イベントCSV経営サロン・レポート

【レポート】ブロックチェーンで広がる再エネビジネスの可能性会員限定

2018年度第1回CSV経営サロン 2018年8月7日(火)開催

7,9,12

今年で8年目を迎える「CSV経営サロン」は、環境やCSR、CSV、SDGsに関する潮流や活動について学び、交流するためのビジネスサロン。環境街づくりをテーマに、環境問題、SDGs活動等に取り組む経営者や専門家によるプレゼンテーションと、"道場主"と呼ばれる主催者とのセッション、参加者同士でのアイデアシェアリングなどにより、環境街づくりに向けた知見の拡大と深度化を目指しています。

2018年度第1回は、"道場主"と呼ばれる小林光氏(エコッツェリア協会理事、慶應義塾大学大学院特任教授)の「SDGsを念頭に置きながら進めていくことは昨年と変わりませんが、今年度では、2020年以降のCSVビジネスの可能性を探ることを考えていきたいと思っています」というコメントで幕明けしました。今年度からは、昨年までのワークショップ形式ではなく「スクール形式」で実施。第1回のテーマは「現実化するスマートグリットと当たり前化する再生エネルギー」で、アメリカから帰国したばかりの小林氏による現地事情報告、ゲストであるみんな電力株式会社の三宅成也氏のプレゼンテーション、そして主催者を含む参加者による質疑応答などが実施されました。

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トランプ政権誕生で、アメリカの環境取り組みはどう変わったか

トランプ政権誕生で、アメリカの環境取り組みはどう変わったか

最初に、1年ぶりに当サロンに復帰した小林氏によるアメリカの事例報告が行なわれました。小林氏は2017年から2018年にかけて、フルブライト派遣教員としてイリノイ州ネイパービル市のノース・セントラル・カレッジで教鞭を執りました。

「1年間も不在にしていたお詫びに、アメリカの環境取り組みの最新状況をお伝えしたいと思います。研究目的で渡米したわけではないため多くの情報に接したわけではありませんが、空き時間を見つけては、大都市のシカゴ、公害疲弊都市のピッツバーグやドノラを訪れて見聞を広めてきました。そうした地方都市の現状に加えて、トランプ大統領の登場によって、環境政策にどのような影響を生じているかを簡単に報告させていただきます」

2017年にアメリカ大統領に就任したトランプ氏は、オバマ前政権が地球温暖化対策として導入した行動計画など、環境問題をめぐる構想や規制の撤廃を表明。国内産業の育成やエネルギー安全保障を重視する観点から、国内産の原油や天然ガスなどの使用を増やすことを重視し、環境保護や温暖化対策を優先するオバマ前政権の政策を大転換する方針を明確に示しました。議論を呼んだ、パリ協定からの脱退表明もそのひとつです。それらの影響について、小林氏は次のように述べます。

「例えば、"パリ協定"からの脱退表明でが、同協定は発効から3年以内は脱退できませんし、手続きにも時間がかかるため、現時点でアメリカは脱退していません。今のところ、義務もきちんと果たしています。オバマ前政権が導入した石炭火力発電所への厳しい規制の撤廃も表明し、新制案を発表する計画でしたが、現在までに代替プランは完成しておらず宙ぶらりんの状態になっています。また、再生可能エネルギー(以下再エネ)基礎研究予算のカットを表明しましたが、議会がそれとは異なる判断を下していることから、予算カットもそれほど進んでいません。このように、方針はいろいろと表明しているものの、何か具体的に大きな変化が起きているわけではなく、実害はほとんど出ていないといっていいでしょう」

