イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】県庁所在地だからこそ、その課題をヨソモノと組んで乗り越える (山口市・後編)

丸の内プラチナ大学ヨソモノ街おこしコース DAY5(8月28日開催)

地方創生にはいろいろなカタチがある。そのことに気付かされたのが、山口市のみなさんにご登場いただいた前回の「ヨソモノ街おこしコース」だったのではないでしょうか。地方都市特有の課題は、さまざまな地方創生のモデルケースを見てきた受講生たちにとって、あるいは緊迫感がないようにも見えたのかもしれません。しかし、そうした認識の"ギャップ"こそが新たなインスピレーションを生み出す契機になることも確かなこと。

8月28日に開催された2回目のセッションは、「そこまで言うならちゃんと考えてくださいよね~」と講師の松田智生氏が念を押したビジネスアイデアの発表が中心。前半は、発表に先立ち、前回とは趣を変えて"民"の立場からのゲストがインスピレーショントークを行いました。ゲストは山口商工会議所副会頭の川久保賢隆氏、山口朝日放送株式会社相談役の渡辺興二郎氏のお二人です。
(8月21日開催のDAY4の様子【前編】はこちらから)

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山口市は"殿様気質"が残るまち

山口市は"殿様気質"が残るまち

「山口市のためにわざわざお金を払ってまで集まっている人たちがいることに驚いた!」と、ヨソモノ受講生達に喜びと驚きを隠さず、「だからこそ、本当のことを知ってほしい。誤解したまま山口に来たらえらいことになる」と、歯に衣着せぬトークで山口市の現状と課題を、威勢の良い山口弁で語ってくれたのが、川久保氏です。実は生まれは北海道。ある意味ヨソモノの先輩なわけで、「もう30年以上いるから誰も県外出身者だなんて思ってない(笑)」という境地に至るまでのご苦労などもお聞きしました。

川久保氏

川久保氏が繰り返し指摘したのは、「山口市は県庁のまち」ということです。県庁所在地で住民の多くが公務員。「みんなで渡れば怖くない、そういう感覚で生きてきたのが山口市だ」と辛口の評。それもそのはず、川久保氏は大気汚染、水質汚染などを調査するサーベイランス会社を経営していますが、はじめて山口県庁へ挨拶に行った際には担当課長は"知らんぷり"。半年くらい経った後、ようやく「お前気に入ったからこれやる」と名刺を渡されたのだとか。
「普通は初対面で名刺交わして挨拶するじゃないですか。東京じゃ信じられないでしょ? でもそういうカルチャーがある。これを知らないと後々とんでもないことになる」(川久保氏)

こうした山口市民の気質を「殿様気質」と川久保氏は指摘します。「そうせいや、と賛成はするけど自分では絶対にやらない」、そんな人達です。また、非常に閉鎖的であることも特徴で、当地で友達を表す「ちんぐう」と呼ばれるまでには相当の時間がかかると川久保氏は話しています。

産業的な課題には、大きくは経済圏の問題があります。広島と福岡の産業経済圏の谷間に挟まれた格好で、山口県としてもGDPの中心地は周南市になっています。いわば産業の空白地になってしまった格好ですが、「いいのか悪いのか」県庁所在地であるがゆえに公共事業が途切れることはなく、市内の土木業を中心に、景気は悪くても危機感に薄いのだが「なぜか潰れない不思議」がある、と川久保氏は説明しています。
市内の中小企業では、事業継承が進んでいない現状もあります。 「こんなところで息子たちに継がせられん。元気なうちに辞めてしまおう、そういって廃業してしまっていることが大きな課題のひとつ」(川久保氏)

もちろん活性化に向けた取り組みにも意欲的に取り組んできました。川久保氏が手がけたのは「山口街なか大学」「地域お助けメディエーター」です。山口市内には山口大学、山口県立大学、山口学芸大学、山口芸術短大4つの大学があり、「こんな高齢者ばっかりの街なのに学生がいっぱい」(川久保氏)います。「学生たちと一緒にやろうや!」と立ち上げたのが、一般向けの市民大学の「街なか大学」。そして、4つの大学合同のボランティアサークルが地域お助けメディエーターで、地域のイベント、子どもの教育支援や高齢者の生活支援など、多岐にわたるボランティア活動を続けています。
その後に出てきたのが「未来都市構想委員会」です。これからの山口を考えるための組織で、高齢者を「アクティブシニア」と捉え、新たなリソースとして活用する方法を模索。この活動はその後、県立大学の「アクティブシニア支援センター」へと引き継がれています。

そして今後に向けた課題整理として「雇用」「情報発信」「リソースの活用」の3つを挙げています。リソースについては、市が合併して拡大したこともあり、海から山まで多彩な資源に恵まれているにも関わらず、アピールできていない、それぞれが点のままでつながっていないという問題があります。
「財産いっぱいあるけど、それをどうつなげ、どう発信するか。会議ではいつも課題になるが、答えはまだない」(川久保氏)
また、こうしたリソース活用が雇用創出に繋がることにも期待したいとも話しています。

