脆弱」な都市の一つであることは最早否定できない。その意味で、抜本的なリデザインに取り組むべき時期を迎えているといえるでしょう。

それは「江戸開幕」「明治維新」に続く、TOKYOの第三のジャンプ――。第一、第二の大転換で常にその中心となってきた「丸の内」から、50年、100年の計でTOKYOと日本の未来ビジョンを提示すべき時にきています。

数千万規模の大人口を抱えた東京首都圏の進化は、今後アジアの大都市の新たなモデルとなり、地球の希望となるでしょう。これまで地球大学で扱ってきた様々な話題やシーズを、今年度は徹底して「東京の未来」のデザイン戦略へと焦点化していきたいと思います。

モデレーター・プロフィール

竹村真一(たけむら・しんいち)竹村真一(たけむら・しんいち) Earth Literacy Program 代表 エコッツェリア・コンテンツプロデューサー

京都造形芸術大学教授。Earth Literacy Program代表。東京大学大学院文化人類学博士課程修了。地球時代の人間学を考究しつつ、ITを活用した独自な地球環境問題への取組みを進める。

Sensorium(97年アルス・エレクトロ二カ・グランプリ受賞)、デジタル地球儀「触れる地球」(05年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」「aqua scape」など、さまざまなプロジェクトを推進。環境セミナー「地球大学」主宰。07年「water」展ではコンセプト・スーパーバイザーとして企画制作に携わる。08年7月の北海道・洞爺湖サミットでは、 国際メディアセンター(IMC)内の環境ショーケースにおける「地球茶室」の総合企画・プロデュースを担当。

新著「地球の目線」(PHP新書)など著書多数。2009年4月26日よりラジオ「GLOBAL SENSOR」がJ-WAVE 81.3にて(偶数月の第4日曜25時~)放送開始。

竹村真一プロジェクトサイト: http://www.elp.or.jp/


イベントレポート

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≪ 地球大学モデレータ 竹村真一氏 ≫

■はじめに

◆東京を考えることが地球を考えることである。

皆さん、東京という街は好きですか? 今年度は東京に焦点を合わせて、東京の未来、東京をどうリ・デザインしていくかという問題を考えてみたいと思います。
というのは、地球環境問題の本質は都市問題です。つまり、地球環境問題が集約し最もリスクの高い形で現れる現場が都市であり、同時に地球環境問題を生みだしている大きな環境負荷の源が都市でもある。

江戸開府以来400年、東京になってから150年、東京のサステナビリティが危うくなっている。ブタペストクラブ[*1]を主宰するアーヴィン・ラズロ博士は、2012年までの3年間に大きく地球のあり方を変えなければならないとして "WORLD SHIFT"を提唱しています。それにならって、本日は"TOKYO SHIFT"と銘打ちました。2020年までの10年を東京の未来への投資、イコール日本と地球の未来への投資として本気で考えてみたい。その方向性を定めるのはこの3年間だろうと思います。

いま、70億を突破した地球人口の半分が都市に暮らしています。都市人口は1日に約18万人~20万人規模で増え、毎週100万都市を1個建設しなければならないレベルで都市化が進んでいる。そういうメガシティは、当然、東京が経験しているような問題をどんどん後から経験していくことになります。それに対するひとつの先回りしたソリューションを提示していくことが、地球のための東京リ・デザインになり得る。今日はその作業の最初の問題共有を皆さんと一緒にしてみたいと思います。

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■首都東京が抱えるリスク

◆地勢が持つ潜在的リスク

東京のもともとの地勢は、武蔵野台地の「陸の東京」と、6000年前の縄文海進の頃は海の底であり、400年前の江戸開府時もしばしば洪水に見舞われる低湿地帯であった東京駅以東の「海の東京」と、西と東が対照的な地形で成り立っています。これから海面上昇や水没リスクが高まっていった時に、この東京の地勢は潜在的なリスクを抱えていることになります。