とはいえ、「小さな影響は出ている」と小林氏は指摘します。

「ネガティブな影響から申し上げると、税制改正で、外国製のPVパネルへの課税が強化されたことにより、新規の太陽光発電の原価を押し上げています。加えて、連邦政府所有地での地下資源開発に関して、土地借用に至る許可のハードルが下がるようになったほか、公害規制法違反に対する追求が甘くなるといったケースも見受けられます。一方で、規制の緩和・撤廃作業に忙殺されているのか、再エネ関係の連邦補助金の廃止まで手が回らず、補助金が今も継続されているなど、まったく影響が出ていない分野もあります。そのため、規制緩和が進むと同時に補助金を獲得できるといった、一挙両得のような"おいしい"状況が生まれることが期待されるなど、歓迎すべき影響も想定されます」

続いて、アメリカの地方都市における環境取り組みについての紹介が行なわれました。小林氏が滞在したのは、人口約15万人のイリノイ州の小都市・ネイパービル市。小林氏は、「環境取り組みが盛んなことに驚いた」と述懐します。

「アメリカの中でも珍しく、同市は公営による電力供給が行なわれていました。全契約者のスマートメーター化を実施することで、無駄な電力供給の削減に努めています。日本よりもはるかに進んだ取り組みがなされていると感じました」

その他、シカゴやピッツバーグ、チャタヌーガなどを訪問した経験を披露。「市役所の一般職員でも、日本では環境に最も熱心な職員と同レベルの議論ができる。人的資源が潤沢な印象を受けました」「環境規制撤廃に向けたトランプ大統領の努力にも関わらず、アメリカは州の権限が極めて強いため、連邦政府が右を向いても州は我が道を行くようなところがあり、環境については州間格差が開くことが予想されます。企業も住民も州を選びますから、その格差はどんどん広がっていくのではないでしょうか」という考察で報告は終了しました。

価格以外の要素で、電気が選べる時代を

次に登壇したのは、みんな電力株式会社の取締役事業本部長・三宅成也氏。みんな電力は、ブロックチェーンを活用した新たな電力取引の仕組みを提案するなど、ユニークな取り組みで知られる電力小売事業者で、誰もが電力の生産者となり、誰もが電気を自由に選ぶことができるイノベーティブなサービスの開発を推進しているベンチャー企業です。「一言で言えば、顔が見える電力を取り扱っています」と三宅氏。

2011年の東日本大震災を契機に、電力業界では2つの大きな変化が起こりました。ひとつは、固定価格買取制度(FIT制度)による再生エネルギーの買取制度の実現で、これにより誰でも発電所が造れるようになりました。もうひとつは、2016年4月の電力小売の自由化。現在までに多くの業者が電力小売り事業への参入を果たしており、組織・個人を問わず、ユーザは自由に電力会社を選べるようになりました。もっとも、参入業者の大半は価格競争による差別化に終始しています。電力は原価率が極めて高く、仕入値には大きな違いがないため、価格競争には自ずと限界があります。そうした市場環境の中でみんな電力が提供しようとしているのが「顔の見える電力」です。

「せっかく自由化したわけですから、太陽光や水力、風力、火力、原子力など、電気の由来である"電源"も選べるようにしたいというのが弊社の考えです。実際に、自分たちが使う電気の由来を知りたいというニーズは増えていますが、電気には色も匂いもついていないため、ユーザがその由来を確かめることはできません。そこで弊社では、再エネの小規模発電事業者たちをユーザに"見える化"することにより、ユーザが、自分が使う電気を造る生産者と直接つながることができる仕組みを提供しています」

RE100のサイトより

電気の由来を知りたいというニーズが増加している背景には、国内外で"RE100"への関心が高まっていることが挙げられます。RE100とは、「Renewable Energy 100%」の略。事業活動で使用する全電力を再生可能エネルギーによる電力で賄うことを目標に掲げる企業が加盟する国際イニシアティブ(2014年発足)で、サスティナブル経営の機運の高まりに呼応して、参画を検討する企業が相次いでいます。アメリカではアップルやナイキなど、現在までに100社以上の大企業が加盟しており、日本でもリコーや積水ハウス、イオン、丸井などが続いています。加盟には、「〇年〇月までに使用電力を再エネ100%にする」という宣言と、再エネ電気の調達計画を事務局に提出して審査を受ける必要があります。目標達成時期に関する決まりはないものの、調達方法については厳密な審査があることが特徴です。

