イベントCSV経営サロン・レポート

【レポート】都市の課題「暑熱対策」、どうビジネスにつなげるか会員限定

2018年度第2回CSV経営サロン 2018年10月29日(月)開催

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「CSV経営サロン」では、「環境」をひとつの軸として、社会問題の解決をどうビジネスにつなげていくか、検討を続けてきました。8年目となる今期は、前年度に引き続きSDGsを念頭に置きつつ、社会や経営という視点も意識し、2020年以降のCSVビジネスの可能性を探っていきます。

第2回のテーマは、「涼しい街づくりをビジネスにする」。2020年の夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、暑熱対策がひとつの課題となっています。ヒート・アイランド現象など都心の気温上昇も問題視されている中で、場当たり的な対策で終わらせずに東京を持続的な「涼しい街」にするには、公と民の連携により、双方に利益のある取り組みを行うことが欠かせません。

今回も、"道場主"としておなじみの小林光氏(エコッツェリア協会理事、慶應義塾大学大学院特任教授)と、吉高まり氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券のクリーン・エネルギーファイナンス部主任研究員、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科特任教授)が司会進行を務めます。

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東京オリ・パラは、非常に過酷な環境下になる

東京オリ・パラは、非常に過酷な環境下になる

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まず壇上に立ったのは、都市工学の専門家である、東京大学大学院工学系研究所教授の横張真氏。「暑熱対策と都心の緑 2020年東京オリンピック・パラリンピックとそのレガシー」がテーマです。
横張氏は、東京と過去約30年の夏季五輪開催都市の比較研究などから、明らかになってきたことがあるといいます。

「過去のオリンピック開催都市の開催月の気候と比較すると、東京の夏は、気温だけとれば"暑い"というレベルです。しかし注目すべきは湿度の高さです。一口でいうと東京の夏は極めて"蒸し暑い"。湿度が高ければ、汗が蒸発しづらくなり熱中症になるリスクが増大します。それらを考慮すると、東京オリ・パラはこれまでで"もっとも過酷な暑さ"であるといえます。数々の競技の中でも特に厳しい条件になるのは長時間屋外で行われる競技、とくにマラソンです。マラソンは本来、秋~冬~春の月平均が10~15度の間で行われるスポーツ。日本でも夏に行われる主要なマラソン大会は、7月に北海道にひとつあるだけです」

横張氏の研究チームでは、オリ・パラ開催時期である8月に、実際にマラソンコース(正式決定前のもの)を巡って、スタート時間など含め当日のランナーの環境と可能な限り同じ条件下でデータ測定を行いました。

「私たちは、得られた観測結果をCOMFAという評価モデルに代入して人体に対する危険度を算出しました。COMFAでは危険度が数字で表れ、数値が201~339の間は"危険"、そして340を超えると"極めて危険"という領域になります。それによると、そもそもレース開始から201を上回る危険な状態になり、30分もすれば340を超えて、極めて危険な状態に突入します。なお、観測当日は、比較的湿度が低かったのですが、悪条件が重なったワーストシナリオを作成し評価すると、レース開始直後から"極めて危険"な状態が続きます。この評価結果からすれば、マラソンなどやってはいけない、という結論になります」

横尾氏はさらに、危険なのはランナーだけではないと話します。

「過去の東京におけるマラソン大会の経験から、当日は50~100万人の観客が想定されます。中には、お年寄りや子ども、冬である南半球からいらした方もいるでしょう。仮に観客の0.1%が不調を訴えたとしても、その総数は500~1000人。オリ・パラによって渋滞がさらにひどくなる都心において、それらの方をスムーズに救急搬送するのは非現実的な話であり、観客の対処はもっとも大きな検討事項のひとつであるといえます」

そもそもなぜ、マラソンは日中に開催されるのか。時間設定には、IOC(国際オリンピック委員会)の意向が強く働いています。IOCは、オリ・パラの放映権を獲得した巨大スポンサーの意見を無視できず、結果的に「アスリートファースト」が疎かになる面があるようです。

「マラソンのスタート時間は、男女とも7:00です。これをずっと前倒し、深夜にスタートし日の出前にゴールすればリスクは一定程度下がるのですが、それができない事情として、深夜では映像としておもしろくないことや、警備上の問題、さらには競技関係者やボランティアの皆さんが所定の配置に着くための交通手段の問題等があるものと思います。いずれも、競技そのものではなく、それに付帯した様々な事情が、アスリートにとっては、より厳しい結果につながってしまっています」

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そうした状況の中、横張氏が検討しているのは、日陰の活用です。ビルの陰や緑陰を使うなどして、日向をできるだけ走らない・観戦しないで済むような工夫ができないか研究しています。

