
日時:2011年8月22日 (月) 18:30-21:00
ゲスト:植田 和弘氏(京都大学大学院経済学研究科教授)
モデレーター:竹村 真一氏(Earth Literacy Program 代表・エコッツェリア・コンテンツプロデューサー)
モデレータよりコメント
福島原発の事故とそれに続く電力不足は、日本経済に影を落とす大きな不安材料であると同時に、日本全体のエネルギー構造や、中東の石油と原発に過剰依存してきた従来のエネルギー政策を根本から見直す好機ともなっています。
災害にも強く地域特性を生かせる自立分散型電源への関心の高まり、省エネ市民の"ネガワット"節電所ネットワークによる柔らかな需給調整の可能性、また原発の総発電容量を超える企業の"埋蔵電源"のポテンシャルなど、これまでの体制下では見えなかった新たな選択肢が確実に私たちの視界に現出しつつあります。
また従来のエネルギー政策は、3.11以前からそもそも持続可能ではなかった。たとえば1998年時点でバレル10ドル以下だった原油価格は、たった10年で100ドルを超えるレベルに急騰。日本の化石燃料の輸入コストは、98年の5兆円から08年には23兆円にまで膨れ上がりました。
石油に依存した社会経済は、「環境的」のみならず「経済的」にもすでにサステナブルではない。原発も耐用年数や使用済み燃料の処理などを考えれば、自然災害やテロのリスクを差し引いても、到底明るい将来展望を描けるはずもない。――こうした"3.11"以前から明らかだったエネルギー構造転換の必然性が、今回の事故を契機に顕在化したのだと考えれば、これは幕末における「黒船」にも比すべき転機と考えるべきでしょう。
今回は環境経済学の第一人者として、また政府の東日本大震災「復興構想会議」検討部会委員として、エネルギー政策の根本的な見直しを提言する植田和弘氏とともに、こうした問題をじっくり論議してみたいと思います。
プロフィール
竹村真一(たけむら・しんいち)
京都造形芸術大学教授。
Earth Literacy Program 代表
エコッツェリア・コンテンツプロデューサー
東京大学大学院文化人類学博士課程修了。20代には世界約70カ国を踏破。地球時代の新たな「人間学」を提起しつつ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める。
1996年に制作したウェブ作品Sensoriumは電子アートの登竜門アルス・エレクトロ二カでグランプリを受賞。その後、「触れる地球」(2005年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」、ユビキタス携帯ナビ「どこでも博物館」(2005年国連情報社会サミット日本最優秀賞)、洞爺湖サミットIMC「地球茶室」(2008年)、六本木・21_21デザインサイト「Water」展(2007年)などをプロデュース。2006年4月から、環境セミナー「地球大学」を丸の内で主宰。J-WAVEのナビゲーターもつとめ、現在は「Jam the World」内の"Global Sensor"(月曜~金曜、毎日夜9時45分~50分放送)で地球環境への新たな視点を提示している。政府の東日本大震災「復興構想会議」検討部会委員も務める。
著書に「地球の目線」(PHP新書)、「Water」(ワールドフォトプレス)、「宇宙樹」「22世紀のグランドデザイン」(慶応大学出版会)など。
竹村真一プロジェクトサイト:http://www.elp.or.jp/
イベントレポート
竹村氏
■作られた安全神話を超えて
石油の値段は10年でほぼ10倍、化石燃料の輸入コストも2008年には23兆円に膨らんで、車も農業も繊維も全部が油漬け。そういう社会が、経済的に持続可能なのか。今回の原発事故でエネルギーの安全神話が問われましたが、災害やテロのリスクだけではなく、経済的にも安全保障はすでに揺らいでいたはずです。
