イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【スペシャルレポート】馬と人と大地と。

丸の内プラチナ大学 ヨソモノ街おこしコース 岩手県八幡平市ツアー 2016年12月3日(土)~4日(日)

丸の内プラチナ大学ヨソモノ街おこしコースは、良い意味でのヨソモノが地方自治体が直面する課題を真摯に学び、地方創生にどのように貢献できるのか、あるいは貢献していくかを模索する講座ですが、そのスピンアウトとして、徳之島・伊仙町に続いて、岩手県八幡平市への視察&市長プレゼンツアーが催行されました。今回も受講生からの希望者が参加者です。講義を通じて練った地方創生プランを市長に直接ぶつけるチャンスを貰えるということで、血気盛んな受講生12名が12月3日、盛岡駅に参集しました。もちろん講師の三菱総合研究所 松田智生氏も同行しています。

どんな道中になったのか、そして市長プレゼンの結果はどうだったのでしょうか。1泊2日のツアーの様子をレポートします。

<1日目>【視察】サラダファーム→ジオファーム→オークフィールド八幡平→別荘地 しらかばの森/市民を交えたワークショップ <2日目>市長プレゼンテーション/【視察】ペンション群→澤口酒店→道の駅 にしね

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農業と馬と食事

農業と馬と食事

11時に盛岡駅に集合した一行は、車に分乗して一路八幡平市へ。八幡平市へは高速道路を利用すれば30分足らずの行程で、まずはサラダファームのレストラン「花の森」へ。ここで一行は地のものをランチでいただき、八幡平市への理解を深めました。

サラダファームは花卉、野菜などのハウス栽培をしており、栽培用ハウスのほか観光体験用の「八幡平フラワーランド」も併設。「花の森」はサラダファームで採れた野菜を中心に、地元八幡平市の産物を使った料理を提供しています。

いただいたランチも、こちらで採れた野菜が中心。前菜は「八幡平サーモンのマリネ、鴨肉のスモーク、野菜のマリネ」のプレート。パスタは「短角牛のポロネーゼ」、デザートはガトーショコラとチーズケーキ、いちごを添えて。ある参加者は「野菜がうまいというのは凄みがあるなあ」とポツリ。農業に興味のある参加者はスタッフを捕まえて詳しく聞き出すなど、最初から興味全開の一行です。

焼走り熔岩流ランチ後は景勝地として知られる「焼走り熔岩流」へ。独特の奇景とその背景にそびえる岩手山の姿を拝してから「ジオファーム八幡平」へと向かいます。道中、左右には広がる採草地を見て、八幡平の畜産のベースを知るのでした。

ジオファームは、北海道からの移住者である船橋慶延氏が2年前に設立。馬ふん堆肥と、マッシュルーム生産をしています。近くの温泉「旭日之湯」からのお湯、地熱などを利用していることもポイント。場内視察では、堆肥化するために山積みにされた馬糞や厩舎を案内していただきました。

ジオファーム 船橋友紀恵さん

もともとジオファームは、競走馬としての役目を終えた馬の余生を守るために設立されたという経緯があります。参加者たちは「競走馬にもセカンドキャリアが必要なのか!」「これは馬のCCRCだ!」とひどく感心していた様子。
(※CCRC......Continuing Care Retirement Community。継続的な介護が付随する高齢者向け共同体。アメリカ発祥だが、 日本ではまちを包含するオープンコミュニティで実現を目指すなど独自に進化しようとしている)

"別荘"という課題とオークフィールド八幡平

続いては温泉付き別荘分譲地の「しらかばの森」へ。こちらでは懸念事項と紹介されていた空家化が進む別荘地の課題を視察します。アテンドしてくださったのは株式会社八幡平温泉開発の田中耕輔氏、佐藤健人氏です。

