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第45回地球大学アドバンス[ コミュニティ・セキュリティの再構築] シリーズ 5 日本経済再生計画― 震災とデフレを超えて

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日時:2011年10月24日 (月) 18:30-21:00

ゲスト:藻谷 浩介氏(日本政策投資銀行 参与 『デフレの正体』著者)
モデレーター:竹村真一氏(Earth Literacy Program 代表・エコッツェリア・コンテンツプロデューサー)

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モデレータよりコメント

「経済は"景気の波"よりも"人口の波"で動く」―

ベストセラー『デフレの正体』著者・藻谷浩介氏は、詳細なデータ分析に基づいてこのような斬新な視点を提示し、そこから日本の不況の本質とその解決策を明快に提示されています。

それは東北の経済と都市の再生ビジョンについても新たな展望をもたらし、その知見は政府の「復興構想会議」検討部会委員、あるいは宮城県知事の政策ブレーンとしての活動を通じて、現実の東北復興のシナリオにも生かされつつあります。

東北をはじめ日本の津々浦々を自分の足で歩き、自分の眼で確かめ、地場産業の担い手と膝をつきあわせて語り合うことで、日本各地に眠る貴重な産業シーズと「人」の力を確認してきた藻谷氏。その確かな手ごたえゆえに、そして地道なデータ分析から見えてきた独自なマクロビジョンゆえに、氏が描く日本と東北の未来は、この不況の暗雲のなかでは意外に思えるほどに明るい。

そのポジティブな未来展望の根拠を、そしてそれに我々が参加してゆく方途を、じっくり伺ってみたいと思います。


プロフィール


event_profile_advance_t.jpg竹村真一(たけむら・しんいち)

京都造形芸術大学教授。
Earth Literacy Program 代表
エコッツェリア・コンテンツプロデューサー

東京大学大学院文化人類学博士課程修了。20代には世界約70カ国を踏破。地球時代の新たな「人間学」を提起しつつ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める。

1996年に制作したウェブ作品Sensoriumは電子アートの登竜門アルス・エレクトロ二カでグランプリを受賞。その後、「触れる地球」(2005年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」、ユビキタス携帯ナビ「どこでも博物館」(2005年国連情報社会サミット日本最優秀賞)、洞爺湖サミットIMC「地球茶室」(2008年)、六本木・21_21デザインサイト「Water」展(2007年)などをプロデュース。2006年4月から、環境セミナー「地球大学」を丸の内で主宰。J-WAVEのナビゲーターもつとめ、現在は「Jam the World」内の"Global Sensor"(月曜~金曜、毎日夜9時45分~50分放送)で地球環境への新たな視点を提示している。政府の東日本大震災「復興構想会議」検討部会委員も務める。

著書に「地球の目線」(PHP新書)、「Water」(ワールドフォトプレス)、「宇宙樹」「22世紀のグランドデザイン」(慶応大学出版会)など。

竹村真一プロジェクトサイト: http://www.elp.or.jp/

イベントレポート

□イントロダクション


■未来へのビジョンを描くための現状認識を

藻谷浩介さんは、著書『デフレの正体』(角川書店)の中で、「戦後の日本社会は団塊の世代と団塊ジュニアという大きな二つの波で形成され、こういったパイの大きな人口を対象に普及品を売っていく産業を中心に育ててきたのが日本経済である」、つまり景気ではなく人口の波が日本経済をつくってきた構造を見事に喝破されています。

この地球大学で五年間取り上げてきている環境、資源、人口という三つの制約はユニバーサルな課題ですが、少子高齢化のソリューションを見出せば、日本が地球のお役に立つことができます。

日本社会の本質論も踏まえ、東北の復興を日本全体のリセットに、ひいては地球の抱える問題のソリューションにもつながるビジョンを描いていければと思います。


□藻谷浩介氏プレゼンテーション「日本経済再生計画――震災とデフレを超えて」

■驚異的な勢いで進む人口成熟社会

五年前から五年後の十年間で日本の人口が234万人減り、百年で二割減るというのが、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計で、厚生労働省の公式見解です。しかしこれだと年率0・2%減ですから、人口減少社会ではなく単なる人口停滞社会です。
実際には、この十年で761万人減少、65歳以上が800万人に増えて三割増、75歳以上の老人は四割増になります。百年経てば7610万人減少して、百年ほどで生産年齢人口(15歳~64歳)がいなくなる。

