イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】ヨソモノが山口市の本気を引き出せるか (山口市・前編)

丸の内プラチナ大学ヨソモノ街おこしコース DAY4(2017年8月21日開催)

この日、受講生のみなさんが感じたのはちょっとした違和感だったのかもしれません。課題は何か? その本質はどこにあるのか? そこにどうアプローチするのか? 自治体からの声を聞きながらも、受講生の認識とのちょっとしたすれ違い。自治体側が考える課題と、受講生が受け取る課題の位相が微妙に異なっている――このギャップが顕在化し、双方が意識することこそ、ヨソモノ街おこしコースが期待する成果のひとつかもしれません。ヨソモノが関わることで、地方の「リアル課題」があぶり直される、その現場。8月21日に開催された山口県山口市をテーマにした第1回は、まさにそのような現場となりました。意見交換のセッションでも激しい応酬が繰り広げられ、講師の松田智生氏(三菱総合研究所)が「そこまで言うならみなさん、解決アイデアもちゃんと出してくださいね!」と呼びかけるほど。

この日は前半が地元側からのインプットトーク。山口市からは山口市役所ふるさと創生部創生推進課課長の金子隆明氏、山口県立大学アクティブシニア支援センター長を務める田中マキ子氏(健康福祉学教授)、山口市愛郷会の「山口七夕会」東京本部長の椙山俊哉氏が登壇。この他に"応援団"として多くの関係者が列席しています。また、三菱総研地域創生事業本部に籍を置き、この3年山口市で活動している研究員の田口友子氏が、半分地元民、半分ヨソモノの立場で山口市について分析するトークも行いました。

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拡大した山口市の課題

拡大した山口市の課題

最初に登壇したのは、山口市創生推進課課長の金子隆明氏です。金子氏からは、市の概況と現在の課題、そして山口市が取っている舵のおおよその方向が語られます。

山口市は本州最西端の県庁所在地で、人口が19万7422人。県内2番目の規模で、県庁所在地としては、全国の県庁所在地と比較すると人口は少なく現在「下から3番目」。「 それでも2005(平成17)年、2010(平成22)年に合併するまでは、最下位だったのでランクアップした」と金子氏。2回の合併で、小郡町、秋穂町、阿知須町、徳地町、阿東町の5町が加わり、市域は1023km2と広くなり、なおかつ中山間地域、臨海地域の人口が少ないエリアも包含したため、「人口減少地域では、産業人口・担い手も減っており、どのように産業を維持するのか、苦慮している」と、面積が広がったがゆえに生じる課題の難しさを語っています。

課題はさまざまありますが、「地域資源はいっぱいあるにも関わらず、行動的に外にPRし、ビジネスにしていくことができていない」ということ、「ビジネス化も含め、中間的セクターの力が必要不可欠であること」の2点が指摘されました。中間セクターとは、例えば生産者と消費者をつなぐようなポジションで「これまでとは違う、時代に合ったチャンネルで人材や資金を集める仕組みがこれからの地方創生には必要」と金子氏は分析しています。

こうした状況下、地方創生に向けて、市ではまずひとつ、市に関わりのある人すべてを巻きこもうという施策を採っています。「就職や転勤で山口市から転出された方、東京圏在住の山口市のファン。そうした人々を含めれば30万人のリソースがあると言える。これを活用したい」(金子氏)としており、その一例が山口市愛郷会の「山口七夕会」。七夕会東京本部長の椙山氏がその取り組みを紹介することになります。

もうひとつが移住について。金子氏によると、山口市はかつて室町時代には大内氏の治世のもと大いに栄えた歴史があり、その繁栄ぶりは「同一エリアの人口で比べると、現在をしのぐほど」であったそう。その時代の要となったのが文化施策で、北野天神、伊勢神宮が勧請され、祇園、キリスト教や大乗仏教も受容するなど、文化開放路線を採ったことで、多くの文化人が移住・定着。「その代表格が雪舟、ザビエル」で、日本で一番最初にキリスト教のクリスマスミサが開かれたのが山口市であることは、フランシスコ・ザビエルの生まれ故郷「スペインでも認知されている」とのことです。こうした文化的な開放性をテコにした移住施策を採りたいとし、「100歳まで生きる時代に、山口が住みやすい町だと思ってもらえるように」、さまざまなアプローチをすると話しています。

