シリーズコラム

【さんさん対談】人も企業もしなやかな「レジリエンス社会」を目指す

大成建設 小野眞司氏 × エコッツェリア協会 田口真司氏

「レジリエンス」という言葉が注目されるようになって久しい昨今。「復元力」「弾力性」「しなやかな強さ」などいくつもの訳が当てられ、個人の心のあり方から、災害対策においては、「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)」など幅広い分野で使われる言葉になってきました。BCM(事業継続管理)の目標はレジリエンスの獲得と言われています。

建設業である大成建設の耐震推進室(前)で20年以上に渡り地震対策の普及に努めてきた小野眞司氏は、「レジリエンス」が耐震・防災の問題に留まることなく、広く社会全体に適用でき、新しい未来を切り拓くキーワードであると捉え、建設の枠組みを超えた多彩な活動を展開しています。「変化が危機になり深刻化してしまうのは受け止める側の内部要因が大きく、それはレジリエンスの欠如を意味しています」と小野氏。それは、都市のあり方、人の生き方にも当てはまるもの。小野氏は、まちづくりや、人がどう生きるべきかといったテーマで、さまざまなステークホルダーを巻き込んだワークショップイベントやセミナーを開催しており、その一部は3×3Laboでも行われたこともあるので、ご存じの方も多いのでは。

3×3Lab Futureの仕掛け人、田口真司氏が聞く対談シリーズ。今回は、その小野氏を迎え、レジリエンスと社会の未来についてお聞きしました。

日本人が古来持っていた「レジリエンス」が失われつつある

田口:レジリエンスという言葉の定義はかなり広いと感じるのですが、ご専門であった災害対策の分野では、どのような文脈で用いられてきたのでしょうか。

小野:レジリエンスという言葉が日本でよく聞かれるようになったのは、2008年くらいだと思います。私が取り組んきた地震対策の分野では、BCM(事業継続マネジメント)やBCP(事業継続計画)などでよく聞くようになっていました。BCMの本来の取り組みは「どんなハザードがあっても重要業務をいかに止めない環境を作るか」という事になるのですが、そのために災害や事故、障害が生じてもすぐに復旧できるように、ハード、ソフトを見直していきましょう、という取り組みなんです。
地震を例に取るといくら建物を頑強にしても、交通網が遮断されて人が出社できなければ仕事はできません。インフラが停止しても同じです。

「出社しないとその仕事ができない」のではなく、「出社しなくともその仕事が回る」ように、普段からのワークスタイルを変える、柔軟にしておく。災害などによってもたらされる危機の本質を考えて、そこから変えていくというのがBCMの本質ですし、レジリエンスはそこから生まれてきます。「強化」や「対応策」は進めやすいのですが、それだけではレジリエントになるのは難しいと思います。

田口:では、レジリエンスとはいったいなにか、解説いただけますか。

小野:実はそれが難しいんです。レジリエンスは世界中で使われている言葉なのですが、日本語にはぴったりくるような訳がない。無理やり訳せば「しなやかさ」や「強靭性」になるけれど、僕の感覚としては、どうもしっくりとはこないのです。

レジリエンスを考えるためのアプローチ(小野氏提供)

日本語にうまい訳がない理由としては、「日本ではもともとその発想を持っていたから」という話があります。日本には四季がありますが、それは人間にとって意外と厳しい環境でもあったといえます。万物に神が宿り、自然環境に沿って暮らしていく中では、災害も含め自然の変化は起こって当たり前という感覚であり、防ぐというよりもいかにやり過ごし、被害があれば早く立ち直れるかのほうが重要視されてきた。それも、被害前とは違うように。
例えば、日本の河川は大きな氾濫を起こすものがたくさんあります。
昔の人々はそれに対し、特定の場所では堤をすぐに切れるようにしていました。そうすることで氾濫後にすぐに水が引き、復興が早まるわけです。
もちろんそれ以外にも、上流から水の勢いを弱める工夫や水がスムースに流れる工夫などもされていましたが、基本的にはある程度以上の洪水にはあふれることを前提にすることで、逆に被害を小さく抑えたり、長期化しない国造りが行われていました。
事象が防げないなら防げないなりに工夫する。何かあったらそれは自分事として皆で協力して何とかする。できないことがあれば、できることで貢献しあう。こうした当たり前の生活の知恵として、レジリエンスにあたる感覚があったのだと思います。

現在のわれわれの科学技術は、確かに被害が生じるレベルをうんと遠くに持って行ってくれました。そのために、例えばかつては人が住みにくいところでも快適な生活ができるようになりましたが、その限界を超える現象が起きてしまったらどうでしょう?
これまでの社会を根底から覆すようなことが起きた今、さまざまなひずみははっきり表れているのではないでしょうか?

