イベント特別イベント・レポート

【レポート】エコッツェリア総会 伊藤元重先生講演

――6月10日(火)14時30分~開催

次世代の東京を考えるために

6月10日、3×3Laboでエコッツェリア協会の2014年度会員総会が開催され、会員企業の皆さんを前に、エコッツェリア協会が取り組んできたさまざまな活動の報告が行われました。今年度の大きなトピックスは、なんといっても「3×3Labo」の設立(とやがて訪れるフィナーレ)と、新たな可能性を秘めたメディア「朝大学TV」でしょう。また、今年新たに発表された「大丸有サステナブルビジョン」に沿って、これからどんな活動をしていくのか、会員企業が一体となって、これからの大丸有の姿を考えるイベントとなりました。

総会では、報告に先立ち東京大学教授の伊藤元重先生が特別講演を行いました。歴代内閣で経済諮問会議のメンバーを務めるほか、テレビ「ワールドビジネスサテライト」のコメンテーターとしても知られる伊藤元重先生。これからの日本経済と都市、東京が果たすべき役割について非常に示唆に富んだ刺激的なお話を伺うことができました。

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デフレ脱却の鍵

デフレ脱却の鍵は民間投資の喚起

今回の講演のテーマは日本経済と都市。今後の日本経済を考えるうえでもっとも重要なのは「民間投資の喚起」であると伊藤先生は言います。「第三の矢」と言われる政府の成長戦略も、実は単なる成長戦略ではなく、民間投資を促す政策に他なりません。そして、その民間投資を促す主要なファクターが都市なのです。「場としての都市の重要性が増し、東京の中心地である丸の内が注目されるようになる」と伊藤先生は指摘します。

その背景にある大きな課題は「デフレからの脱却」です。それは単にデフレからインフレになるというのではなく「この10年、20年の間に日本経済、社会全体に染み付き、しみ込んだ構造が大きく変わっていくということです」。

「デフレ脱却のためのマクロ経済環境では、投資を促すことがきわめて重要です。学生にもよく話すわかりやすい例に、1年前のソフトバンクのスプリントネクステム(現スプリント)の買収があります。2兆円の買収額で、そのうち1兆5000億円が銀行からの借り入れという前代未聞の買収劇です。この日ちょうど孫さんがWBSのゲストに来ることになりましたが、私が聞きたかったのはひとつだけ。『孫さん、こんなことして大丈夫ですか?』。その問いに孫さんはニヤッと笑って『ここでやらないと男の子じゃないでしょう』と言うんです。男の子って何でしょうか。今、日本にはジャブジャブ金があるのに、リスクをとって勝負する企業が日本にはない。現在の日本を端的に表す言葉です。リスクを承知で投資に回す、それが『男の子』で、その男の子がどれくらい増えるかが、今後の日本では重要なのです」

民間投資の拡大がデフレ脱却を推進します。「第三の矢」と言われる成長戦略の狙いも民間投資の拡大です。

「一般的な成長戦略はサプライヤーの成長を促すものですが、それは効果が遅いのです。農業の規制改革、薬のネット販売、不動産の規制など、すべてサプライサイドの政策で、中長期的に潜在的な成長力を育てるためには必要ですが、来年、再来年に効果が出るものはありません。今全農の改革が進められようとしており、それは非常に大きな影響を及ぼすものですが、すぐに大きく国民の生活が変わるということはない。それは政府も分かっていて、今取り組んでいるのは、首根っこをつかまえて投資を促すような、デマンドサイドの政策です」

第三の矢の要とは

民間投資を喚起する主なポイントとして、「法人税」「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」「電力システム改革」「GRIF(公的年金運用制度)」などが挙げられます。

「法人税を下げることでどれくらい投資が増えるのか疑問視する声もありますが、特に海外の投資家は法人税率には注目しており、統計的にも法人税率の低下が投資を促進することがさまざまな国で確認されています。TPPも大きな動きで、相手があるものなのでいつになるか分からないとはいえ、国内のさまざまなものが大きく変わっていく契機になるでしょう。電力システム改革も大きな流れです。電力の自由化はその投資規模が半端なく大きいのです。発送電の分離が進み、電力小売に異業種が参入してくると経済が大きく動くことになるでしょう。GRIFも動きはじめました。あれだけの資金を動かすと金融市場も大きく動く。海外の投資家からも注目されており、今朝、たまたまKKR創始者のヘンリー・クラビスさんにお会いしたら『やっと(GRIFが)動いたか』と嘆息しておられました」

もちろん、中長期的に潜在的成長力を喚起するサプライサイドの政策も重要ではありますが、「政府が総じて考えていることは、民間投資を喚起する政策」。そのためには、膠着した資産を流動化させ、市場に回していく必要があるということです。