実際、"江戸"という文字通りの河口[*2]に流れていた利根川[*3]――"板東太郎"と呼ばれるこの暴れ川は、今は銚子に流れていますが、もともとは東京湾に流れていました。それを、江戸開府間もない1603年、家康が付けかえ工事をし、治水、利水、灌漑をし、新田開発をし、舟運も成立させた。お陰で、その後100年で生産高が2倍になり、人口も急増するという大繁栄期を迎えていくわけです。そのくらい関東平野の開拓は日本経済史において重要な仕事となった。

しかし、暴れ川の河口(江戸)であったという立地条件、水害に対する潜在的な脆弱性は何も変わっていない。案の定、60年ほど前のカスリーン台風では大工事の跡が決壊、元の利根川の流れが蘇り、まさに縄文海進のごとく大洪水となった。国土交通省中央防災会議では、もしカスリーン台風級の台風にいま襲われれば、34兆円以上の被害が出るだろうと発表しています。少なくとも日本における現在のインフラで確保出来る治水安全度は、20世紀の前半に想定された治水安全度の3分の1くらいまで下がっています。


◆都市災害に対するリテラシーを育てる

海面上昇やツバルの浸水などは議論があって、地球一律に、平均何センチなどと語るのは非常に誤解を招くところもあるのですが、例えば、現NASAゴダード研究所の所長ジェームス・ハンセン氏[*4]は、今世紀中にも海面上昇平均5メートルもあり得ると言い、それは極端だとしても、IPCCの公式発表である59センチから最大60センチをはるかに超えた1メートル~2メートルの上昇を予想する科学者がこの2年くらいで急速に増えています。それに集中豪雨が重なると、河口部の都市では上からのプレッシャーと下からのプレッシャーの両方に挟まれて、水害のリスクがさらに高まる。

また、数百年前まで海であった都心部は、洪水や高潮、大潮[*5]、集中豪雨による冠水のリスクに加え、地下にあるメガバンクのコンピューターやサーバーなどIT化された我々の社会基盤が相当なダメージを受けるでしょう。それは東京だけではなく大阪や名古屋も同様です。また現在のような極端な雨の降り方は、逆に渇水のリスクも抱えています。10%の土地に50%の人口と4分の3の資産が集中する日本は、こういう問題に対してもっとセンシティブになる必要がある。


◆水道システムはサスティナブルなのか?

そこでもう一度考えてみたいのが東京の水道水の80%が利根川に依存しているということです。「近い水から遠い水へ」というのは、滋賀県知事で水研究者の嘉田由紀子さんの言葉ですが、それまで井戸水や近くの川などに依存していた私たちの暮らしが、東京オリンピック以降、「遠い水」、遠いダムに依存するようになった。一元管理された水道システムが持っている脆弱性は、阪神大震災で100万戸以上が断水し、復旧に3カ月もかかってしまったことからも読み取れます。

また、利根川を流れる過程で、農業用水や生活用水で何度も使われて汚染された水が下流で浄化されて東京に送られてくるわけです。水質は誇れても、高コストですし、水道事業そのものが十数兆円の借金と言われます。10年先20年先に経済的に立ち行かなくなると、私たちがとてつもなく高い水道代を払わないと水が手に入らない、そういう未来も十分想定されるわけです。結局、20世紀型の一極集中型の巨大水道システムそのものが、防災面の脆弱性に加え、水質の問題、高コストや経済的なサステナビリティの面でも多大なリスクを抱えているわけです。

何よりも問題なのは、水源が見えなくなっていることです。その結果、日本の水源林や水源地が中国資本や外国資本に知らないうちに買われているなど、新たな問題も起きています。近くに水源がないから水への関心も低くなる。
そこで、そうした水に対する意識を啓発すべく"Water展"(六本木・21_21デザインサイト:2007年)で私たちが提案したのが、蛇口をひねれば水源地の風景や鳥の声などがリアルタイムで聞こえてくる「蛇口のセンスウエア」です。そういう感性の回路によって水源地や自分を支えてくれている水の循環に対し敏感になる。そういう可視化の構造によって、「遠い水」を「近い水」に戻していく、そうした感性のデザインも大事だと思います。


