イベントCSV経営サロン・インタビュー

【環境経営サロン】映画作りが、環境に貢献する時代会員限定

環境への取り組みが、映画制作の質を上げ、大きなメリットになる

2013年11月29日、エコッツェリアにて第4回「環境経営サロン」が開催された。
ゲストスピーカーの平林美枝子氏(株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントコーポレート広報バイス・プレジデント)は、

「多くのアメリカのクリエイターたちは環境問題に対してとても意識を研ぎ澄ませています。環境に配慮したスタジオで映画作品を撮りたいと、優秀な監督や有名俳優たちが集まってくるのです。ですから、環境への取り組みはダイレクトに映画制作ビジネスに反映し、メリットになりうるということです」と語った。

ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントは、環境への取り組みを企業のコアバリューとして位置づけている、という。

平林美枝子氏第4回「環境経営サロン」で講演する平林美枝子氏

環境に配慮した映画制作の現場を整える。そのことが、優秀な人材を集め、魅力的な映画を作る力となり、ヒットを生み出していく。
映画作りが社会の課題を解決していく力にもなる。
そんな新鮮な気付きを与えられたプレゼンテーションだった。

後日、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(以下SPE)の日本支社に平林氏を訪ね、映画産業と環境課題のつながりや、その社会的背景についてさらに具体的に話を聞いた。


21世紀に入る直前、デジタル化という大変革に直面した

映画業界において、環境や社会への貢献活動はどのように行われ、どんな力を発揮しているのか。私たちは普段、あまりイメージできていない。

SPE日本支社・平林美枝子氏は、100年を超える映画の歴史を振り返りつつ、環境と映画の関連について解きほぐしてくれた。

「リュミエール兄弟が最初の映画を作ってスクリーンに投射したのは、今から120年くらい前のことです。それ以降、映画業界では撮影方法や映写方法、配給などの基本的な構造はほとんど変わらずにやってきました。そして21世紀に入る直前、デジタル化という大変革に直面したのです。ビジネスとしても、また環境的な側面にしても、これは実に大きな変化を意味していました」

平林美枝子氏「映画産業は100年間以上、ビジネススタイルが変わってこなかった」と平林美枝子氏

映画を観る観客側からすれば、ストーリーや俳優に目を奪われ、プリント方式かデジタル方式かをさほど意識して見るわけではない。
だが、制作現場では大きな違いだった。

「プリントの時には、一本の映画を上映するにはリールが6巻ほど必要で、重さにして30キロ程度。制作サイドも配給会社も、プリントを扱うこと自体が大変な作業でした。ところがデジタルカメラになると長時間の撮影が可能で、撮ったその場で映像の確認もできます。編集時も、フイルムを切ったり貼ったりといった作業は一切必要なくなります」

配給時に30キロの重さのリールを上映館に運び入れる作業も大変だった。終われば処分しなければならない。

「プリントを上映館分現像するのにコストがかかっていました。一つの作品に12~3万円程度、全国上映となればその100本、200本分のプリントを作らなくてはなりません。また、映画は著作物ですので、簡単には廃棄できないのです。一つ一つ確実に処分しなければいけなかった。しかしデジタル化すれば、すべて削減できるのですからメリットは非常に大きかったわけです」

当初、労力やコスト面から注目されたデジタル化。それは同時に、資源や運搬のためのガソリンなどの環境負荷を大幅に削減することも意味していた。映画のデジタル化は、環境へ貢献する技術だった。

映画産業の構造転換は、環境への貢献に直接結びつく

1990年代、アメリカの映画界で起こったデジタル化への兆し。
しかし、従来のプリント方式に愛着を抱き、変化を拒んだ監督たちもいた。デジタル化によって、アナログの編集・上映技術を持つ業界関係者が大量に失業してしまうリスクもあった。デジタル化の賛否をめぐって激しい論争が巻き起こった。

結局、総合的な見地からアメリカの映画産業はデジタル化へと舵を切っていく。その時のキーパーソンの一人が、映画監督ジョージ・ルーカスだった。

「ジョージ・ルーカスは『スター・ウォーズ エピソード2』を全編最先端のデジタルテクノロジーを投入して撮影する、と宣言したのです。話題作を作り、デジタル上映できる劇場で公開する、というその宣言は、まさしくデジタル化の推進力になりました」