「オリ・パラ後も含めて考えると、街路樹や公園、緑地の在り方というのはひとつの課題です。都心部に緑を創出し、それを維持していくためには、公と民の連携がかかせません。現在は、都市公園法が改正され、民間事業者が公園を通じて営利活動を行なう代わりに利益の一部を公園の管理に還元するといった動きが積極化しています。例えば富山県の富岩運河環水公園には、スターバックスが進出。運河や桜並木、雄大なアルプスが織りなす景観に溶け込み、"世界一美しいスタバ"と呼ばれて集客に一役買っています。また、ニューヨークのブライアントパークでは、周囲の事業者と一体となった整備を行った結果、それまで昼でも近寄れぬほどに荒れていた公園が、現在は超人気のスポットとなり、公園がその地域のブランド価値を高める存在となりました。こうして公園の設置や維持管理と資産価値の向上がwin-win関係になるようなスキームを、東京においても積極的に考えていくべきでしょう」

ミストを使い、屋外での暑さ対策が可能

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続いては、暑熱対策を手掛ける"民"の企業のひとつとして、パナソニック株式会社が登壇し、暑熱対策ソリューションである「グリーンエアコン」について紹介しました。
まずはパナソニック株式会社アプライアンス社の寺野真明氏より、グリーンエアコン開発にいたる背景の解説がありました。

「温暖化が進み、ヒート・アイランド現象や都市形態の高密化で、都市部がどんどん暑くなっています。熱中症の患者も増加し、2015年の時点で5300名が搬送されています。そうして暑くなると、外出を控えることで経済活動が低下するという面もあります。それらを予防するには、屋外での暑さ対策が急務です。しかし、ただ涼めるスポットを作るだけでは、マネタイズは難しい。そこで、例えばバス停に当社の機器を設置し、利用者はもちろん、施設提供者には集客効果、地方自治体には住人の健康と安全の提供と、複眼的なメリットを提供する。それができれば、十分ビジネスになると確信しています」

image_csv1029-005.jpeg パナソニック株式会社公式サイトより

次に、同社の尾形雄司氏が、「グリーンエアコン」とはいかなるものか、その機能を説明しました。

「暑熱対策として、私たちは"ミスト"に絞り込んで、取り組んでいます。グリーンエアコンとは、ミストによってその場の気温を下げる機器です。屋外空間では、機器の冷却能力がその排熱量を下回ってしまうなら、結果的に周囲の温度が上がってしまいます。そうならずに冷却できるという点において、ミスト冷却方式がもっとも適していると判断しました。グリーンエアコンのミストは、水の粒子を10μm以下にしたことで、濡れることがなく快適に涼めます。冷却範囲は、直径2mエアカーテン内領域なら約5度(体感温度なら約8度)、エアカーテン範囲外となる直径4mでも1~2度の温度低下が見込めます。遠隔監視制御システムで気象条件を予測し、猛暑日にはしっかり冷やし、雨天時や涼しい日には自動で停止するなど、運用面の手間もおさえてあります。今後は公園やビル、バス停、スポーツ施設などに展開していきたいと思っています」

海からの「風の道」、いかに生かすか

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続いて、東京都都市整備局の開発企画より、阪井暖子氏が登壇しました。東京では現在、品川駅周辺で相当なボリュームの開発が動いています。そうした新たな街づくりにおいても、暑熱対策が課題となっているといいます。

「東京都にとって、品川の再開発は、これからの日本の成長をけん引する国際交流拠点の開発であるという位置づけです。品川は、羽田の玄関口など広域的な交通連結点であり、ものづくりの産業、技術の集積地でもあります。そうした強みを生かし、2027年のリニア中央新幹線開業も見据えて、計画的、一体的、総合的に開発を進めている最中です。具体的には、鉄道リニア関連の鉄道の整備、車、歩行者ネットワークの整備、ビル開発などの面的整備を、同時並行的に行っています」

そうした「新たな街」の誕生に向け、開発を誘導するにあたって、ひとつの壁となっているのが、「風の道」にまつわる問題です。

「海に隣接している品川駅周辺地区では、本来なら南南東よりやってくる海からの風が、都市の気温を下げてくれます。しかし高層ビル群が壁となってしまい、海からの風の道が塞がれた結果、ヒート・アイランド現象が起きているという問題認識がありました。再開発にあたっては、その風の道をいかに妨げないよう配慮する方法について議論され、風の道に当たる地区の建築物の高さを50mに抑えるというガイドラインを出しています。しかし、ビルを建てる開発事業者にとっては、高さ制限がそのまま容積の制限となり、開発利益率にも大きく影響します。開発と環境保全の両立が大きな悩みとなっています。ここにいるみなさまにも、ぜひ一緒に解決策を考えてほしいと思っています」