◆一元的な水道(すいどう)から多元的な水道(みずみち)へ

すでに、三鷹市やいくつかの自治体、企業でも六本木ヒルズなどでは、自己水源としての水道や井戸を使ったりしています。また、村瀬誠さんが先駆的に始められた墨田区の雨水貯留システムは、集中豪雨のピークカットによる洪水対策であると同時に非常時の水を確保する渇水対策にもなっています。
基本的に東京の水消費量は年間20億トンです。東京に降る雨はそれ以上の25億トンもありますから、その何分の1かでも貯留出来れば水道への依存度を減らすことが出来る。
特に雨水利用については、もともと我々は "逆さ傘"ともいうべきソフトウエアを持っていました。その最大ものは水田です。日本の急峻な地形をファストに流れていく雨を水田がスローな水にデザインし直した。その結果、洪水を防ぎ、保水力を高め、地域の微気象を良くし、生物多様性を増やしてきた。
そういう発想を都市の中に再生すると、それぞれの家上に咲く"逆さ傘"や井戸で貯留出来る水は小さなピースですが、それがジグソーパズルで集まれば大きな水のパズルになる。こうした小規模分散型ネットワークの多元化した治水思想で、治水安全と、水の確保をしていくことが出来る。
また、もともと日本の治水思想は、ある程度氾濫を許容する発想でした。浸水の可能性を最初から考慮に入れて、例えば1階2階は駐車場やレンタルスペースにする、3階以上には導線で避難路を設ける。水塚(みずか)[*6]をつくる。こういう変動を前提とした都市デザインと両面の戦略で潜在的な水のリスクを正面から受け止めながら、水道(すいどう)への依存度を大きく低減していく、そういうグランドデザインがいま本当に必要になっていると思います。


◆石油買う為だけに税金を使うような未来でいいのか?

TOKYOは水において脆弱であるのと同様、エネルギーにおいても脆弱です。日本のエネルギー問題ではっきりと認識しなければならないのは、いま日本人は石油を買うためだけに年間25兆円も使っているという現実。このわずか10年で、石油を買うコストが年間5兆円から、今や25兆円です。消費量が増えているだけでなく、石油の値段は15倍になっている。これまでのように中国の安い人件費によってバッファリング出来たグローバル経済も限界に来つつあり、ピークオイルがすでに来ているのではないかという議論もあります。そうするといつ石油の値段が高騰するか分からない。少なくとも2020年には現在よりさらに2倍、30年には3倍になるという見通しがあります。油依存の問題は、3年か5年で大きく舵をきらないと本当に間に合わない。大変なリスクを近未来とそして次世代に課していると思います。


◆世界の自然エネルギー事情

一方で世界の状況を見てみると、世界の風力発電容量はもう既に約1億5000万キロワット。原発の総発電容量が4億キロワットですから、実質的な発電量においても10年くらいで風力発電が原発を代替しうるであろうと言われています。

また、最近の効率のいい集光型太陽光発電では、サハラの30キロ四方で世界中のエネルギー需要が賄えると言う人も出てきています。これが過大評価か過小評価か議論は分かれるにしても、自然エネルギーはすでに「代替」エネルギーでなく基幹エネルギーのひとつになりつつあることは間違いないわけです。それを受けて最近EUでは「2050年にはヨーロッパの電力を100%自然エネルギーで賄いうる」という驚くべきビジョンも出されています。

さらに、超電導ネットワークでほとんど送電ロスなしでヨーロッパに電力を送れる、ゴビ砂漠に同様のものをつくれば、中国や韓国や日本のエネルギー安全保障が担保出来るとも言われています。

