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【レポート】「逆参勤交代」構想は人の働き方を、人生を変え得る

丸の内プラチナ大学逆参勤交代コース 最終回 実施報告(2018年10月17日開催)

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2018年7月〜9月にかけて3つの地域で実施した「トライアル逆参勤交代」。都市部社員の地方での期間限定型リモートワークという、働き方改革と地方創生を同時実現し得るこの取り組みの実施報告会が、10月17日、3×3Lab Futureにて開催されました。

逆参勤交代の提唱者である松田智生氏(三菱総合研究所 プラチナ社会センター 主席研究員、丸の内プラチナ大学副学長、高知大学客員教授)と受け入れ先の各担当者が対話をしながら、逆参勤交代の良かった点や見つかった課題、今後の展望などが語られました

※逆参勤交代の概要についてはこちら 
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広い世代・属性から興味を集めた「トライアル逆参勤交代」

広い世代・属性から興味を集めた「トライアル逆参勤交代」

image_platinu1017-01.jpeg 「逆参勤交代構想」コースの講師を務めた松田智生氏

今回のトライアル逆参勤交代の目的は「スモールスタートをして成果や課題の集約・共有」を行い、今後逆参勤交代を日本中に広げるための足がかりをつくることです。そのために訪れたのは、岩手県八幡平市(7月26日〜29日)、茨城県笠間市(8月23日〜26日)、熊本県南阿蘇村(9月6日〜9月9日)という3つの地域でした。参加者の属性データは以下の通りです。

■ 参加者数:述べ38名(八幡平市14名/笠間市13名/南阿蘇村11名)
■ 男女比:男性7割/女性3割
■ 年齢層:20〜30代3割/40〜60代7割
■ 参加理由:異業種や地域の人と交流をしたいから/逆参勤交代というテーマに関心があったから/地域の課題解決に関われるから/本業に役立つから
■ 所属組織との調整:業務で参加5割/有給休暇を取得して参加2割/未回答3割
■ 会社からの支援:参加費補助あり2割/交通費補助あり2割/未回答6割

こうしたデータからは、逆参勤交代というテーマが広い年代から興味を集めていること、また送り出す企業側もある程度の理解を持っていることが伺えました。

人のマインドも変える可能性を秘めた逆参勤交代

image_platinu1017-02.jpeg 実際に逆参勤交代に参加した受講生たちのアイディアの紹介も実施

概要を紹介したところで、各地域の振り返りに移ります。最初に振り返りを行ったのは岩手県八幡平市。県内有数の観光地でありながらも、シティセールスやプロモーションを積極的に行っていないことや、少子高齢化、若者の流出といった課題を抱える八幡平。そこでここでの逆参勤交代は、地域の魅力の再発見と課題解決方法を考案することをテーマに設定して臨みました。受講生たちは、八幡平市のアイコンの1つである安比高原や、地熱を利用した温泉施設などを巡りつつ、地元キーパーソンとの対話を実施。それらを通して八幡平市で実現したいビジネスプランの提案と市民とのワークショップを行っていきました。今回受講生たちをアテンドした八幡平市の企画財政課 地域戦略係長の関貴之氏は、「他のイベントと重なってしまい、ワークショップに参加する市民を思ったように集められなかった」という反省点を口にしつつ、次のような成果が得られたと話しました。

「私自身はこれまでプラチナ大学に関わって来ましたが、都市部のビジネスマンと関わりのない職員も多くいます。そうした職員に対して、これだけ地方に関心を持っている人がいるのだということ、さらに実際の提案も聞いてもらうことができたのは大きかったと思います」(関氏)

image_platinu1017-03.jpeg 八幡平市 企画財政課 地域戦略係長の関貴之氏(写真右)