森閑とした林の中に、いくつかの区画に分かれて広がる別荘地。八幡平では昭和47年から開発分譲が始まり、1000区画ほどが整備され、そのうち「しらかばの森」ではおよそ300区画。現在は72区画が空いているそうです。視察させていただいた物件は、オーナーが80歳を超えて体力的な不安や、運転ができなくなることに伴う二次交通の問題などから別荘を手放すことを検討しているというもの。ややこじんまりとした作りですが、かけながしの温泉、大理石の浴槽が付いた贅沢な仕様。参加者たちも浴室の作りには感嘆の声を上げていました。

また、田中・佐藤両氏とのやり取りでは、買い物や二次交通の現状、暮らすうえでのリスク、現状の購入者がどんな人なのかといった、別荘を巡るさまざまな情報も聞き出しています。後に松田氏は「八幡平のCCRCは別荘地(ペンション)の課題と表裏一体」と指摘していますが、高齢化や独居が進む別荘地の課題を、八幡平版CCRCによって健康・医療・介護での安心で解決するアイディアは、参加者たちにとっても重要なインプットとなったようです。

そして一行はようやくオークフィールド八幡平へ。現地では、東京での講義に講師として登壇してくれた山下直基氏、設計を手がけ、丸の内プラチナ大学の受講生でもある桑原聡氏が出迎えてくれました。参加者の中には、オークフィールド八幡平を訪れたことのある人もいましたが、初訪問という人がほとんど。桑原氏の説明で、細部に至るまで、オークフィールド八幡平の仕様を教えていただきました。

丸の内の授業で、コミュニティ重視、"バリアアリー"の作りであることは聞いてはいたものの、「造成をしておらず、自然の地形に合わせて傾斜も利用した」という造りや、「建設費は坪60万円という破格の安さで抑えるために」ほどこされたさまざまな工夫、暮らす人が心地よさを感じるためになされた色や光に対する配慮等々、直接見て、設計者の意図を聞くことで感嘆とともに理解を深めることができたようです。特にこのヨソモノ街おこしのコースでは、不動産、建設関係の受講生が多いため、住まう人のための造作、その自由で心地よい意匠に感じ入っていた人が多かったようで、長々と立ち話をする姿が何度も見受けられました。

地元の声を

駆け足ながらも濃密な視察を終えて、この日最後のプログラムとして、八幡平市の市民、市職員のみなさんとのワークショップを行いました。会場は八幡平市役所の大ホール。実は、市役所はJR花輪線北森駅と"併設"されています。そんなユニークな発想にもテンションが上がる参加者たち。

講師の松田氏ワークショップに参加してくださった市側の皆さんは、福祉関係者、農家、観光業、IT業などさまざまな分野に渡っています。共通しているのは、八幡平をもっと良くしたいという思いを持っていることです。冒頭、八幡平市企画財政課の香川豊課長から挨拶に立ち、日本百名山のうち2座があり、東は太平洋、北は津軽半島、西は男鹿半島へとアクセスが非常に良いことを挙げて「八幡平は非常に自然環境に恵まれた豊かな大地。ぜひヨソモノのみなさんから見て魅力を再発見し、八幡平のまちおこしを考えていただきたい」と呼びかけ。また、採用できるアイデアがあれば予算化も検討したいと積極的な姿勢であることも示しました。

今回全体で20名のワーク。視察で回った「ジオファーム」「別荘」「オークフィールド八幡平」「交流人口」の4つをキーワードにテーブルに分かれて、「もっと良くなる~」をテーマにセッションをスタート。講師の松田氏は、「もっと良くなるにはどうしたら良いか。"Good"と"News"に着目して議論し、論点を抽出してほしい」と参加者に呼びかけました。

20分2本のワークで、状況整理と意見交換、アイデア出しを行い、途中と最後で全体シェアもしています。地元ならでは・ヨソモノならではの視点が出され、考察を深めることができたようです。最終的には「交流人口」「農業・エネルギー」「移住」という3つのキーワードに絞り込み、ヨソモノが3チームを編成、翌日の市長プレゼンで個人発表とともにチーム発表もすることになりました。

深まるほどに深まった交流

田村市長(右)

