シリーズコラム

【さんさん対談】地方と都市はどう結びつくべきか――農の視点から

東京農大客員研究員 6次産業化プロデューサー 中村正明氏 × エコッツェリア協会 田口真司氏

「食と農」は現代日本の大きな課題・話題のひとつである。後継者不足で衰退の一途をたどる地方農業、中山間地の荒廃、6次産業化をはじめとする地方創生の起爆剤としての期待、国の食糧政策の基盤としての農業等々、ポジネガ問わず、広範なテーマとトピックスを含むのが食と農の問題だ。

エコッツェリア協会では、3×3Labo創設以前から食と農の問題には注力してきているが、3×3Laboから3×3Lab Futureへグレードアップしていく過程で、今後さらにより深くコミットしようとしている。そのひとつが東京農大との提携だ。昨年8月に三菱地所も交えた三者連携協定が取り交わされ、「食と農」での先進的なまちづくりに取り組んでいくことが発表されたが、その立役者のひとりが中村正明氏(現在、大丸有「食」「農」連携推進コーディネーター)だ。

氏は、大丸有の飲食店の食材共同購入スキーム「大丸有つながる食プロジェクト」のプロデュースを手掛け、都市と地方、農村を結ぶ活動に取り組むほか、農林水産省が認定する「6次産業化プランナー」として全国各地を駆け巡り、東京農大客員研究員ほか複数の大学で教鞭を執るなど多彩な活動を続けている。丸の内プラチナ大学では、全国各地とのネットワークを活かして農業ビジネスコースの講師を担当。講座で出されたビジネスプランは実現可能性が最も高いものとして評価を受けた。

今回、3×3Lab Futureへのステップアップを前に、さんさん対談で、中村氏と田口氏が、お互いの目指すところを語り合った。

土から歌へ、そして再び土へ

中村氏が専門家として登録されている6次産業化中央サポートセンター

田口:丸の内プラチナ大学をはじめ、さまざまなフェイズでご一緒させていただいておりますが、実は中村さんが何をしているかよく分かっていないというところがありまして(笑)。今日はまずそこからお話をお願いいたします。

中村:そういえばそうですよね(笑)。まず私のベースには、農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)内にある6次産業化中央サポートセンターを通じて、6次産業化プランナーとして活動していること、東京農大で客員研究員をやっていることがあります。その2つの立場から、全国各地を回って生産者や地域を支援していますが、地方と地方をつなぐ、地方と都市をつなぐといった、横断的な支援、サポートをしているのが私の主な仕事なんです。各県のサポートセンターは、それぞれの地域で6次産業化を推進する。私たち中央サポートセンターのプランナーは、都市機能を活かした開発やブラッシュアップをする。そういう役割の違いがあります。

田口:なるほど、それは丸の内プラチナ大学にぴったりですね。

中村:まさにまさに。地方を回っていると、今都市と結びつきたい地域が増えていることを実感します。それは単に「マーケットとしての都会」ではなく、新しい価値創造のために都市と結びつく、そういう発想です。都市のリソースを活かして、グローバル展開を狙いたいというような相談ですね。そういうブラッシュアップは一地域だけでは難しくなってきています。

田口:都市と地方の新しい関係ですね。そんな活動に至ったのはどんな経緯なんでしょう。東京農大を卒業して、音楽をやったりしていたそうですが、それがどうして農業、地方といった課題へとつながったのか、興味があります。

中村:大学の卒論で農村文化と演歌を扱ったんですよ。演歌は民謡をベースとしており、それぞれの地域に根ざした地域資源である、と。それで"山村でシャンソン"なんて洒落みたいですけど、銀座や新橋のピアノバーで修行して、水割り作りながらお呼びがかかればステージで歌って(笑)。シャンソンも演歌も歌詞をよくよく見ると同じような歌なんですよ。「息子たちはみなパリに行ってしまってブドウ畑の跡取りは誰もいない」みたいなことを切々と歌う。そういうのを歌っているうちに、農大の先輩の紹介でJAのCMソングでお声がけいただいて、メジャーデビュー。全国行脚をするようになりました。

JA主催の各地のイベントで歌うものですから、地元の農家の方がCDを買ってくれるし、採れた農産物をお土産でくれたりもするんです。だからこちらもうれしいやら申し訳ないやらで、今度は行く先々の特産品や地域の特徴を謳った歌を覚えるようになったんです。歌う歌詞は忘れても名物は忘れない(笑)。それが今の活動につながっているんですよね。

田口:当時は地方よりも都市、社会性よりも経済的価値が主流だった時代でしょう? でも、中村さんは昔も今もブレることなく同じ道を歩んでいる。これってすごいことですよね。

中村:いやいや、そういっていただけるとうれしいけど、ブレブレですよ。でも芯だけはあったかな。農大に行ったことがひとつの芯になっている気がします。あそこは面倒見のいい大学でしてね。卒論に演歌を選んだ僕でも卒業させてくれたし、先輩がJAを紹介してくれたり(笑)。