「政高経低」のメンタリティー

続いてのインプットトークもヨソモノとして山口で活躍した、山口朝日放送で相談役を務める渡辺興二郎氏。渡辺氏は6年間の山口市勤務を終えて先ごろ東京に戻ったばかり。メディア人として働く傍ら、山口市にもすっかり馴染み、「結論から言うと6年間面白かった」と山口市での思い出を語ります。 渡辺氏が一番強く感じたのは山口市民の強い政治意識でした。 「初っ端の挨拶で、次の総理は誰になると思うか、と聞かれる。これは『誰が総理になるか』ではなく、『山口出身の誰が総理になるか』という意味なので気をつけなければいけない」(渡辺氏)

渡辺氏明治維新以降、「日本を作ってきたのは山口だ」という強い自負があるのが山口市民のみなさん。伊藤博文から始まり現在の安倍晋三まで8人の首相を輩出し、日本を牽引してきた県であり市であると意識しているため、「実にプライドも高い」のも特徴です。渡辺氏が第2次安倍内閣成立時に安倍首相に取材した折に聞いたところ、地元からの陳情はまったくないのだそうです。「武士は食わねど高楊枝じゃないですが、困っていても言わないのか、もしかしたら必要なものは全部出来ているということかもしれない」と渡辺氏。

初対面でもストレートに政治を議論する強い政治意識とは裏腹に財界人についてまったく触れないのも山口市民の特徴であると指摘しています。藤田伝三郎(藤田組・藤田財閥の創始者。現在のDOWAグループの基礎。南海電鉄の立ち上げ等にも貢献)、鮎川義介(日産コンツェルン創始者)、久原房之助(久原財閥創始者。現在の日立系列企業の基礎となった)など「日本の財界を牽引した立役者がゴロゴロいるが、話題に登ることはほとんどない」と渡辺氏。この傾向を指して藤田氏は気象用語に擬えて「政高経低」と呼んでいます。

この辺の強い政治意識は、山口県出身の政治家・菅直人氏に対する態度でその特徴が明らかになるとも指摘。それは「墓」があるかどうか。
「菅直人の墓は山口にない。安倍首相は生まれも育ちも東京だが安倍家の墓がこっちにあると。誰が墓を守ってるんだ、という意識が根底にあるようだ」(渡辺氏)
山口市民のメンタリティーは、このように強い地縁に裏付けられた政治意識によって特徴づけられていると言えるでしょう。

一方、課題として捉えているのが人口減少と高い高齢化率と指摘。近年では毎年8000人ずつ減少しており、高齢化率は全国で4番目の高さ。この解決策のポイントとして渡辺氏は「観光産業」「スポーツ産業」「介護事業」の3点を挙げて解説。
観光では明治維新に依存しない観光産業の創出が急務であるとしています。「いつまでも松下村塾だけで人を呼ぶことはできない」と、新しいコンテンツを作る必要があると話しています。スポーツ産業では野球とサッカーの可能性に言及。下関がホエールズ誕生の地で今も球場があってウエスタン・リーグなどで活用されていること、サッカーではJ2所属の「レノファ山口」があり、山口県全体で応援していることなどを挙げて、新しい競技場を作り、雇用や産業を生み出していく可能性などを解説しました。

官民連携、世代交代の課題とヒント

続くパネルディスカッションは、講師の松田氏がモデレーターを務め、インプットを踏まえつつもさらに突っ込んだ議論が広がりました。話題はまず官民連携と、地域の世代交代についてです。

松田氏松田氏の質問で官民相互の期待を聞くと、川久保氏は「特区政策につきる」、市役所の金子氏は「行政は綺麗な仕事をしすぎる」「もっと泥臭く動かなければならない」と自戒を込めて語りつつも、川久保氏のような民間の次世代の活躍に期待していると話しています。渡辺氏によると「80、90歳の人が現場の実権をいまだに握っている」のが山口市の状況で、「行政も上の顔色を伺ってしまって遠慮気味なところがある」(金子氏)そうです。金子氏は「もっと若年層に対する寛容性のある街にならなければ」と思いつつも、民間からの若い層の活躍で空気が変わればと期待を語りました。

ヨソモノへ期待するところを聞くと、川久保氏は「ガチガチなので入るのは大変だろう」と前置きしつつも「ギブ・アンド・テイクじゃなく、ギブ・アンド・ギブの気持ちで来てほしい」と話しています。これは都会では当たり前のギブ・アンド・テイクの発想は地方では通用しないということ。「こっちがこれだけやるんだから、そっちはこれやってよ、というのは地方では通らない。何かをやろうと思ったら、まずギブを続けること。それがキツイと思うなら帰ったほうがいい」(川久保氏)。その一方で、丸の内プラチナ大学それ自体には高い評価も。「行政も含めローカルだけでやってちゃダメだということはもう明らかになってきた。40代くらいの、山口の若い経営者にここに来させたらいいんじゃないか」(同)。