「従来の電力供給は、言わば中央集権型。発電システムは大手が独占し、電源は火力や原子力などの"ミックス"が前提で由来が定かではなく、価格も電力会社が決めていました。自由化の恩恵で昨今では電力供給の世界は分散化が進んでおり、誰でも発電事業に参加できるようになっています。それを一段押し進め、電気の由来がわかるようになれば、価格ではない部分で電気を選ぶことができるようになります。まだ大きなムーブメントにこそなっていませんが、弊社がターゲットにしているのは、企業にしろ家庭にしろ、そうした"由来"にこだわる層です」

みんな電力は、それらの"こだわり"層にリーチするために、さまざまな取り組みをしています。

「ひとつは発電事業者を応援する仕組み。これは電気版のふるさと納税のようなもので、消費者は月に1回、100円の応援金を事業者に応援として贈ることができるようになっています。それを続けていくと、例えば牧場で発電している事業者からは、そこで採れた牛乳やヨーグルトがお返しとして贈られるという仕組み。また、アーティストが発電する電力の販売や、長期契約を結んでもらう代わりに発電所の命名権を付与するといったアイデアもあります」

電気には物理的な差異はありませんが、誰がどこでどんな電気を造っているかという点には意味を持たせることができ、その履歴を明らかにすることで"価値"が生まれ、その価値を取引することで新たな経済圏が生まれるというのが、同社の考え方。三宅氏は、履歴から生まれる付加価値を「選ぶ楽しさ」「おまけの楽しさ」「つながる楽しさ」「応援する楽しさ」と説明しています。

ブロックチェーンを介した取引で、電気を「見える化」する

前述のように、電気は無色無臭です。物理的な差が存在しない電気を直接取引できる仕組みとして、みんな電力が開発を進めているのがブロックチェーンを利用したシステム。いったいどのような仕組みなのでしょうか。三宅氏は説明します。

「電力小売事業者は、バランシンググループ(BG)という仕組みを持っています。電気の供給元である複数の発電所をまとめた発電BGと、電気の供給先であるユーザをまとめた需要BGがあり、発電BGで明日の発電量を30分ごとに予測し、需要BGも30分ごとの需要量を予測して、30分ごとの需給を合わせるようにしています。要はBG同士でトータルの需給バランスを見ていることになりますが、ブロックチェーンを応用すればBGの中の各々の発電所とユーザの間の個別取引に変えることができます。具体的には、それぞれの発電所で30分ごとの電力に対応する"トークン"を発行して、1キロワット時あたり『1電気トークン』で何円と示します。ユーザは必要な電力分に対応するトークンを入手します」

トークンとは、ブロックチェーンで定義された仮想通貨のようなものです。みんな電力のプラットフォーム上で取引が成立すると、取引量に対応するトークンが供給者からユーザのウォレットに移され、受け取ったトークン分の代金が課金されます。このブロックチェーンを使うことで透明性が担保されるとともに、取引の検証も可能になると言い、「どこからトークンが来たかで料金が決済される仕組みのため、発電所によって、あるいは時間帯によって料金を変えることもできます」と三宅氏は説明します。