少子高齢化ではなく、人口成熟が急速に進むと認識した方がいいでしょう。
行政側からいうと、税金を払う所得のある人が減って、年金支払いが増える。日本で救急車に乗る人の九割が75歳以上ですから、自治体の介護、医療負担が劇的に増えていくことを意味します。

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■団塊ジュニアが65歳を超える頃...

ワシントンのIMFに行ってもイギリスのチャタムハウスに行っても、こういう話はそのまま通用しますが、日本のマスコミにはほとんど出てきません。
日本で一番人口が多いのは60代前半で、二番目に多いのは昭和45年から50年の間に生まれた団塊ジュニアです。

過去十年間で、年金を払う側が8600万人から8100万人になりました。仮に年金支給開始を75歳にしても、貰う人が900万人から1420万人になるから、払う人が500万人減って、貰う人が500万人以上増える計算です。
なぜか日本の年金計算にはGDPが入るんですが、払う人と受け取る人の人数比で考えるほうがよほどわかりやすいし、どのくらい生まれるかより、生きている人を算入するほうが予測は外れないです。

十年後に団塊の世代の九割が70歳を超え、二十年後には七割が80歳を超える。平均寿命の89歳まで生きるとして、一番甘い試算でも、三十年後には85歳以上の人が一千万人を超えて日本最大勢力になる。85歳以上の七~八割が介護を受けていますが、数が三倍に増える頃、日本の高校生から退職前の年代が三割減る状況をどうすればいいのでしょう。

■首都圏1都3県に起きること

東京・千葉・神奈川・埼玉の人口は、五年前から五年後の十年間で70万人増える予測でした。そのうち64歳以下は200万人減り、75歳以上は154万人増です。
映画『三丁目の夕日』の時代に170万人程度だった首都圏の団塊世代の若者が、地方から上京して320万人に増え、団塊世代の3人に1人が首都圏在住です。昭和15年から25年に生まれた日本最大勢力は平均4・5人兄弟ですから、故郷に仕事がない人のほとんどが上京したと考えられます。

地方に残った団塊世代のジュニアが上京するようになった十年前には、若者が上京すれば、首都圏の現役が増えてオフィスは埋まり、家も売れるという伝説ができました。
ところが首都圏では今後、流入する15歳以上より65歳以上が多くなります。首都圏の出生率は低く、団塊ジュニアの子どもは平均1人だからです。子どもの数が親の半分、孫が4分の1、ひ孫が8分の1、三代でほぼ10分の1。厚生労働省の予測は多くの若者が東京に集まる前提でつくられていますが、東京に若者を集めれば集めるほど、日本人の消滅は早まるというわけです。

■移民を入れれば解決になるのか

移民を入れるとどうなるでしょう。東京は、原住民の2倍も移民を入れましたが、移民が1人しか子どもを生まない現状では、問題が拡大再生産されていくだけです。

昔だと、30歳までに半分死に、60歳までには4人に3人、70歳までに10人に9人が死んでいた。それが高度成長期以降の平均寿命が延び、団塊の世代が全員60歳を超えるところまできたのです。

■東南アジアの人口推移

中国にも団塊と団塊ジュニアがいて、四十年間に現役が5億人も増えて倍になりました。そのあたりで天安門事件が起きて、その五年後から輸出産業を劇的に育てて世界の工場となり、2010年には40代前半と20代前半が多い、モノが売れる元気な国になりました。しかし、増え続けた15歳~64歳が2014年を境に減少に転じるといわれています。現在、人口のちょうど8%(1億人)にあたる65歳以上が、その頃には一気に25%(3億人)、中国が世界最大の高齢者激増国になっていくわけです。

