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【レポート】都市の生物多様性を支える官民連携プラットフォームへ

第3回 都市緑化における生物多様性に配慮した新たな評価の方向性についての検討委員会 2月26日開催

こんな都心で「生物多様性」が本当にできるの? ※写真はイメージです[photo by Ryo Mukae(frickr)

客観的評価とこれから

2月26日に「都市緑化における生物多様性に配慮した新たな評価の方向性についての検討委員会」(以下検討委員会)の第3回目がエコッツェリアで開催されました。都市部における生物多様性に配慮したまちづくりについて議論することを目的に、第1回、2回では民間、行政それぞれの取り組みの報告とともに、課題の整理を行ってきました。第3回では包括的な取り組みを行っている外部組織からのプレゼンテーションを行い、本委員会の内容を客観的に捉え、この取り組みの可能性と実施に向けた課題について議論を交わしました。

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"フェア"なモニタリング手法

"フェア"なモニタリング手法

恣意的になりがちなモニタリングをどう設計するか ※写真はイメージです[Biodiversity -American Museum of Natural History (AMNH), Hall of Biodiversity photo by Dom Dada(frickr)

検討委員会では、生物多様性への配慮を指標化するためにさまざまなレベルでのモニタリングの実施を予定し、手法、対象となる生物種の選定などを行っています。第1回検討委員会でその内容が吟味された際には、座長の横張氏から「フェアなモニタリングが必要である」と指摘があり、第3回の今回の冒頭では、植田委員から新たなフレームワークの提示がありました。

前々回に提示されたモニタリング対象種リストでは、やや在来種に偏重気味であったことは否めず、そのため今回は「恣意性を排除し、フラットに事実をモニタリングし、データの利活用の幅を広げたい」と植田委員は話し、特に気候変動・人為的変動に伴って変化する生物相を把握するフォーマットを提案しています。

考え方としては、当該地域の「潜在自然植生」(人為的干渉がない状態の自然相)を固定されたものと捉えるのではなく、環境変動・気候変動によって大きく変化する可能性を考慮するということと、同様に人による移入種や外来種を排外的に捉えない、という2点が挙げられました。具体的には、「温暖化指標種」と「外来種・人為的移入種」をモニタリングリストに加えるということです。

例えば、クマゼミは東京においては「(国内)外来種」に相当します。しかし、年々生息北限が北上しており、「現在の東京は100年前の大分の気温に等しい」(横張氏)という現状を考えると、「在来種ではないから生息しているのはおかしい/モニタリングしない」といのはおかしい、ということです。また、人為的移入種、外来種指標としては、例えばミシシッピアカミミガメやセイヨウミツバチ、ドバトなどが挙げられます。 これにより、「こうあらねばならない」「こうあってほしい」という意志やイデオロギーの裏返しとしてのモニタリングではなく、柔軟に環境変動を受け入れ評価する体系を目指すことになるでしょう。

グランドデザインとプラットフォーム

千代田区、港区の緑化計画を並べてみると連携具合が分かる(各区のサイトの資料から抜粋し作成)

続いて都市緑化機構 企画調査課長の上野芳裕氏から、同機構が行った「東京都心部における緑化推進検討会」の報告がありました。これは都心部の再開発と緑化の実態調査をもとに、有効な"生態系ネットワーク"を構築するためのモニタリング調査、官民連携・事業連携の可能性を探ることを目的とするもので、将来的には都市開発の指針の作成を目指しています。

都心部の緑化、緑地資源活用の実態調査では、千代田区と港区の計画を取り上げてレポート。千代田区は「都市計画マスタープラン」をもとに、皇居を核、道路を軸にした放射構造での緑化を推進しています。港区は「緑と水の総合計画」を掲げ、水路を使った緑のサテライトネットワーク構築を目指しているそう。
これらに対し、一定の量的評価はしつつも、ネットワークという観点では「隣接しているにも関わらず緑がつながっているようには見えない」と厳しい評価。また、国交省などが策定している都市部の生物多様性のモニタリング指標(生物種、サイト)についても、「現実との乖離がある」と指摘しました。