その夜、オークフィールド八幡平に場所を移し、懇親会も催されました。会場には田村正彦市長、岡田久副市長も来場し、参加者たちとの交流を深めました。開会に先立つ挨拶で、田村市長は「八幡平は、資源は多いがそれが知られていない。いろいろな人に知ってもらえる機会を設けてもらってうれしく思っている。ぜひいろいろな可能性をざっくばらんに語り合っていただき、未来を描き出してほしい」と参加者に呼びかけました。

松田氏は「2年前にオークフィールド八幡平を創設した社会福祉法人みちのく協会の関口知男前理事長と出会い、CCRCへの熱い思いに共感しました。丸の内プラチナ大学で八幡平に来て、未来を考えることは自分の義務だと感じていた。関口前理事長は残念ながら物故されたが、ついにここまで来れたことはとても感慨深い」と思いを語りました。地方創生やプラチナ社会の実現には、制度や体制以前に人の想いがとても大切であることを感じさせるコメントでした。

懇親会には市長・副市長のほか行政関係者、地元プレイヤーの皆さんも多く参加されていたため、ワークショップ以上の濃い意見交換と交流をすることができたようです。この熱い流れは会場で終わることなく、投宿した後も続けられた模様。この日は八幡平温泉郷「八幡平ハイツ」とオークフィールドに分宿しましたが、どちらでも参加者同士の激論飲み会が夜遅くまで続けられたようでした。

緊張の市長プレゼン

明けて2日目、いよいよ本番です。

会場となる八幡平市役所へ9時に到着した一行は、まずチーム発表用の資料作成に取り組みます。「本気になれば20分で相当のことができるんだなあ」と講師の松田氏がいたく感心したように、昨日の議論を踏まえ、わずかな時間でまたたく間に資料をまとめ上げる参加者たち。さすがです。

そして10時にいよいよ市長プレゼンへ。
この日は行政関係者の参加のみかと思われていましたが、昨日までの視察やワークショップを受けて、多くの市民の皆さんが興味を持ち、急遽参加してくださることになり、会場は予想以上の人で埋められました。

田村市長は「市民にはない視点でアイデアを出してくれるものと期待している。人口減に歯止めをかけ、地域を元気づけるという究極の目標に向けて、市民の皆さんにも有意義なものにしてほしい」と挨拶。松田氏からも「まちづくりは"人づくり"という視点でこれまで進めてきた。"提案から実現へ"という段階に来ており、そのためには現地を見なければという熱い想いを持った受講生が今日は集まっている。良い意味での"ヨソモノ"のアイデアを聞いて、なるほどと思ったら大きく、本当にそうだなと思ったら大きく2回頷いて発表者を励ましてほしい」と市民の皆さんに呼びかけました。

この日の発表は2段構えで行われました。前半は参加者たちの個人アイデアの発表。これはプラチナ大学の授業を通じて発案、提案したアイデアをブラッシュアップしたもので、その素案は、一度は市役所側でも目を通しているもの。これがどのようにバージョンアップしてくるかが見どころのひとつです。

1人3分と短い時間の発表ながら、さすがにプレゼンに慣れてきた参加者たちは、非常に効率よくポイントを整理しています。

タイトルだけ挙げると、「3Cプラチナプロジェクト」「八幡平みんな健康プロジェクト~結果にコミットする八幡平ダイエット道場」「地域資源を有効活用した地産地消・地域連携プロジェクト」「サムシング・ブルー」「八幡平と丸の内をつなぐ"おせっかい"ポータルサイト」「八幡平市 人口・産業倍増プロジェクト」「CCRCを核としたいきがいのまち創りプロジェクト」「子育てネットワークプロジェクト」「八幡平サテライト・オフィス・ヴィレッジ構想」「八幡平宝探しプロジェクト」「ワインコインワークシェア」「八幡平アクターズ・サマーキャンプの開設」と多様なアイデアが並びました。