■東南アジアの人口増加はラストステージに

パキスタンやアフガニスタンなどを見てもそうですが、現役100人:子どもが80人という比率になると、行き場がなくて戦乱が起き、その後経済が安定して発展しだすと、急速に出生率が下がって子どもは必ず減ります。

子どもが死なないとみると2人しか生まなくなるのはDNAに組み込まれているそうで、野生動物でも、動物園に来て子どもが死なないと、あまり生まなくなります。
今日本に起きている現象が中国で始まり、インドは中国に3~40年遅れて同じことが起きる。他の東南アジアの国々も遅かれ早かれ同じことになりますから、東南アジアの人口の極端な増加はもうラストステージに入っています。

戦争の傷跡が深かった韓国では、団塊世代がいません。人口4500万人のうち65歳以上が非常に少ない状況ですが、あっという間に4・5倍に増え、現役が半分になります。内需も細ってきているので輸出依存がすごく高く、みんな英語を勉強して外国に出て行っちゃう、これが韓国ですね。

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■欧米の人口比率

アメリカはゴールデンシックスティズというベビーブーマーが有名です。1950年代後半から多くなり、移民が増えつつ、白人が子どもを生むので、人口グラフの線がフラットになっていく。

白人は中産階級的暮らしが理想とされ、5時には職場を出て車を飛ばして郊外の家に帰り、夫婦で語らって、子どもはゼロ歳から寝室を分けますから、おのずと増える。
さすが不健康の国アメリカで、3億人のうち6%(1900万人)しか65歳以上がいないけれど、1人あたりの医療費が日本より高いですから、長生き人口が増え出したら厳しいでしょうね。

ヨーロッパでは、第1次と第2次大戦中、子どもが生まれていません。立ち直ってきた頃、冷戦が終わって東欧での社会保障が崩壊し、出産奨励が無くなって一度ガクッと減って、そのまま遷移して今に至っています。

ヨーロッパの現役の数字は今がピークで、去年あたりから需要が落ちています。人口原理主義みたいで怖くなるんですが、経済状況と連動していますね。

■バブル崩壊後の日本の20年は?

バブルの頃、課長以上はみんな戦前生まれでしたが、今は職場から消え、平成生まれが新入社員で入ってきています。団塊ジュニア最大多数の昭和47年生まれが就職したのがバブル崩壊後で、「失われた10年」に日本人の所得が20兆円増え、売り上げも7兆円増えました。

就職できない団塊ジュニアも多くて失業率や有効求人倍率は悪化したのですが、労働人口は約260万人増えました。その世代の就職が終わったころから退職者が急増しています。

MBSの比較によると、20年前の日本の輸出は41兆円で、去年は64兆円。内容は98%工業製品です。しかし企業の人件費は、この20年間で平均三割下がっている。価格競争した結果、輸出競争力を増した日本が勝ってしまったんですね。

■薄利多売ではないビジネスモデルを

日本は高齢化して現役が減る時代に、無人で操業する設備をたくさん持っています。内需が細っていくのに生産し続け、人件費を削った分、輸出競争力が増して、外国にも売れ続けるでしょう。

実は、競争力があっても国内でモノが売れない国になれば、輸出するほど円高になって自分の首を絞め、まったく儲からないんです。次のビジネスを模索しないと、人口増加頼みの薄利多売が行き詰まるのは世界中同じ。デフレというけれど、作り過ぎによる値崩れですから、勝者なきマラソンです。

■文化やデザインを高く売る国に

これからは、値下げ競争をする必要が無い企業になるしかないでしょう。フランスは、日本に対して貿易黒字です。スイスは日本の1・9倍の人件費ですが、ずっと日本に対して大黒字でした。断捨離化する日本ですが、イタリアとフランスとスイスの観光とものづくりに対しては、見事にマイナスです。

