シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

大規模植林事業の裏側で ~なぜサラワク先住民族は闘っているのか?

みなさんは「植林」と聞くと、どんな印象を持ちますか?「環境によい」とか「森を守っている」とか、好印象をお持ちだと思います。
でも、海外で行われている何千、何万ヘクタールという大規模な植林事業では、そういったよい話ばかりではありません。
今回は「命の源」、「豊かな生物多様性」の代名詞ともいえる熱帯林の広がるボルネオ島のマレーシア・サラワク州の例を紹介します。

ある日突然・・・

ビントゥル県の農村地域に住むセンゴックさんは、代々その地域に住む先住民族イバン人コミュニティの長です。これまで焼畑農業を主体にゴム林や小規模なアブラヤシの畑などを営んでいました。

2007年3月、事件は起こりました。サラワク州土地調査局と開発事業者が、警官を伴って合計20台の車でコミュニティの畑に押しかけ、作業小屋兼貯蔵庫を破壊し、栽培していた作物に薬物を散布し、センゴックさんの畑を根本から台無しにしてしまいました。

事件の背景

センゴックさんは、マレーシアが独立する前のブルック王国時代に、王国政府が発行した土地の権利書を持つ、立派な地主さんです。そして、独立後のマレーシア国憲法とサラワク州政府の土地法でも、代々地域に根ざしている先住民族の、土地に対する権利は認められています。

しかしながら、サラワク州政府は強力に開発政策を推し進めるべく、その開発に障害となる先住民族の土地に対する権利に十分に配慮しませんでした。
「州の土地」として扱い、事業者に対して開発許可を出してしまいました。州政府と開発事業は、あたかもセンゴックさんが不法に州の土地を占有しているかのごとく、彼の畑を台無しにして、土地を取上げようとしたのです。その後、事業者はその土地一面に"アカシア"を植林しました。
⇒その様子はこちらでご覧ください

闘う先住民族

こうした事例は、サラワク州でも無数にあり、さらにはマレーシアにとどまらず、多くの熱帯諸国で実際に起こっていることです。また、その大半において、コミュニティの人々は政府に強い反感、不満を持ちながらも泣き寝入りせざるを得ない状況です。しかし、センゴックさんたちは、先住民族コミュニティを支援するNGOを頼り、知恵を授かり、勇敢に立ち上がりました。

まず、開発事業者の行為の不当性を訴える被害届を警察に提出し、事件を記録として残しました。
そして事業者が植林したアカシアを引き抜き、自分自身で育てていた、"アブラヤシ"の苗を植えました。

その後も、土地測量省からは「いついつまでに土地から立ち退かないと再び強制的にアブラヤシを処分するぞ」という勧告を受けたものの、センゴックさんは、逆に政府に対して「コミュニティが権利を有する土地をこれ以上侵害することは許されることではない」との布告をして、政府に屈服する姿勢のないことをアピールしました。

また開発事業者からは、都市部に行くための小さな橋に土砂を積まれてアクセスを妨害されたり、道路を塞がれたり、様々な妨害を受けていますが、そうした嫌がらせにも屈せず、土地を守り続けています。
そして、同様な被害を被っている周辺のコミュニティの人々とともに州政府と開発事業者に対して訴訟を起こす準備をしています。

最後に一言。
このような背景を持つ大規模植林事業、およびその開発によって生産された木材の多くは実は日本に輸入されている、という現実をお忘れなく。ホームセンター等の資材売り場で合板や木材を見かけたら、どんな土地から来た木材なのか、ぜひ店員さんに尋ねてみてください。

FoE Japanは、今後も現地のNGOとともにセンゴックさんのような闘うコミュニティを応援していきます。 ⇒植林事業を含む大規模プランテーション事業の問題についてはこちらをご覧ください。

三柴 淳一
三柴 淳一(みしば じゅんいち)

国際環境NGO FoE Japan 理事/事務局長/森林担当。
理化学機器メーカーに勤務後、青年海外協力隊で西アフリカ・ガーナに派遣。2004年より森林担当スタッフとしてFoE Japanに参画し、2011年4月より現職。主にインドネシア、マレーシアの木材流通および違法伐採調査、提言活動に従事。現在、日本への合板輸出の主要地域であるマレーシア・サラワク州に焦点をあてた活動を展開し、森林開発に直面する現地住民の支援活動を行なっている。
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