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第46回地球大学アドバンス [ コミュニティ・セキュリティの再構築] シリーズ 6 待ったなし!食糧安全保障―"食糧争奪"の現在

終了しました

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日時:2011年11月28日 (月) 18:30-21:00

ゲスト:柴田 明夫氏(資源・食糧問題研究所代表 『食糧争奪』著者)
モデレーター:竹村 真一氏(Earth Literacy Program 代表・エコッツェリア・コンテンツプロデューサー)

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モデレータよりコメント

震災復興と円高の日本ではつい忘れられがちですが、今年は2008年の記録的な「食糧高騰」を思い出させるような勢いで世界中で食糧価格の上昇が進んでおり、食糧危機の足音がいよいよ高まりつつあります。

世界人口の増加で、"明日は今日より22万食多く食事を用意せねばならない"(年間8千万人増を365日で割ればこうなります)。他方、食糧生産のほうは、異常気象・水不足・石油高騰・表土流出などによる農業生産力の頭打ちにより、到底需要の急増に追いつかない状況です。

世界全体がアメリカやオーストラリアなど特定少数の穀物生産国に依存するという、過剰なグローバリズムの脆弱さ。さらに20世紀末までほぼ100%自給してきた中国やインドなどの人口大国が食糧輸入を増やしていく趨勢のなかで、地球全体が「食糧危機」へのバッファー(余裕)を失いつつあり、投機マネーが食糧価格の乱高下をさらに増幅するという悪循環。

そんな中で、国内の食糧自給率の回復も含め、日本と地球の「食糧安全保障」のリデザインが待ったなしの急務になりつつあります。

今回は商社の研究所長として長年、世界の食糧・資源状況の分析を手がけられ、名著『食糧争奪』でそのマクロビジョンを提示された著者・柴田明夫氏に、特に2008年以降の3年間の世界の新たな動向、そのなかで日本が取るべき戦略について、「日本の食と農」の再生可能性も含めて伺います。


プロフィール


event_profile_advance_t.jpg竹村真一(たけむら・しんいち)

京都造形芸術大学教授。
Earth Literacy Program 代表
エコッツェリア・コンテンツプロデューサー

東京大学大学院文化人類学博士課程修了。20代には世界約70カ国を踏破。地球時代の新たな「人間学」を提起しつつ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める。

1996年に制作したウェブ作品Sensoriumは電子アートの登竜門アルス・エレクトロ二カでグランプリを受賞。その後、「触れる地球」(2005年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」、ユビキタス携帯ナビ「どこでも博物館」(2005年国連情報社会サミット日本最優秀賞)、洞爺湖サミットIMC「地球茶室」(2008年)、六本木・21_21デザインサイト「Water」展(2007年)などをプロデュース。2006年4月から、環境セミナー「地球大学」を丸の内で主宰。J-WAVEのナビゲーターもつとめ、現在は「Jam the World」内の"Global Sensor"(月曜~金曜、毎日夜9時45分~50分放送)で地球環境への新たな視点を提示している。政府の東日本大震災「復興構想会議」検討部会委員も務める。

著書に「地球の目線」(PHP新書)、「Water」(ワールドフォトプレス)、「宇宙樹」「22世紀のグランドデザイン」(慶応大学出版会)など。

竹村真一プロジェクトサイト: http://www.elp.or.jp/

イベントレポート

□イントロダクション


■逼迫している食糧事情

今年は、3.11大震災を受け、気候変動のみならず地殻変動まで視野に入れた日本や東京のコミュニティ・セキュリティを論じてきましたが、今回と次回は「食と農を巡る状況」を取り上げていきます。

柴田先生は2008年に書かれた『食糧争奪』(日本経済新聞出版社)の中ですでに食糧問題に関する包括的なビジョンを展開され、構造的な要因を指摘されていますが、食に関する状況は逼迫の度を増しています。

1990年代まで世界経済を牽引していた欧米と日本は、せいぜい8億人のマーケットでした。現在牽引しているBRICsは30億人、アジア諸国まで含めると45億です。
今日は、地球全体の安全保障にまでつなげていける話し合いができればと思います。


