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【レポート】エストニア、電子政府の実際と不動産投資の価値

さんさんビジネスクリエイト:不動産投資の観点から見たエストニアの可能性 2019年1月17日(木)開催

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新規ビジネス創出や事業連携を起こすきっかけの場を提供する3×3Lab Futureの自主企画「さんさんビジネスクリエイト」。今回のテーマは、小国ながらも世界最先端の電子国家として注目を集めている国「エストニア」への不動産投資についてです。講師は、クラウドファンディング×不動産証券化の技術により個人への小口投資機会を提供し、エストニアでもプロジェクトを手掛けるベンチャー企業、株式会社クラウドリアルティ代表取締役の鬼頭武嗣氏。あの安倍首相も視察したエストニアの電子国家の仕組みの実態と、堅実な成長を続ける不動産マーケットを組み合わせたビジネス手法について、そのリアルな最新動向をお話いただきました。

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ロシアと北欧に接するエストニアの経済

ロシアと北欧に接するエストニアの経済

エストニアの首都タリンは、北欧フィンランドの対岸に位置しています。日本から行く際は、フィンランドの首都ヘルシンキからトラムに乗って港へ移動し、そこからフェリーに乗り継いで1~2時間で到着します。エストニアは、元は旧ロシアに統治されていたバルト三国の一国で、人口は130万人しかいない小国ですが、エッジの効いたことが多く始まっていて、最近は何かと話題にのぼる国です。

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国の使用言語は、エストニア語に加えて英語とロシア語が通じるので、英語が喋れる方であれば生活に困ることはほぼ無いと思います。また"バルト三国"として一緒に括られる隣国のラトビアとリトアニアとは、文化的には異なっています。同じ様に言われがちですが、エストニアは北欧圏の文化に寄っていますが、リトアニアはポーランド寄りだったりします。例えば、スウェーデンの銀行もエストニア国内に進出していたりします。

またエストニアは、元々は旧ロシア帝政・旧ソビエトの支配下にあった歴史背景があり、旧ロシア帝政の帝都であったサンクトペテルブルク(旧ソビエト時代のレニングラード)にもおよそ350kmと、物理的な距離がとても近い地理関係にあります。現代においても、エストニア国内の東側やバルト海に面しているエリアは、ロシア経済との物流拠点として要になっていることは変わりません。そしてエストニア人の国民意識としては、自国への誇りと独立意識を強く持っており、民族的にもエストニア語を話す人が最も多い構成となっています。

さらに「経済自由度」が高いのがエストニアの大きな特徴です。世界186ヶ国中、エストニアは15位で日本は30位です。この自由度指数の観点において、エストニアは日本よりも自由であるということになります。

経済全般においては、2009年のリーマンショック後に一時的には落ち込んだものの、その後GDP経済は堅調に成長を続けています。不動産においても同様でして、住宅価格指数はリーマンショック後は毎年10%近い成長が続いています。首都のタリンには、海外からのスタートアップやノマド的なフリーランス人口が流入してきていることに伴って、住宅の実需も増えてきています。そういった形で住宅価格は上がり続けています。

もともとは農林水産業を中心に成り立っていたエストニア経済ですが、国の政策転換により今ではITを中心とした成長が特に著しい傾向にあります。2004年にユーロに加盟していますが、ここ数年で平均月収が2倍近くにも伸びているそうです。またエストニアはEUには加盟していますが、EUの中で最も物価が安い傾向にあります。例えばビールは1缶がおよそ1ドルぐらいであるのに対して、すぐ対岸のフィンランドでは4〜5ドルはします。なので週末になると、フィンランドから遊びに来る人たちがキャリーバッグを引いてきて、帰りのフェリー便はビールやお酒が山積みになっている風景がよく見られます。

image_event0117_03.jpeg出所:Land Board, Republic of Estonia

電子政府をエストニアが目指した背景はデータ国家

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エストニアは、ロシア・旧ソビエトの支配下にあったこともあり、内外を含め様々な方面からのサイバーテロを受けやすい土壌にありました。そのような環境下において、国とは一体何によって成り立つのかを考えた際に、「それは国土ではなくデータ(国民台帳や納税台帳)に紐づくのではないか」という考え方が生まれました。いつロシアに侵攻されて土地を失うかもしれない。いつサイバーテロを受けて国の基幹システムがダウンするかもしれない。それゆえエストニアでは、国レベルでのデータの取り扱いやITインフラへの意識がものすごく高いと言われています。

近隣のロシア・旧ソビエト圏の国々には世界的にも優秀なITエンジニアが多いということもあり、隣国同士の人材交流が、エストニアがIT国家として発展することに寄与した、という側面もあります。さらにエストニアは、同じ様な小国としての境遇を持つ国であるルクセンブルクと、国民データの相互交換・相互保存を行っており、有事に備える手段を周到に行っています。さらに身近な例でいけば、日本でもお馴染みの「Skype」はエストニアで生まれたサービスです。サービス自体は世界的に浸透していますが、エストニア発ということはあまり知られていません。

また、エストニアは小国ゆえに小回りが利きやすい政治体制になっており、政治家や閣僚の年齢も比較的若く、40代の人も数多くいます。それゆえ、国を挙げて「e-Residency制度*」を導入したり、ブロックチェーン技術を使って国のインフラを置き換える施策に非常に積極的で、ここ2~3年で世界的な注目を集めています。