ただし、上映する映画館の負担も見過ごせない。デジタル上映機器を新たに整備するとなると、2~3000万円は必要になる。

「そこで、仮にプリント上映をしたら発生したであろうコストの一部を、デジタル上映施設の整備にあてるという方策がとられました」

アメリカや日本の映画界では、劇場のデジタル化を推進するために補助金を出す「バーチャル・プリント・フィー」の方策が進められ、新しい上映体制が整えられていった。

映画の撮影現場映画の撮影現場

とはいえ、デジタル化はまだ完了したわけではない、と平林氏は言う。

「アメリカにある4万のスクリーンのうち、デジタル化は65%程度。地方都市で夫婦経営しているような小さな映画館ではなかなか浸透しにくい面もある。一方、日本では3290の映画館のうち、90%近くがデジタル化しています。普及率から見れば日本の方が進んでいるのが現状です」

昔から映画に親しんできた映画大国・アメリカの方が、日本やロシア、中国よりもデジタル化が遅れている、という皮肉な現実がある。

2002年のジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ エピソード2』に続いて、キラーコンテンツとなったのが、2009年に公開された3D映画だ。
ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』が大ヒットし、世界興行収入歴代1位を記録。デジタルでしか楽しめない立体映像の世界が広く認知された。

こうして、最新技術を駆使した新作が次々に登場し、デジタル化の推進力となっていく。
映画産業とは、映画制作や上映という「本業」を押し進めていくことによって、環境負荷が減っていく業界なのだ。

「CSV Creating Shared Value」=「共有価値の創出」とは、企業が本業を通じて社会の課題を解決していくこと。映画産業のデジタル化は、エンタテインメント業界におけるCSVの好事例と言える。

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社員を主役にしなければ、本当のエコ活動にはならない

社員を主役にしなければ、本当のエコ活動にはならない

「デジタル化」以外の面においても、映画会社ではさまざまな環境の取り組みが進められているという。
ロサンゼルズの郊外、カルバーシティ市にあるSPEは2001年、ISO14001を取得した。ハリウッド系大手スタジオとしては初めてのことだ。

映画製作で使う塗料の再利用など、地道な活動を積み上げ、今ではスタジオの有害廃棄物を95%削減(2007年比)したという。

「今、2020年までに二酸化炭素を15%削減するという目標を掲げ、その実現のためのプログラムを社内で進めています」

オフィスの節電や省エネに始まり、映画・テレビ製作現場ではカーボンフットプリントを計算しチェックリストを提出。撮影で使ったセットや美術品、衣装等のリサイクル・リユースも進めている。 また、低排出車・代替燃料使用に転換していく努力も怠らない。SPEの社員がエコカーを買う際には、会社が補助金を出す。スタジオ保有車も1/3以上をクリーン・ディーゼル車に転換。また、地元のカルバーシティ市とも協力し「ゼロ・ウェイスト」ゴミゼロ活動を進めているという。
また、社員のボランティア活動を会社が資金面からサポートする、ユニークな取り組みもある。

「地域のエコ活動に社員がグループで参加する際は、7500ドルを上限に会社が活動団体へ寄付するのです。仕事の時間だけでなく、プライベート時の行動が大事。会社が旗を振るのではなく、社員が主役にならなければエコは進まないという自覚が、SPEに根付いているからです」

SPE社員の緑化の取り組み。85%の社員が何らかのエコ活動に参加している。SPE社員の緑化の取り組み。85%の社員が何らかのエコ活動に参加している。

アメリカの映画界では「環境に配慮したスタジオで映画を撮りたい」と、優秀な監督や有名俳優たちが集まってくる。
環境への取り組みが、ダイレクトに映画制作の質を上げ、大きなメリットになりうる。

「その背景には、良いことだったらやるべきだと素直に素早く反応する国民性、アメリカ人気質というものも作用しているのではないでしょうか」

日本では有志によるグリーンプロジェクトがスタート

『Secolo』は「サステナビリティ」と「エコロジー」を組み合わせた造語で商標登録されている。重さが半分、嵩も1/5になり、環境負荷が減った。では、SPE日本支社でのエコ活動はどうだろうか。
虎ノ門のオフィスを訪ねると、面白い展示物を見つけた。
プラスチックのパッケージに入ったDVDと、紙パッケージに入ったDVDが床から積み上げられている。
枚数はまったく同じ。しかし、その「嵩」は大きく違う。