自然エネルギーはコストパフォーマンスが悪いといわれ、太陽光発電のコスト50円に対して、原発は6円、7円だと比較されてきました。しかしこれも核廃棄物の再処理コスト、原発に必要不可欠な周辺設備や保険を入れると、太陽光発電のコストを超えるという試算の見直しがはじまっています。また、原子炉冷却のために日本の全河川流量の4分の1にあたる量の海水温を7℃上げて海に捨てていて、地球温暖化も促進しているのではないかと言われるようになりました。
今日はいろいろなことに蓋をしてつくられていた、こうした安全「神話」を、トータルに見直していければと考えています。

植田氏プレゼンテーション
■エネルギー問題のパラダイムシフト
3.11まで、エネルギー問題の話し合いには人が集まりませんでした。エネルギーは国策という位置付けでしたから、地方自治体にゴミ減量対策室はあってもエネルギー担当はいないのがふつうでした。戦前・戦後でパラダイム、基本的な考え方がまったく違ったように、「災後」という言葉を使われた方がいらっしゃいます。
昨年閣議決定されたエネルギー基本計画には原発増設が書かれていましたが、根本的な転換があるでしょう。「2020年までに25%、2050年までに80%削減」という目標を実行するため、地球温暖化対策基本法案には温暖化対策税、排出量取引制度、再生可能エネルギー全量買取の導入が盛り込まれていましたが、背後に原子力発電所をつくる前提があったのでしょう。
そもそもエネルギー基本計画と気候変動政策は表裏ですから整合しないといけなかったはずですが、日本の場合、エネルギー政策の立場から気候変動政策に文句がいえても、気候変動政策の立場からエネルギー政策に何もいえないことになっていました。
イギリスでは気候変動省をつくってエネルギー問題と気候変動を一緒にやっていますし、ドイツでは環境省が再生可能エネルギーも担当するなど、行政機構を改革して統合的に両方進めるのがヨーロッパの方向です。日本も変わらないといけないと思います。

■エネルギー問題から考える震災復興
震災後のパラダイム転換の一番は、生命、安全、エコロジーという基準を具体化していくことだと思います。再生可能エネルギーを東北地域で推進していくことは、震災復興構想会議の7原則にも盛り込まれています。
原発事故を受け、多くの原子力の専門家がメディアで説明しましたが、専門家じゃないとわからないことが多いのが現状でした。科学や技術の安全を具体化するには、誰の知見を基にどう決定すればいいのか。放射能汚染もどの程度のリスクがあるのか。低線量被爆についてもわかっていないことが多くあります。
そもそも自然科学とはそういうもので、「1つわかると、3つわからないことが出てくる」といいます。わからないものがある前提の下で社会的、政治的決定をしないといけない。情報だけ出ても受け止める能力がなければいけないとはいえ、情報の開示、共有、参加というパラダイム転換は明らかです。
■イノベーションとは社会の仕組みの変革
今回強く感じたのは、需要予見の電力多消費社会は、脆弱でリスクが大きいということでした。電力需要が増えるのは仕方ないと、供給を合わせたエネルギー基本計画の限界がはっきりしたと思います。
シュンペーターの提唱した「イノベーション」は「技術革新」と訳されましたが、オリジナルは技術だけでなく制度や政策を変え、システムを再設計する内容を含むものです。今、求められているのはグリーン・イノベーション、節電などの暮らし方の変化だけではなく、制度や仕組み、政策から変えることです。
■エネルギー政策からみた大震災の教訓と課題
福島第1原子力発電所事故は、東京や東北での電力不足の可能性という直接的影響のほかに、原発の安全性を問われたことによる間接的な影響も与えています。
既存政策の前提喪失による電力需給調整システムの再設計など、今後の中長期的なエネルギー政策の基準に、リスクの低さ、レジリエンス(resilience=回復力、強靭性、復元力、立ち直りの早さ)、そしてサステナブルが改めて提起されるように思います。
■東北地域の自然エネルギーの推進
環境省から出された「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によると、東北地域は風力、地熱、中小水力にかなり大きなポテンシャルがあるようです。ポテンシャルとは「一定の事業性基準を入れたときに、その基準をどのくらい超えられるか」ということですが、風力だけで、東北電力が現在供給している電力量をはるかに超える事業性があるそうです。