提案の実現に向けて

後半は、前日に分けたチームでの発表です。農業・エネルギーをテーマにしたチームは「八幡平 馬のまち~PLUTINUM HORSE TOWN」と題し、馬を軸にした循環農業と地域活性化のプランを発表。移住テーマのチームは「別荘と高齢者施設の融合~オークフィールドCCRCの実現」として、別荘とCCRC施設のリンケージによる相互発展プランを提案。そして交流人口を増やすチームでは衝撃のプラン「Youber」を発案。これは温泉をたっぷり張った浴槽を馬車で引いて温泉に浸かりながら観光するという突飛なアイデアで、会場からも最初は失笑が上がったものの、発表で裏付けのある複合的なアイデアであることに気付いて最後はみな真剣な面持ちになっていました。(とはいえ、市長から浴槽を馬に引かせるのは無理だろうという指摘はありましたが)。

最後に、会場からの意見、質問を受け(プラチナ大学で別荘を一軒購入して活動拠点にしてはどうか、サマーキャンプ的な子どもたちの受け入れは本当に大変、何かひとつでも実現してほしい......云々)、田村市長からの総括がありました。田村市長は、八幡平市では馬を使った牧草地再生の事業に取り組んでいること、別荘地の住人の質が変わり、オープンになりつつあることといった状況があることなどを紹介し、いろいろな難しさはあるものの、「人口減少の最大の原因は、結婚し、子どもを生む家庭が減っていること。やはり若年層の移住を増やしていくことが大事なのでは」と改めて問題を提起して締めくくりました。

また、講師の松田氏は「今後はある種の強制力を持った制度設計、政策誘導が必要だろう」と語り、例えば「平成の逆参勤交代制度」とも言えるような、社員を地方へ派遣する企業には法人税を優遇をするような政策案を例示。そして「政策提案はもちろんしていきたいが、同時に、今後も、ヨソモノの活躍のために、"続ける""深める""広める"を軸に活動していきたい。ぜひ市役所のみなさんだけでなく、市民の皆さんにも参画していただければ」と今後に期する想いとともに市民の参加を呼びかけました。

企画財政課の香川課長に伺ったところ、「気になるアイデアはいくつかあった」し、市の総合戦略に即したアイデア、活動は、「予算化しやすいだろう」との見通しも語ってくれました。今後、これらのアイデアを寝かせることなく、実現に向けていくにはどのようにしたらいいか、大学、受講生たちの手腕が問われることになりそうです。

次回を期すクロージング

(上)あっぴ亭のラーメン。(中)ペンション地の視察。(下)オークフィールド八幡平でのクロージングの様子市長プレゼンを終えた一行は、市内で人気のラーメン屋で昼食を取り(しかし八幡平ホワイトは売り切れ! ナムサン!)、安比高原のペンション群を視察。スキー大流行時には隆盛を極めたであろうペンションも今は下火で、集客に悩んでいる様子が見て取れました。

そして最後に再びオークフィールド八幡平に戻ってラップアップとして全員が一言ずつ発表し、締めくくりました。意外と交流会などの"場外"では農業議論が盛り上がっていたようで、農業についてのコメントも多く出されていたことが印象的でした。

八幡平市役所のキーマンである関氏は「すぐさま具体的な活動として実行することは確かに難しいだろう。しかし、このつながりは離したくない。まず、ざっくばらんに語り合う場を地域にも創り、活動の輪を広げていきたい」と今後の期待を語りました。また、講師の松田氏も「1人1人のアイデアを掛け算していくことで、次の活動の手がかりが得られるように感じている。下地は十分出来てきたのではないか。今度はプラチナ分校を考えることも考えていきたい」と語り、視察の締めとなったのでした。

帰りには、地域の物産を知るために八幡平市唯一の蔵元「わしの尾」を扱う「澤口酒店」、道の駅「にしね」に寄り、最後の視察をしてそのまま帰途についた一行。最初から最後まで岩手山に見守られて、充実した視察&プレゼンツアーを終えることができたのでした。

JR盛岡駅構内で、ジオファーム八幡平のマッシュルーム販売が行われていたところで記念撮影


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