続いて振り返りを行ったのは茨城県笠間市。東京から1時間ほどで行くことができ、日動美術館や笠間焼などの芸術、市民農園や美しい里山など、多様な魅力を持つ地域です。その反面、人口減少や事業継承に関する問題などにより、シビックプライドの醸成に課題を有しています。八幡平市同様、笠間市でも多数の地元キーパーソンと対面し、地域の魅力と課題を探っていきました。中でも松田氏や受講生が印象的な取り組みとして挙げたのが地元の高校生たちとの対話です。「プレイバック、私の高校時代」と題し、受講生たちが高校時代や大学時代にどんなことに夢中になったのか、そこで得たことは今の仕事にどう活かされているのか、といったことを話していったそうです。印象深かったのは高校生たちも同様であったようで、笠間市役所 市長公室 企画政策課 課長の北野高史氏は、高校生たちの反応を次のように話しました。

「笠間市のような地方都市にとって、高校生というのは宝です。しかし、中学校を卒業し義務教育を修了すると彼らと市の関わりが薄くなってしまうため、我々としても今回高校生を絡めた企画を実施できたことは勉強になりました。参加してくれた高校生たちも、普段は親や親戚以外の"働いている大人"と接する機会はほとんどないので、楽しかったと感想を述べてくれました」(北野氏)

また北野氏は、今回の逆参勤交代の感想をこう述べます。

「今回参加された方は、人柄も良く、バラエティに富んだ職業の方々でした。何より、評論家のように"こうした方がいい"というのではなく、"自分だったらこんなことができる"というような形で提案をしてくれたことが素晴らしかったと感じています」(北野氏)

「評論家のように上から目線で提案をしない」というのは、笠間市に限らず、今回のトライアル逆参勤交代に臨む上で松田氏がこだわった点でもありました。

「今回のトライアル逆参勤交代では受講生から色々なアイディアを提案してもらいましたが、"受講生が主体者ではない"ということには気をつけていました。 "こうしたらいいんじゃないですか"、"ここが地域の問題ですよ"などと、偉そうに言うのではなく、あくまでも地元の人たちが主語であり、自分たち(=受講生)にはどんなサポートができるのかを提案してもらうようにしていました」(松田氏)

image_platinu1017-04.jpeg 笠間市役所 市長公室 企画政策課 課長の北野高史氏

最後に振り返りを行ったのは、9月に実施した南阿蘇村での逆参勤交代です。もともと人口減少や少子高齢化の加速といった課題を抱えていた南阿蘇村は、2016年に起こった熊本地震により大きな被害を受けたことにより、復興という新たな課題に直面している地域です。そうしたこともあり、南阿蘇村での逆参勤交代は「課題が整理される前の"生"の状態であり、"上級編"だった」と、同地におけるフィールドワークの直後、松田氏は話していました。

南阿蘇村での逆参勤交代は、楽しみ、リフレッシュしながら健康診断ができる「阿蘇ファームランド」を拠点に展開。この阿蘇ファームランドは、震災以前は近隣の東海大学の学生たちがアルバイトとして多く働いていた場所です。しかし震災後に同大学は撤退し、人手不足に陥りました。そのため、「学生アルバイトに頼らずとも運営できるよう業態の見直しと共に、新しい健康セルフチェック機器等も導入しました」と、阿蘇ファームランド 渉外部長の竪山氏は説明します。

南阿蘇でも地元キーパーソンとの意見交換会や被災地の現状視察などを実施していきました。その中で松田氏がメインイベントの1つとして挙げたのが、南阿蘇中学校3年生たちに対し、受講生が自分たちの経験やキャリアを語る勉強会でした。このときのことを松田氏は次のように振り返ります。

「福沢諭吉は"半教半学(教えることで学ぶ)"と説きましたが、中学生たちだけではなく、受講生たちにとっても価値があることだったのではないでしょうか」(松田氏)

「また、南阿蘇中学校の教頭先生が"被災地の子供たちは自信をなくしてしまっている"と仰っていました。そうした子供たちに対して、外部から来た人間が南阿蘇の魅力や地域のポテンシャルを話すことは、彼ら彼女らの心を勇気づけたのではないでしょうか」(同氏)