もうデンマークでは電力の20%は風力です。十数年前、「農民が3人寄れば発電所をつくる相談をしている」と聞いて行ってみたのですが、再生可能エネルギーを全量買い取る「フィード・イン・タリフ=FIT(Feed in Tariff)」という制度が導入されていました。
化石燃料を燃やさないため、というより"所得になるから"一気に普及したのだと思いますが、農村地域が農業以外で所得を上げることが大事だからこそ、政府が推進したのです。そうでなければ先進国で、農業だけでやっていける地域はかなり限定されます。今では風力発電はデンマークの有力な輸出産業になっていますが、その工場はもと農機具工場でした。まさしくイノベーションですね。
■環境と所得、産業活性化と雇用
もう一つ重要な点は、風力発電に必要な部品の数が1万点を超えることです。自動車の部品は3万点、電気自動車だと1万点で、裾野がある組み立て産業になる。環境効果、非農業所得に加えて、地域経済や雇用促進など経済効果もある。デンマークはみんなが参加できる社会性を意識しているのですね。
これを東北振興に生かすには、地域の人や会社、農協、金融機関を念頭に置く発想が必要です。風力発電には騒音、バードストライク、景観などの問題点もありますが、問題が起こるからやめるのではなく、技術向上とソーシャル・イノベーションを一緒に考えればいいのではないでしょうか。
ドイツの土地利用図には、発電所のマークが付いたエリアがあります。風力発電所を建ててもよいエリアなのですが、土地利用計画と自然エネルギー発電が結びついていることをあらわしていますね。
■供給側に立ったエネルギー政策ではなく
今までのエネルギー政策は供給側に偏ったものでしたが、今回、電力需要の見直しに非常に大きな社会的アクセプタンスが感じられるようになりました。東京駅も少し暗くなった。
日本人一人当たりの照明に使う電力量はヨーロッパの4割増しだそうです。明るさは熱も出すから空調も必要になり、二重の電力消費につながっていたのです。「発電に伴うリスクを大きくしてまで過剰に明るい必要はない」と思う人も増えたのではないでしょうか。
また、病院や半導体生産など、より大事な需要を優先させることも見直されました。

■個人や企業が「節電所」になれば
ロビンズの『ソフト・エネルギー・パス』に「節電所」というアイデアがあります。ペーター・ヘニッケの翻訳で『ネガワット』という本にもなっています。これは「省エネ機器の導入は、電気を生み出すことになる」という考え方で、50キロワットが30で済むなら、20生み出したことになる。
そもそも「ピーク需要」という、夏のごく何日間かの何時間だけの需要のために発電所を建設するなんて、非合理、非効率で成り立たない話です。発電するには建設に時間とコストがかかりますが、節電所は今からできますね。
この発想を電力需要そのものやワーク・ライフ・バランスに使えないか。操業スタイルを変えた工場が電気を生み出し、明るすぎたコンビニはサービス水準を落とさないまま電力消費量を減らせば、経営合理化になり損もしない。
ドイツと比較して、日本は400時間ぐらい労働時間が長いそうです。「本当の豊かさとは何か」を考えた経済学者、ジョン・スチュワート・ミルは、生活時間と労働時間の区別を提言しました。節電が必要な真夏に日本人が半分ずつ休んで、農村や漁村にセカンドハウスを持って過ごせば新しいスタイルが出てくる。そういう可能性がいろいろあります。
■公共財と共有物の違い
従来、電力エネルギーは「消費が競合しない」、つまりAさんが使ってもBさんが使えなくなることがないという意味で、経済学用語で公共財といわれてきました。しかし、むしろコモンプール資源ではないか。これは2009年にノーベル賞をもらったエリノア・オストロムの提唱する用語です。
みんなの共有物としての「総量に限界のある資源」、森林や漁場みたいなものと考えれば、次の世代までみんなが使えるような分かち合いのライフスタイルを持たないといけない。
