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【レポート】プラチナを島の熱気が席巻する

丸の内プラチナ大学 ヨソ者街おこしコース DAY6(9月27日開催)

舞台は北の高原から一気に南の島へ。丸の内プラチナ大学ヨソ者コースのDAY6は、9月27日、徳之島・伊仙町をテーマにした2回目の開催となりました。前回(9月13日)の開催から、テーマとなった各地に向けたビジネスプランの発表が行われていますが、今回は長寿と合計特殊出生率日本一で知られる徳之島伊仙町を巡って、一体どんなアイデアが飛び出すのでしょうか。

前半は、現地からの追加レポート、後半にディスカッションとプレゼンテーションという構成。徳之島からは伊仙町・大久保明町長と、前回も登場した同町役場未来創生課の松岡由紀氏が現地の動きを改めてレポートしています。冒頭、大久保町長は「島を取り巻く状況は日々変わっている。しかし、どんなことがあってもこの島、この町を、日本を変えるためのモデルにしていきたい。そのためにも今日はみなさんの発表に期待したい」と盛大なエールを送りました。講師の三菱総研・松田智生氏も、丸の内プラチナ大学で伊仙町を取り上げていることが「いろいろなところでものすごく話題になっている。観光、ライフスタイル、働き方、さまざまな領域で先進的な事例となるだろうと、多くの人から期待されているということ」と、この講義が与える社会的インパクトが大きいことを示唆しました。

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追加レポート――ヘルスケアツーリズムの今

追加レポート――ヘルスケアツーリズムの今

ヘルスツーリズムの概要 ※当日のプレゼン資料より

前回、伊仙町に移住して「ヨソ者」として道の駅の開設などに活躍している様子を語ってくれた松岡氏。この日は、「前回語りきれなかったこと」と「会場から指摘を受け、言葉が足りていなかった点」を改めてレポート。そのいずれもが今まさに動いている、現在進行形のプロジェクトでもあります。

松岡氏そのひとつが今年で4年目を迎えている「ヘルスツーリズム」の取り組み。いわゆるメディカルツーリズムの一種で、厚労省がバックアップしているもの。今年9月にそのサミットが開催されており、伊仙町もそこで発表しています。松岡氏はこれに立ち上げから2回目まで関わり、ツアーコースやプログラムの設定まで手がけています。際立って高い百寿率を維持する伊仙町としては「健康」は真っ先に打ち出したい内容ですが「(三重県の)モクモクファームのみなさんから長寿、ヘルスケアでは"広すぎる"とアドバイスをもらい、"ダイエット"をテーマにツアーを組んだ」そう。とはいえ「語源となったギリシア語では、ダイエットは『生きる』という意味。狭義の"痩せる"を出しながらも、徳之島の百寿率の高さ、その健康の証拠を体験し、実感してもらえるものにしたかった」と松岡氏。

そのプログラムは、デューク大学のメソッドを取り入れた行動変容を促すもので、レクチャーと運動を効果的に組み込んでいます。食事は島の食材をふんだんに使ったメニューを管理栄養士が考えています。初回から20名を超える参加があり、参加した人からは感謝の手紙が来ることがあるのだそうです。松岡氏が一番印象的な参加者は東日本大震災で被災後、徳之島に移住してきた高齢の男性。「受ける前は毎日暗い顔をしていて、ケアする必要があると言われていたのですが、プログラムを受けている間にみるみる表情が明るく変わっていき、今は毎日ジムに通うまでになった。(このプログラムが)人の人生を良い方向へ変えることができたということがとても大きな印象として残っている」。

このヘルスケアツーリズムは、「国の健康促進、地方創生の動きに、一自治体としてうまく乗った形にすぎない」と松岡氏は冷静に分析しています。国の補助金を多く入れることができる今はいいが、補助金が切れたらどうするのか。「どういう方向へ進むべきか、今が重要な岐路。ただやりました、で終わるのではなく、行政主導ではなく、地元の民間事業者主導で、収益性の高い仕組みを作ることが今後の課題ではないかと思っている」。これは、地元主体の地域包括ケアシステム、空き家の利活用などでも同様の課題となっているのですが、「誰が主体になって事業化するのか、プロジェクト・マネジャー的な人材も不足している」という現状です。

追加レポート――「教育」という課題

もうひとつの話題提供が「教育」です。「子宝日本一と言われ、豊かな地域力が子育てを支えているが、一移住者として見ると、長期的視点にたった教育への配慮が薄いのではないかと感じていた」と松岡氏。本来教育部局の業務ですが、行政部局から「あえて提案した」のが伊仙町学習支援の「学習の場づくり=図書館整備」「基礎学力アップ=土・日スクール」「キャリア教育=徳之島MOOC」「郷土へのプライド=徳之島学」の4本柱です。