実際、南阿蘇村の議会議員 総務常任委員会 委員長の太田吉浩氏も、この企画は子供たちにはいい影響を与えたのではないかと話します。

「震災以降は人口が減っていますし、役場や農協以外の職業に触れる機会も少ないので、受講生の方々のように、色々な職業の人の話を聞けたことはいい刺激になったと思います」(太田氏)

一方で受講生たちも、南阿蘇村の人々とコミュニケーションをとったことで勇気づけられたようでした。例えば「温泉が好きで、南阿蘇村の温泉にも行っていたけど、震災後の姿を見たくなくて足が遠のいてしまっていた」というある受講生は、今回の逆参勤交代を機に地元の地獄温泉を久しぶりに訪れ、温泉のリニューアルを目指す人々の姿を目にしたことで「自分ができる形で関わり、地域の情報を発信していきたいと感じた」と話しました。

image_platinu1017-05.jpeg 阿蘇ファームランドの渉外部長の竪山裕史氏(写真左)、南阿蘇村の議会議員 総務常任委員会 委員長の太田吉浩氏(写真右)

各地域の振り返りからは、元々の逆参勤交代の目標である都市部社員のリフレッシュや地方創生ビジネスの推進といったことはもちろん、地元の人たち、あるいは逆参勤交代参加者のマインドを変える可能性を秘めていることが感じられました。

◆逆参勤交代、「続ける、深める、広める」ために

各地の振り返りを終えた後、トライアル逆参勤交代に参加した受講生たちからの声が紹介されました。「日帰りではわからないことが見えた」「より深く地域と関わり、今後も地域課題解決のための取り組みをしていきたい」といったポジティブな声が紹介されると同時に、「経営者や役員、人事部に属する人たちにも逆参勤交代に取り組んでもらいたい」といった意見も紹介されました。こうした意見に対して松田氏は「影響力のある人が逆参勤交代に関わることが重要。今後、役員限定の逆参勤交代や、人事部限定の逆参勤交代も考えたい」と述べた上で、「経営者の方々には、逆参勤交代は社員、自治体、企業にとって三方一両得であることを理解してもらいたいですし、こういった取り組みをすることが人材採用や育成の一助になることを知ってもらいたい」とも話しました。

松田氏はさらに、今後のトライアル逆参勤交代の候補地についても紹介しました。

「今後のトライアル逆参勤交代は、大自然や離島、都市近郊、北海道から沖縄まで多くの候補地を考えていますし、あるいは今回伺った八幡平市、笠間市、南阿蘇村での"逆参勤交代アゲイン"も考えています」(松田氏)

そして最後に、松田氏は次のように話してこの日のセッションを締めくくりました。

「今回、3つの地域でそれぞれ3泊4日のトライアル逆参勤交代を経験し、人生観を変えるきっかけを得られるものであること、仕事にもプラスになることだと改めて感じました。今後はこれを一過性のイベントにするのではなく、官民連携、広域連携で深め、広めることが重要だと思います。そして私は、逆参勤交代という言葉が首相の施政方針演説に出るまで、そして1万人の人が逆参勤交代をやるまで、この取り組みを続けていきたいと思います」(松田氏)

松田氏の熱は、今回参加した受講生、受け入れを行った地元住民にも確実に伝播していることでしょう。今後さらに「逆参勤交代」のムーブメントを広げていく上で大切になるのは、松田氏が口にしたように「続け、深め、広めていく」ことです。徐々に、確実に、その輪が広がる逆参勤交代。今後もこの取り組みには注目です。

image_platinu1017-06.jpeg 阿蘇ファームランドの渉外部長の竪山裕史氏(写真左)、逆参勤交代のキーパーソンたちで記念撮影。今後の取り組みに期待が高まります

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