渡辺氏は富山市で第三セクター方式が市域を活性化している事例を挙げて、民間が行政と連携して地域活性化する事業に、ヨソモノが入り込むことに大きな可能性があるのではと話しています。
「大手メーカーの出身者が第三セクターの経営に関わっている事例もあった。民間のヨソモノが協働することで、行政だけでは行き詰まるところを打破できるのじゃないかと思う」(渡辺氏)

続く会場からの質疑応答では、ヨソモノの活躍の余地や移住者の受容状況など、現地での活動を視野に入れたような質問が多く出されています。また、質疑の途中では山口県に本社を置く西京銀行の仙田氏も議論に加わり、地創における銀行の役割や、人の流れをどのように生むのかといった考えを述べています。

受講生のビジネスアイデアは地元の起爆剤になるか

ディスカッションの後は、各テーブルでのワークへと移ります。テーブルには山口市の関係者の方にも入ってもらい、受講生達が考えたビジネスアイデアをショートプレゼン。その後「これは」と思うものを選んでもらって、全体でシェアします。この手法もすっかり定番となりました。

シェア後に金子氏が「さすがにいたぶってくれただけのことはあるなあ」と感心したように、今回もユニークなビジネスアイデアが発表されました。その一部を紹介します。

「スタートアップ山口」
......山口市をシニア起業の聖地にするプロジェクト。起業のステージに応じて大学のゼミと連携したサポートも実施し、多世代交流も促します。

「山口市を応援したい人のための山口市デジタル会員証システム」
......10年後の移住・定住を視野に入れた情報発信アプリの提案。市のさまざまな情報をタイムリーに届けていくツールとして活用。大学生のうちにアプローチすることでその後の移住につなげる方針。

「旦那さんの隠れ家小屋プロジェクト」
......福岡・広島の谷間にあるという地理的なマイナス要素をプラスに転じて活用するプラン。静かでスローライフに適した街としてイメージ訴求し、小さな小屋を作り、旦那が緊急避難するための場を提供する。

「インスタグラムでレシピコンテストプロジェクト」
......豊かな特産品があるのに知られていないことを解決するためのレシピコンテスト。優勝者には旅行のエアチケットなどを提供し、移住に向けて囲い込んでいく。

「湯田温泉CCRC~トルネード大作戦」
......大学生への地域教育とCCRCを組み合わせ、将来的な地域人口を増やす下地を作る。湯田温泉にCCRCを作るとともに、近隣の空き旅館を学生の居室として安く提供。CCRCとの交流で地域について学ぶようにする。

「お父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃん おもてなし大作戦」
......大学生の親族を山口に招き寄せ、その後の移住定住のきっかけづくりにするプラン。観光促進策としても有効。

「関係値の構築」こそ、日本を支える地方の方向性

発表を終えて、山口県立大学の田中氏は「今ある資源をマグネットすれば、こんな面白いことができるのだと気付かせてもらった」と話しています。
「前回ボコボコにされて今日もドキドキしながら来たが、力をたくさんもらえた。どれも実現性の高いアイデアで、あとは我々ががんばるだけかと思う」(田中氏)

川久保氏も「アンテナがさすがに高い」と高く評価してくれたうえで、山口大学、山口市で取り組んでいる起業支援の事例を紹介しながら、「いただいたアイデアもこうした動きとうまく併せて活用できるのでは」と期待を語っています。

その後は例によって懇親会へと移りましたが、山口市の関係者から、今後の可能性と期待についてコメントをもらっています。

田中氏は「改めて危機感が薄かったことを痛感させられた」とセッションによって発見があったことを改めて確認。また「とても良いアイデアをいただいた」として特に学生の親族を呼び寄せるプランには興味を覚えたとも話しています。とはいえ「こうしたアイデアを実行に移すにはヨソモノの方々には難しい面も多々ある。活性剤としての意義はあっても、実施に壁に穴を開けていくのは私たちの仕事かと思う」と、まずは山口市側でさらに積極的に動きたい思いを明かしています。

金子氏は、今回のプラチナ大学への参加は「外部との関係値の構築」に目的があったとしています。「地方創生は自治体内部に留まっているだけでは限界があるのは明白。外とどれくらい組めるかが鍵になるだろう」と金子氏。また、「日本全体を視野に入れた地方創生のあり方を考えることも重要」と話しています。金子氏が思い描いているのは、比較的余裕のあるうちに、余裕のある自治体が周辺地域を支える「圏域」を構築することが今後の地方には必要になるということ。これは「中核都市」に近いものですが、もっと広いもので、観念的かもしれませんが実効力のあるものでなければなりません。「地域の衰退を止め、支える圏域をどのように、どんな大きさで作るのか。地に足の着いた場を作りたい」と金子氏。そのためのヒントや人の交流をこのプラチナ大学から得たいとも話しています。

講師の松田氏は、今回のケースを「県庁所在地における地方創生」の一例と位置づけています。「地方創生は消滅しそうな自治体だけがやるものじゃない。さまざまなトーンがあり、課題があり、方向性があるはず。その一例を見ることができたのではないか」と話し、受講生のみなさんには、この事例をその他の県庁所在地・中核都市の地創に活かす知見として蓄積してもらうことにも期待しています。

今回も山口の地酒が振る舞われた


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