□柴田明夫氏プレゼンテーション「待ったなし!食糧安全保障――"食糧争奪"の現在」

■成長戦略ではなく積極的な安定を


食糧問題というものは、同じデータからも楽観論と悲観論の真っ二つに分かれるものですが、私はやはり、これから深刻化するだろうとみています。食糧に限らずエネルギーや鉱物など資源問題の始まりは、価格の上昇となって現れてきます。70年代から30年間、ある一定のレンジ内で動いてきた資源の価格帯が、供給の制約が強まって新しい価格帯に向かっています。

日本は今、官民一体となって海外資源の安定調達を図っていますが、中国などの新興国でのリユース、リデュース、リプレイス、リサイクルを進め、内外で資源の効率的な利用を考える必要があります。

日本に今後必要なものは成長戦略ではなく、積極的な安定です。国内資源のフル活用、一産業に拠って立つ経済社会のあり方が見直されるべきだと思います。

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■穀物の4分の3を輸入する国

日本の穀物生産量は米が800万トン、小麦が100万トン弱。その他の穀物も入れて1000万トンぐらいです。一方、日本の半分ほどの国土面積のイギリスは3000万トン、日本より一回り小さいドイツでは5500万トンを生産しています。

日本は30年近くの間、3000万トン近い穀物を毎年海外から輸入してきました。安い良質の穀物を調達できる環境が整っていましたから、輸入分は消費者には不足と認識されていません。しかし海外では、食糧の七割以上を自給する考え方に立っています。

安い農産物の時代は終わりを遂げ、今後長期にわたって世界の食糧需給が逼迫傾向を強めていくでしょう。日本は耕作放棄地が増え続け、生産調整も相変わらず行われていますが、そんな場合ではない気がします。


■新興国の牽引で経済は好況だが...

ヨーロッパにおいて金融危機が広がり、実体経済にも影響を与える恐れも出ていますが、リーマンショックから3年たった世界経済は、実は予想以上の回復基調に乗っています。先進国が世界経済を引っ張っていたときの平均成長率は3%。この数字が好不況の分岐点ですが、世界経済は新興国に引っ張られて予想以上に回復し、IMFの直近の見通しでは来年も4%の経済成長率が見込まれているのです。

先進国から新興国へのパワーシフトを鮮明に表しているのが資源価格の上昇です。小麦、トウモロコシ、石炭、鉄鉱石、銅地金、天然ゴム、原油...あらゆる資源の過去60年間の年平均価格の推移を見ると、2000年に入ってからの価格帯が一段上がってきています。重化学工業化で中国、インド、ブラジル、ロシアの30億人近くが世界市場に参入し、エネルギー、資源、食糧を爆食する構図になっている。

需要増によって押し上げられた価格が先々落ち着いたとしても、資源枯渇の問題と温暖化による影響は避けられません。

■エネルギー、農地、水を巡る国家間の奪い合い

食糧に関して言えば、食べた分は翌年再生産されてきましたが、これもだんだん有限の性格を帯びつつあります。

200年前、『国富論』でアダム・スミスは、ダイヤモンドと水のパラドックスの喩えを用い(ダイヤモンドは一生縁がなくても済むが値段は高く、水は一日たりとも欠かせないが安い)資源問題とは希少性の問題であると説きました。しかしこれは90年代までの話で、今世紀に入り、食糧、水、温暖な気候、生物多様性など、これまで希少性とは縁のなかった資源についても新たな希少性の問題を帯びてきました。

■あらゆる情報が圧縮された「価格」を紐解く

世界の食糧生産は22億7000万トンという過去最高のレベルであるにもかかわらず、2000年代に入ってからは旺盛な消費に生産が追いつけず、在庫が取り崩されて、世界の在庫率が積みあがらない状態です。

この22億トンのうち四割以上は家畜の餌として消えています。肉1キロ当たり7倍の餌が必要で、7キロ食べさせて、やっと1キロ太る。肉食を続けるなら、当然基礎食糧である穀物の自給は逼迫していきます。需要が増えるから生産を増やし、需要が落ちないためにますます価格が上がる構図になってきています。