「紙にするとサイズが1/5。資源だけでなく、運搬時の環境負荷も大きく軽減できます。レンタル店では専用の入れ物を使うので、プラスチックのケースは使われずにそのまま廃棄されていました。それを見た社員が、紙パッケージにすればムダがなくなると考え、業界初の『Secolo(セコロ)』が生まれました」

日本支社は配給の仕事が中心。映画制作はタッチしていない。そのため環境問題というテーマを仕事の中でリアルに捉えるのがなかなか難しかった、という。そんな時、DVDやブルーレイのパッケージを制作している担当部門から、紙パッケージにしてはどうか、というアイディアが出てきた。

この『Secolo』をスタート台とし、さらに日本支社全体にエコ活動を浸透させようと、2012年9月、有志によるグリーンプロジェクトがスタートした。

「まず全社員にハーブを配り、机の上に一鉢ずつ置いて水をやりながら、環境について考えました」

ハーブを机の上に置いて考えた

日本支社はSPEとソニー株式会社を親会社とし、従業員数約200人。映画の配給、DVDブルーレイ販売、テレビ局やデジタル配信各社に映画やテレビ番組を販売している。

グリーンプロジェクトがスタートすると、社員からさまざまなアイディアが出てきた。
環境をテーマにした映画鑑賞「グリーン上映会」、紙コップ廃止、エコキットプレゼントなど、手作りのエコ活動に着手。ワーナー エンターテイメントと協力し、新橋を舞台に「ハリウッド対抗スポーツGOMI拾い大会」も実施した。各社40人ずつ参加し100キロのゴミが集まった。

2013年夏、ワーナー エンターテイメントと協力し新橋の町で「ハリウッド対抗スポーツGOMI拾い大会」を実施。

作文コンテストも実施している。映画『アフター・アース』は環境汚染で人類が住めなくなった1000年後の地球を描いた作品。「POST2015プロジェクト」と協力し、小学生に「1000年後の地球のために今できること」というテーマで作文を募集している。(2014年1月31日まで)

「日本にはハリウッド系の映画会社が我々含めて6社あります。そのネットワークを有効に使い、今後は映画業界としてエコ活動を盛り上げていくことができればと思います」

一方では、強力な援軍・ソニーグループがある。ソニー傘下にはエレクトロニクスの他に、金融、ゲーム、エンタテインメントがある。
「グループ内の環境担当者との情報交換も積極的に進めていきたい」

ソニーグループには、エレクトロニクス、金融、ゲーム、エンタテインメント等のグループ会社があり、SPEはエンタテインメント。

CSVの3つの視点からSPEの取り組みを考える

これまで「環境経営サロン」で議論されてきたCSVというテーマには、3つの側面が含まれている。①「製品・サービスのCSV」②「バリューチェーンのCSV」③「クラスター/競争基盤のCSV」だ。
SPEの環境への取り組みを、CSVの視点から見てみるとどうだろうか。

①「製品・サービスのCSV」には、環境問題をテーマとした映画作品が該当する。作品を通して社会へメッセージを発信し、課題を解決していくという事例だ。
②「バリューチェーンのCSV」は、デジタル化によって削減された資源や配給時のCO2削減等がある。また、制作現場での資材リサイクル、リユース等もこの項目に入る。
③「クラスター/競争基盤のCSV」は、社員のエコ活動を会社が支援する取り組みや、地元カルバーシティ市との「ゼロ・ウェイスト」活動などが該当する。

映画は何よりも身近なメディア。単なる商品を超えて、人々の心に訴える力が強い。
社会を変えていく大きな可能性を秘めている、と言えるだろう。

「映画産業のさまざまな箇所にグリーン・メッセージを散りばめ、自然に意識や行動を触発していくことが大切だと思っています。映画会社ならではのリソースや知恵を絞って、これからも楽しいエコ活動を継続していければと思います」と平林氏は締めくくった。

CSV経営サロン

環境経営の本質を企業経営者が学びあう

エコッツェリアに集う企業の経営者層が集い、環境まちづくりを支える「環境経営」について、工夫や苦労を本音で語り合い、環境・CSRを経営戦略に組み込むヒントを共有する研究会です。議論後のワイガヤも大事にしています。

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