簡単に言えば、電力のやり取りそのものは従来のBG間での需給マッチングそのままに、トークンを付加することで誰の電気が誰に買われたのかを明らかにできるわけです。

「まずは取引ではなく、各発電所の電気が誰に購入されたか、どこの発電所の電気を購入したかがわかるようにするトラッキングのサービスからスタートすることを想定しています。その次の段階で、個別の取引を手がけたいと思っています。なぜなら、これからFITの買取期限を過ぎた太陽光発電がたくさん出てくるからです。自宅の屋根などに太陽電池を載せて発電した電気を電力会社に買ってもらっていた人は、期限が過ぎたときにどうしたらいいのでしょうか。その解決策のひとつが、私たちのプラットフォーム。この仕組みができれば個人はプラットフォーム上で電気を売ることができ、かつてのような、巨大な電力会社が電気を生産して膨大な数のユーザに向けて売るという、旧態依然としたスタイルから脱却することができるはずです」と、三宅氏は力を込めます。

RE100では、電源の情報を明らかにできなければ、国際的には再エネ100%と認められません。ところが、日本で再エネによる電気だけを買うことは難しいのが実情です。その要因のひとつが、前述のFIT制度です。FIT下での電気は、大手電力が固定価格で買い取っています。再エネによる電気のコストは割高なので、そのぶんは再エネ賦課金として国民が負担しています。そのため日本政府は、FITを活用した再エネ電気について"環境価値はない"と位置付けています。つまり現時点では、太陽光発電が増えてもFITを活用しているかぎり、日本企業はRE100の目標達成には活用できないことになります。

その点、 みんな電力のプラットフォームは30分単位で取引する電気に発電事業者や電源の種類などの情報を付与して、その情報が付加価値を生むというもの。農産物でも生産者の情報に意味を見出す消費者がいるのと同じように、「例えば、故郷で造られた電気だったら、少し価格が高くても買いたいというユーザはいるはずです」と三宅氏。
RE100を目指す企業にとっても、使用する電気が誰にどこでどう作られたかという情報が付与されていることは魅力的で、みんな電力の試みは、従来のシステムを補完しつつ再エネ100%電気の入手の幅を拡大するという意味でも、環境にとっても、そして社会全体にとっても大きな意義があると言えそうです。

三宅氏の話は、「例えば、FIT切れの電気を各家庭など集めることは既存の大手電力会社なら簡単にできますが、それだけではイノベーションが起こりません。弊社のようなベンチャーがそのプラットフォームを提供することで、自由に電気に価値をつけて販売する電気のシェアリングモデルができればいいなと考えています。これまで大手が独占してきた富を分配するために、最もイノベーションと縁遠かった電力の世界にイノベーションを起こしていきたいと思います」という決意表明で締めくくられました。

小林氏や吉高まり氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ環境・社会ストラテジスト)、参加者からは、「自由化=価格競争という先入観を持っていたので、電気に付加価値をつけるという発想は目から鱗だった」「みんな電力の取り組みはユニークで新鮮。もっと宣伝すべき」といった感想から、「電源が選べるようになったら、原子力で発電した電気は安くする代わりに事故が起きたときはユーザが責任をとる、火力はCO2を出すので、火力由来の電気は高く販売する、といったようにさまざまな選択肢を取り入れたらどうか」という意見、「みんな電力は、会社として採算が合っているのか」「将来的に、電気のEコマースは可能なのか」といった質問まで多くの声が寄せられ、その一つひとつに、三宅氏はていねいに答えていきました。

第1回CSV経営サロンは、小林氏の「三宅さんのお話を聞いて、いずれは隣近所で電気を融通しあえるような未来になればいいな、と率直に思いました。今年度は、SDGsを念頭に置きながら2020年以降のCSVビジネスの可能性を探ることがテーマですが、エネルギーの問題はその根幹にあります。みんな電力のような取り組みを発展させることができればいいなと思います」という言葉で締めくくられました。

今回ご参加いただいた会員企業のみなさまは以下の通りです。

旭化成ホームズ株式会社
株式会社伊藤園
エーシーシステム株式会社
シャープ株式会社
ダイキン工業株式会社
東テク株式会社
日本郵政株式会社
前田建設工業株式会社
株式会社丸井グループ
株式会社三菱地所設計
リコージャパン株式会社
株式会社リコー
クラブツーリズム株式会社


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