アメリカではトウモロコシと大豆の生産量が過去最高になっているのに、期末の在庫率は過去最低レベルの5%です。トウモロコシ生産の四割はバイオエタノールの原料に使われますから、エタノールの生産量増加も大きいでしょう。

また、「多様なものほど環境の変化に対して打たれ強い」という生物多様性の構図で考えると、世界の食糧供給の半分を米、小麦、トウモロコシの三大作物に依存している単純な供給構図は、環境の変化などを考慮すると脆弱ではないかと感じます。

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■地球は何人まで養えるのか

2000年の世界人口は60億でしたが、10年後には80億になります。「働き手」としては経済成長を押し上げますが、逆に消費者としてみた場合、70億は、そろそろ地球の限界なのではないかと感じています。
生産性を上げるため、世界ではどんどん農地の開発をしてきました。一方で毎年、日本の農地総面積460万を上回る500万ヘクタールが砂漠化していますから、耕地面積自体はほとんど伸びていません。

中国では78年に改革開放がスタートして以降32年間の平均成長率は10%です。90年代に20キロだった肉の年間消費量は50キロに、ミルクは年間2キロが20キロに増えてきています。雑穀、トウモロコシ、芋類中心だった食生活が米、小麦になり、動物性タンパクの副食も増えたことで、自給すると言ってきた中国ができなくなってきているんです。

日本は過去最大のトウモロコシの輸入国で、20年以上にわたって1600万トン以上買っていました。2009年からトウモロコシの輸入を始めた中国が、1000万、2000万トン規模で輸入を始めたら、800万トン前後を輸入している韓国を含めた争奪戦が始まります。

■人工的大量生産への反逆が起きている


農産物の種類は数千種類ありますが、いま大量に商業生産されている農産物は、コーヒーやタバコも入れて150種類ぐらいです。約半分が米、小麦、トウモロコシですが、栽培のしやすさ、味覚、加工性や保存性、貯蓄性が高いという性格を持ち合わせていたことが大きいでしょう。

本来、植物というのは、種類は多くてそれぞれの個体数は少ないのが一番安定的です。その種類を絞って個体数を最大限に増やしてきたのが農業の姿です。温暖化など大きな変化が進む中、これからは生産性の高さが脆弱性に繋がる気がしてならないのです。

一時期、遺伝子組み換えが食糧不足の救世主になるという見方があり、今では世界の穀物耕地面積の2割方は遺伝子組み換えに置き換わっています。しかし最近「害虫耐性の」遺伝子組み換えトウモロコシに耐性を持った害虫が産まれ、農薬の効かないスーパー雑草が急繁殖するという、自然の反逆が起きています。

■「離れる農業」の危険性


水は循環資源で、増えも減りもしないはずですが、地球上の水資源のうち利用できる部分は1万分の1です。この限られた水資源に対して、やはり需要が急増しています。世界の水消費の七割は食糧生産に使われていますが、工業用水や生活用水の需要が伸びてきているのです。

日本の食はこれまで安全でした。しかし、購買力があり、円高も加わって、生産から消費までの距離や時間がどんどん離れ、食べ物の中身がブラックボックス化してきています。メーカーはトレーサビリティなどの対応を迫られますが、そのコストを価格に転嫁できないと経営が悪化して別の問題を生んでいく。

今から農業経営を変えていくとしても、就業人口も減り、高齢化し、耕作放棄地も拡大し続けている状況をどうするのか。

■太陽系エネルギー産業としての農業へ


日本の90年代のGDPも昨年も470兆円で、経済は成長していない。その中で農業が衰退しては大変なことになります。

基本は、資源のフル活用です。食料・農業・農村基本法の目標の一つに「良質の食料を安定的に国民に提供していく」ことが掲げられていますが、国内の資源をフル活用し、地域資源を保全する方向への考え方の整理が必要な気がします。

農業は、太陽系エネルギー産業です。農地はソーラーパネルで、農産物は太陽エネルギーの14~5%を固定する自然の装置であると捉え直し、エネルギーをフル活用することから考え始めると、すべてがつながり出すのではないでしょうか。