熱中症リスクを回避できるシステムの構想がある

学、民、そして公というそれぞれの立場からの意見が出そろい、「涼しい街づくりをビジネスにする」のが、一筋縄ではいかないことが、浮き彫りになってきました。
ただ、一方で、「涼しい街づくり」のヒントが得られるような暑熱対策の仕組みも立ち上がりつつあります。その役割の一端を担うのが、国立研究開発法人国立環境研究所です。
同研究所の山形与志樹氏より、研究所の取り組みについて紹介がありました。

「私たちは、気象観測、GPSからSNSまで多角的にビッグデータを集め、AIと組み合わせることで、都市レジリエンスの向上を目指しています。涼しい街づくりと間接的につながってくるものとしては、例えば、ヘリコプターの熱観測画像などを使って熱波リスクを評価し、そこに人のバイタルセンサーからとったデータも組み入れ、熱中症のリスクを回避できる意思決定支援システムを構想しています。こうしたシステムが完成すれば、私たちはうまくリスクを回避しながら、支障なく日常を送れるはずです」

同研究所の向井人史氏からは、気候変動適応情報プラットフォーム「A-PLAT」についての解説がありました。

「A-PLATは、今後予想されている気候変動に対してどのように適応したらいいかという、技術的情報を提供するものです。21世紀末の年平均気温は、日本で3度ほどあがり、特に北海道が大きく上がると予想されています。2015年に、環境省により『気候変動への適応計画』が策定されました。それにおいて、気候変動の影響がすでに生じている、またはその恐れがある7つの分野(『農業、森業・林業、水産業』『水環境・水資源』『自然災害・沿岸域』『健康』『産業・経済活動』『国民生活・都市生活』)が明示されています。これらは分野別に適応を検討していく必要があり、ぜひみなさまにもお知恵をお借りしたいところです」

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続いては、質疑応答です。参加者には付箋が配られ、そこに気になった点や感想を書き込み、主催者側がそれをまとめて、主だったものを発表していきます。そのいくつかを要約し、ここで紹介します。

Q「緑地整備により資産価値が上がるというソリューションが示されていたが、品川においてそれをうまく適用できる可能性はないか」
A「都市計画がずいぶん進んできている段階なので、現状では難しい問いだが、可能性はある。できて終わり、ではなく、施工後にも常に修正をかけていく、ファインチューンのアプローチが大切になると思う。また、品川でどうしても課題解決が難しいなら、他の地域にも目を向け、それを補完するような手法も検討の余地がある。東京全体を俯瞰して、暑熱対策を考える発想も必要だろう」(横張氏)

Q「パナソニック社のソリューションは確かに可能性を感じるが、夏以外の時期はどうするのか」
A「今のところ、夏以外の稼働は想定できていない。ただ、ミストを人以外、例えば農作物に使うというアイデアはある。濡れないというのは農作物にとってとても意味があり、病気になりづらく収穫量がアップするという効果も見えてきている。その他、家畜の環境改善などにも応用するなど、いくつか研究を続けている」(寺尾氏)

Q「公と民の連携について、都としてはどううながしていくのか」
A「個別の事案がないと、都として具体的に解答するのは難しいが、例えば、環境省が手掛けるETV(環境技術実証)事業の基準が2019年より変わり、対象技術分野の範囲が大きく広がる。それを活用することで、環境技術や製品の普及に対するサポートが受けられる。そうした制度を、ぜひうまく使ってほしい」(阪井氏)

議論はまだまだ深まりそうでしたが、ここで、タイムアップ。
最後に、道場主からの総評がありました。

「マラソン、暑熱対策の技術、そして品川の風の道......それぞれの方向性の話はだいぶでてきましたが、本サロンにおけるポイントは、それがビジネスにつながるかどうかです。いいことをして、儲けを出す。そのためには、やはり気象データや実証データによって説得力をあげる必要があると思います。そういった知見の共通プラットフォームを作るきっかけとして、本サロンはとても重要な意味があったのではないでしょうか」

参加者はいずれも熱心な様子で、道場主の言葉に対しうなずいていました。サロン後のお楽しみ、アルコールを交えた「ワイガヤ」の会において、さらに議論が深まったことでしょう。

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今回ご参加いただいた会員企業のみなさまは以下の通りです。

株式会社大林組
クラブツーリズム株式会社
シャープ株式会社
ダイキン工業株式会社
東テク株式会社
パナソニック株式会社アプライアンス社
前田建設工業株式会社
大成建設株式会社

CSV経営サロン

環境経営の本質を企業経営者が学びあう

エコッツェリアに集う企業の経営者層が集い、環境まちづくりを支える「環境経営」について、工夫や苦労を本音で語り合い、環境・CSRを経営戦略に組み込むヒントを共有する研究会です。議論後のワイガヤも大事にしています。

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