イベントCSV経営サロン・レポート

【レポート】金融とコミュニケーションで、SDGsと企業活動の懸け橋をつくる会員限定

2017年度第4回CSV経営サロン 2017年12月25日(月)開催

「CSV経営サロン」では、「環境」をひとつの軸としつつ、社会問題の解決をどうビジネスにつなげていくか、検討を続けてきました。7年目となる今期のテーマは「東京オリンピック・パラリンピック(以降オリパラ)」と「持続可能性」についてです。

2017年度第4回の本サロンでは、地球環境と人々の暮らしを持続的なものとするためすべての国連加盟国が2030年までに取り組む目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」の17の分野のうちから、「パートナーシップで目標を達成しよう」というテーマを核として、SDGsと企業活動との関連を取り上げていきます。

なお今回は、現在アメリカ滞在中の"道場主"、主宰者・小林光氏(エコッツェリア協会理事、慶應義塾大学大学院特任教授)が教鞭をとる米国より一時帰国し、アメリカの"今"をレポート。三菱UFJモルガン・スタンレー証券のクリーン・エネルギーファイナンス部主任研究員、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科特任教授の吉高まり氏とともに、議論を深めていきます。

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ESG投資は、世界のスタンダートとなりつつある

ESG投資は、世界のスタンダートとなりつつある

「2017年の最後のサロンとなりました。SDGsとビジネスをどう組み合わせるのか。そしてステークホルダーに対し価値をどう伝えていくのか。難しいけれど実現すれば実りの多い課題です。そのヒントが見つかればいいと思っています」
小林氏のあいさつから、第4回経営サロンは幕を開けました。

最初のプレゼンターは、コムジェスト・アセットマネジメント株式会社代表取締役の高橋庸介氏です。同社は、フランス系の資産運用会社コムジェスト・グループの日本法人であり、ESG(Environment、Social、Governance)投資の本場である欧州と日本との違いなどを実感として語って頂けそうです。

「弊社は、長期で成長が望める会社の株式をじっくりと保有していくスタイルで、運用を行っています。そんな長期投資でもっとも大切なのが、ESGです。弊社のグループ本社があるフランスをはじめとした欧州では、1990年代初頭からESGを企業価値の評価対象とする動きが広まっていきました。特に労働組合の強いフランスでは、組合が提示する運用条件としてESGがありました。こうして、投資を通じてESGについて責任を全うする際に必要な6つの原則を明示した『投資責任原則』が発足した2006年より10年ほど前から、同様の活動が行われ続けてきました。一方の日本では、現在でもまだまだESG投資は盛んとはいえず、弊社のようにESGを調査、分析した上で評価の軸のひとつとするのは、きわめて新しい取り組みです。なお、SDGsが採択されたのは2015年であり、ESGはそれ以前から存在していたわけですが、結果的に見れば、SDGsとESGは大体対応しているように思います」

ESG投資に対しては、「リターンが薄い」というイメージがつきまといますが、「それは勉強不足である」と高橋氏は指摘します。
「長期投資においては、ESGという指標は非常に役立ちます。持続的に成長していく企業は、EもSもGも持っており、だからこそ企業価値が上がっていくのです。弊社では、ESGに対する評価を4つのレベルに分類し、ディスカウントレート(将来における価値が、現在どの程度の価値を持つか)に反映しています。一番上の評価が『ESGリーダー』レベルで、情報開示が良好、十分ESGによる投資機会の恩恵を受けることができる企業です。そこから、『基本レベル』『最低限レベル』と続き、もっとも低い『要改善レベル』は、情報開示が不十分または開示なしで、ESGへの対策を取っていない企業となります。ヨーロッパでは要改善レベルの企業はほぼ存在しませんが、日本ではまだ散見されます。日本におけるESGリーダーの数も極めて少なく、欧州にくらべ10年、20年の遅れがあることは否めません。一方で、むしろこれから市場が成長していくという期待感もあります」