その施策のひとつが、山口市版CCRC(Continuing Care Retirement Community)および山口県立大学と開設した「アクティブシニア支援センター」。ここでスピーカーは金子氏から、アクティブシニア支援センターのセンター長を務める田中マキ子氏にバトンをタッチします。

まちの構想を契機にセンターや出身者会が立ち上がる

山口県立大学 アクティブシニア支援センター長の田中氏続いて登壇した田中氏は、センターの概略を説明しました。同センターは、県立大学が「地域貢献型大学」へと舵を切るなかで、市からの要請もあって設立されたもの。背景には「山口市生涯活躍のまち構想」=山口市版CCRCがあり、その推進のために必要な人材、すなわち移住者をサポートする専門人材=コーディネーターを育成することを目的にしています。

2017年5月に開設したばかりで、「今はどのようなスキル、役割を身につければ良いのかを検討し、育成プログラムの確立を目指している」(田中氏)段階ではありますが、「おそらく多方面に渡る技術や知識、役割が求められることになるだろう」と田中氏は見ており、例えば田中氏自身、専門は看護学・栄養学の医療業界の専門家。移住を全面的にサポートしていくには、多様な才能が求められることになるのでしょう。最後に田中氏は、移住定住を促進するためのアイデアがほしいと呼びかけ、「高齢化が進む山口市の光と影、両方に切り込む意見を頂戴できれば」と期待を語りました。

山口七夕会 東京本部長の椙山氏続いて山口七夕会の椙山氏が登壇し、"外から山口市を応援する"現状と可能性について語ります。七夕会は先述の通り、山口市出身者による愛郷会で、基本的には山口市の外部で活動。「要は、山口市にゆかりのある人たちが、親睦を深め、学びあう場」で、なんらかの形で山口市に貢献することが目的です。1999年に設立され、さまざまな活動をしてきましたが、具体的に市と連携するようになったのは、件の山口市生涯活躍のまち構想が契機に。この検討段階から協力するようになり、以後、地方創生の文脈において、山口市をサポートしていくことを意識するようになったとのこと。「七夕会としては、やはり山口市の応援団になろうと。山口市が好きだというファンを全国に増やしていく」ことを目的とし、その第一段階として東京、首都圏でネットワークを広げているところです。 「要はメンバーみんなが山口市を好きで、ファンをもっと増やしたいと思っている。そのための交流活動をさらに増やしていきたい」と話し、プラチナ大学の受講生たちにも「ぜひファンになってほしい」と呼びかけて締めくくりました。

半地元民が見る3つの課題

三菱総研・田口氏そして次に"半分ヨソモノ"の三菱総研・田口友子氏が、アクティブシニア移住促進における課題を、地元民・ヨソモノ両方の感覚から分析し発表。分析した課題は、「良さを一言で言えないこと」「知名度が低いこと」「縁のある人を活かしきれていない」の3点であるとしています。

「良さを一言で言えない」とは、山口市の多様な地理的条件に起因しています。合併を重ねたこともあり、市は山間部から臨海部まで南北に長く、市街地と農村部のギャップも大きい。田口氏によると「山間部では農業体験ができる」「市街地は医療施設、教育施設がしっかりしている」「スポーツ拠点も多い」等々の好条件があるものの、「地域ごとに個性的すぎて、市としてまとまった特徴的なコンセプトを打ち出せていない」のです。2番目の、知名度の低さについても、そのような地理的条件もあって、実に多様な特産品に恵まれているのにも関わらず、「それが知られていない」という状況を指しています。リンゴ、ういろう、牛肉、車海老等、有名な産地に負けない味があり、一部では他県をしのぐという噂もあるほどなのに、「山口市に行ったことのある人以外には本当に知られていない」(田口氏)。