他にも、パタゴニアの風力発電でつくった安価で良質な電気を水素というエネルギーの通貨にパッケージして、水素入りのガソリンに転換し、既存の石油を運ぶインフラを利用して地球規模で流通させていくことも可能になっています。


■東京が果たせる役割

◆大消費地東京だからできること

ここで「日本や地球全体をグリーン化するレバレッジ・ポイント(てこの支点)としてのTOKYO」の重要性が浮上してきます。

東京という首都圏の存在がアドバンテージとして利いてくるのは、東京は大消費地だからこそ、大きな需要を喚起することができるという点です。プル型政策と言いますが、東京が日本全体の自然エネルギー革命を推進していく触媒に成り得る。東京に風車が立たなくても、日本や世界中に風車が増え、地球経済をグリーン化する大きな牽引力に、東京はなり得るということです。また、化石燃料を井戸元でクリーン化していくCCSや水素テクノロジーを広げていきながら、地球的なクリーンエネルギーの「水素サプライチェーン」のモデルをエネルギー大消費地としての東京がつくれば、化石燃料に依存し続けていく中国やインドをソフトランディングしていく大きな地球へのプレゼントにも成り得る。

あるいは物流新幹線も、東京が大きな需要地だからこそ投資効果がある。これも、現在の物流のトラック輸送への全面依存をモダールシフトしていった時に、石油やCO2削減に与える影響はものすごく大きいでしょう。
また、鹿島灘沖の洋上風力で日本の電力の95パーセントが賄えるという数字も出たそうです。公式上は約15パーセントとなっているようですが、わずか数百キロ離れたところに大消費地東京が存在することが大きな推進力になると思います。
実際、この新丸ビルでは、"生グリーン電力"ということで、電力の100パーセンを青森や北海道の風力や水力由来の電力で賄うことが始まっています。これまで現地の電力会社が買ってくれないため無駄に捨てていた電力ですが、大消費地東京だからできることでもあります。


◆東京を未来のショーケースに!

現在、自然エネルギー関係の雇用は200万人ですが、20年後には2000万人規模になるだろうと言われています。また、年間15兆円の勢いで投資が進んでいますので、間違いなく成長産業の分野でもある。日本は、オイルショックで省エネ技術を発達させたわけですが、その後のサンシャイン計画から始まった太陽電池や電気自動車、スマートグリッド、その他太陽経済を駆動させる最高の技術が世界一にも関わらず、いまどんどんシェアが低下している。しかし、日本が次世代に何で食っていくのかを考えれば、勝負すべきフィールドでもある。
新聞などでは、再生可能エネルギーにシフトすると何百円か家計の負担が増える、固定価格買取制によって電気代が上がるという話がよく出ます。しかし逆に考えれば、コーヒー1杯分の負担でエネルギーがタダの未来、石油に依存しなくて済む未来が20年後30年後に手に入る。そう考えれば、こんなに安い「未来への投資」はない。石油を争ってパレスチナ問題やイラク戦争が起こったことを考えると、あの100年前の地政学とまったく違った地政学を構築できる。そういう意味でも、世界一の大都市東京が未来のショーケースになればそれが地球の希望となる。

■地球を食べ地球を飲む

◆ひとつの穀物、ひとつの農地に依存する世界

同様の脆弱性は食においてもあります。わずか100年前の20世紀初頭は17億だったはずの人口が今や70億です。人口の急増、"緑の革命"をはじめ20世紀の食料増産のツケが来ている上に、それぞれの地域で地産地消し、国際貿易はプラスαだった生産が、過度のグローバリズムによってこの20世紀後半にアメリカやオーストラリアや中国など数少ない穀倉地帯に世界中が依存するようになった。
ところが、中国やインドの水源であるヒマラヤの氷河の水瓶が、ここ20年30年であっという間に減っている。すでに中国では小麦も大豆も生産量が減り、代わりの農地を求めてブラジルの森林を破壊し、遺伝子組換大豆の大量なプランテーションをつくったりしているわけです。アマゾンだけでも山手線内分の森林が毎日消失している計算です。つまりブラジルも20年も持たない。また、オーストラリアやアメリカの干ばつなど、世界の穀倉地帯は軒並み大きな気候変動の影響を受けている。では地球のどこで農業をするの? という地球全体のリスクがはっきりしてきているわけです。
その上、私たちはどっぷり油浸けの農業に依存していますから、石油が高騰した途端、農業の廃業が膨大に出てくる。