共通するコンセプトは、文化やデザインというテイスト、地産地消。重化学工業やハイテクではなくて、食品と繊維と工芸品です。

私が『デフレの正体』の中で書いたのは、①日本国内に貯まっている貯金を早く若い女性に移し、②彼らに文化的なテイストを高めたものをつくってもらい、買ってもらい、③外国人の(労働者じゃなく)観光客や定住者を増やすことで、日本経済はいくらでも回るのではないか、ということでした。


□ディスカッション

■値下げ合戦は「硫黄島モデル」である
竹村氏

海外に逃げずに日本で未来を解決すれば、海外に対して大きなアプリケーションになるということですね。キーワードになるのが「世代間移転」ですが、今は、人件費を削減して若いワーキングプアを増やしている「次世代虐待」です。

藻谷氏

象徴的なのは、世界シェア四割のルネサンス・エレクトロニクス社のマイコン工場が壊れ、世界の自動車生産が止まったことです。

それほどの会社なのに、創業以来五年連続の赤字で儲かったためしがない。激しい値下げサービスをしたから独占しただけで、究極の消耗戦です。どちらも壊滅的な状態になるこれを、私は「硫黄島モデル」と呼んでいます。

竹村氏

世代間移転のために税制を変える話もされていますが、根本は、払うべき人件費を払いながら人を育てていく産業構造をつくることですよね。

藻谷氏

日本の比較優位の源泉はデザインやサービスという、ある種の感性です。舌が肥えているからおいしいものをつくれる。品質に細かいので傷がないものをつくる。それが今、貧困によって若い人の味覚が落ちているんじゃないか、感性が劣化しているんじゃないかという恐怖感があります。日本のモノ造り、文化を創生する比較優位自体がなくなるのを危惧しています。

今、日本では香料を入れた缶コーヒーが売れています。これは香料入りワインを飲むのと同じで文化性が低いものですが、慣れてしまうと味の違いがわからなくなるんですね。

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■安いものを大量に、の時代を終えて
竹村氏

そういう意味でも、東北復興の過程で地場産業に高付加価値をつくり出すことが、世界の中に価値を作り出すことになるのではないかと考えています。物理的な町ではなく、人と産業を創り直すことが、日本の次の行き先になっていく。

藻谷氏

三陸は不便な場所で、東京から盛岡まで行くのと、そこから宮古市と同じ時間がかかる。そういう処で成り立つのは、最初からグラム単価の高い産業ばかりです。

中心的に獲っていたアワビはほとんど中国や香港に行っていました。香港の最高級中華食材は、三陸産のフカひれ、アワビ、ホタテです。そういう、遠いところから高い輸送コストを払って生き残ってきた産業こそ、日本の最先端なんです。

竹村氏

技術も同じですよね。着物が売れなくなって職人もいなくなり、織機も捨てられていた「全世界で日本のここしかできない」織りの技術を、三宅一生さんがパリコレに使って、世界に出されています。

最近では中田英寿さんも「リバリュー・ジャパン」、つまり日本にある付加価値の高い技術を新しい現代的な21世紀的な文脈でリバリューしていく活動をされていますが、これらは、日本あるいは世界の次の産業のあり方を体現していると思うんです。

藻谷氏

実は、三陸には大量生産も残っているんです。悲惨な被害を受けた石巻市雄勝町の硯などは典型です。硯やスレート葺きの石の産地なのに、付加価値化ができなくて安い値段で売っていた。中国に高級硯として売り出すようなブランディングができるものを教材用の硯の生産に特化しちゃって、衰える一方になっていました。

竹村氏

硯や漆では自動車に変わる大きな産業になりえないと思いがちですが、イタリアやフランスでは伝統工芸が培ってきたそのようなニッチな技術の集積が、何百倍、何千倍の付加価値を生んでいます。

藻谷氏

デザイン性、文化性、蓄積が先進国間の最終的な国際収支に影響する時代です。日本国はローマ帝国並みの古い歴史があるわけですから、本来なら強いはず。

文化性はまず観光収支に来て、そして、ものの収支に及んでいくものなんです。


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■人の感性がモノの価値を高めていく
竹村氏

この惑星のどこにでもある炭素、水素、酸素を素材にしてあらゆるものを生命世界がつくり、人間がそれを加工して、料理やワイン、工芸品、中尊寺の金色堂なども創ってきました。

