イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【丸の内プラチナ大学】CSVのマインドセットとアプローチ

CSV実践コース第1回(DAY 3)レポート 11月12日

即実戦のCSVとは

11月12日、「丸の内プラチナ大学」の「CSV実践コース」がスタートし、第1回目の講義が3×3Laboで行われました。参加者は2回の共通講座を経て、農業ビジネスコース、地域デザインコース、CSV実践コースを選択します。希望者には複数のコースを取れるようにスケジューリングされており、中には3コースとも選択している参加者も見られるそう。

CSV実践コースは、他の2コースとは異なり、"外"へ出ることはありません。しかし、それは実学でないことを意味しません。逆にフリーテーマでCSV実践へアプローチする、座学ながら即実戦の「実学」という高度な内容といっていいでしょう。講師として既にCSVを実践するプレーヤーを招き、その取り組みを解題してもらい、自分たちの活動に役立てていくというスタイル。第1回目では、日立製作所 情報・通信システム社でブランド戦略部担当部長とCSR部担当部長を兼任する増田典生氏が講師を務め、同社のCSR、CSVの取り組みを語りました。

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気付くこと、仲間を得ること

気付くこと、仲間を得ること

オープニングのワークでは、参加した理由、目的をテーブルシェアした

講義に先立ち、ファシリテーターを務める臼井清氏(企業間フューチャーセンター、志事創業社)が、本コースのアウトラインを解説しました。3回の講義とワークショップを通じて、できうるならば最終日には「CSV実践計画」を立てるところまでを目指したい考え。加えて本コースにはもうひとつのテーマがあり、それは「社会との関わり方を見直し、(社会との)チューニング機能に気付く」であることも指摘されました。これは臼井氏が会社を辞め、創業するに至る過程で自らが切実に感じた課題でもあります。

ファシリテーター・臼井氏

そして、「学び"合い"の場を作っていく」「『仲間』を増やす」「笑顔を忘れる事がないように」という3点を注意として挙げ、強く念を押しました。これは、これまでのプレ講座を見てきた人ならよくご存知のように、CSV実践、殊にセカンドキャリアでの新たな取り組みをスタートするには、何よりも気の知れた"仲間"との、ベースになるコミュニティが必要だからです。かねて丸の内プラチナ大学で構想してきた「サロン」形成の母体としても期待しているのかもしれません。

企業価値を高めるCSRとは

続いての本講義では、増田氏が「B2B2C2Sというアプローチ」と題し、豊富な実例も示しながら同社のCSR、CSVのフレームワークを紹介しました。

日立製作所 情報・通信システム社 増田氏

同社のCSRの方針は「『技術と協創による社会イノベーションへの貢献』というグループビジョンの実現」であると増田氏。そのうえで、縦軸「守り」「攻め」、横軸に「社内」「社外」を置いた4象限を定義し、「攻めのCSR、アウタープラスの領域のCSRが、CSVとニアリーイコールで、企業の社会的価値を高めることができる」と説明します。守りのCSRとはいわゆるコンプライアンス、ガバナンス系のCSRで「できて当たり前」。社会的に意味があるのは「社外で価値を上積みしていくもの」なのです。

その実現のために、CSRを定義するISO26000が掲げている7つの主題「組織統治」「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者仮題」「コミュニティへの参画および発展」を包含する3つの方針を設定しています。
方針1:社会的責任を的確に認識する(認識)
方針2:活動の優先順位を決めて実行する(活動)※ここに7つの主題が含まれる
方針3:情報開示とステークホルダーとの対話を通じてCSR活動の確認と改善を行い、社会的責任を組織全体に統合する(確認と改善)

近年のCSVの認識拡大とともに、CSRの見直しが進み、ISO26000を援用する企業は増えていますが、それを包含し、前後に「認識」と「確認・改善」を置いているのは他に例がなく、事業性と持続性・計画性を強く意識した取り組み方だと言えるのではないでしょうか。

日立製作所 情報通信システム社のCSR/CSVのフレーム(当日のプレゼン資料をもとに作成)

顧客のその先に見える社会

そして、「日立の事業はBtoBばかりだと思われているが、分解してみると、本当はその先には消費者がいて、ひいては社会がある」と認識し、CSR活動を展開していると話します。「営業など現場では目の前の問題だけで終わってしまうけど、でも、本当はそれだけじゃないよね、と。その視点がなければ、本当に社会に必要なことができなくなる」と増田氏は続けます。「事業起点で、こんなシステムができた、こんなアイテムができた、ではなくて、社会起点でバックキャストして戦略を考えなければ、イノベーションは起こせないのでは」。つまり、同社のCSRは、本業とリンクし、本業を社会にフィードバックするためのツールとして機能するということなのでしょう。