南方熊楠の本の中に、問題点の絡み合ったところ=萃点というとらえ方が書かれています。農業・農村は、100人なり200人なりをなんとなく食わせていける包容力を持っていますが、日本の経済社会の萃点はここにあるのではないでしょうか。日本のあり方を、まず農村のあり方から見直すときがきている気がします。


□ディスカッション

■戦後すぐにできた農地法を見直す
竹村氏

雇用創出にも経済活性化にも、農地の有効活用と、そこに多くの人が参入できるような構造を作れば、そこからほどけるように多くの問題が解決するだろうということですね。

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柴田氏

農業資源をフルに活用しようとすると、農地法の問題に行き着いてしまいます。戦後の食糧難のときの農地改革で小作農から自作農に変えたのはよかったけれど、その構図のまま60年たってしまい、所有者自らが耕さなくなった。

ここで農地法の基本的な考え方に立ち返り、誰に所有してもらったら農業資源がフルに活用されるのか、意欲のある者が耕すような制度に見直される必要があると思います。

■選択肢がなくなることの怖さ

竹村氏

先ほど3つの脆弱性を指摘されました。まず備蓄が減り、自給率が世界全体で低下してきて、限られた穀物生産に世界全体の依存度合が高まってきた傾向ですね。

2000年までは基本的には食糧自給国だった中国が輸入大国に転じ、肉食が増えている。牛肉の場合16倍といわれますね。つまり、16人分あるはずの穀物が1人分になってしまう圧縮のマジックがかかるわけですから、単純な増産で解決する問題ではない。

柴田氏

しかも単一栽培傾向が強まって、気象の異常など、ささいな変化でも脆弱になる。

竹村氏

脆弱性を「わずかな何々」と言い換えることもできるかもしれないですね。わずかな在庫、わずかな生産国、わずかな品種。3000種ある可食植物の中で、端的にいえば4種類、米、小麦、トウモロコシ、大豆に人類の胃袋の半分が依存してしまっている。それから量と同時に質もみなきゃいけないですよね。きらびやかな野菜も全部F1種になっていたり、GMOになっていたり、見えない部分での多様性が失われていることも、もう1つの脆弱性です。

柴田氏

そうですね。96年がGMO元年ですが、特許が切れる2016年ぐらいから、いろんな開発GMコーンがあふれてくると思います。しかし中国ではそこまで待てなくなり、輸入し始めています。

竹村氏

「もし世界中の農産物が画一化した後で、病気が流行したら」というリスクの兆候は現れ始めているのでしょうか。

柴田氏

バクテリアは一日で9億匹になってしまう。確率として9億匹に1匹ぐらいは特異性を持ったバクテリアが生まれ、石油を食べたり、金を食べたりするのも出てくるんです。毎日進化されちゃうと、何が起こってもおかしくない気がします。

■コスト高騰から生まれる創意工夫も
竹村氏

日本ではオリンピックの頃から水道水に依存するようになりましたが、アメリカの水資源を使って生産された農作物を輸入するバーチャルウォーターという「遠い水」の消費は、近い食から遠い食に転換したことにも重なります。

しかし近年の石油高騰で石油依存型のアメリカ農業も打撃を受けるでしょうし、輸送コストの値上がりが「遠くから運んだほうが効率的」というグローバリズムの根本を崩していくのではないでしょうか。

柴田氏

日本の場合、食糧より石油不足のほうが問題だと言われています。エネルギー問題と鉱物資源の問題。農作物の肥料である窒素、リン酸、カリが高騰していますが、リン鉱石はアメリカと中国の独占です。レアメタル化していて、中国は輸出を抑えようとしています。つまり、すべてが連動している複合危機なんですね。

竹村氏

まさに萃点です。そう考えると、われわれは非常に非効率な水循環の構造をつくってしまっていますね。大量のリンと窒素に満ちた有用な資源である下水をただ捨て去っている構造を考え直し、下水を資源として有効利用しないといけないし、使い捨てられていく電子機器などの都市鉱山からレアメタルを集めることも考える。