3つ目の「縁のある人たちを活かせていない」で指摘するのは、有名企業の支社が多数あり、多くの人が山口市で勤務経験があるのに、その後がないこと。「七夕会のような縁のある人たちの活動はあるものの、独立していてつながってはいない。そこをネットワーク化できればまた違った局面が生まれるのでは」と田口氏。そして、「ヨソモノ目線で、アクティブシニアの移住を促進するビジネスアイデアを」と、「他地域から人を呼び寄せるためのビッジネスアイデアを、知見を」という2点で議論してほしい旨を呼びかけました。

施策の対象者がセグメント化できているのか

その後、講師の松田氏がモデレーターを務めたミニパネルディスカッションを実施し、それぞれの発表内容を補足する情報を引き出しています。「移住促進の数値目標、コーディネーター養成の数値目標は」「コーディネーター候補生の属性は」という基本的な情報を整理。その後、会場の受講生からの質問を受け付けました。

講師の松田氏(三菱総研)最初は「どのような層を(移住者の)ターゲットとして考えているのか」。年齢層や職業などの属性はもちろんですが、施策を落とし込む対象が、交流人口の拡大なのか、移住定住ストレートな層なのか、「どのような層にリーチするのか、心理分析がないと施策の立てようもない」という質問です。金子氏は現在移住定住相談に訪れる層が「30代の子どもが小学校に上がるタイミング」のヤングファミリー層と、「50代で退職後を早めに考える層」の2つがあることを紹介。移住を決めた家族の例なども詳しく語ったほか、会場の山口市スタッフも交えて、「移住してほしい層」についての議論が盛んになりましたが、参加者から「そうは言ってもテーマがよく分からない」との質問が出されました。これは端的に言えば「市街地目線の問題なのか、中山間地域の問題なのか?」という問いです。論点が曖昧であるように見えることから、もっといえば「人口が減っている、増やしたいと言っている割に危機感を感じない」という厳しい指摘でもありました。

確かに、これまで丸の内プラチナ大学で扱ってきた地域に比べると、人口規模も大きいうえ、インフラもしっかり残っている。人口減少や過疎が問題になっているとはいえども、その質や程度は大きく異なります。同じ「地方創生」でもそれだけ大きな違いがあるということは、その施策の有り様も変わっていかなければならないということ。受講生たちの目には、そのギャップが色濃く映ったのかもしれません。

激しい応酬が地元の本気を引き出す!?

その後、市の関係者にも加わってもらってのテーブルワークを行いました。テーマは「山口市ならではのライフスタイルってどんなもの?」「外から人を惹きつけるために、どんなビジネスが作れる?」という2つが提示されましたが、市関係者がテーブルに加わったことで、改めて山口市の課題を聞くというシーンがあちこちで見られました。

20分ほどのテーブルワークを行いシェア。「市の課題を改めて聞いた」という声が聞かれた一方、「県域で考えると良い」「福岡、広島などを含む大きい視点で考えると良いのでは」という取り組みの枠組み設定へのアドバイス、その他「北部の中山間地域に大学のサテライト"寺子屋"を作る」「農村部の交流の場を作る」などの具体的な意見も出されています。

山口市をテーマにした第1回目のセッションはこれにて終了しましたが、各テーブルではかなり厳しい応酬があったようで、最後にコメントを求められると、金子氏は「今日は議会か!と思うほど(笑)、テーブルでは厳しい意見が寄せられた。『やる気あるのか?』という指摘には、もう少し、こちらのやる気を次回しっかりと見せたい」と話しています。田中氏も「危機感ないよ!と言われてつらい思いもしたが(笑)、奮起するきっかけをいただけた」とコメント。椙山氏は「いいアイデアを頂いて目からウロコだった」と、良いコミュニケーションが出来たことを報告。「移住にこだわりすぎている、広域で考えるべき、市街地に目が行き過ぎていると。そのような視点がなかったので、今後に生かしたい」(椙山氏)。

今回は、これまでになく大きな自治体で、課題も多様だったこともあって、「ヨソモノ」の視点が非常に良い形で行政にフィードバックできたようです。松田氏は「そこまで厳しく言うなら、ビジネスアイデア、ちゃんと考えてきてくださいね!」とはっぱをかけて今回を終了していますが、次回はどうなるのか。地元とヨソモノの掛け合いが、どのようなミックスアップを生み出すのか、次回に期待しましょう。

懇親会には『獺祭』などの有名日本酒も登場した


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