◆量的なリスク質的なリスク~多様性の損失

さらにもっと重要なのは、この100年で世界中で品種の多様性が失われていることです。トウモロコシのごま葉枯病など、単一の品種に依存するリスクを人類は何世紀にも渡って何度も経験してきているはずなのに歴史から学ばない。未だに収量が多いものに作付けが集中し、我々が手にする野菜の99パーセントが雄性不稔のF1種[*7]になってきている。言い換えれば、自分で生殖能力のない、非常に不自然な構造の上に我々の食生活が成り立っている。地球の食のリスクは、水問題や石油依存、世界の農地の問題など量的なリスクもありますが、こうしたもっと見えにくい質的なリスクも様々な形で広がってきています。


◆都市農業や家庭菜園の可能性

そうした時に、自給率1パーセントでグローバリズムにどっぷり浸かった東京のリスクが改めて顕在化してくるわけですが、逆に言うと、大量の食料の輸入やバーチャルウォーターの輸入によって世界の水ストレスや食のストレスを高めている日本が自給率を高め、その多様性を担保していくことができれば、それはすなわち世界の食と水のストレスを緩和することになる。日本が世界の食と水の安全保障のステークホルダーになりうる。東京が牽引者となって地球に間接的に貢献することができる。
例えば、200万都市ハバナでは、都市近郊の有機農業で野菜や米などほぼ自給することに成功しました。現在、世界の都市農業従事者は約7億人と言われていますが、そうした形で、食の安全を保障するような方向へ来ている。同時に、経済性のためF1種に依存しなければならない農家と違い、家庭菜園が結果的に種の生物多様性を担保することになるなど、実は都市農業や家庭菜園こそが砦に成り得る。


◆食のリ・デザインを東京から

私たちのチームでは、大地を守る会さんと組んで "田んぼスケープ"という投稿型ウェブサイトをはじめました。農家の人が田んぼから投稿した農の現場の情報をリアルタイムで日本地図に映し出すしくみです。加えて、言い伝えや経験資源など暗黙知を引き出し合う地図にもしていきたい。こうした集積によって、21世紀型の生命産業として農を支える正直者の生産者が都市の需要者から評価され、こういう人たちのお米や農産物を買う首都圏の生活者が増えることで日本の農や食はいい形でナビゲートされていく。そういう流れをつくっていけるだろうと思っています。
また以前、東京のど真ん中で農業生産を始めている"銀座ミツバチ"もご紹介しました。それが福島などと繋がり、東京が起爆力になって地方の農業を良くしていく。そういう好循環の構図も出来てきています。
また、よく御存じのことだと思いますが、いま、東京だけでも1日6000トン、全国で33000トンの食料が廃棄され、それを廃棄するコストだけで毎日33億円かかっている。それは世界の400万人分の食料に匹敵します。こういう問題まで含めて、地球的な視点からの食のリ・デザインがなかんずく東京で求められている

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■その他の都市問題

◆工業化社会から人間らしい高齢化社会へ

東京は5年後に高齢者人口が1000万人を突破します。最近の交通事故、死亡事故の半分は高齢者が生み出しているなど、いろいろな問題がネガティブに語られますが、人間という種に与えられた生物学的プレゼントは老い期と子供期があることです。他の生物は生まれてすぐに生殖能力を持って、生殖能力が無くなればパタっと死んでしまう。
つまり、生物学的に与えられた子供期と老い期をいい形でデザイン出来ない社会は本当に人間らしい社会ではない。しかも脱工業化社会を迎えつつある現在、むしろ高齢者の知材や経験資源はポスト工業社会の大きなリソースになる。これは青年男子中心にならざるを得ない工業社会ではありえなかったことであり、脱工業化社会と高齢化社会を同時に迎えたのは、ある意味で必然でもあるが、非常に幸運とも言えます。
超高齢化社会を世界のトップランナーとして迎える東京がこの人類史的な最も人間らしい文明をどうデザインしていけるのか?非常にわくわくするところです。