こうした現状に対し、検討会では大きく3つの提案を行っています。
ひとつは、国レベルの広域ネットワーク計画から、個別の細かな行政区分に適したネットワーク計画に落とし込んでいく階層的な計画論の必要性。これによって官民とも横断的な取り組みが行いやすくなるとのこと。これを補強するために、生態系ネットワークを類型化し、汎用性のある緑化モデル構築の提案もありました。
二つ目はモニタリング調査とデーターベースの統合。環境省、東京都、民間各社などさまざまな団体がモニタリング調査を行っていますが、その結果はクローズドであり、仕様も異なっているため共有も難しい。「さまざまなデータを集め、並べることで必要な緑地の姿も見えてくる。統合することで今までは生かされなかったデータが生きてくる可能性もある」と上野氏。

三つ目はプレイヤーが集まる「協議プラットフォーム」の構築です。行政と民間は、同じ土俵に立っているように見えて乖離しているのが実情であり、それを踏まえ「相互の情報を共有し、データベース化することで担当する役割をお互いに補強することができる」と話し、その共有の場として協議会のようなプラットフォームを作る必要があることを訴えました。

また、こうした調査検討を重ねたことで、「最重要なのは、目的を共有するグランドデザインマップ、結果を共有するプラットフォーム、取り組みを進めるための組織、人材のネットワークの3つだということが見えた」と上野氏。「この3つのツールが揃ってこそ活用できるもの。手引書、フレームワーク作成に向けて、来年度はこれを軸に進めていきたい」と締めくくりました。

モニタリングフォーマットにヒント

URいきもの図鑑のサイト

独自の都市開発と緑化および保全を行っているUR都市機構(UR)からもプレゼンテーションがありました。URは今年で60周年。「75万戸の住戸と300地区のニュータウンの実績」があり、「URでは"エコロジカルネットワーク"ではなく、"ビオトープネットワーク"の名称で環境調査を40年行ってきた」と話すのは、同機構東日本賃貸住宅本部 設計部 緑環境第2チームの山内隆氏です。

「昭和50年代に、緑の"量"から"質"が重視されるようになり、カラー写真でデータを揃えるようになった。また、平成元年からは、昭和30年代の建物の建て替えが進む中で、地域住民と議論を重ね、地域の緑地が重要な資産になることを相互に確認するようになった」

面的開発とそれに伴う豊富なデータ、住民とのコミュニケーションがURの重要な資産となっており、相互理解を重ねながら緑地開発、保全に取り組んでいるそうです。「コゲラモデル(都心ではシジュウカラモデル)」と呼ばれる、鳥類の飛翔能力(500メートル)を基準にした緑地造成はその賜物と言えるでしょう。
また、膨大な緑地データと解析技術で生態系に配慮した整備メニューを決定する手法を策定しており実績をあげています。大手町川端緑道では、「川端緑道を緑のサテライトとすることで、皇居周辺のグリーン帯と、清澄公園・清澄庭園のグリーン帯をつなぐ」緑地整備を行ったそうです。

こうした膨大なデータを、ユーザー向けのインターフェイスに置換して活用する取り組みも注目に値します。樹木200種、草木150種、鳥類85種、昆虫類31種の写真と説明をまとめ、所在地や生物分類で検索が可能にした「いきものURサイト」、GIS(地理情報システム)の位置情報に連動して歴史や植物、生物の情報を閲覧できる「お散歩UR」ほか、「報告書データベース」「みどりのフォトブック」などのツールがあるとのこと。