人間が自然界や生命世界をアップサイクリングする、価値を高めていくという理念が、これからの経済活動の根本にならなきゃいけない。

ペットボトルも、ダウンサイクリングではなく、三宅一生さんのようにポリエステルのリサイクル素材から信じられないほど付加価値の高いファッションにアップサイクリングしていくことができるんです。

藻谷氏

生産力がまったくない時代にラスコーの壁画を描いたように、人間ははるか原始の時代からアートをやっている。僕が芸術的なものを非常にリスペクトしている理由は、生物としては無意味な活動かもしれないけれど、それが人間の本質だと思うからです。

日本は資源もあまり無い世界の果てでさまざまな文化を生み出してきました。世界中から吹き溜まった非常に多様なDNAが保存されている場所です。

竹村氏

生命の根本もクリエイティビティですが、それが凝縮された場所が日本列島です。地球大学では一貫して「現状維持のサステナビリティは、生命世界にも人間世界にも似合わない。むしろクリエイティブのほうが大事」と言い続けていますが、クリエイティブになることによってはじめてサステナブルになりうるんです。

藻谷氏

そのクリエイティビティこそが、アメーバと人間の違いです。

ミシュランの審査員は、オリジナリティ、ローカリティ、そしてクリエイティビティという3つの基準で評価するそうですが、本質を言い当てているような気がしますね。


■自然をデザインし付加価値をクリエイトする知恵

竹村氏

日本の自然は、半分は日本人がつくってきました。急峻すぎる地形で、雨が大量に降って洪水を起こす。渇水と洪水を繰り返すオリジナルな地形の水を調律し、スローな水をデザインして国土をクリエイトしてきた結果、ローカリティあふれる生物多様性を増やしてきたわけです。

エントロピーではなくネゲントロピーを増幅させる環境をつくるための投資の成果が、日本の自然であり、資産です。国土へのクリエイティブな投資として、日本や世界をアップサイクルしていくようなかたちの東北復興を考える必要があるわけです。

藻谷氏

北上高地では保全しながらブナ林を増やし、降った雨が保水力の高い林を流れてたっぷりの栄養を含んで海に入る仕組みが作られてきました。

親潮で南下してきたアムール川からの流氷プランクトンがこの海域で増殖し、黒潮に乗って北上した魚が集まって、世界最高の漁場をつくってきたのです。

竹村氏

気仙沼の畠山重篤さん(漁師)が、「森は海の恋人」というコンセプトで植林をしていらっしゃいます。海の豊かさの半分は、人間がつくってきた陸の豊かさによるものだと。人工の「工」は、天と地をつなぐ人の営み、アップサイクリングそのものです。

藻谷氏

これからはその漁獲資源を、味と中身がわかった人に高く売るようにしなくてはいけない。一部の人はその価値に気付いて中国に出していましたが、多くの人はそのまま築地に出して、十倍の値段で売られて搾取され、漁獲量が減る悪循環に陥っていた。今、それを修正するチャンスです。


■価値の再発見で新しい経済を創り出す

竹村氏

日本人は「高く売る」ことを罪悪みたいに思っていますが、高く売ってそのお金をちゃんと次世代の人や町並みに投資する構造をつくることが、今の経済を救うことになる。人間の中に眠っているクリエイティビティを経済価値につなげていくような仕組みの構図が、見えてきたのではないかと思います。

藻谷氏

日本人が増えた戦後は終わったのですから、たくさん作って安く売る悪循環は終わりにしないといけません。畠山さんがブナ林を植えるのは、余力があるからです。非常にいいカキをきちんと生産して、わかった人に少量で高く売ったから余力ができたのです。そういう漁業者が増えると、自然も守れるし、ブナ林にも再投資ができる。

