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【レポート】CCRCの未来が指し示す場所

丸の内プラチナ大学 特別イベント『日本版CCRCがわかる本』出版記念シンポジウム  4月27日開催

丸の内プラチナ大学の講師でおなじみの松田智生氏(三菱総合研究所主席研究員)が、CCRCについての本を執筆、出版されました! タイトルは『日本版CCRCがわかる本』(法研)。丸の内プラチナ大学の講義でも、まちおこし、地域おこしに紐付いて常に見え隠れしていたCCRC=Continuing Care Retirement Communityについて総括的にまとめた日本で初めての本格的な著作です。4月27日には、その出版を記念し、丸の内プラチナ大学特別イベントとして出版記念シンポジウムが開催されました。

前半は松田氏から、著書の振り返りも兼ねて改めてCCRCの概論。後半は、著書にも登場する日本各地の"CCRCに挑戦するリーダー"が3氏登場し、CCRCのリアルな"今"をパネルディスカッション形式で松田氏と語り合いました。この日は、3×3Lab Futureに入りきれないほどの聴講者が集まり(その数100名超!)、CCRCへの関心の高まりを感じさせました。

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改めて見えてきた日本版CCRCの姿

改めて見えてきた日本版CCRCの姿

松田氏は「これは私たちの物語である」というセリフで講演の口火を切っています。CCRCといえば、"地方に姥捨山"のような誤解が横行しているのも残念ながら事実。しかし、CCRCとは「高齢者のハコモノを作るのではなく、新しい生き方や働き方、つまりはライフスタイルを生み出すものであり、地域づくりそのものでもある」と松田氏は語ります。その意味で、CCRCとはこれから私たち自身がどう生きるのかという問いへの回答でもあるのです。

そのキーワードは、ユーザー目線でいえば「カラダの安心、オカネの安心、ココロの安心」があること。カラダの安心とは健康支援や介護支援、オカネの安心とは生活コストや要介護になっても安心して暮らせる費用。ココロの安心とは、生きがいや楽しさ、仲間たちとの交流があることなどを指します。とりわけ「生きがい」があることが極めて重要であると松田氏は指摘しています。

また、ビジネス、行政サイドから見ると「組み合わせ型」として大きな成果を出すことが期待できるもの。
ビジネスでは「予防医療・健康産業、IT、交通、住宅など、複数の業界にまたがるビジネスが展開され、雇用を生み出す可能性」があります。また、政策側から見ると、CCRCは単に高齢者対策なのではなく「都市政策であり、産業政策であり、健康政策であり、社会参加政策」でもあるのです。「それゆえに、決して簡単にできるものではなく、時間をかけて組み合わせて行かなければならないもの」と松田氏。この組み合わせ型のライフスタイル、ビジネスを創出するCCRCのあり方を、松田氏は「民公産学のいずれにもメリットのある、"四方一両得"」であると分析。

そして、アメリカでの実例を挙げながら、いかにしてCCRC起点にビジネスが起こり、雇用を生み出しているか、大学との連携がどのように進んでいるかを紹介。そのうえで日本での事例を挙げ、日本版CCRCの特徴を解説しました。日本での事例では、釣り好きが昂じて"釣り天国"の高知に移住した人、青春をかけた大学野球に恩返しするため移り住んで地方の大学野球部で総監督を務める人の例とともに、丸の内プラチナ大学でも取り上げたオークフィールド八幡平、スマートコミュニティ稲毛などの事業を例示。それらを概観して、日本版CCRCの特徴を「地域に開かれていること」「豊富なストックを活用できること」「多世代交流型であること」という3点であることを説明しました。

現在、230の自治体がCCRC推進に名乗りを挙げており、楽しく、生きがいに溢れたCCRCのアイデアが無数に出されています。それらを実現していくために今後必要なのが「制度設計」。事業者への税制優遇やインセンティブの付与、社会活動ポイント制度の運用等、行政が取り組めることもさまざまです。また、CCRC推進の土壌を広げる多世代交流・地域間連携を実現するために、中央の企業が社員を一定期間地方のCCRCでリモートワークする「逆参勤交代制度」を考えていることが披瀝されました。一方で、「"なんちゃってCCRC"の粗製濫造」の懸念もあり、消費者保護の意味でも認証制度や規格の整備が必要であることも語られました。

そしてもうひとつ必要なのが「人づくり」。松田氏は「まちづくりとは人を育てること」であるとも説きます。その一例が丸の内プラチナ大学のヨソ者まちおこしコースだったということ。さまざまなキャリア、リソースを持つ東京のビジネスマンが、地方創生、社会課題に取り組む場を作ることで、CCRCが日本に広がる土壌が形成されていきます。

今、日本の多くの会社では、新しいことをやろうとするとすぐに否定してかかる「否定語批評家症候群」、挑戦者が報われずに新しいことへの挑戦に水を差す「やったもん負け症候群」のような、閉塞的な状況が生まれていますが、それを乗り越えて一歩踏み出す仲間をどう増やしていくかも、今後のCCRC実現に向けた課題のひとつと言えるでしょう。松田氏は「CCRC推進は、1人だけ、1事業者だけでは難しい。今日ここに集まった志のある人たちが、未来に向けて一歩踏み出す勇気が、日本版CCRCを実現するはずでしょう」とより一層の参加を呼びかけて前半の講演を締めくくりました。

各地のリーダーが挑むCCRC

後半のパネルディスカッションの登壇者は、茨城県笠間市、市長公室企画政策課課長補佐の北野高史氏、オークフィールド八幡平の山下直基氏(アーベインケア・ケア・クリエイティブ代表取締役)、ジャパン・シニアリビング・パートナーズ代表取締役社長の藤村隆氏の3氏です。まず各パネラーから、自己紹介を兼ねてそれぞれの取り組みの発表がありました。