果たしてこのままでいいのか?ということは僕の中にずっとあり、それをみんなで考えたくて始めたのが、「レジリエンスの未来」の取り組みです。

災害というのは、急激なひとつの「変化」にあたりますが、他にも長期間にわたっての変化もあります。それを「起きるとマズいもの」つまり「危機」にしてしまったり、深刻化させてしまう要因は、それを受け取る私たちの日常のあり方や社会システムの中にもあります。むしろそのほうが大きいかもしれない。実際に被害と言われるものがどのようなメカニズムやシステムで生じているのかを考えてみればわかります。
変化自体は避けられないものですし、制御や防御はできそうに思えるのですが、実際は限界があり出来ないものです。そして未知の変化や限界を超えるような変化、ありえないこと(ブラックスワン)も必ず起きます。
それを「危機」ではなく、これまでの仕組みや社会、そして私たち自身のあり方を見直す「機会」として捉え、柔軟かつ創造的に自己変革していくべきでしょう。
レジリエンスとは、こうしたより良い未来に向かうために自らの進化を生み出す能力として捉えるべきものだと考えていますし、これからの変化の激しい社会の中において自らを変革していく力ではないかと思うのです。そのためには、社会の中で自分がどうあるべきか、ということを常に問い続けていかなければなりません。

田口:伺って思ったのが、現代では、「doing(何をするか)」の部分ばかり評価され、「being(そこに在ること)」こそ大事であるということを忘れてしまいがちだということです。だから、成果や結果は出せていないと自分の存在意義を見失い、それがうつや精神病につながっていきます。しかし「自分はどうあるべきなのか」と問い続け、ある程度納得したものがあれば、結果が出ないときでも自らの存在を否定することなく進んでいけます。

社会と個人の関係性を川の流れに例えるなら、個人というのは一つの水の分子でしかないのですが、結局はその個々がどこに流れていくかで川の流れが決まっていきます。それは企業組織と個人においても全く同じで、個が生き生きすれば企業は太く、強くなっていくでしょう。小野さんの考えるレジリエンスは、未来の社会を考える上での鍵になりそうですね。

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建築の現場から半官半民のシンクタンクへ

建築の現場から半官半民のシンクタンクへ

田口:レジリエンスという言葉を使う前から、きっと小野さんの心には、社会に対するふつふつとした思いがあったと想像します。過去のどのような経験が、現在の活動と結びついているのでしょう。

小野:原風景としてあるのは「ラボ・パーティー」という団体で小学生から活動していたことかもしれません。英語を中心とした多言語による劇を作るのが主な活動内容でしたが、3歳児くらいから大学生まで幅広い年代の人が、フラットな関係性において一緒になってひとつの劇を仕上げていく活動なのでとても共創的ですよね。自分たちで企画を起こして、成功しても失敗してもOKであり、いつもみんなが喜ぶ......。そもそも失敗なんてない。今思えば、イノベーション人材を育てるのにうってつけの環境かもしれませんね。留学プログラムなどもあり、中学1年の時にアメリカで1か月、ひとりホームステイをするなど、「社会について」や「その中で自分はどうあるべきか」について自然に考える機会も多くありました。

田口:サードプレイス、共創、フラットな関係性......。まさに「3×3Labo Future」が目指しているものですが、一般企業、とくに大企業はそれと真逆ともいえる、競争の世界です。なぜそこに飛び込もうと考えたのでしょう。

小野:もともと建築科を卒業したのですが、建築というのは、絵を描くだけではなくモノをきちんと作り上げることで初めて成立します。設計だけではなく、作り上げる工程を経験したくて、ゼネコンという現場を選びました。
それと、「建築」というのはどんなものでもある意味権力の具現化ですよね。その懐に飛び込み、自分のエッセンスを加えることができれば、何かこの社会へのメッセージになるのではないか? というような若き思いもあったかもしれません(笑)。

