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【レポート】地方創生の新たなキーワード、「ワーケーション」と「体験型教育」とは?

BFL地方創生セッションvol.11「都市と地域をつなぐ新たなサービス」2018年9月3日(月)開催

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BeSTA FinTech Labと3×3Lab Futureが共同開催する「BFL地方創生セッション」第11弾が、9月3日に開催されました。毎回「金融」「地方創生」を軸にしたセッション、講演を行う本イベント。今回のテーマは、「都市と地域をつなぐ新たなサービス〜ワーケーションや体験型プログラムで地域に人材を送り込む〜」です。

ゲストに、和歌山県でのワーケーション事業に取り組む、和歌山県企画部企画政策局情報政策課・課長の天野宏氏、和歌山県PRマネージャーの日根かがり氏、また、都会の子どもを対象にした地域での体験型教育プログラムを日本各地で提供している、一般財団法人エデュケーション・コミュニティ代表理事の森田次郎氏の3氏を招き、地域に人を呼び込むためのプレゼンテーションが行われました。

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なぜ和歌山県でワーケーションなのか

なぜ和歌山県でワーケーションなのか

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まずは日根氏によるイントロダクションからスタート。 世界遺産に選定されているエリアや古くから伝わる文化など和歌山県の魅力を話したあと、話題は本日のテーマである「ワーケーション」へ。

「ワーケーションとは、『ワーク(仕事)+バケーション(休暇)』を掛け合わせた造語で、旅先で休暇を楽しみながら仕事をする働き方のことです。日本ではまだまだ進化の途中ですが、和歌山県への来訪者が増えることはもちろん、ワーケーションから生まれるものやことに期待して、2017年から白浜町を中心にワーケーションに取り組んでいます」(日根氏)。

続いて、ワーケーションという形の施策に取り組むに至った背景について、天野氏が話します。

「いま日本中で、地方創生の推進と、働き方改革や新しいワークスタイルとしてテレワークが盛んになっていることから、地域に人が来る流れが起きています。その中で、和歌山県はどういった方法で人を呼び込むかというときに、白浜町が持つ『アクセスの良さ』『世界レベルの観光・自然環境』『IT企業の集積地』という3つの特長をPRしようと考えました。まずアクセス面については、東京からの距離で見ると遠い印象ですが、羽田空港から空路で約70分と近い。さらに、世界遺産である高野山や熊野古道が近くにあり、温泉やビーチなどレジャースポットも豊富な観光地でもある。そして3つ目は、先の2つの利点から、東京のIT企業がサテライトオフィスを開設するケースが増えているということです。町としても貸オフィスや公衆無線LANの設備など働くためのインフラ整備を進めています。こうした強みを生かせる施策として、働きながら休暇を楽しむ『ワーケーション』という形での地域PRに可能性を感じました」

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2017年2月から和歌山県はワーケーションを提唱し、これまで国内外の企業やフリーランス向けにワーケーション体験会を実施。仕事場所の提供だけでなく、熊野古道の修繕ボランティアや収穫体験などのプログラムを企画し、これまで200人以上が参加しています。
2018年8月には、三菱地所も和歌山県、白浜町と3者で、テナント企業向けのワーケーション事業進出協定を締結。白浜町所有の民間企業への賃貸オフィス「白浜町第2ITビジネスオフィス」の一区画に、新事業創出を目的としたワーケーションオフィスが開設される予定です。

このように企業から注目が高まっている理由として、社員に東京ではできない体験をしてもらうことで、生産性向上やイノベーションの創出につなげることが期待されていると話します。

「具体的には、白浜町にはIT企業のセールスフォース・ドットコムがサテライトオフィスを構えています。3ヶ月交代で、インサイドセールス部門の方10名が白浜町に住み働いていますが、社員個人のワークライフバランス改善はもちろん、東京で働くよりも白浜町で働いたほうが、生産性が20%上がったというデータも出ており、業務への良い影響もみられると聞いております。 また、大手企業合同でワーケーション体験会を和歌山県で行った際には、都心での社員親睦会とは異なり、一緒に過ごす時間が長く、熊野古道の修繕などハードな作業も共同で行うことで、表面上の付き合いではわからない人柄まで知ることができたという声がありました。同僚を深く知ることは、この人と一緒に仕事をしたいという意欲にもつながり、人脈構築の機会としても有用だと考えています」

こうしたワーケーション的な取り組みは日本各地で増えてきており、実際に、北海道の北見、斜里では大企業の人事や働き方改革の担当者を対象とした合宿、長野県信濃町では親子ワーケーション、あるいは、企業単位では白馬村にヤフー白馬ベースができています。 和歌山県もさまざまな企業や個人を対象に体験会を実施してきた中で、今後和歌山らしいワーケーションのスタイルをブラッシュアップしていきたいと天野氏は話します。

「どういった形がワーケーションの最適解かまだわかりませんが、働く人にとっては旅行以上、移住未満の地域への滞在として、和歌山を知っていただくきっかけになるので、県としては今後もさらに力を入れていきたいと思っています」と意欲を見せました。

「体験型教育プログラム」で、地域は教育の場になる

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続いて、森田氏のプレゼンテーションは「体験型教育プログラム」を通した、都市と地域をつなぐ取り組みについて。 東京・三鷹市で小学生向けの体験型学習教室「ふれあい教室」を主宰する森田氏は、学校の勉強とは異なる、さまざまな出会いや体験を通した学びの場を提供しています。 都心での農業体験や昆虫採集、スポーツ選手を招いての運動会などテーマはさまざま。その一環で、地域での暮らしを体験するプログラムも実施しています。