■原発の発電コスト算出のからくり
どういう電源でやっていくかは、安全性と経済性が論点になります。
エネルギー白書には運転年数発電原価方式で算出した電源別の発電コストが書いてあり、2004年の報告書では原発のコストが一番安い。これは資本費、燃料費、運転維持費の合計を発電電力量で割った発電原価です。
しかし立命館大学の大島堅一先生の研究では、原発のコストはかなり高くなっています。各電力会社の有価証券報告書をもとに電源別に分けた実績値を分析したものですが、なぜ実績値だと原発が高くなるのか。それは法定耐用年数で計算したからです。原発の法定耐用年数は16年ですが、福島は40年使っていました。
大島先生は原発立地地域への財政支出(交付金)も、必要不可欠ならばやはり一種の発電コストだと判断していますし、揚水発電費用も算入しています。原発はベース電源ですから、需要の変化に対応しない。その調整に揚水発電を使っているのですが、これに結構コストがかかります。原発に不可欠な費用も入れると、圧倒的に割高になるわけです。
■算定基準要素を再考してみると
何年発電するかで数字は大きく変わるのですが、国際機関の資料では原発を60年使う計算にしています。原発は資本費が非常に大きいから長く使いたい。そうすると古い技術を使うし、応力腐食割れなどのリスクが起きやすくなり、安全がおろそかになりやすい。また白書では原発稼働率85%で計算していますが、日本の実績値は69%です。
2010年版の国際機関の報告書には、資本費、燃料費、運転維持費以外に1トンあたり30ドルの炭素価格を入れてありました。化石燃料による火力発電はCO2を大量に出しますが、EUでは排出取引制度EUETS(European Union Emission Trading Scheme)ができてお金を払わなければいけなくなり、環境費用がプラスされています。しかも火力発電は燃料費が圧倒的ですから、化石燃料が急騰すれば高い電源になります。
CO2が火力発電の環境費用なら、原子力の環境費用は放射性廃棄物かと思いますよね。2004年版の資源エネルギー庁の資料にはバックエンドの計算も入っていますが、使用済みウラン燃料を再処理してMOX燃料にする過程で出る高レベルの放射性廃棄物の処分費を「燃料費」にしてある。つまり実績値がない核燃料サイクルを動かす前提で費用を見積もっている。再処理工場の費用が過小評価されているだけでなく、費用がはっきりわからない事業が算入されてしまっているのです。
■自然エネルギーの特徴は「地域資源」
風力発電の燃料費はゼロですから、風力の発電原価は答えられない。どこに建てるかが大事です。自然エネルギー庁の保安院の調査によると、宗谷岬と根室はすごく風況がよく、原発よりはるかに安い発電コストで圧倒的に商業性があります。
バイオマスで費用が掛かるのは燃料を集める費用です。これは間伐材などを安く集めることができれば十分いけます。
地熱は日本ではたいへん有力なベース電源になるものですから、規制問題さえ突破できれば大きな可能性があります。
■「発電」単体での発想ではなく
従来、日本の自然エネルギー政策は補助金でしたが、建てたらおしまいの補助金より、買い取りのほうがいいと考えています。再生可能エネルギーの全量買取という制度的支えで、それが儲かるとわかれば、売り上げを伸ばすためにコストを減らす努力をします。
最初の価格設定と、技術の進歩に伴う適切な進行管理が重要で、地域エネルギーマネージメントが今後求められています。
これからは発電の段階だけでなくライフサイクル全体でコストを考えていくことが大切です。放射性廃棄物とかCO2が出るならその処理費用を発電コストに入れるべきだし、将来的に価格上昇する可能性がある資源ではないかも見極めておく。資源開発、輸送、発電、環境、地域に与える影響などを全部入れる「外部性の内部化」が必要になってきます。
このようなシフトを実現していくためには、移行プロセスを時間軸上でマネージメントする「トランジション・マネージメント」が非常に大切です。エネルギーをみんなで議論する場がたくさんできて、適切な決定ができる状況をつくること。これが震災に伴って問われたことだと思っています。
