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【レポート】燕三条「工場の祭典」スペシャル訪問

10月2~3日・生の工場に触れる刺激と楽しみ

課題解決へのアプローチ

都市と地方をどう取り結ぶのか。対立軸ではない、収奪する側される側でもない、新しい関係性は、どのように作るのか。地方創生の新たな文脈が模索される中、TIP*S/3×3Laboの共同企画、燕三条「工場の祭典」スペシャル訪問が10月2、3日の2日間、実施されました。

「工場の祭典」とは、燕市・三条市が行政・民間が一体となって行っている産業観光イベントで、今年で3回目を迎えています。燕三条合わせて68の工場が、会期中開放され、見学者を受け入れ。日ごろの製造現場を見ることができるうえに、魅力的なワークショップも多数用意されています。燕三条の技術力の高さを体験し、値段ではない製品の価値を消費者に伝えてくれます。

8月末にTIP*S/3×3Laboで開催されたトークショーを受けて、約20名の参加者を募って実施されましたが、単なる見学ではなく、冒頭で述べたような、都市と地方、中小企業と大企業の新たな関係をどう取り結ぶのか、地方の課題にどのようにアプローチするかを探るという目的もあります。初日の最後には、参加者同士で意見交換も行うなど、積極的に課題に取り組んでいます。熱のこもった2日間のツアーの様子をお伝えします。

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田園風景の中の産業観光

田園風景の中の産業観光

今回のツアーは現地集合現地解散。燕三条駅に集合し、そこからは祭典運営がツーリスト向けに用意しているツアーバスに乗り込み視察コースを回ります。昼に集合、中小機構の中小企業大学校三条校で学んだ大将が包丁をふるう「旬菜厨房和楽」で昼食を摂った後、産業振興センター前からバスに乗り込み、いよいよ出発です。

本日のコースは、和釘作りの「火造りのうちやま」、大工道具の「鑿鍛冶田斉」、作業工具全般の「マルト長谷川工作所」の3カ所です。バスには運営事務所から池野氏が同乗し、ガイドを務めてくれました。

最初の道中、池野氏は、モノ作りの街としての燕三条のルーツや歴史について説明してくれています。それによると、もともと燕市も三条市も始まりは釘づくりからだったそう。江戸時代に弥彦山から銅が産出されるようになると、燕市には会津から銅職人が多く移り住むようになり、錫や真鍮を中心にした産業へと変遷を遂げ、現在のようなカトラリー産業の素地を形成したのでした。

最初の視察先である「火造りのうちやま」は、小さな工業団地内にありますが、住宅と隣接している点が普通の工業団地と異なります。これは昭和50年代に公害問題が噴出した際に市街地から移転したものですが、職人のために工場+住宅という形で作られたものなのだとか。田んぼの中を走って島のように点在する職住隣接の工場をめぐる旅。産業観光でありながら、どこかのんびりした雰囲気が特徴的です。

和釘専業のプライド――火造りの内山

火造りの内山は、たった1軒残る和釘専業の鍛冶屋です。ほかの工場は建築金具が中心で、和釘はたまに扱うという程度。「腕の利く職人は和釘を作る」(池野氏)という言葉でも分かるように、専業でやるには確かな技術が必要です。内山氏は、伊勢神宮の式年遷宮の際には28万本の釘を奉納したことでも知られています。

工場入口に居並ぶ大型機械のその奥に小さな火床(ほど)と金床(かなとこ)が設えられており、内山氏はそこで和釘を叩いています。
「自分で3代目になり、今までは建築金具もやってきたのだが、だんだん収集が付かなくなってしまって平成5年から和釘一本で行くことに決めた」と内山氏。「販路開拓が悩みの種」だそうで、ネット販売にも力を入れているとのこと。「伊勢神宮で知られるようになって、全国の寺社仏閣から"せめて目につくところだけでも使いたい"と問い合わせが多く寄せられるようになった」と話しています。

火床ではコークスを使います。温度は1500度まで上がります。原料となる玉鋼は、木炭で3日3晩熱して作るそう。不純物が入らない良質な鉄材です。そんなことを説明しながら、実際に和釘を打って見せてくれる内山氏。いかにも簡単に1本作ってしまうのがまさに職人技。「巻き釘(平たく伸びた頭が丸められている)なら、1日200本程度」。「叩く仕事をし過ぎているから、肘は傷めちゃうね。まっすぐ伸びないよ」とこともなげに言う姿を見ると、売値1本200円がはたして高いと言えるのかどうか悩ましくなってきます。

