シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

人工海浜の植物たち

私は、生物調査や自然解説を仕事にしています。学生時代から植物を学んできたので、得意とする植物を中心に生きもの観察会を催しています。今回、私のフィールドのひとつ、葛西海浜公園の"西なぎさ"で見られる海浜植物をご紹介します。

埋め立てた人工海浜では、今

葛西臨海公園にある葛西渚橋を渡ると、目の前に葛西海浜公園"西なぎさ"が広がります。その左隣には、野鳥保護のために立入禁止となっている"東なぎさ"もあります。この"西なぎさ"のある葛西海浜公園は、手前の葛西臨海公園と共に埋め立てて造られ、約25年前に開園しました。ここでは、釣り、バーベキュー、スポーツカイトなどを楽しむことができ、多くの人が訪れています。もちろん、様々な動植物にとっても、この海浜公園は生息・生育する場となっています。そして、2011年の夏には、絶滅危惧種のコアジサシの繁殖行動が22年振りに確認され、注目されるようになりました。

海辺で見られる植物には、どんなものが

"西なぎさ"では、これまでクロマツ、ハマナス、ウバメガシ、トベラなど海辺で見られる樹木を植栽したり、飛砂防止にと、ハマヒルガオやコウボウシバなどの種子を蒔いたりしたそうです。また、街中で見られるようなネジバナ、オオバコなども観察されます。これは、人によって種が運ばれてきたり、風や川にのって辿り着いたりしたものと考えられています。

そして、それらに加えて海浜には自生と思われる、ツルナ、ハマエンドウ、ハマダイコン、ハマボウフウなどの植物も見られます。
1年を通して調査した結果、およそ130種もの植物が記録されました。大半が帰化植物なのですが、その中には海から流れ着いたと思われる海浜植物の姿も見られます。

生き抜くためには

海辺という環境は、陽射しを遮るものはなく、潮風も絶え間なく吹き付け、乾燥を強いられる過酷な場所です。ここ西なぎさも同様です。このような悪条件の中、植物が生き抜くために、葉を厚くし保水性を高めたり、艶のある葉にして塩を付着しにくくさせたり、背丈を低くし砂浜を這うことで潮風の抵抗を避けるなどの工夫を凝らしています。

また、海浜植物は子孫を残すために、タネを水に浮きやすくし、生育しやすい新天地へと波を利用して運ばせるのです、"西なぎさ"に見られるツルナやハマエンドウなどは、こうして千葉や神奈川から流されてきたのかも知れません。

海浜植物の現状は

海辺という過酷な環境に加え、東京湾には自然の状態で残された海岸はほとんどありません。干潟や磯を利用する水鳥やカニ、貝などの動物だけではなく、海浜植物にとっても生息場所が少ないのが現状のようです。

このような状況で、ここ"西なぎさ"において海浜植物が見られるようになったことは、たいへん興味深く思います。しかし、野鳥保護区になっている"東なぎさ"にも海浜植物が根付いていますが、自然の海浜に比べると、まだまだその数には及びません。

また、植物によっては、その年にしか見られなく、定着しない場合もあります。それ故に、毎年どのような植物が生えるのか、楽しみに調査を行っています。

皆さん、"西なぎさ"にお越しの際は、是非、海浜植物を観察してみて下さい。地面を這う姿や艶のある葉の形はどうなのか、タネができていたら、どんな形でどのように散布されるのか、これまでと違う視点で観察されてみてはいかがでしょうか。自然観察がより一層楽しめるはずです。

恩田 幸昌
恩田 幸昌(おんだ ゆきまさ)

東京環境工科専門学校で生物調査や環境教育について学ぶ。NPO法人生態教育センター・指導員として、葛西臨海公園鳥類園や世田谷区立桜丘すみれば自然庭園などで自然解説を行なっている。
NPO法人生態教育センター
鳥類園のブログ
桜丘すみれば自然庭園のブログ

おすすめ情報