これらのユーザー向けインターフェイスを統合して運用するために現在開発中なのが「URpedia(仮)」です。2万7000件のデータをユーザーが自由に検索・閲覧できるものですが、一方で観察した一般ユーザーが情報を登録することもできるようにするそうです。担当するURの藤田氏によると「専門性に依存せずに、一般の人でも簡単に登録できるよう」写真を多用したり選択式にするなどの工夫をしているとのことです。また、スマートフォンなどのモバイルガジェットからアップロードできるようアプリの開発も行っています。これらのデータは、生物多様性のための国際的な統一規格Darwin CoreBiodiversity Information Standards [TDWG])に準拠していることもまた特記すべき点。これまでの検討会でもデータベースの共有は大きな課題になっていましたが、実運用レベルでの技術的議論はされてきませんでした。URpediaの事例はこれからのデータ運用を考えるヒントになりそうです。URでは、今後URpediaを軸に生物多様性ネットワークの「見える化」とともに、蓄積されたデータベースをもとに生物多様性を解析評価するシミュレーションシステムを構築することを目指していきます。

最後に上野氏は、「一般の人がモニタリングするスマホアプリの開発を進めているが、楽しみながら参加できる仕組みにすることが重要だと考えている。また、精度の高い解析シミュレーションを作るためには緑地の資料が不足しており、この点、行政の持つデータにも期待したい。お互いに課題を整理していくことで2020年に向けて国際都市・東京の価値を高めることができるのではないか」と展望を語りました。

人材育成とそれを活用するプラットフォーム

すでに丸の内では「丸の内ウォークガイド」「丸の内検定」などの人材育成の実績がある

最後のプレゼンテーションとして、井上委員から生物多様性を支える人材育成スキームと連絡会の立ち上げについての提案がありました。

井上委員は、「アプリやモニタリングツールだけでなく人材育成も重要」であるとし、その具体的な像として「語り部」=「インタープリター」の育成を提案。「都市における生物多様性の意味を、学術的観点ではなく、生活者の視点で伝える。また、生物多様性のみならず、土地の歴史を含む文化背景も語り、エリアの魅力を伝えるプログラムを自ら企画できる人材」であり、「都市観光と都市の多様性を掛け合わせ、来街者、都市の就業者、事業者すべてにプラス効果をもたらす役割にも期待したい」と話しました。

また、大丸有の「丸の内ウォークガイド」「丸の内検定」「エコキッズ探検隊」のように、インタープリター育成を街づくりの一部に組み込み、人材育成の一元化を図りたいとしています。一元化は、各ステークホルダーにとっても人材育成のコストが削減できるなどメリットがあります。さらに、「人材育成に厚みが出るよう、インタープリターにフィーが発生するよう職能化していくこともひとつの目標にしていきたい」とし、「2020年がひとつのメルクマールではあるが、(インタープリターを)永続的なサービスとして定着させ、長いスパンで街の魅力を向上させていきたい」。

連絡会の立ち上げについては、「試案にすぎない」としつつも、事業者(主にディベロッパー)、管理会社、地域社会(企業・就労者、来街者を含む)、大学・研究機関、行政すべてが参加できる座組みを提案しています。「大丸有地区生物多様性連絡会(仮称)」に対して、各参加団体は何らかの貢献をしつつも、有意義なメリットを享受するスキームを構築することを目指したいとしています。

この座組みでは、特に行政と事業者への期待が大きいことが見て取れます。
行政には、緑地データなどの提供、貢献要素による規制緩和、広域データ管理のためのサーバの提供など、行政にしかできない役割が多いのです。これに対し連絡会は、各事業者らから集まる種々のデータを行政用に提供することができるとしています。
事業者には、連絡会への積極的な参加と各モニタリングデータの提供を期待し、その見返りとして連絡会では取りまとめた生物多様性配慮型の緑地管理方法の情報を提供します。「新しい生物多様性配慮型の植栽管理の主流化を目指すために連絡会を利用してほしい」と井上氏。