□ディスカッション
■リスクの高さは保険料に跳ね返る
竹村氏
原発の稼働年数が増えていくと、保険料は高くなりますよね。
植田氏
コンテンジェンシィ(contingency)・コスト、つまり偶発的支払い費用は資本費の15%です。原子力損害賠償法は、もともとアメリカを真似てつくった法律ではありますが、日本の場合、民間と政府の保険部分がはっきりしていない。政府が「責任を保証する」ではなく「援助する」という法律になっています。それが今回の損害賠償スキームにつながっているわけですが、民間で保険を引き受ける計算ができるのか、再保険を引き受けるところがあるのか。「リスクが大きすぎるからと民間保険が引き受けないような事業はやめるべきだ」という人もいます。
■「よい生活」のためのクリエイティブ・エコロジー
竹村氏
需要、選択、そしてレジリアンスという三つがキーワードになりますよね。先日、なでしこジャパンを表現するためにこのレジリアンスが使われていました。強靭性、逆境に追いやられても立ち直る竹のようなしなやかな強さということです。
今回、我々の生活は穴の開いたバケツで水を汲んでいたようなものだとわかってきました。日本の電力の10%、なんと原発数基分が、待機電力だけで失われるのだそうです。充電していない間にもつなぎっ放しにしているアダプターは、充電に使う電力の十倍ぐらいを無駄にしているらしい。
天然ガス、石炭、石油のエネルギーは、発電時にも送電時にも失われ、最後に光になる段階でもほとんどが熱として放出されて、最初に投入されるエネルギーの1~2%しか光になっていないそうです。タンカー100隻分の石油のうち、98隻以上をどぶに捨てているのが電球の使い方だったと考えると、ふさぐべきバケツの穴はいっぱいある。

植田氏
節電は耐乏生活ではなく「分かち合いのライフスタイル」だと価値創造すれば、やる気につながる。本当の意味でのよい生活と考えたほうが節電は進むはずです。倫理的消費自体、ある種の価値創造、大きな革命じゃないでしょうか。
竹村氏
ポスト3・11のエネルギー政策は、ただソーラーパネルを敷きつめて「これでエネルギーが足りた、よかったね」で終わるわけにはいかない。
人間は破壊もしたけれど、地球環境のクオリティを高める貢献をしてきた面もあります。生物多様性を増幅させてきた日本の水田や里山は、クリエイティブ・エコロジーではないでしょうか。
ヨーロッパでは「少し高くても、風力の電気を買いたい」という仕組みが始まっています。一般家庭の電気メーターに風力発電の電気を選ぶボタンをつくっていく、「エネルギーを選ぶ=未来を選択する」動きをサポートしていかなきゃと思います。
植田氏
税金は取られるものではなく、本来は政府との契約です。有名なのは、ドイツ市民が「これだけ電気代を上げる代わりに、ここに太陽光パネルを付けてその電気を送ってくれ」と言ったアーヘン・モデルです。
これは一種の政治文化ですが、日本国民はお客さん過ぎますね。本来、自分たちが政府をつくるわけですから、主催者のはずです。エネルギーのことを自分の問題だと思い始めた日本人にとって、税金や電気料金が「安全で能率のいいエネルギー源に仕組みを変える」方向に動き出す契機になるといいと思います。
竹村氏
日本ではまだ、税金といえば年貢のような感覚で、未来への投資ではない。ヨーロッパでは未来への投資としてガソリン税を二倍くらい高くしていますが、経済政策の問題だと思います。
植田氏
選択には明確な情報が不可欠ですが、日本もだんだん変化しています。あらゆる生産、消費行為が長いプロセスで広い影響を与えることがわかると、全部を自分の問題と考えざるを得なくなってきています。
■人の力を信じて
竹村氏
仮に100年後に温暖化の心配は不要だったと振り返る展開になったとしても、化石燃料への依存度を低くしたことで日本は救われると思います。
レジリエントなシステムをつくるためには、多様性とそれぞれの脆弱性を予告したうえで、「これが駄目でもあれがある」という多元的代替案を用意することが大事。そもそも、電力消費量を30%削減しても、80年代後半のバブル末期の頃に戻るだけらしいですよ。
