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【CSRイノベーション・番外編】FSW合同開催 「組織変革ダイアログ×CSRイノベーションワーキング『イノベーションを考える』」会員限定

2014年6月9日(月)開催

科学的イノベーション組織論

6月9日、Future Session Weekと、エコッツェリア協会のCSRイノベーションワーキンググループ(WG)がタイアップしたセミナーイベントが開催されました。

タイトルは「組織変革ダイアログ×CSRイノベーションワーキング『イノベーションを考える』」。オープンイノベーションの必要性が叫ばれる一方で、組織が抱える構造的な問題がそれを阻んでいる現実があります。それをいかにして乗り越えるのか。ゲストスピーカーに経済産業省の梶川文博さん、元産業革新機構の執行役員で、現在は一般社団法人Japan Innovation Networkの西口尚宏さんをお迎え。このおふたり、実はいわばプルアップ型オープンイノベーション推進の両雄ともいうべき存在です。大企業からイノベーションは生まれないという定説を覆すために、企業のトップを説得し、トップダウンの組織作りを促したり、行政の制度改革などにも取り組んでいます。イノベーションの現場の多くはボトムアップ型ですが、その逆サイドから果敢に攻め立てる心強い先達というわけです。

今回は、海外の事例も交えながら今日本が直面している問題の本質に迫りました。CSRイノベーションWGのメンバーに加え、多くの来場者も交え、いつも以上に熱量の高い議論が展開されました。

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イノベーションを支えるのは個人のモチベーション

原体験は父がぶつかった障壁

経済産業省の梶川文博さん

梶川さんは、経済産業省でフロンティア人材研究会を発足させた人物です。今回は「組織ありきの議論ですが、本当に大切なのは個人のモチベーションなのではないかと思う」とし、「"イノベーションと私""組織におけるイノベーション"の2段構成でお話しします」と、スピーチを始めました。

梶川さんがオープンイノベーションを考えるようになったのは、「父が脱サラして、『会社の作り方』という本を買って帰ってきたこと。この人大丈夫かなーと思いながら、父を手伝った」ことが原体験になっているそうです。

当時梶川さんは18歳。ホームページを作ったり、駅前でティッシュ配りをしたりしながら、銀行や投資家からなかなか相手にされない父の姿を見て考えさせられたそうです。「大企業の部長クラスでも飛び出してしまえば、すぐにはうまくいかない。独立は難しいという現実を知りました。クリエイティブなアイデアを実行できる人はただでさえ少ないのに、尊敬もされない。これからは、フロンティアを切り拓くタイプが必要で、そうした人をポジティブに評価できる社会にしていかなければならないのではないか」という思いを抱くようになり、経済産業省に入省。ITイノベーション、デザイン関連の部署を歴任した後、2010年から人材政策に関与するようになりました。

「当時はグローバル人材の育成が叫ばれた時代。その中で、人材政策の担当としてフロンティア人材研究会を立ち上げ、その後、人事に異動し、組織開発、組織の活性化を目指すように。しかし、「こういうシステムを作ればいい、と言うのは簡単だけど、実際担当して作り上げていくのは本当に大変だなあと感じています」

技術だけではイノベーションは起きない

一般社団法人Japan Innovation Networkの西口尚宏さん

西口尚宏さんは、アメリカでのビジネス経験を元に、経産省ほか政府の主要な委員を歴任し、2009年から官民ファンドの株式会社産業革新機構の執行役員として機構の立ち上げに尽力し、フロンティア人材研究会の委員も務めています。その後、革新機構を退職して、イノベーションに向けたエコシステム作りのために、自ら発起人となり一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)を設立。「イノベーションを起こす企業を100社作る」を目標に掲げ活動しています。

その西口さんが強烈に問題意識を感じたのは産業革新機構での経験からです。産業革新機構は先端技術の事業化を目指す2兆円の官民ファンドで、毎日たくさんの投資案件が持ち込まれます。しかし、それには明確なパターンがあり、そこに違和感を覚えたのが最初のきっかけです。

「みなさん、純粋に『自分が考えていることを実現したいんだ!』と考えておられます。私たちもワクワクしながらお目にかかるわけです。しかし、実際には、ほとんどの会話がいかに自社の技術が素晴らしいかという話になり、事業モデルの話にならないことが多かった。多くの方が、技術があるから大丈夫って仰るのですね。1人や2人ではなく、ほとんどの人がそうだったことに、ある共通のパターンを発見し、そこを解決したいと思うようになりました」