都市に求められる新しい役割

このように、今政府は「デフレ脱却」「民間投資喚起」ひいては「経済活性化」に向けて一直線に向かっています。その動きの中で都市、東京が注目されているのはなぜなのか。
「ひとつには、産業構造が大きく変化したことが挙げられます。かつて、製造業が日本経済の中心だった時代には『郊外』が重要でした。しかし、現在の日本はサービス業が大半を占め、その新しい産業が展開するのは都市しかないのです」

現在、日本経済で製造業が占める割合は2割程度に過ぎません。中心となっているのは、本社機能などの広義でのサービス業。この発展なくして、日本経済の復興はありえないと伊藤先生は言います。
「そのための重要なキーワードが経済学用語で言う『シナジー』です。異質なものが交わる中でインターアクションを起こし、新しい価値を生み出す。これなくしてはサービス産業が伸びることはありえません。そして、それを生み出す基盤となるのが、多様性に富んだ大都市なのです」

「数十年前の日本は分業型都市であった」と伊藤先生。都心のオフィス街、その外側を取り巻く居住地域、そしてさらに郊外には製造業が集中する工業地帯。そんな"すみわけ"がされた都市構造では、多様性が生まれるはずがありません。
「今求められているのは、衣食住遊学、働く場所、遊ぶ場所、そして住む場所も混在する『複合型都市』です。さまざまなものが混在しているところに街の楽しみが生まれてきます。そんな複合性を都市の中にどれくらい作れるかが、これからの大都市の課題といえるでしょう」

複合型都市に必要なのは「建物などのハード」と「規制緩和を含むソフト」の両面です。「住宅を考えた場合、教育や医療も視野に入ってくるでしょう。オフィス環境を考えた場合、建築規制もありますし、雇用の規制緩和、金融の仕組みなどもあります」。また、大切なのは、「トータルで考えること」と「それぞれの地域に根ざしたアイデアを練って、地域が率先して協議していくこと」と伊藤先生。その推進のために「規制緩和特区とは違う、国家戦略特区のような枠組みを使うことも必要です」。

2020年に向けて

新しい都市の姿、「東京」の創造を進めるうえで「ラッキーなことに、2020年の東京オリンピック・パラリンピックがある」と伊藤先生。「東京オリンピックが決まったとき、誰もが自分がそのとき何歳になっているのか、何ができるのかを考えたでしょう。街づくりでもそうした考えで一人一人が積極的に取り組んでいかなければなりません」。

その例として挙げられたのが羽田空港の規制緩和や家電メーカーなどの動きです。

「羽田空港は(ロンドンの)ヒースロー空港と同じくらいのキャパがあるのに発着率では圧倒的に少ないのです。それはヒースローがあちこちからの発着を認めているからで、羽田も、東京都の皆さんが認めてくれれば、土地側に向けて発着できるようになり、2、3割は発着数が増えるはずです。そうなればオリンピックに向けてだけでなく、国家戦略的にもインパクトが大きい。また、家電メーカーや放送・通信業界もオリンピックに向けて動き出しています。『メーカーはオリンピック関係ないでしょ』と聞くと、そんなことはない、今『8Kテレビ』の開発が進められ、放送局も対応を進めている。しかし、メーカーががんばってもそれだけではダメで、国民の皆さんがそれを買う、番組を見る、という全員で盛り上げていく動きが重要になっていくのです」

都市がより強く、より楽しく成長していくためには、国や行政の力が必要なのはもちろんですが、民間サイドの協力なくしては成立しませんし、何よりも、私たち1人1人が意識を高め、活動していかなければならないということ。都市の未来、東京の明日は、読者の皆さんの双肩にかかっているといっても過言ではないのです。

東京の未来が日本を作る

伊藤先生の講演の後、エコッツェリア協会会長の伊藤滋先生(早稲田大学教授)とのトークセッションも繰り広げられ、世界の中の東京の可能性や、「ビジット・ジャパン」と「インベスト・ジャパン」、それぞれの役割と方向性についてなど、活発な議論が交わされました。

経済成長は止まり、緩やかに日本はダメになっていくに違いないというようなゆるい絶望に浸るのはもう終わりです。これから、東京、そして日本は次のステップに踏み出していかなければなりません。伊藤先生もこう言っています。

「経済学では『グラビティ(重力)』という言葉があります。戦後日本は東京のグラビティの中で成長し、地域経済も東京を前提に発展してきました。しかし、これからの10年はアジアの中のグラビティを考えることが重要です。世界経済の中心は、新興国から先進国へ再び回帰する可能性もある。先進国、都市、経済というキーワードで考えた場合、東京の未来はますます面白くなっていくのではないでしょうか」

大きな転換点に差し掛かっている日本。皆さんももう一度、東京という街から日本を考えてみてはいかがでしょうか。

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