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大学と都市と地方

大学と都市と地方

2015年6月のエコッツェリア協会総会では、東京農大の高野学長が講演

田口:メタファーとして"土"の文化を感じますね。農業だからじゃない、人材輩出の土壌というか。

中村:そういう風土はありますね。土作りの文化そのものです。だから卒業生はみな愛校心が強い。

田口:今日伺おうと思っていた話とは違いますが、やっぱり教育って大事ですよね。

中村:大事だと思いますね。この10年くらい大学の客員研究員を務めるとともに、講師として観光と6次産業化とまちづくりなどをテーマに講義をしてきましたが、近年、切実に人材育成、教育の必要性をひしひしと感じています。今、日本の生産人口は70代が中心で、今後数年で日本の農村、地方は劇的に変わってしまうでしょう。本当に「今」しかない、今教育に力を入れなければ日本が変わってしまう。そう感じています。それは若い人の教育だけではなく、丸の内プラチナ大学に集う、シニア、プラチナ世代も含めてです。私自身、4月から、関東学園大学で教授として就任することが決まり、節目の年になりそうだと感じています。そこでは、本当にやりたかった、経済視点を盛り込んだ観光と食と農、そして地場産業を3本柱にした講座(地域経済デザインコース)を開設することになります。

田口:中村さんはご自身の問題を語るときに必ず社会全体を広く見渡している。主語が"We"なんですよね。企業で働くようになるとどんどん視野が狭くなっちゃうけど、そうならない、本物の教育が必要なんでしょう。

それでは、次に「都市」の役割についてお考えをお聞かせいただきたいんですね。今は都市に人とお金が集まっていますが、本当は、都市にはコンテンツがないんじゃないか。地方にこそコンテンツがあることが分かってきて、そうなるとこれからは都市が見放されていくんじゃないかと感じています。

例えは悪いかもしれませんが、多くの戦争が、数的に劣る一部の人たちが、周りの大多数を従えるために起こすことが多いように見える。実は都市と地方の関係もそれと同じなんじゃないでしょうか。何もない、持たざる都市がそれを隠すために虚構を作り出し、格好をつけている。昔はそれがカッコよく見えたわけですが、実はどこを見ても同じような顔にしかならないわけですよね。土壌がないのに、虚構の賑わいだけがある、そんな感じがします。

中村:なるほど分かりやすい。さすが田口流だねぇ(笑)。都市は確かにそういう危機感を持つべきでしょうね。
エコッツェリア協会が2010年に食についてのビジョンを構想するときに東京農大の先生方とともに参画し、後には「大丸有つながる食プロジェクト」のプロデュースなどにも携わるようになりましたが、この3年でようやく、地方側の要望が見えてくるとともに、都市側の可能性や魅力というものも見えてきました。が、都市側でそれを活かす体制が整っていない。冒頭でも申しましたが、都市にはビジネスのリソースはたくさんあるにも関わらず、地方の資源と結びついて有効に機能していないんですよ。

大丸有つながる食プロジェクトでは、シェフらを連れて生産現場を視察するイベントも開催している

今私が考えているのが、都市を活用するために大学をうまく機能させられないか、ということなんです。大学の教育は校内だけでは充分ではない、地方をフィールドにした外部活動がとても重要で、今の地方の動きにはその点で可能性を感じています。

逆に地方創生において大学が果たすことのできる役割もかなりあるのではないかと思うのです。例えば、地方創生の活動のために、企業が自治体に入ろうとしてもとても難しい。その間に地方大学がクッションとして入り、コーディネーターのように動けば非常に有機的なパートナーシップにつながります。そういう例を各地でまざまざと体験してきているんですよ。

また、今地方創生では地域間連携の重要性が指摘されていますが、自治体は枠を超えて活動するのがとても苦手。そんなときに、そんなコーディネーター的な大学が横で繋がることで、地域間連携を促進する。そんなことも考えています。

人を耕すということ

田口:なるほど、大学が行政をつなぐファシリテーターになるわけですね。今、3×3Lab Futureに相談、視察に来る地方自治体の皆さんが、都市部に求めている役割がまさにそんなファシリテーション機能なんです。

私の理想は、3×3Lab Futureは東京でファシリ役をやるが、地方にも3×3Lab Futureのような「場」ができていくこと。もちろん各地にできる場はそれぞれ役割やミッションが違うでしょう。しかし、3×3Lab Futureも含め、各地の「場」、各地のファシリテーターが横で繋がる形を作ることができればいいなと思ってるんです。

中村:それは面白いね。しかし、ファシリテーターが重要になりますよね。結局、ファシリテーターって座学で教えてどうにかなるものじゃないじゃないですか。実践の中で学ぶしかないわけです。私は「さくら塾」という講義と交流のイベントを10年100回以上手がけてきましたが、ファシリテーションって、テーマを決めて、講師を囲んで、質問交流会すればそれでいいというものじゃないんですよね。毎回のゲストを選ぶところから始まって、このテーマ、地域ならこういう人に出席してもらわないといけない、こんなメンバーが必要だ、という、イベントの前哨戦の部分が一番大事。誰に来て座ってもらうかという基本のセットアップがしっかりしていなければ、ファシリテーションはうまくいかない。