問題は技術と事業が乖離していることです。これをどうすれば合体できるのか。模索する中で出会ったのが、元ソニー社長の安藤国威さん(現ソニー生命保険株式会社会長)でした。

「安藤さんと、さまざまな試行錯誤をご一緒にさせて頂きました。確かに技術と事業を合体するのは難しいと。また、技術を持っている人と、事業化できる人をマッチングしてもうまくいかないのだということも分かりました。技術だけでもだめ、人のネットワークだけでもだめ。じゃあ何が必要なのかと。そのころフロンティア人材研究所を立ち上げましたが、政策提案を行うだけじゃだめだと。実行しなきゃだめだということで、実行する組織としてJINを立ち上げたのでした」

「イノベーション」はグローバルスタンダード

フィンランド・Aalto大学が養成しようとしているのは、多領域を横断的に理解し実践する人材だ(2012年3月 経済産業省 フロンティア人材研究会報告書より抜粋)

第二部からはいよいよ組織論に移ります。それに先立ち、梶川さんから世界がどのように動いているのか、概況が語られました。

1600年代からの世界経済の重心を見ていくと、17世紀には中国とインドで50%を占め、その後400年で重心は欧米に移ります。2000年にはアメリカ31%、西欧22%。中国は4%に過ぎません。しかし、中国は「世界の工場」として復活し、2030年には24%にまで盛り返します。経済規模の指標にもなる一次エネルギー消費量も、中国を筆頭に世界的に増加の一途をたどります。

「こうした経済活動の推移を背景に、今、世界では国際的なイノベーションの競争が始まっている」と梶川さんは指摘します。それによると、アメリカは大学が中心となった民主導でイノベーションに必要なシステム・組織の形成に取り組んでいます。特にグリーン分野では政府も積極的だそう。
中国は「世界の工場」からの脱却を目指し、国家レベルでは高度な技能を持ち、イノベーション力のあるリーダーを育てることを目的に人材育成ネットワークを構築。地方行政レベルでも人材育成に取り組んでおり、寧波では「スティーブ・ジョブス養成プロジェクト」が2020年までに2800人の「ジョブス」輩出を目指しているそうです。

北欧では「ユーザー起点イノベーション」を目指す官主導の取り組みが始まっています。ユーザー起点イノベーションとは、先行する先端技術からイノベーションを起こす「技術探求型」とは異なり、消費者=ユーザーに対する洞察(インサイト)からニーズを汲み出しビジネス化する志向性のこと。端的な例では、フィンランドで2010年に設立された「アールト大学」が挙げられます。ヘルシンキ工科大、ヘルシンキ経済大、ヘルシンキデザイン大という3つの大学が合併されたもので、「日本で言えば一橋大、東京工業大と東京芸大が合併したようなもの」。ビジネスとテクノロジー、デザインという異分野を横断的に身につけた人材を育成し、イノベーションにつなげていこうとしています。

「新事業創造を牽引する人材」は決定的に不足しているか、または効果的に運用されていない(2012年3月 経済産業省 フロンティア人材研究会報告書より、「新事業創造と人材の育成・活用に関するアンケート調査」のデータを孫引き)

ひるがえって現在の日本のイノベーションの現場はどうなのでしょうか。2011年から12年にかけて上場企業など約300社を対象にしたアンケート調査を元に、現在の日本の企業が陥っている傾向を明らかにします。

「おおよそ8割の企業で新事業の創造(イノベーション)に取り組む現状に満足していないにも関わらず、4割以上の企業が、そこに十分な人員を投入できていないと認識しています。しかも、そのための『フロンティア人材』が社内にいない、もしくはいても活用できていないという回答が6割いるのです」

そして、会場に問いかけます。
「イノベーションを生み出す『人材』について、何が課題だと思いますか?」
「また、組織として、どのようなことがボトルネックになっていると思いますか?」

「インサイト」の不足、「エコシステム」の欠如が課題

イノベーションのプロセスを解体、分析したプロセス図

イノベーションのための組織論もいよいよ佳境。梶川さんの分析を受けて、西口さんが再びマイクを取ります。「さて、そもそも『イノベーション』とは何でしょうか」。この問いに会場から答えはありません。西口さんによると、今世界で認識されているイノベーションの定義とは、

「インベンション(発明)とインサイト(洞察)を掛け合わせて、経済的・社会的に新しい価値を生み出すもの」

日本では、技術探索型のイメージが強く、イノベーション=技術革新という考え方が主流かもしれません。しかし、イノベーションは技術上の発明(インベンション)だけでは決して成り立たないのです。前半で西口さんが例に挙げた産業革新機構での体験――技術者が発明した技術をとうとうと語るばかりであったのは、インベンションはあっても、インサイトが欠けていたということを物語っています。