植田氏
ロビンズの話ですごく印象に残っているのが「のこぎりでバターを切るな」という喩えです。電気は上質なエネルギーだから本当に大事な処に使うべきだ。それなのにうまくデザインできずに全部電気でやってしまったために、逆にリスクを大きくしてしまったと。
また、レジリエントな社会になるためにはシステムの問題もありますが、人の中にそういう適応力や判断力が備わっているかどうかもたいへん大きな話です。
竹村氏
今回の津波被害でも、防災、減災に繋がる人間力がクローズアップされました。ネガワット節電所も人間力です。スマートグリッドを普及させることがポスト震災の方向なのか。逆方向の、多元的な暮らしのほうがレジリエントなんじゃないでしょうか。
植田氏
スマートグリッドは制御技術に頼りすぎです。もちろん追求したらいいのですが、あれで全部いけるとやってしまうのは、非常にまずい。
竹村氏
そこは踏みとどまらなきゃいけない、日本人のコモンセンスです。日本人には、アナログとデジタルのいい加減のバランス感覚がある。そこがライフスタイルをデザインしていくときのベースですね。
□質疑応答
質問者:A
東京圏の自治体レベルで構想すべき知恵は。
植田氏
自然エネルギーは地域資源ですから、それをいかに管理するかをまず考えましょう。管理するのは政府か、市場か、コミュニティか、3つの可能性がある。オストロムがノーベル賞をもらったのは、政府か市場かという議論から、森林や漁場という地球環境もコモン・プール・リソースと位置付けた発想があったからです。「協力の原理の下で」を競争原理の前提に置いた根本的な大転換が必要だということです。
竹村氏
「誰のものでもないなら、とったほうの勝ち」というコモンズの悲劇は、全体像が見えていないところで起こってきた。競争の排除ではなく、各漁船の割り当てを指定したり、ここまで獲ったら漁を止める枠をつくったりすればいい。また、鰯などが数十年ごとに大漁になるレジームシフトに合わせ、小さい鰯が成長して産卵する再生の時間を経済的にコントロールするような、地球経済学的なデザインもできるのではないでしょうか。
植田氏
地球環境問題ではじめて、人類共通のコモンズを意識せざるを得なくなったということです。オストロムは結論を出しているわけではなく「諸条件の下で、コミュニティが管理する仕組みを見出して持続させている例がたくさんある」と提示したのです。
質問者:B
エネルギーのパラダイムシフトは本当に起こるのか。自動車も、事故が起きるから危ないと議論になっても、改良されて結局使われている。
質問者:C
福島原発は、大津波が起きている場所に原発を建てた日本の責任だ。しかし津波が無くても地震だけで爆発した可能性はあったのか。
植田氏
まず、津波は提起されていた前提だったのに、全電源喪失という事態を想定した「シビアアクシデントマネジメント」が準備されていなかったことが問題です。
原発については二極分化して、原発維持の国もかなりあります。結論が先にあるわけではありませんが、原発は現時点で人間がコントロールできる技術なのか、今回示されたのではないかと思います。
また、原発へのあれだけ財政支出、あのお金を年金の充実や、自然エネルギーに投じていたら違った状況になっていたかもしれない。もっとアイデアを出して議論する場をたくさんつくる社会になることが、パラダイムの転換ということです。
□まとめ
竹村氏
どれだけすごいスマートグリッドをつくっても、人間の余地をどう残していくか。日本の国家と地球のエネルギーシステムを考えるとき、何より大事なのは人間を生かすことです。
それから、地域それぞれの多様性、個性が輝くチャンスが来ていることも改めて感じました。エネルギー問題を考えることは地域発見でもある。太陽光、風、地熱も含めて地球の成り立ちから理解していく「地球教育」の、最大の窓であるエネルギー教育を通して、地域の価値創造をしていく大きなチャンスが来ています。
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