欧州ではスタンダードであり、世界的な潮流となっているESG。今後、日本企業がどこまで遅れを取り戻せるか、注視していくべきテーマです。
なお、運用会社に対し投資家が必ずする質問は、女性取締役の数、社員の満足度、退職率の3つだそうです。それを聞いた会場の参加者は、しきりにうなずいていました。

SDGsに関して、日本は"周回遅れ"の後進国

続いては、博報堂DYホールディングスの川廷昌弘氏が壇上へ。博報堂では、有志がボランティアでSDGsの日本語訳やアイコン作成を行い、現在ではそれが広く流通しているとのこと。

「そもそも、国際連合の公用語に日本語はありません。SDGsが採択されても、そのままでは日本に入ってこない。では、それを広めるのが広告会社としての社会的責任ではないかと考え、弊社のコピーライターを中心に翻訳作業を行いました」
「日本はSDGsに関して他国から大きく出遅れています。引用するのはまだ大企業ばかりで、一般的とはとても言えない状況です。世界においては、SDGsのアクションプラットフォームが構築され、そこに各国の企業が乗ってどんどん議論が進んでいます。世界目標であるがゆえに、投資家から見れば日本は後進国であり、周回遅れもいいところです。普及が遅れている理由のひとつに、経営層と中間管理職の考え方のギャップがあります。2017年の調査では、SDGsが大切だと思うと回答したのは、経営層で36%だったのに対し、中間管理職は9%に過ぎませんでした」

企業活動とSDGsの接点のひとつであるCSRに関して、川廷氏は以下のように述べました。
「広義においてのCSRの本質とは、エシカル消費(人体・環境への負荷、社会貢献などを重視して生産された商品やサービスを選択的に消費する行動及び理念)を当たり前にしていくことと、ESG投資やSDGsの視点を育成することにあると考えています」

ここで、川廷氏は1本の動画を紹介しました。日本の外務省がプロデュースした、SDGs普及のための映像です。 外務省は、「PPAP」の曲で知られるピコ太郎氏と協力して、SDGsを広く知ってもらう取組みを始めています。ピコ太郎氏は、PPAPのリズムに乗せて貧困の撲滅や教育の普及など目標の重要性を訴える動画をインターネット上で公開。その動画に加え、味の素株式会社による、「調味料とアミノ酸から乳幼児に必要な栄養が補えるサプリを作るとともに、その雇用を現地で生み出す」という取り組みなど、日本企業4社のSDGsに対する取り組みが紹介されました。

川廷氏は、映像を踏まえてこう述べました。
「まずはSDGsを知ってもらうことですが、その次のフェーズである"何をするか"というところに、ひとつでも多くの企業が入っていったらいい、と思っています」

なお、SDGsの理解促進ツールとして博報堂が作成した「ひとこと多い張り紙」というものがあります。以下のJANIC(国際協力NGOセンター)のホームページからダウンロードできるとのことなので、ぜひ一読してみてはどうでしょう。
http://www.janic.org/world/sdgstool/

道場主が語るアメリカの"今"とは

 最後のプレゼンターは、小林氏です。『米国にしっかり根を張るエコロジー 米国滞在印象記』と題し、アメリカの今をレポートしていきます。
「現在のアメリカは右傾化していると思っていましたが、肌感覚としては違いました。学生たちに聞けば、温暖化の懐疑派はもはやおらず、環境分野に関する注目度も高かった。そして、自国が政治的に分断されている状況を深く憂慮していました」