また、和釘専門とはいえ、「和鉄を身近に感じてほしい」という思いから、最近は風鈴や耳かきも作り販売しています。密度が高く硬質な和鉄の耳かきは、重いのに軽く、絶妙な掻き加減。風鈴も「チン」とした音が爽やかですが、「響きを大切にしたい」という思いから、「たまにしか鳴らないようにしてある」と内山氏。本業以外の小さなものなのに、それでも手を抜かないあたり脱帽せざるを得ません。和釘を打ちだすさまを見ていると、耳かき1本1400円は決して高くはない、むしろ安いと感じてしまうのは、"工場の祭典マジック"ばかりとは言えないでしょう。

オンリーワンの大工道具――鑿鍛冶田斉

次に向かった「鑿鍛冶田斉」は、その名の通り、ノミを中心に大工道具を製造する鍛冶屋です。実演と説明は、ご子息の田斉道生氏が行いました

工場内は一風変わった作りになっていて、火床の前に人の膝ほどの深さのピットがあり、その中に入って作業します。道生氏曰く「うちのオリジナル」。「釘は鉄を使うが、刃物の先端には鋼を使う。炭素の割合は0.3~1.3%で、適切な濃度と強度で仕込むことで、ダイヤモンド的な硬度に仕上げることができる」と道生氏。三条市には江戸時代に商人が多く移り住み、鍛冶製品をしっかりと売る体制ができたために、職人が安心して製造に取り組むことができたそうです。しかし「下駄屋、桶屋のような木製品の職業がなくなってきてしまって道具を作る鍛冶屋もだんだん減ってきてしまった。今では鑿鍛冶、カンナ鍛冶はいるが、鋸鍛冶の職人はいなくなってしまった」。そんな語りをしながら、鉄材に鋼材を合わせて刃の部分を作る作業を実演してくれます。

釿(ちょうな)や玄能(げんのう)などの大工道具は「材料から吟味するからだいたい1年待ってもらう」。特殊なバイオリン用のノミの需要もあるそうですが、それも8カ月は待ってもらうそう。販売を直接手掛けることはしていません。道生氏曰く「だってお客さんからお金取りにくいじゃないですか」。いかにも職人らしい、不器用さと人の好さが垣間見える気がします。

隣の座敷では、父・明夫氏がこれまで製造した種々の製品を取り出して説明してくれています。ショーケースにも優れた刃物が並んでおり、ナイフ好きの筆者には垂涎ものでしたが、いずれも販売はされておらず残念至極でありました。

大量生産の中の職人

三件目に向かった「マルト長谷川工作所」は、前2軒とはいささか趣を異にする、従業員が120名を数える企業。ペンチやニッパーなどの一般作業工具から、はさみ、爪切りなどの日用金物を手掛けています。マツダの車のデザインを手がけたことでも知られる、工業デザイナー・小杉二郎氏とコラボした「KEIBA」ブランドが主力製品のひとつで、ミニ四駆の世界では、ニッパーで非常によく知られているメーカーです。

この日はガイドの中村氏の案内で、ペンチの製造ラインを中心に見学。鍛冶の作業から、焼鈍し、熱処理、仕上げなどのさまざまな工程を順を追って見ることができました。印象的なのは、大量生産とはいえども、要所要所で職人の腕と目が必要で、それがあってこその高品質であること。社員の9割が地元からの就職で、ある一定の練度に上げるには5年ほどの期間が必要。だからこそでしょうか、離職率も非常に低いのが特徴とのこと。扱う製品がひとつだけではないために、すべての作業に通暁するには、相当な時間がかかるようです。大規模生産における職人のあり方は興味深いものがありました。

燕三条にフィードバックするものは

その後、視察を終えた一行は、中小企業大学校三条校へ。食事の前に、この日の振り返りを行いました。

最初はそれぞれの感想をシェア。「普段見ることのない職人の姿や技術に触れられて良かった」「におい、音、震動を体感できてよかった」「工場(マルト)で働いている人の声を聞いてみたかった」といった感想が出されました。その後エコッツェリア協会専務理事の村上氏から「工場の祭典の運営事務局にフィードバックできるものを提示したい」と呼びかけがあり、二次交通やパンフレット等PR面での改善案などが議論されました。

スポーツゴミ拾いという観光

視察2日目は、初日とは雰囲気をガラッと変えて、屋外でのワークに取り組みました。そう、トークショーに登場した、永塚製作所の能勢さんが主宰する「スポーツゴミ拾い in 工場の祭典」への参加です。

上・三条市國定市長、下・永塚作業所 能勢氏抜けるような秋晴れに恵まれ、汗ばむほどの陽気になり、スポーツゴミ拾いの会場には、大会史上最高の175名の参加者が集まりました。開会式には三条市長の國定勇人氏も列席、開会のあいさつに立ち、「ゴミはあまりないと思うが(笑)、丁寧にゴミを拾って競い合ってほしい」と参加者に呼びかけました。