この、タイトルにもなった「BtoBtoCtoS」の考え方は、実は「営業にもウケる」のだとか。「去年本社の営業課長を集めてCSR研修をやったら、『今はスペックじゃなく、こういうストーリーテリングで営業の差が出る』と喜ばれた」そうです。また、「これは企業だけじゃなく、個人も同じことじゃないだろうか」と増田氏は投げかけます。「これまで30年社員としてやってきたが、自分の仕事が社会につながっている、そう考えると、自分個人の心にも素直に落ちてくる感覚がある」。

具体事例から見える日立のCSR

プロボノで製作された唐丹漁協のウェブサイト

これらを踏まえ、その後は具体的な事例を紹介しました。

岩手県釜石市の唐丹町に入り、震災復興支援に取り組んだ事例では、プロボノとして地域情報発信のハブとなるサイトの構築、水産加工システムの改修などを行っています。これだけではいかにも「ボランティアだけ」のようですが、3年に渡る活動で「地元からは高い評価を受け」、釜石市での日立のプレゼンス、ブランド力が向上したと増田氏は解説。また、これらのボランティア的な活動を通して、自治体とどうかかわるのか、面的な活動の経験を積むことができ、「ここでの経験がビジネスに生かせることは間違いない」と話します。
そしてさらに、「地元のステークホルダーと連携し、協業を重ねたことでより本質的な価値のある解を出すことができた」とし、「CSVとは、Creating Shared Valueというよりも、Collaborate for Shared Valueなのではないか。組織の枠を超えて、価値を生み出すために協働することが大事なのではないか」とCSVの新しい考え方を語りました。

また、別の取り組み事例として、情報・通信システム社のグループ会社である日立ソリューションズ社内で行っている「社会イノベーション事業体験ワークショップ」を紹介。これは「社会課題起点から"も"事業を組み立てられる人材を育成」することを目指すもので、CSRの実践に向けた2カ月に渡るタフなワークショップです。海外の新興国の社会課題を解決する事業アイデアを考え、アウトプットは「事業公募制度、有志の勉強会、そして『留職』」。事業公募では、7年で約2000件の案が出され、うち3件が事業化されたという。「まさに千三つ」と増田氏は謙遜しますが、「最優秀賞には100万円、事業案を書いて応募するだけで1000円分の図書券」だというから、会社側の本気度がうかがえるというものです。

このほか、留職プログラムや小・中学校向けICT教育の実施、他社交流ワークショップの実例なども紹介されました。そして最後に「経済価値と社会価値の融合」の重要性を指摘。「自分も経営企画のセクションにいたから今日の飯のタネもすごく大事なのはよく分かる」が、それでも、経営リソースの配分は、既存事業:新規事業:社会課題起点が、70:20:10が理想だと話しています。これを実現するには、CSRセクションだけではなく、数字を作っている人とも握る必要があるために「高邁な理想を掲げる青臭さと、理想の実現に向けた取り回しができる腹黒さを併せ持った"青黒い人"」が必要だと強く訴えました。

インプット、シェア、そしてアウトプットは......?

増田氏の講演の後、各テーブルで感想をシェアし、氏に聞きたいことなどを話し合いました。そして、質問者もパネラーのごとく登壇し話し合う形式で質疑応答、議論が交わされた。これは「フィッシュボウル」と呼ばれるワーク形式のひとつで、議論を客観的に読み取り、自己にフィードバックできるのが特徴です。増田氏を真ん中に据えて、左右の質問者が入れ替わり立ち代わり質問を投げかけます。地域に入る難しさや、企業側をコントロールする方法など、深いところまで踏み込んだ議論が交わされました。

最後は、各人で「やりたいこと」「持ち帰りたいフレーズ」をカードに記入して終了となりました。共通講座でも解説がありましたが、このように気付きや思いを形にし、意識することで、次のステップが想起されるようになるのです。これはただのマインドセットではありません。"座学だが実践"という、特殊なスタイルのCSV実践コースでは、参加者各人の「思い」が何よりも重要。その思いがどちらへ向くのか。第2回目以降の講座にも期待です。


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