小林氏が滞在しているイリノイ州ネイパービル(シカゴ近郊)は環境都市であり、家庭廃棄物のリサイクルや有害廃棄物の回収体制づくりで全米をリードしています。また、カリフォルニア州ピッツバーグでも、公害を克服した過去をばねとして持続可能な都市像の具現化を目指し、2035年には再生エネルギー使用100%という目標を掲げています。 「このように自治体レベルで取り組みが進んでいるところがいくつもあり、エコロジーがしっかり根を張っているという印象でした。現在ではトランプ大統領の方針により、環境保護局の温暖化部門の解体や、過去の文書へのアクセス不可などの逆風が吹いています。しかしそんな中でも、アメリカ経済に大きな影響力を持ついくつかの州などが引き続きパリ協定を順守することを宣言し、経済界も二分している状況です。こうして環境分野で進む分断を、なんとか克服することがアメリカの課題といえるでしょう」

3人からのプレゼンテーションの後は、恒例のディスカッションタイムです。各テーブルに座る5~6人のグループで話し合いを行い、意見をひとつに集約して発表し、プレゼンターの面々とともに議論を深めていきます。
「SDGsが大切なのはわかるが、コミットメントがないと投資対象にはなりづらい」「まずサスティナブルなビジネスモデルを作り、そこにSDGsを反映していくという手順が必要ではないか」......。各テーブルで、議論が白熱しました。

外圧を強調し、SGDsを社内へ広めていく

その後、ディスカッションの発表です。主だった内容と、講師陣の回答を要約します。

発表者「資産運用側として、ESG投資が今なぜ必要なのか顧客に説明するにはどうしたらいいか」
高橋氏「ESG投資は非財務情報と言われるが、私としては"未"財務情報であると思っている。例えば野球で、明日の試合に出る選手を決めるときは、最近のデータで選ぶ。これが財務情報にあたる。それに対し、選手の普段の練習内容や、身体のケア、食事の内容などの情報が未財務情報であり、その影響は未来で強くなる。だから運用会社としては必要な情報であると言える」

発表者「CSR担当としてSDGsの大切さを訴えているが、なかなか状況が変わらない。どう社内に理解を促せばいいか」
川廷氏「理解促進に成功している企業は、経営者がリードしているところが多い。IRと協調して情報発信していくのがポイント。財務側がある程度踏み込んだ行動に出ないと、経営者は動かない。CSRとIRでは文化も思いも違うだろうが、それをどう調整するかがカギとなる」

発表者「SDGsを浸透させるためにはトップのコミットメントが重要だと思うが、経営者に対してどのようにアプローチすればいいか」
川廷氏「ESG投資が世界的に注目されている中で、今動かなければならない、という意識にさせる必要がある。経営者が読むメディアでもSDGsの話題は出てきているはずで、そういったニュースをうまく経営層と財務領域に見せて、会社全体を巻き込めるといい」

そして最後に、小林道場主から総評のコメントがありました。
「SDGsで掲げられた目標というのは、今後の社会に対して相当のインパクトを持っています。それを会社に理解してもらうには、やはり内圧よりも外圧を強調したほうがいいと思います。世界の現状を改めて訴え、取り入れなければ時代に取り残される、というような意識を醸成していく。そのためには、今日サロンで得た情報がきっと役立つはずです。みなさんの奮闘を期待しています」

会場は一体感のある拍手に包まれ、本年度最後のサロンは終了しました。
終了後には懇親会が開かれ、参加者は互いにリラックスして、思いのたけを述べ合っていました。こうして人脈が広がるのも、サロンの魅力のひとつといえるでしょう。

今回ご参加いただいた会員企業のみなさまは以下の通りです。

株式会社伊藤園
エーシーシステムサービス株式会社
清水建設株式会社
シャープ株式会社
ダイキン工業株式会社
日本郵政株式会社
パナソニック株式会社
東日本電信電話株式会社
前田建設工業株式会社
三菱地所株式会社
三菱電機株式会社
株式会社アルシェ
株式会社ヴォンエルフ
株式会社公文教育研究所
一般社団法人Japan Innovation Network
西武信用金庫
浜松市東京事務所
ビオセボン・ジャポン株式会社


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CSV経営サロン

環境経営の本質を企業経営者が学びあう

エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。

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