このうち前3つは教育の「環境」整備といえるもの。伊仙町で一番大きな図書館で蔵書量が6000冊。隣町の大きな図書館でも3万冊。東京で一番大きな区立図書館と言われる杉並区立図書館が76万冊、3万冊といえば分館と同程度に過ぎない状況です。「本に囲まれているのとないのとでは、子どもたちの教育に大きな違いがある」と松岡氏。基礎学力、キャリア教育の問題は離島ならではの課題かもしれません。「小学校までは成績が良くても、中学に上がると、(人数が少ないから)勉強しなくても高校に落ちることはない、という感覚」になってしまう子もいるのだとか。キャリア教育しても「子どもたちに将来の希望を聞くと、身近にいる看護師、放射線技師、作業療法士といった医療関係、JA、公務員、島最大の産業のサトウキビの製糖工場そして農業くらいしか思いつけない」という状態。「これが、他の選択肢が見えて理解したうえで言っているのだろうか、そうでないとしたら、大人が見えるシステムを作らない限り子どもたちが気づくことはないのでは」。キャリア教育では、MOOC(Massive Open Online Courses)を使って、全国の大学と連携して「いわば徳之島版放送大学のようなことをしてみたい」と希望を語っています。

そして最後の「郷土へのプライド」について、松岡氏はこう語っています。「もし前3つの取り組みがうまくいっても、島から出て戻ってきてくれなければ島は衰退する一方になる。今、40歳前後になった人が『島の良さに気づいた』と戻ってきてくれて、それはそれで嬉しいことなのだけど、せっかくなら、もうちょっと早く気付き、人生設計を持って戻ってきてくれたらとも思う」。そのために、島にいる高校卒業までの18年間で、生まれた島の価値を伝え、「こんなに素晴らしい、すごいということを」子どもたちにもしっかり伝えたい。そんな取り組みも進めたいとしています。

島の「内」と「外」

この後、大久保町長から補足的に5年がかりで誘致した日本マルコ(本社:神奈川県。最先端技術を持つ電気部品メーカーで、JAXAや航空会社に提供していることで知られる)の工場を巡って、「若者が、やはり一度は島から出たいと就職したがらない」という状況の話をいただき、大久保町長、松岡氏、松田氏によるミニパネルディスカッションを行った。冒頭松田氏は「補助金からの自立、ハードからソフトへ、人材育成がキーワードになるのでは」とここまでの話を整理。

パネルディスカッションでは、会場からの質問も交えながら、さまざまな話題が持ち上がりましたが、その内容は主に島の「内と外」に集約されていたように思えます。 印象的なのは、大久保町長が熊本の高校に行っていて、そのことが今につながっているということ。「当時は越境入学ができない時代だったが、たまたま熊本の高校に行くことができた。そのおかげでとても視野が広がったし、同時に島の同級生たちからはすごく羨ましがられて、同級生のためにがんばろう、ただでは島に帰らないぞと思うようになった。外に出ることで、島への思いに早く気付いて、貢献しようという気持ちになった」。

松岡氏からは、「せっかくなので、学生たちから提案をもらおうと島の状況を説明して、意見をもらった」と、宗教学的調査のために来た東京大学のゼミ生たちとのコミュニケーションで得た気付きについて発言が。
「この島の強みは何だと思うかと聞いたところ、ある学生から『僕らはここに何かがあると思って調査に来た。その答えを島の人は持っていますよね。それが強みなのでは?』という言葉をもらって、あ、そうだなと」。都会で生まれ育った若者は、「魚を捕りに海に潜ることも、虫を捕ることもなく、18歳になる。『僕達はそういういろんなことを犠牲にして大学に入ってる』のかもしれないが、島の子どもたちとお互いの経験を伝え合うことで、良い相乗効果が生まれるのかもしれない」と松岡氏は、島が持つもの、島の外から教えてもらいたいことについて考えるようになったと話しました。

熱気は伝播する

そして前回同様、テーブルごとに各自のビジネスプランをショートピッチ、ディスカッションする時間。テーブルには町長、松岡氏ほか町の職員の方もまじり、熱心に意見を交換していました。

そしていよいよ優秀プランの発表。宿題で出されたプランを「未来創生課の職員総出で確認」(松岡氏)、「どれもすばらしく選び難かった」が、4本選考しています。また、この場で聞いたショートピッチからも改めて町長、松岡氏が印象的なプランを各1本選び、計6本が選出されました。松田氏は「選ばれた4本は、前回の八幡平で選ばれた人とまったくかぶっていない。高原リゾートと島では、やはり何かが違うのかもしれない」と興味深げに話しています。