日本海側も非常にフィージブルですし、アメリカしか相手がいなかった時代の経済の回し方はもう終わっています。

トヨタは東北と九州に拠点を移すことにしています。東北に残っているデザイン性、芸術性をコンセプトに生かすところまでいければと思います。

□質疑応答
■構造崩壊と価値創造
質問者:A

日本では、仰ることと真逆の上場企業が多いですが。

藻谷氏

大企業は江戸末期の藩みたいなもので、そのうちなくなるでしょう。藩が消えても地域はなくならなかったように、企業が抱え込んでいた人材やノウハウは消えません。銀行が次々になくなっても、ファイナンス自体は残っているのと同じです。マスコミも含め、組織というものの創造的破壊が起きていくだろうと思っています。

竹村氏

フランスなどでは30年程前から、世界マーケットをにらんだブランディングに入ったようです。織機を再生してパリコレに持っていくとか、ペットボトルをアップサイクルする三宅一生さんの試みは、フランスやイタリアで見られた風景だったのでしょう。

藻谷氏

日本国は辺境だったので、独特な気候風土に合わせた独特のネタが大量に残ってきました。中国や韓国から伝わったものに漆などの南方系のテイストが加わって、そういう資本を残してきたんです。日本人は技術オタクで継続性にこだわり、復活力もあるので、製品さえ残っていれば謎の技術を復活できる。

感動するのは、室生寺の五重塔が台風で壊れたときに、千年後の日本人が修復した話です。服も生活も違う現代人に技術が伝承されていて、宮大工が直した。これこそ国力です。建築家やデザイナーはこれを目指すべきです。

名前ではなく作品とそのコンセプトやテイスト、総合的な美しさが残っていたために、千年後の人たちが死に物狂いの努力をした。芸術のおそろしい力ですよね。

竹村氏

宮大工によると、自然の法則に沿った飛鳥時代の工人の技術のほうがはるかに揺るぎないそうです。修復しながら千年前の人と対話し、新たに学ぶ。日本には世界中の文化が編集されて吹き溜まり、それだけのデータベースを現在に生かす回路を持っている。これこそ資本です。


■悲観論と楽観論を比べるのは無意味

質問者:B

ヨーロッパでは貴族文化の中で洗練されたテイストが下々に広がっていったけれど、日本の江戸時代などは、大衆文化が流行をつくってきた逆の方向性がある。ローカリティが無くなっている日本は、本当にやっていけるのでしょうか。

藻谷氏

戦争末期、日本の誇る文化財が相当焼かれました。日本は大衆文化で、関わっている人間が職人である文化だから、残ったものから再生できたのです。まず経済的には、若い人にちゃんと給料を回す社会にすることです。

竹村氏

楽観論や悲観論を言い出すと際限がないのですが、アップサイクリング以外の方向はないということです。


□まとめ

■人間、道具、環境の調和のために
竹村氏

インドでは手で食べるし、衣服であるサリーも1枚の布で、道具的な進化はほとんどない。しかし、人間の側のソフトウェアが育ってくると、たかが一枚の布ですごいドレープをつくるなど、無限の可能性が生まれ続けます。

道具に蓄積・外化することで人間がラクをする方向へ行くのと、道具はシンプルなまま、人間にソフトウェアが蓄積されるインドのような方向、日本のように環境に蓄積していく方向があります。環境に蓄積すると、自然と一体化して進歩が不可視になるから評価されにくいのですが、人間、道具、環境という3つのディメンションで進歩をトータルにみると、文化の見方や進歩の尺度が変わってきます。

20世紀は道具の進歩に傾注していましたが、21世紀の産業や経済を考えるとき、脱モダン文明論、人間と、町並み・風土・景観という環境に蓄積していくディメンションへの転換が必要になってくる。実はサイエンスの最前線はとっくに、究極の価値は人間という方向に変わっています。そしてブナの林のように、環境にちゃんと資本を投下していく価値を世界中が再発見するようになってきています。

藻谷氏

日本がこれから地球の中でどういうかたちで「天地をつなぐ営みとしての地球工業」をやっていくか。ビジョンが、今日、はっきり見えてきました。そして、東北がそのレバレッジ・ポイントになると、強く思います。

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