連絡会が定着すればより広域の連携が可能になり、行く行くは多摩地区までも含めた連携を想定しています。今後は、準備会の設立、モニタリングデータの一元化に向けた準備としてUR等との連携強化などを進め、連絡会の立ち上げを推進していくそうです。

来年度に向けて

プレゼンテーションを受け、座長の横張氏から改めて皇居の重要性についてのコメントがありました。「皇居という権威の象徴の場所がvoid(空所、空間)として緑を支えているというパラドクスが東京の面白いところで、欧州にはない独特の形態だ。オリパラレガシーに向けて、このvoidとどう取り組むのか、各プレイヤーが共通の認識を持つことで、うまく行くのではないかと思う」。
また、広域連携の話題にも触れ、「これからの東京は、特に都市郊外部の高齢化が急速に進み、都市構造が大きく変化せざるを得ないが、この郊外部の更新に生物多様性をしっかり連携させ、単に"里山を守る"だけではない都市部の緑創出ができるよう、連絡会に期待したい」と話しました。

その後のディスカッションでは、モニタリングとデータベースの構築、全体的な取り組みのスキームについての意見が中心に交わされました。

一之瀬委員はURのデータベース蓄積の実績を高く評価し、「地味な仕事で費用も手間もかかる。主流化に向けてぜひとも行政のお力を借りたい」と投げかけました。広域連携については「キーワードで連携を図ると良い」とし、「多摩」「流域」のほか、外国人の観光ルートが京都→富士山→東京であることから「富士山をキーワードに、富士山が見えるエリアでパートナーを組むのも面白いかもしれない」と提案しています。また、URのアプリ開発には非常に興味を示し、「"儲かる"を意識したアプリを開発し、参入事業者を増やし、生物多様性の活動を広げてほしい」と促しました。

原口委員は「2020年に向けて、生物多様性の課題は"やらなければならない"取り組みだ。主流化を図るために、民間の投資喚起が重要で、行政はそれを誘導していかなければならないだろう」とし、「生物多様性を"儲かる"ステージにしていく仕組みが必要だ」と強く主張しました。また、今後の課題として「表のモニタリングデータはポジティブな生物でも良いが、裏のデータとして害虫や不快(有害)動物の調査も必須だろう。一方で、(緑地管理の)現場では、それらの害に対してノウハウがなく、ソリューションがないことも課題。都心部での農薬使用について明確なガイドラインがないため、今後は農薬メーカーとの連携も必要かもしれない」と指摘。もうひとつの課題として「今世の中ではスマートシティがもてはやされているが、再生可能エネルギーと水素自動車でお茶を濁している感も否めない。本当の意味でのスマートでサステナブルな街を何が何でも実現し、世界に先駆けて手本となる活動展開に期待したい」と大きな枠組みを示しました。

オブザーバーとして参加している小岩井農牧株式会社、辰巳俊之氏は「本当のスマートシティ実現には相当な労力が必要で各人胆力を持って臨まなければならないだろう」と話し、「スマートシティのあるべき姿を模索するために協議会は重要。大丸有をハブにして、何ができるか考えていきたい」と協議会への希望を語りました。

最後に検討委員会の元となった「住民参加による低炭素都市形成計画策定モデル事業」の受注者を代表して和田委員からコメント。「本検討委員会は、短期で非常に大きな成果を上げられたと思う。これまでアセスガイドラインはネガティブチェックに終始してきたが、今後積極的評価へと変わることになる。今回の検討委員会ではその良い先例を作ることができるのではないかと感じた。年度末の環境省への報告に際しても、高い評価を得られると感じている」と締めくくりました。

今後、この検討会で議論された内容をベースに、プラットフォーム構築、モニタリング手法の確立などが進められることになります。いまさらですが、大丸有という極度に発達した都市部で生物多様性に向けた取り組みが本格化したら、それは世界にも類を見ないアクションと言えるのではないでしょうか。今後も生物多様性への取り組みについては定期的にレポートしていきたいと思います。


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