田口さんのファシリテーションもそうじゃないですか。"いきあたりばったり"みたいに見せていますけど、実は仕込みが8割で、事前に作りこんであるから、本番が心に刺さるものになる。

田口:おお、久しぶりに大事に思っていることを言葉にしてもらえました(笑)。ありがとうございます。そこで改めてお訊きしたいんですが、丸の内プラチナ大学の手応え、どう感じていらっしゃいますか。

中村:このターゲット層の魅力を感じました。アンテナの高さが違う。持っているスキルを活かそうというモチベーションが高い。このスキルの高さ、多面的な考え方はものすごい財産です。こういう人たちがひとつのテーマで取り組むと、こんなすごいことが起きるのかということを、まさに目の当たりにしているところです。

これは逆に地方側でも求めているのだということも実感しました。今回のフィールドになった丸鉄園にかぎらず、地方のアンテナの高い人は、都市側のネットワークや感性の高さを必要としています。今回のプラチナ大学で提案されたビジネスアイデアを、本当に事業化したいと考えているようです。

田口:それはすごいことですね。

中村:すごいことなんですよ。実際企業がお金を出してもやりたがるだろうというアイデアばかりなので、いったいいくつ実現するのかと思うくらい。

田口:今、多くの若い方々がソーシャルアクションに興味を持ち、活動してくれています。しかし、彼らはやる気もアイデアもあるけど、おそらくは実戦のスキームを知らない。プラチナ大学の受講生は、その点百戦錬磨のみなさんばかりですから、ビジネスの常識やお作法をよく知っているから話が実に早いですよね。

中村:その違いは大きいですね。この独自の視点を持ったセカンドキャリア、プラチナ層には大きな手応えを感じています。今回は静岡をフィールドにしましたが、今後は、付き合いのある各地域で展開したい。プラチナ大学の受講生なら、変な人はいない(笑)という安心感もありますしね。

田口:そう考えるとかなり属人的ではありますね。

中村:そうですね、でも人と人がつながることが継続的な交流のベース。プラチナ大学のような人のつながりを各地でも作りたいです。

丸の内プラチナ大学を活動プラットフォームへ

丸の内プラチナ大学プレ講座の農業ビジネスコースでは、中村氏の案内で静岡県の農場を視察

田口:今、企業人のごく普通の感覚からするとものごとはすべからくギブ・アンド・テイクたるべしなんですが、プラチナ大学の人たちは「ギブ・アンド・ギブ」なんですよね。ひたすら与える。そこが面白い。

中村:それは本当に理想的な関係なんですよ。結局ソーシャル・ビジネスのプランナーは、既存のビジネスを越えて、新しいキャッチボールができなければならないわけですから。これは社会課題を、都市と農村が一緒になって解決していきながら、まったく新しい社会価値を創りだそうとしている取り組みかもしれないな。

田口:それで私は改めて教育のことを思い出すんですよ。プラチナの取り組みは、現場に入って体験・実践しながら学ぶものじゃないですか。教育って本来そういうものじゃないですか。そんな現場のリアルを抽象化して体系化したものが教科書だ、ってだけで、体験もせずに本だけ読んでおしまいというのは変でしょう。

中村:仰るとおりです。現場で体験しなければ分からないことがあり、それを知らなければ次のレベルに上がっていくこともできないんです。

田口:そんなプラチナ大学ですが、来年度はどんな目論見をお持ちでしょうか。

中村:ひとつは、受講生からも要望があった「大学院」を作りたいということ。私は仮称で「ファーム」と呼んでいますが、本科だけではなく、修了後も実践を続けるためのプラットフォームとして機能する場であり、科を超えて横断的に関係性を構築できる場にしたい。地方からはビジネスアクションの要望がたくさん来ているんです。地域と都市をつなぎ、都市の強みを地域にフィードバックする仕組みをメニューとして作れないか、ということも考えています。

また、プラチナ大学から発展させて、エコッツェリア、3×3Lab Futureが、先ほど申し上げた、大学と地方の新しいつながり、大学同士の横の連携の拠点になってくれればうれしいですね。

田口:地方大学の横の連携というのは面白いですね。ぜひ丸の内プラチナ大学からはじまり、さらに広い活動に繋げられたらと思います。今日はありがとうございました。

中村正明(なかむら・まさあき)

㈱グリーンデザイン代表。6次産業化プランナー、東京農業大学・東京情報大学客員研究員、関東学園大学教授、城西国際大学非常勤講師 東京農業大学卒。農業と演歌の研究からミュージシャンデビュー。後、ミュージシャンとして各地を回った経験を活かし、農業活性化、地方再生の活動に転じる。教鞭を執る傍ら日本各地を巡り歩き、6次産業化、地方創生のコンサルティングなどを行っている。丸の内では「大丸有つながる食プロジェクト」のプロデュースを手掛け、都市と農村をつなぐために一役買った。丸の内プラチナ大学プレ開講では農業ビジネスコースの講師を担当した。


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