森田氏は、いま体験型教育プログラムに着目する理由として、2つの社会の変化を挙げます。 まず1つは、個人の時代に変化していること。

「20世紀の『みんな一緒』の時代から、『個人』の時代へと変化してきています。いまでは『多様性』という言葉をよく聞くように、価値観が多様化しています。そうした変化の中で、教育の世界では、一つの正解を求めるのではなく、納得解を見つけることが重要視されています。つまり、自分の頭の中で、知識・技術・経験のすべてを組み合わせて、その時々の状況の中でもっとも納得できる『解』を導きだす力が、これから生きていく上で求められると考えているのです」

では、納得解を見つけるためにはどういった教育をすればよいのでしょうか。 森田氏は、子どもたちをさまざまな人や体験にふれあわせて、興味のあることや好きなことを自分の力で見つけていくことが大事だと話します。

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続いて、もう1つの変化として挙げるのは、子ども1人を多くの大人が支えられる状況になっていることです。

「勤労世代(20〜64歳)が高齢者(65歳以上)を支えるという従来の考え方でいうと、1970年には8.5人の勤労世代が1人の高齢者を支えていた状況が、少子高齢化よって、2035年には、1.2人勤労世代が1人の高齢者を支える状況になると考えられています。しかし、発想を転換して大人が子どもを支えると考えれば、6.9人の大人たち(20歳以上)が1人の子ども(0〜19歳)を支えることができるというデータが出ています。つまり、子どもの教育のために、もっと大人たちが協働することができるのではないかと考えています」

そして、その2つを実現できる場が地域にある、と森田氏。「ふれあい教室」で訪れている、長野県信濃町でのプログラムを例に話します。 信濃町を知るきっかけは森田氏がたまたま参加した信濃町現地ツアー。初めての訪問の際に、自然や食の魅力だけでなく、人の魅力にふれ、子どもたちを連れて行けばそれだけで最高の体験になると強く感じたそうです。 今年の夏に開催されたプログラムでは、1泊2日のあいだ、自然や農家体験、古民家再生プロジェクトなどさまざまな体験を通して、徹底的に地域の自然と人にふれあいました。

「自然や地域の人から得られる体験は、都心で暮らす子どもたちにとってはすべてが新鮮のようで楽しんでいます。地域のおじいちゃん、おばあちゃんたちも家族のように迎えてくれて、子どもたちは畑に連れていてもらって泥だらけになって遊んだり、囲炉裏の火を囲みながらマシュマロの焼き方や火のおこし方を教えてもらう。子どもたちはすっかり心を開いて、最終的には帰りたくないと泣き出す子もいました。親から離れて不安がっていた子も、普段頼っている人がいない環境に立つことで、積極的に地域の人と話したり、自ら自然に飛び込むようになったりと、短い期間でも成長の姿が見られます」

この地域への体験型教育プログラムは春夏秋冬と毎シーズン実施しており、何度も訪れることで第二の故郷のように地域の方たちとの関係も深まっているそう。さらに最近では、子ども向けのプログラムから発展して、親子向けにも実施していると話します。

「IT会社で働く家族を対象にして実施したプログラムでは、信濃町・野尻湖にある東京のWEB制作会社・LIGのサテライトオフィスを訪れ、1泊2日のワーケーション体験を行いました。野尻湖の心地よい自然の中で、親はPCを開いて伸び伸びと仕事をし、子どもは湖畔で思い切り遊ぶというように、各々自然を満喫することができます。次の日は、親子で畑に出て野菜の収穫を手伝いに行き、普段の仕事から離れて作業に没頭することでリフレッシュにもなっています」

実際に東京を離れ、地域で働いたり、遊ぶ経験は、これからどういった環境で働き、暮らしていきたいのか考える上で、可能性を広げてくれるのでしょう。森田氏も地域での体験から得られる学びは人それぞれで、訪れるたびに新たな発見があると話します。

「個人の時代、多様性の時代になり、働き方、学び方もさまざまなスタイルが増えていく中で、地域で働き、学ぶということは、一つの選択肢として非常に可能性があると思います。今回ご紹介したように、地域には多くの体験がありますが、皆さんの要望に応じてプログラムを組み立てていくことで、まだまだ可能性が広がるのではと考えています。ぜひ会場の皆さんとも、一緒にプログラムを考えていけたらと思っています」と投げかけ、締めくくりました。

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プレゼンテーション後の質疑応答では、「継続的な関係性を構築するために、プログラムづくりはどのように考えているか」などの質問が寄せられました。

継続的な関係性の構築について天野氏は、「参加者の方に、できる限り多くの和歌山の産業や自然、人にふれてもらうことが重要だと考えています。例えば、企業の方には地域産業と関わる機会を取り入れており、生産量日本一である梅の収穫を体験してもらったり、AIによる稚魚選別の実証実験が進む水産試験場を見学したり、ビジネスの種になりそうな資源を知ってもらう。一つでも引っかかるものがあれば、継続的な関係性につながると考えています。また、長期滞在となると家庭内決裁が取りづらいという声も多いので、家族ぐるみでワーケーションができる仕組みも検討しており、さまざまなニーズに応えられるようにすることが大事になっています」

「ワーケーション」も「体験型教育プログラム」もまだまだ進化の途中ですが、だからこそ可能性にあふれた取り組みだと言えるでしょう。両者とも「皆さんと一緒に今後の取り組みを発展させていきたい」と声を揃え、講演後まで参加者からの質問や相談が相次いでいました。今後の動きにも目が離せません。

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