北野氏は平成13年にオープンした滞在施設付農園「クラインガルデン」を中心に、笠間市の取り組み、魅力について紹介。笠間市は水戸市に隣接する市で、電車・車とも東京から1時間程の「ほどよい田舎」。市の特徴には、耕作面積日本一の栗、植芝盛平が開いた合気神社、日本版クールシュヴェール国際音楽アカデミーなどがありますが、なんといっても一番は「笠間焼」。自由な作風が受けて、今では若い作家も集まり、300人ほどが窯を構える産地になっています。北野市は、そんな風土を「人の思いを形にするまち」と笠間市を説明。
クラインガルテンの利用者の7割は東京圏からの来市者で、5年の利用期間を過ぎても1割が残り、地元の人々と交歓するコミュニティが自然発生的に生まれていることを報告。「笠間版CCRCの潜在的利用者になってくれるのでは」と期待を見せます。行政としては、今後のCCRC政策加速のため、共創の場作りとともに、医療・介護体制を情報面で支えるクラウドシステムを構築、一元的に共有・管理できる体制を整えています。

山下氏が運営するオークフィールド八幡平については、これまで丸の内プラチナ大学でも取り上げており、改めて説明するまでもないでしょう(レポート1 2 3)。
八幡平市で老人ホーム、病院を運営する社会福祉法人からスピンアウトした「夢を叶える」ための施設。「サ高住」と一括りにしてしまうのがためらわれるほど、そこには夢があり、希望があります。山下氏はアメリカの詩人サミュエル・ウルマンの詩を引いて「青春とは心の有り様を指す」と話します。
オークフィールド八幡平は、建物それ自体にもさまざまな工夫があるほか、大学との学び合い、教え合いの交流、企業との連携等、さまざまな取り組みが行われていますが、この日のプレゼンテーションでは、オークフィールド八幡平に住む90歳の男性の生き様を紹介し、いかにCCRCが夢と希望を育むものであるかを説明しました。
それによると、その男性は70歳でフルートを始め、現在は、アルペンホルン(長い木製のホルン)を自作し、岩手山に向かってトレーニングしているのだとか。移住後、たまたま庭先に植えたバラを、隣の老人ホームの窓から眺めている寝たきりの人々の姿に気づいたことから、その人達の目を楽しませるためにバラ園を作りはじめています。大学生との交流にも触発され「負けていられない」と勉強にも熱心に取り組んでいるのだとか。まさに青春真っ只中で、「高齢者が本当に"年老いて"しまわないように、夢を叶え続けられるようがんばりたい」と山下氏。

ジャパン・シニアリビング・パートナーズの藤村氏は、「ヘルスケアリート」でCCRCの実現に大きく寄与しようとしている金融事業者です。「リート」とは、投資を受けた金融事業者が不動産物件を購入、その家賃収入などで投資家に還元していく不動産投資信託サービス。これをCCRCでやろうとしているのがヘルスケアリートです。 具体的には、開発段階から機関・個人投資家から投資を募るとともに、公的資金も利用して開発ファンドを組成し、開発を主導します。施設完成後は、施設運営者(オペレーター)に賃貸し、その賃料を収益として還元していくという仕組み。
藤村氏は、「まち全体のCCRCでは難しいが、いわゆる施設型のCCRCでは有望な仕組みではないか」と、ヘルスケアリートの仕組みを解説。また、日本のCCRCは松田氏が指摘したように、クローズドではなく産官学さまざまなプレイヤーとの連携していることが大きな特徴であり、そこに投資を誘引する可能性があることも示しました。

各人からの報告の後は、松田氏から質問を投げかける形でのディスカッションへ。「現状の課題」「今後の方針」等をテーマに、事業者、行政、金融事業者というそれぞれの立場から意見を述べ合いましたが、そこで見えてきたのはやはり資金の難しさが大きな壁になっていること。
藤村氏は「(投資対象になるためには)安定した長期的な黒字化」が必要だと説きますが、その一方で、山下氏が話すように、契約はしてもすぐに移住しないブランクなどの空室状況が事業者にとっての大きな負担になっている現状があります。安定した事業化は利用者にとっても重要で、入居した後に、事業主体が健全な経営を続けることが何よりも重要です。入居するCCRCを選ぶのも自然慎重にならざるを得ないのが現状です。
同様に、北野氏が課題として挙げた「事業主体をどこに求めるのか」も共通の問題でしょう。初期投資の資金調達に困難があり、CCRCの運営のソフト分野にも難しさがあるのでは、リスクを全て取って事業をやろうとする人がなかなか現れない難しさがあるようです。

こうした決して楽観できない状況がある反面、今後については常に前向きであるのもCCRCに関わる人々の特徴かもしれません。八幡平には、役目を終えた競走馬を潰す(屠殺する)ことなく、余生を過ごしてもらうための施設があることからこれを「馬のCCRC」と呼び習わし、八幡平の豊富な温泉資源と掛け合わせて、温泉を馬車で引く「湯馬」(車のuberならぬユーバー)を始めようとするプロジェクトがあることなどが紹介されました。

最後に松田氏は、「これからのCCRCは"掛け算"がキーワード」と感想を述べています。「それは、住まい方×働き方、シニア×多世代の掛け算であり、ビジネスとしての成功と、ワクワク感あふれる楽しさが、これからのCCRCのあり方では」と話し、改めて参加者の「一歩踏み出す勇気」を呼びかけて、終了となったのでした。

シンポジウムの後は、ある意味で恒例となった懇親会も催され、松田氏の出版を祝したコメント、喜びの言葉が交わされました


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