選ばれた4本は、島の文化育成とマネタイズを同時に実現しようとする「徳之島カレッジ創設」、中高レベルの教育から島の未来を構築する意識を養う「生まれ育った故郷の島で、島と自分の未来を描いてみよう!プロジェクト」、特殊技能を持つ人の移住を促進し、それ自体をイベント化するとともにビジネス資源にする「一芸移住プロジェクト」、子育て期間中の夫婦の短期移住から島の認知拡大と長期的視点の移住促進を行う「『日本一子育てしやすい島』子育て移住プロジェクト」。大久保町長が選んだ印象的なプランは、企業向けの視察ツアーからサテライトオフィス、移住促進を目指す「企業招致に向けた視察ツアー 8×5倍増プロジェクト」、松岡氏が選んだのは、島民を資源化する「島民が全員ガイドプロジェクト」でした。

選ばれたプランは全員の前で改めてプレゼンしていますが、その熱気もすばらしいものがありました。

東洋のダボスを目指して

これらプレゼンを受けて、松田氏は総括として、改めて教育・ビジネス領域ともに人材育成の重要性、「組み合わせ型」の街おこしの可能性(教育×子育て×雇用×健康×観光×高齢化......)を訴えました。そして、「離島にこそ最先端モデルがあることが改めて分かった。経済の最先端を知りたければスイスのダボスで開催される世界経済フォーラムに行けと言われるように、ぜひ、徳之島には課題解決の最先端モデルの都市として『東洋のダボス』を目指してもらいたい」とし、そのためにも「ぜひ丸の内プラチナ大学の徳之島分校を」と町長にも呼びかけました。

また、松岡氏は「いずれも素晴らしいプランで、しかも、それぞれが主体者として『私はこれをします』という表明があることにグッときた。一部のプレゼンしか直接聞くことができなかったが、本当は全部聞いてみたい。また、ただアイデアだけをいただいて"盗まれた"と思われるのも嫌なので(笑)、どれもぜひ実現したいし、みなさんにも関わっていただだきたい」と参加者に呼びかけました。大久保町長も「7000人の自治体だからできるダイナミックな変革ができる。いただいた力作は、長期的視点で活用し、実現していきたい」と、ここでの成果をしっかりと形にしていくと約束してくれました。

人としての"理"

最後には恒例の懇親会となりましたが、再び島の産品を大量に持ってきていただき、おいしく楽しい時間を過ごすことができました。特に島バナナは、沖縄本島で穫れるものに比べ、酸味が強くフルーツ感が豊かで美味。黒糖焼酎などは言わずもがな、当初飲みきれないと思われた焼酎もまたたく間に空いていくのでした。

ちなみに、実は今回もらったプランの一部は、宿題を提出後すぐに採用が決まり、予算を組み替え、今年度中に実施することが決まっています。普通の自治体ではできない、恐るべきスピードです。
松岡氏は取材に答え、「実は、最初はプラチナ大学と言っても、早期退職後に移住したいという人がちょっと個人的に何かやってみたい、というくらいのプランが来るくらいだろうと思っていた」が、蓋を開けてみると「質の高いビジネスプランが多く、しかも、ビジネスとしてちゃんと関わろうとする強い意志があり、これは具現化しなければとこちらも強く思うようになった」としています。
本当に予算を振り分けたのか尋ねると「yes」。「すでにある予算をうまく振り分けて、いくつかはすぐに実施に向けて動く」。その速さの秘密を尋ねると「意思決定のラインが短く設定されていること」と、「無鉄砲なくらい柔軟な島の人たちの性格」にあるのではと話しています。もちろん、そこが逆に「継続的活動を支えるシステム」の欠如と裏腹なところであることも、念のためここに付記しておきます。

「町長も来場して本気で取り組んでいるからこそ、その熱意が伝わるし、こちらも本気で取り組みたいと思った」とある受講生が話しています。松田氏も指摘するように「奄美人の人柄の良さ、魅力」があって、そこに引き込まれるように、今回のビジネスプランが触発されたという面もあるでしょう。「こういうことは、"利"じゃなく、なんとかしてあげたいと思う人としての"理"ではないか」とまたある受講生が感慨深げに話したのが印象的でした。改めて地方創生の基本が「人」であることを考えさせられた回となったのでした。

徳之島・伊仙町には、11月初旬に現地視察ツアーが敢行される予定になっています。この熱気があれば、さらに現地で新しいプランやアイデアが加速度的に出されることは間違いないでしょう。大いに期待して待ちたいと思います。


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