「もはやイノベーションが属人的能力や経験の拡大によっていた時代ではありません。世界的には、すでにイノベーションは"サイエンス"にシフトしており、そこに気づかなければ先に進まないでしょう」と西口さん。
サイエンスであるということは、プロセスが分析され、再現可能なものになっているということです。それによると、イノベーションには(1)問題意識 (2)コンセプト (3)事業モデル (4)事業計画 (5)事業立ち上げ (6)事業拡大という6つのプロセスがあり、1~3は「事業創造ステージ」、4~6は「事業立ち上げ・発展ステージ」と呼ばれます。この事業創造ステージがインサイト部分にあたり、「これは白いキャンバスにデッサンを描くようなもので、日本では決定的にここが弱い。インベンションは他から持ってくることが容易な時代になったが、インサイトばかりはないと始まらない。世界的にもここを強化する動きが盛んになっている」と西口さんは言います。

さらに、イノベーションの素養を持った個人がいたとしても、企業が内部の障壁にぶつかり自由に活動できないこと、企業内ではイノベーションを押し潰す力学が働くことが問題であると指摘します。

「経営者が、個人のイノベーターの活動に過度に期待しすぎ、組織的なイノベーションの必要を切実に感じていないのも問題なんですよね。しかも、社内には『えせ正義の味方』がいて、『前例がない』と足を引っ張る。えせ正義の味方は、それが悪いことだと自覚がなく、むしろ正しいことをしていると思っているのが性質の悪いところです」

課題解決のための組織作りとは

イノベーションに向けたエコシステムの概念図(JINのサイトより抜粋)

ではどうしたらよいのでしょうか。
ひとつ目は「経営を二刀流にすること」と西口さん。企業経営は創業期から拡大期に入ると、効率的かつ計画的な経営に移ります。これは現状維持のための経営であり、このフレームの中でイノベーションをしようとしてもうまく行かないのは当たり前。 「現状維持の経営だけだと1階建て。探索や試行錯誤をするための2階建ての企業にしなければイノベーションは生まれないのです。企業のトップがやるべきはここであって、やらない企業はいずれ潰れるでしょう」

西口さんのふたつ目の提案は「社内にエコシステムを作ること」。ここで言うエコシステムとは、「新事業創造に必要な人材とそれを取り巻く環境の諸要素を一まとめにして、それぞれが相互に作用しあう状況」を指します。

「組織的なインフラと、新しいアイデアを後押しする組織プロセスや『加速支援者』の存在も重要。大切なのは、えせ正義の味方がいることを前提に組織化すること。また、イノベーションのプロセスは"掛け算"であることを踏まえること。プロセスの途中にひとつでもゼロがあればすべてがゼロになる。これを進めるには、経営者からのトップダウンが絶対に必要です」

西口さんがJINで企業経営のトップを相手にイノベーションの必要性を説くのはこうしたコンセプトが背景にあるのです。さらに、「日本ではシリコンバレーはできない。日本がこれから飛躍的に成長するためには、各企業のエコシステム同士が連携し、より大きなイノベーションに取り組んでいく必要がある」。そのために西口さんは、日々「全力で駆け回っています!」。

企業内のエコシステムが横断的に連携することで日本にしかできないイノベーションができるはずだ(JINのサイトより抜粋)

ラストアップはその目で

最後に、もう一度会場に問いが投げかけられました。
「あなたの組織でイノベーションを起こすのに、どのようなアクションを取ると、世の中が変化しそうですか」
「また、日本全体でどのような取り組みが始まるとポジティブなスパイラルが生まれると思いますか」

今回は、クレアンの水上武彦さん、フューチャーセッションの野村恭彦さんがテーブルについてグループワークに参加するというサプライズもありました。途中途中で投げかけられた問いも含め、各テーブルでは熱いグループワークが行われました。ラストアップではさまざまな解や考えが提示されましたが、もちろん簡単に答えが出る問いではありません。しかし、こうしたプロセスを共有し、同じ問題意識を持つことが課題解決の第一歩であることは言うまでもないでしょう。

ラストアップでどのようなトークが交わされたのか。それは現場でこそ聞いて、感じてほしいことなので、今回は敢えてここには記しません。ぜひ次回からのCSRイノベーションワーキンググループに参加して、体感してください。


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