◆クリティカルに未来へ投資

森をつくっていこうという話も地球大学では取り上げてきました。ここで強調したいのは、東京自身の緑化と同時に、東京が地方の森を元気にする鍵を握っているという点です。巨大な需要地としての吸引力で、国産間伐材を上手く循環させていくことです。それによって、潜在的に宝の山である日本の山をきちんとチューニングしていく。
また、市瀬さんという方が始めた、間伐のコストを上乗せした紙を都市の企業が積極的に使うことで間伐を促進する活動なども参考になるでしょう。東京の私たちの働き方や木を使う都市デザインが、日本中の森を元気にすることにつながる。都市と森の広域的なつながりのデザインがこれからとても重要になってきます。

ともあれ、こうして様々なリスクにいまこそ向き合う時です。資源制約や気候変動、水問題、エネルギー問題、高齢化の問題。また都市の超過密化により、インフルエンザなどのリスクも高まっています。山ほどいろいろな問題があるけれども、これほどクリティカルな未来への投資に迫られている東京の状況を考えると、東京オリンピックへの投資なんて安いものだろうと私は思います。都市化の膨大なリスクを抱えた地球に対して大きく代案を出していく。本当にこんなにわくわくすることはない。

■感覚神経都市がネットワークする文明

◆お互いを調整しあうネットワーク

私が12年ほど前に書いた『呼吸するネットワーク』という本があります。そこでインターネットのような情報ネットワークの一番の可能性は、コンピューターや情報端末のなかに完結した形であるのではなく、エネルギー需給の調整など都市の物質的なメタボリズムの進化にこそ有効に働くのではないかということを期待して書きました。たとえば電力消費において都市住民がお互いの電力需要を緩やかに調整し合うようなイメージですが、ようやく最近、スマートグリッドやスマートメーターで、お互いに電気を融通し合って需給をコントロールし合えるようなインフラが可能になりつつあります。そういう意味で私は、都市全体が感覚神経系ネットワークで成熟し文明をつくれる段階に来たなと感じています。
生命都市は、自然が豊かと言うだけではなく、自然の一器官として呼吸し、感覚神経系を備え、有機的にふるまう都市の成熟、また、地域関連系で大きな生命循環をつくっていけるようなデザイン、こうしたセンシティブな都市のインフラづくりが重要だろうと思います。


◆多細胞のグローバルセンサーが機能する社会

これも前にご紹介したことがあると思うのですが、個々の自動車のワイパーの動きをリアルタイムにセンシングしてGPSでマッピングすれば、雨の降り方をリアルタイムでモニタリング出来る。あるいは、ウエザーニュースがやっているように、ひとりひとりの携帯からの投稿がゲリラ豪雨の減災、防災予報に使われる。また、私のプロジェクトで新たに力を入れていこうと思っているのが、日比谷[*8]の由来などを携帯でピッと取れるようなユビキタスミュージアム。さらにエコッツェリアでも東京の体温や体調をリアルタイムで計り "見える化"するということを始めています。

今まで都市を暖める竈(かまど)となっていた自動車が、EVで自家発電の蓄電バッテリーにもなり、太陽経済を担う細胞として進化すると同時に、多細胞のネットワークとして都市の生命的な器官になっていく。そういう都市と交通が有機的なネットワークとして進化するという、近未来のビジョンも見えてきています。携帯も"水見の杖"のようなセンサーとして、お互いに小さな情報をジグソーパズルし合うグローバルセンサーになっていく。あるいは物や場所がその履歴を携帯という窓を通じて物語る。