市長がわざわざ来るほど期待と注目度が高く、テレビを含めたマスコミも数社入っていたのが目につきました。主宰する永塚作業所の能勢氏のあいさつでは、東京からの我々視察団の紹介も。スタート前には、全46チームの紹介と雄叫びを揚げるセレモニーも行われ、号砲とともに、熱気にあふれた参加者たちは一斉にゴミを拾うために街へと飛び出していきました。

競技時間は10~11時の1時間。決められたエリアの中で、ゴミの多そうなエリアを回ってゴミを拾います。使う道具はもちろん永塚製作所のゴミトングです。ゴミのありそうなポイントを知っている点で、地元の人が有利かもしれませんが、ゴミにあふれた(?)都会で暮らす人間ならではの視点でゴミを探すこともできるので、コンディションは五分五分といったところだったのではないでしょうか。

しかし問題は、来街者にとって、三条の町が面白いということ。おいしそうなパン屋があり、珍しいマンホールがあり、地元の銘菓店を見付けるたびに、ついつい足を止め、ゴミ拾いの手を止めてしまう一行。逆にいえば、スポーツゴミ拾いもまた、観光産業のひとつとして機能しているということでしょう。トング片手に歩き回る我々に対し、地元の人々の目はどこまでも温かく、喜んで名物の説明や、街の歴史を解説してくれる姿がとても印象的でした。

競技結果は、惜しくも?入賞も叶いませんでした、街中で非常に珍しい歴史的建築物を発見したり、地元の銘菓を食べることもできた一行は大満足なのでありました。

その後、一行は三条鍛冶道場で解散、自由行動へ移りました。

ある人は玉川堂へ、またある一団は、名物のカレーラーメンを昼食に摂りに。燕市産業資料館で開催されている大岩彫金のワークショップなどを体験するなど、思い思いに工場の祭典を楽しみ、三々五々、帰途に就いたのでした。

後日譚

刺激にあふれたスペシャル視察ツアーを終えた約2か月後、東京のTIP*S/3×3Laboで、工場の祭典ツアーを振り返る会が開催されました。視察に参加した有志10数名と、燕三条からは実行委員長を務めた能勢氏が参加してくれました。

冒頭、ツアーにも同行していた、朝大学TVが制作した『旅っていいかも―燕三条編』を鑑賞。大丸有のオフィスワーカー向けに"思わず行ってみたくなる"旅情報番組です。玉川堂や藤次郎、スノーピークを巡ってモノ作りの現場に触れる楽しさをのんびり伝えてくれます。

その後、工場の祭典に参加して良かったことや感想などを思い思いに語り合いました。出された感想に対して能勢氏がコメントを返す対話式で進められ、主催者側と参加者のギャップや、相乗効果などが明らかになるなど、非常に楽しくも興味深い話し合いになりました。その中で印象的だったのが、当日は「歩くのが面倒」「2次交通が課題」という意見が趨勢を占めていたのに、振り返ってみると「歩くのも悪くなかった」という意見が多かったこと。町の風やにおい、川のせせらぎや音。そういったものをビビッドに感じることができたというのです。それはたぶん「工場で五感を刺激されたからではないか」という意見にうなずく一同。「工場の祭典の"観光"は、感じる"感光"だ」という意見にさらに大きく首肯するのでした。

その後「ユーザー目線でのHP告知」「ユーザー目線での交通」「都市と燕三条の連携」というテーマでキーワードを出し、それを能勢氏がピックアップして討論するというワークショップも行いました。

2次交通の課題、教育の重要性、告知の方法論、技術を継承することの意義、 工場ごとの人気の差など、さまざまなポイントで議論が交わされ、今後もさらにTIP*S/3×3Laboとの交流を深めていきたいという思いが確認されました。一方で興味深かったのが、燕三条側の課題もまだまだ多いということ。人気の差もしかり、全体で2000以上ある工場のうち、参加しているのは70弱と1割にも満たない点など。また、「ニッチでコアなマーケットを狙う」という工場の祭典のコンセプトが辿り着く場所はどこなのかといった問題も提示されました。この点、燕三条に対して都市部ができることはまだまだ多いのかもしれません。

こうした課題を議論すると、構造的な解決策をついつい提示してしまいがちですが、でもたぶん、それは解決からは一歩遠ざかる。そんな気がします。その点、TIP*Sの岡田氏がとても印象的でした。
「例えば人気がない工場だって、それは知られていないからで、私たちひとりひとりが、ファンになって、他の人に知らせることができれば、人気が出てきますよね――?」

私/あなた、一人ひとりが関わって、汗をかいて、盛り上げること。それこそが、こうした課題の本質的問題なのではないでしょうか。地方-都市、大企業-中小企業の新しい関係性を構築する一歩もまた、そこから始まるのかもしれません。

■ 丸の内朝大学の「朝大学TV」が、特番『旅っていいかも!』を製作、好評公開中。こちらもぜひお楽しみください。
『旅っていいかも! 燕三条編』


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