* e-residency制度:エストニア政府が実施している電子居住権制度。エストニアに在住していない外国人も、e-residencyを使うことで電子国民になることができ、オンライン上で会社登記・銀行口座の開設・納税などを行うことができる。現在、世界中で約20,000人が登録を行っており、エストニア政府は2025年までに登録者を2,000万人にする目標を掲げている。

エストニアの街並みと不動産動向

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北欧圏に位置し、北緯は59度。冬は雪が降り積もり、海も凍るほどの寒さで日照時間も短い気候の地域です。街並みとしてとても特徴的なのは、旧ソ連時代とその後の時代とで明確にカルチャーが分かれている点です。古い建物が多いエリアには共産主義的な集合住宅群が残っている一方で、開発地域ではモダンな新しい建物も増えてきていて、まさに新旧の建築が入り交じっている状態です。

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エストニアにおいては一般的に、街の真ん中が旧市街になっていて、郊外に行くほど新市街となっていきます。古い建物は外観が古めかしくはあるものの、中のリノベーションは非常に進んでいて、最新の断熱処理と暖房器具が完備されています。また、2階建ての旧建物の上に新たに3層目を増築する開発形態もあり、日本人の目からするととても珍しく映ります。これには、町の中心部である旧市街地は土地も限られていることに加えて世界遺産にも指定されているため、新築は非常に難しい背景があります。

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エストニア・プロジェクト発足の経緯について

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クラウドリアルティとしてエストニアで事業を始めたきっかけは、たまたま一緒にやってくれる仲間が見つかったのが、エストニアだったからです。EstateGuru(エステイトグル)社という、現地のプラットフォーマー企業がパートナー企業となっています。彼らは、お金を調達しようとしている不動産のデベロッパーとそれに対して貸し付けを行う個人・投資家・ベンダーをマッチングするプラットフォームを提供している現地企業で、不動産業界出身のCEOであるMarek Pärtel氏に2015年に出会ったことがきっかけでプロジェクトは始まりました。

まず、e-Residency を2015年に取得し、2016年にエストニアでクラウドリアルティの子会社の設立・登記を行って、本格的な事業活動を始めました。e-Residency制度は、自国の物理的な領土に縛られないというメリットがあり、エストニア政府は物理的に住んでいない外国人でも銀行口座の開設や法人登記、電子署名などができるようにして、そこから税収を増やすことができるようになっています。また2016年には日本とエストニアで租税条約が結ばれており、二重課税されないような仕組みがすでに整っています。

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昨今はGAFA企業の租税回避が問題視されていますが、逆にエストニアでは企業の情報がオンラインで公開されており、非常にトランスペアレントな仕組みとなっています。エストニアの国のウェブサイトから謄本やアニュアルレポートなどが取れるようになっていて、その会社にTax Debtがないか、国に提出している財務諸表がどうなっているか、ということが公開されています。ですので、エストニアの会社を使い、資本の流れをブラックボックス化させてそこに利益を貯める、といった租税回避手段として使うことは出来ないようになっています。

加えて次のようなメリットも用意されていることから、欧州経済圏へのゲートウェイとしてエストニアに会社を作っている日本企業は現在約400社ほどあります。

・エストニアの国債の格付けはAA-と高く信用力がある(日本はA-)

・EU加盟国であるためユーロでの資金決済ができる

・経済成長が非常に堅調

・e-Residencyを用いた電子署名などの仕組みをつかって海外企業でも比較的自由に取引ができる

・地理的にもEU各国との距離も近い





エストニア・プロジェクトの実績

クラウドリアルティ社では、首都タリンと第二の都市タルトゥの2都市の不動産マーケットを投資対象にしています。タルトゥは、日本でいう京都のような学生が多く集まる街で、首都タリンからバスで2~3時間ほどの場所に位置しています。

プロジェクトのスキームとしては、EstateGuru社が取り扱う現地の不動産担保ローンを証券化し、日本の資産運用希望者をマッチングしています。日本国内であれば銀行の金利が1%も付きませんが、そこをEstateGuru社と協力してエストニアへ投資するという橋渡しをしています。

1号目のファンディングのプロジェクトは、500万円超の資金調達と約15ヶ月ほどの運用と償還を行い、11.4%の利回り、最終的には為替の後押しもあって14%に仕上がりました。今は2号・3号の案件に取り組んでいます。ファンディング投資は、一口5万円から受け付けていて、運用期間は基本的に12ヶ月としています。

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また、これは世界的に共通している課題ですが、リーマンショックの金融危機後に「バーゼル規制」の影響もあり、銀行がリスク性の高いものに対して貸し付けを行いにくくなった背景がエストニアにもあります。リーマンショック以降、銀行は貸出し先を選別し安全性の高い投資先にのみ融資を絞っていったため、エストニアの中・小の不動産のデベロッパーに限らず、資金調達需要に答えられなくなっている領域が出始めている状況でした。

しかし、クラウドファンディングでは、銀行が融資を行わない対象とした人たちに対しても、個人が直接それを理解した上で貸し付けることが可能です。もともとはイギリスやアメリカを中心に始まったクラウドファンディングですが、欧州や北欧を中心に拡大し始めたのが2016年くらいで、我々も新しいプレイヤーとしてその中に参入し、現在に至っています。
今後、この不動産証券化にクラウドファンディングを組み合わせた仕組みを用いてさらに資金循環を円滑にし、不動産市場及び資本市場の活性化を目指していきます。


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