シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

車のトランクにはいつもウェーダーと網

同じ水辺の自然でも、川岸で見るのと川の中で見るのとでは、まるで世界が違います。

川の生き物に近づくには

川の生き物を観察するには色々な方法がありますが、最も生き物に近づいた気分になれるのは、川の中に入って網で生き物をすくっているときです。足に水の冷たさや流れの圧力を感じながら川の中に立つだけでも気分は爽快。顔を水面に近づければ、カモの視線で風景を見ることもできます。そんなとき活躍するのが釣具店などに売られているウェーダーです。

私が水産学科の学生だったころは、ウェーダーなんて小洒落た名前を使う人はおらず、胴長(胴付長靴の略)と呼んでいました。当時の材質は真っ黒けのゴム。重量もあって身動きも制限されました。ただ、身につけるとプロの漁師さんに見えるので、その点だけは気に入っていましたが。

今はナイロン地のものが主流で、軽いし値段もかなり安くなっています。1万円以下で買える物も多く、探せば5千円以下のものも見つかるでしょう。もちろん耐久性はピンキリでしょうが、趣味で川に入るだけなら、安価な物でも十分役に立つと思います。

ウェーダーなんて大袈裟過ぎると思う方もいるかもしれませんが、一度使うと手放せなくなります。夏に水が澄んだ清流に入るなら、短パンでも裸でもかまいませんが、夏以外の季節、あまり綺麗とはいえない川でも、ウェーダーがあれば抵抗なく入っていけます。そんな場所にも見るべき自然はたくさんあるのです。

川岸で羨ましそうに見ている友人にウェーダーを貸すと、なかなか水から出てきません。そして次に会ったときにはマイウェーダーを自慢げに見せてくれます。ウェーダーはそれぐらい有用で自分の世界を広げてくれる道具といえましょう。

「ガサガサ」ってなんだ??

生き物を探すには、川の中から川岸の水生植物の間をタモ網でザクザクすくうのが手っとり早いでしょう。小魚や水棲昆虫、エビなどが採れます。川遊びや淡水生物の愛好家はこれを「ガサガサ」といいますが、言い得て妙のネーミングです。

あと、川底の砂泥を薄く掻きとるようにすくったり、川下に網をかまえて足で砂泥を掻き回したりすると、ドジョウなどのほか、底棲の水棲昆虫や二枚貝などが採れます。

車で郊外の道を走っていると、生き物がたくさんいそうな小川や水路によく出会います。そんなとき、車のトランクに網とウェーダーがあれば、すぐにその場が観察ポイントとなります。私はこれで数多くの生き物と出会うことができました。

ただし、ウェーダーを履いて川の中で転ぶと、身動きがとれず背の立つ場所でも溺れてしまいます。したがって、ヒザあたりまでが安全な水深と考えて下さい。間違っても、大きな川の本流には入らないように注意して下さい。生き物は河川敷にある細流や水たまり、小さな浅い川などの方が観察に適しています。

とにかく、川の中にはたくさんの生き物が隠れていますが、同時に数多くの危険も潜んでいます。事故に遭われても責任は負いかねますので、事前にネットなどで川の安全対策をよく調べ、自己責任で生き物との付き合いを楽しみましょう。

木村 義志(きむら よしゆき)

1955年大阪市生まれ。日本大学農獣医学部水産学科卒。幼いころから昆虫や小動物に興味を持ち、草むらや水の中に入って遊ぶ。自然科学図書の編集執筆のかたわら、各種自然教室などの講師をしている。
『机の上で飼える小さな生き物』(草思社)/『日本の海水魚』(学習研究社)/『日本の淡水魚』(学習研究社)/『金魚がウチにやってきた』(岩波書店)/『水辺の自然・遊んで学ぼう』(学習研究社)/『まるごと近所の生き物』(学習研究社)/『学校で飼う身近な生き物』(学習研究社) など多数の著書や監修書がある。

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