これにより都市が潜在的に抱えている様々なリスクを"見える化"し、フィードフォワードで対処していくインフラになるのではないか。日本の中にこういう技術があるのであれば、こうした都市のモデルをTOKYOが世界に先駆けて実現し、世界にプレゼンテーションしていく、あるいは輸出していく、そういうことをやっていくべきです。


◆環東京湾圏構想

長い目で見れば通勤文化もこの数十年のものです。通勤しなくなる未来は無いにしても、緩やかな分散形態で東京が再構成される。そういうコンパクトシティのネットワークに東京がどうソフトランディングしていくか。『集中から分散へ』は日本列島改造論という田中角栄の名言です。皮肉ではなく、今でも古くなってない考え方がその中にあります。そんな中で丸の内がどういう役割を果たせるか。
一極集中の「通勤パラダイム」の中心(ハブ)としての丸の内から、コンパクトシティ・ネットワークのノード(結節)としての丸の内へとどう自己再編していけるか?これも避けては通れない問題でしょう。

どうも東京のバランスは西に集中してしまっています。東の千葉を含める意味でも、東京湾を含めた環東京湾圏を考えていくこと。そこをエネルギー特区にして、自然エネルギーを積極的に入れていくような実験も可能になります。陸、地上中心的な戦後の東京デザインの発想を、海から、水から考えるというアプローチがいま求められています。


◆生命の本質に学び"TOKYO SHIFT"のムーブメントを!

さて、我々の身体は毎日2000億の細胞が入れ替わり環境に応じて自分をリセットし続けています。それが生命の本質です。ですから、洪水のリスクやエネルギー、資源制約のリスクなど分かっていることに翻弄されるのではなく、それよりも早く自分を組み替えていく。そういう自己再編能力のあるものとして東京を生命都市として考えていこうではないか!

もちろん、簡単なソリューションがあるわけではありません。また、日々現場で牛歩のように進まない問題と闘っておられる皆さんにとっては、一挙に東京のグランドデザインなんてなかなか考えられないと思いますが、いずれにしても、江戸開府から明治維新の三菱村、及び戦後東京五輪を経て、それらに匹敵する何百年かに一度の首都東京の第三のジャンプです。

皆さんとともに、ここエコッツェリアから"TOKYO SHIFT"のムーブメントをつくり、1年後には何らかの形でひとつの青写真を提示していけるようなところまでもっていければと思っております。


※講演終了後には、懇親会が開催されました。

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*脚注*

*1【ブタペストクラブ】
21世紀版のローマクラブという形で、ブタペストクラブというダライラマやゴルバチョフなどをオーガナイズした賢人会議。

*2【江戸という河口】
江は川、戸は扉、口。まさに江戸は利根川の河口に成立した場所であった。つまり、江戸というのは、名前そのものが氾濫源の河口という意味にあたる。首都を置くには非常にリスキーな場所に家康はあえて首都を置いた。

*3【利根川】
利根というのは、アイヌ語にも親縁性があると言われている。縄文期の現日本人の間では、「大きな川」という言葉だった。

*4【ゴダード・ハンセン】
1988年、NASAのアメリカの公聴会で最初に温暖化を警告をした。

*5【高潮・大潮】
高潮は台風の吹き寄せ現象で高い潮が来る。大潮は、地球と月と太陽が一直線になって引力が強まって普段よりも満潮時の潮が高くなる現象。

*6【水塚(みずか)】
母屋と高台の蔵をつなぎ、もしその蔵まで浸水した場合には、船で逃げられるような洪水に備えたしくみ。

*7【F1】
F1は自分で生殖力のない植物を使った受粉でしか均質な種は大量生産出来ないという構造の中でその種を受粉させていくしくみ。

*8【日比谷】
海苔を養殖する竹のヒビ(粗朶/そだ)が植わっていたので日比谷となった。


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