柴田氏

いろいろなコストが上がることは悩ましい問題ですけれど、逆に価格が何を訴えているのかを考えてみれば、新しい創意工夫も生まれてきます。

今の日本の食糧も、国内生産1000万トン、輸入3000万トンの計4000万トンのうち、流通段階で半分が捨て去られている無駄も見直さないといけないです。

□質疑応答
■まずデフレからの脱却を
質問者:A

有機農業、国の言葉でいうと環境保全型農業についてどうお考えでしょうか。

柴田氏

国内の閉じたマーケットではどこへ行っても環境保全型農業になってきていて、更なる差別化のために値下げ競争に入ってしまっている。食糧分野も大きなデフレのトレンドから抜け切れなくなっていますが、値段を上げる工夫が必要。消費者も、安全で安いものはありえないと認識する必要があります。

質問者:B

新しいレストランを展開していくならどのようなあり方でいけばいいのか、企業が集積している丸の内エリアの社員食堂を変えるヒントがあればと。

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柴田氏

この先導的な場所で高給取っている方が安い食べものを選択する価値観は、ぜひ転換していかなくてはならないと思います。国産を高く買う運動を展開していけば、デフレの悪循環を断ち切っていくことができるのではないか。値上げは価値を上げる、そういう方向で見直していかないと、デフレの罠からの脱却は難しい。市場原理の中では駄目なわけですから、運動を起こす必要があると思います。

レストランも共通の価値観を出して、国産品を100%使っているならグリーン、50%以上であれば何色と分けて、ランクを付けたらいいんじゃないでしょうか。

■足りないのは資源ではなく智慧
質問者:C

お金があっても買えない食糧争奪戦が起きるのではと心配です。

柴田氏

そろそろ国も、国民の食糧として何万トンの確保が必要か出す時期に来ています。1200万トンあれば安心、ギリギリのところが800万トンではないかと考えているのですが、来年もう800万トンを割ってくるんです。

つまり農業保護ではなくて地域資源の保全だという考え方で、国の政策的な対応がなされていく必要があるということです。

それから日本の水資源のフル活用を、今一度考えたほうがいい。38万平方キロメートルの国土の年間平均降水量は4000億トンですが、そのうち800億トンしか使わず、あとはみんな海に流れています。

竹村氏

地球は無限ではない、有限だ、だから足りないんだと思考停止するのではなく、創造的制約が必要です。資源が有限なのではなく、私たちのソーシャルデザインの未熟さが有限性をつくっているのです。

リサイクル問題にしても、捨てている2000万トンの食糧や下水など、リサイクル可能な資源がまだいくらでもあるわけです。もともと日本の水田には琵琶湖の3倍分ぐらいの貯水量があったのに、休耕田がこれだけ増えてポテンシャルを有効利用できていません。

柴田氏

エネルギーも、単なる燃料として使われてきた部分が非常にもったいない。石油なども、燃やして終わり、だけではない、資源としての有効な使い方を考えていかないと。

竹村氏

先ほどの「太陽エネルギーを効率的に貯蓄する産業としての農業」という提言は、至言です。石油だって実は、高度に濃縮された太陽エネルギーです。燃やして終わり、ではなく、ソーラーパネルでも太陽熱温水器でも他の太陽エネルギーの循環に代替させて、資源としての石油をもっと高度利用することが可能なはずです。

トータルな産業ビジョンの中に、農業、エネルギー問題、スーパーカーボンファイバーなどの高付加価値産業も位置付け直す必要があります。

以前から、低炭素化は思考停止の知的怠惰だ、単なる免罪符だと感じていました。もっとクリエイティブに、低炭素じゃなくて新炭素産業、新炭素社会をつくる。スローな水の貯留、太陽エネルギーの貯留装置として考える農業は、ぜんぜん違う意味合いでみえてくるはずです。

柴田氏

その姿は、地域ごとに組み合わせもバランスも違ってくるはずで、それが地域からの発想になるわけです。


■三つの備蓄と智慧の継承

竹村氏

今日のお話を聞いて、3つの備蓄があると思いました。

まず、穀物の備蓄。アジア連合的に地球の安全保障としての食糧備蓄体制を考えていくグローバルセキュリティ。次に、質の備蓄ということで、世界のゲノム資源を地球公共財として担保していく体制。生物多様性条約みたいなこともかかわってくるでしょうね。
第3の備蓄は、水田を含めた農業資源など、生産装置の備蓄です。日本は、労働の成果をすべて道具や機械の発達に外化するのではなく、文化の型として、水田や灌漑施設にソフトウェアの蓄積をしてきました。

おかげで何世代にもわたって効率的な再生産を可能にするような、文化としての国土、人工自然をつくってきたわけです。こういうソフトウェアを備蓄対象として位置付けていく経済学が必要です。

よく人財といいますけれど、ソーシャルキャピタルが人間に蓄積されている度合いをどのように評価されていますか。

柴田氏

昔は篤農家と呼ばれる、生活や農業に関するあらゆる知恵を持っておられる方がどの地方にも必ずいたわけです。そういう知恵を吸収していく運動が必要だと思います。


■規模や興味の多様性を許す農業経営に

質問者:D

農業法人経営です。私は、農業衰退の原因は外的要因だけではなく、農業者が工業的な考え方でレタスやキャベツをボルトやナットのように生産していたこともあるのではないかと思っています。いろいろな運動を起こすにあたって、農業者意識から変えていく必要があると思います。

柴田氏

農業資源をフルに活用しつくす観点でいくと、規模拡大だけでは限界があると思います。 単一栽培で規模を拡大して価格競争をする経営者はごく一部でいい、傾斜地や棚田など、様々な条件を生かす農業のあり方、あるいは個人の家で鶏や豚を飼い、お蚕さんもやり、畑も田んぼもあるような複合経営がもっと出てきてもいいのです。

それから「上を見て見習うのではなく下を見て安心する」今までの農業を変えていかなくちゃいけないですよね。


■水田のフル活用こそ安全保障

質問者:E

食料の安全保障と豊かな食生活の維持のバランスに関してご意見を。

質問者:F

適正な価格を出していくことで変われる人だけが変わっていき、所得が減って家計が厳しくなって食費を削るような、取り残されていく人が出てくるのではないか。

質問者:G

TPP問題は、どう考えたらいいのか。

柴田氏

まず食の安全保障についてですが、農地460万ヘクタールのうち、水田は260万、200万が畑です。後者は創意工夫がなされて経営的にもうまくいっていますが、心配なのは260万ヘクタールの食糧の「糧(かて)」のほうで、今回の震災でも真っ先に無くなったのが米や小麦粉製品でした。

取り残された人に対しては、地域によっては米の配給制も導入したらいいんじゃないかと思うんです。

水田をフル活用し、競争力のあるものは輸出に活路を開き、平均的な質の過剰米は配給する。そして安くならざるを得ないものは餌米にすればいい。それからTPP問題は、あれかこれかの話ではなく、あれもこれもの話だと思っております。「農業資源を保全できるのか。米は新潟コシヒカリを除いて壊滅だ」という見方ですが、放射能の問題をクリアした後は、むしろ輸出の可能性が高まると思う。私は、水田をフル活用することが、食の安全保障につながると思います。

□まとめ

■消費は能動的なソーシャルデザイン行為である
竹村氏

かつての安い石油や穀物を前提とした時代感覚のままであれば、国を開くことで日本の農業が駄目になるのかもしれませんが、開いてこそ日本の農業の価値を再発見、あるいは新たな文脈で新発見できると思います。もちろん、淘汰されるものはあり、良質なものが残り、それが世界の市場を獲得するでしょう。これは勝負できるというだけではなく、量的にも質的にも世界の食糧安全保障に貢献できることも意味します。

消費は無駄や悪ではなく、能動的なソーシャルデザイン行為であり、どこの何に出資することになるのかが見えれば、選んで買うことは未来への投資になるのです。

地産地消、顔の見える関係で安心というだけに安住していいのか。世界の状況も踏まえたうえで、丸の内にどんな食の空間をデザインしていくかを来月議論してみたいと思います。


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