田口:その気持ち、なんだか自分のことのようにわかります(笑)。

小野:そして大成建設に入り、現場には7年いたのですが、バブルが始まったこともあって本当に忙しく、きつかったです。正直、何度も辞めようと思ったこともあります。しかし、生まれ故郷のプロジェクトを任されるなどのタイミングもあり、なんとか走り続けました。

大きな転機は社外留学制度の公募でした。「総合研究開発機構」というシンクタンクで2年間の枠があるということで応募したのですが、現場から手を挙げたのは僕ひとりだったようです。結局選ばれて、そのシンクタンクに行きました。半官半民で、他の企業からも社員がたくさんきて、そこで政府の感覚や企業文化の違いなども知りました。
また、女性の社会進出における課題をテーマに、一般の市民の方々の声を集めて政策提言にするというプロジェクトを担当しましたが、そこで触れた価値観も全く新しいものでした。

田口:礎を作る現場仕事から、国の将来を考えるという視野の大きな職場に行ったというのは、両極端の経験ですね。だからこそ、自分の中心軸がはっきり見えたのではないでしょうか。

失敗や被害をある程度許容できる社会を作る

小野:社外の人との交流を通じて考えるようになったのが、ゼネコンという仕事の在り方についてです。ゼネコンの仕事は、顧客の計画をいかに具現化するかという請負業であって、計画自体に大きく干渉することはありません。このため、いわゆる市場や社会というマスの視野で考えたりマーケティング的な観点を持つことも少ないものです。しかし今後はゼネコンも、自ら発信し、提案し、市場を作っていくような姿勢が必要になる。そうした話をよくしていました。

一方で、建設のプロジェクトにはあらゆる業種の方々が集まってくるので、実はそこからの膨大な他分野のナレッジが社内にたまっています。それをきちんと編纂しアウトプットして、顧客に企画のヒントを提案し、それを元に仕事を作ってもらうようなことはできないか。そう思って、出向先から帰ったあとには商品企画室という部署に配属してもらいました。

当時建築の地震対策は世界のトップだと言われていたけれど、その必要性を我々建築業者が顧客に対して十分に説明できていませんでしたし、その重要もお伝え出来ていませんでした。だから、ゼネコンが持っている耐震技術を社会に正確に伝え、採用してもらうことからはじめようとしたのですが、動き出したその矢先に、阪神大震災が起こりました。高速道路が倒れ、ビルがたくさん倒壊しましたが、なぜそうなったか、何が必要なのかが正確に伝わっていかない。日本全体がパニック状態でした。それで「耐震推進部」という専任の部署を作って、以来20年、地震対策の訴求に関わってきたという流れになります。

田口:今後は、どういった活動をしたいとお考えですか。

小野:業務レベルでいえば、請負業であるゼネコンでは、どうしても翌年くらいまでのプロジェクトばかりにとらわれがちですが、そこで造られる建物などは数十年先まで存在しますし、街は姿を変えながらももっと長期にわたって存在し続けるでしょう。なので、レジリエントな未来社会を創るプロジェクトを、お客様や社会の皆さんと一緒になって考えて行くことができるオープンな場をつくっていきたいと思っています。

レジリエンスには、「木を見て森も見る」というような、社会と個人を同時視する視点が必要ですが、個の利益や目の前の利便性ばかり優先して考える傾向の強い現代の日本社会では、その視点も失われがちです。
個々のせめぎ合いの時代にあって、その隙間をどうデザインし、どう関係性を創っていくのかが今後の課題であり、そのために、まず個人である私達自身が、どのように変わるべきなのか、問いかけ続けていきたいですね。

小野眞司(おの・まさし)
【大成建設株式会社 ライフサイクルケア推進部 部長 】

1985年東京理科大学理工学部建築学科卒。同年大成建設入社、5年間の現場管理業務の後、1991年より半官半民の政策系シンクタンクである総合研究開発機構に出向。「女性の社会参加と課題」「モノ作り技術の伝承に関する課題」等の政策研究を担当。1993年の復職後、商品企画室で技術プロモーションやマーケティング戦略を担当。1995年の阪神・淡路大震災を機に設立された耐震推進部の設立メンバーの一人として耐震関連のプロモーション企画及びプレゼンテーション全般を担当。耐震市場におけるマーケティング戦略全般を担当し、企業向けの地震対策公開セミナーなども開催。耐震ネットは中核的な役割を担っている。
2014年より「レジリエンスの未来」の企画をスタート。フューチャーセッションをはじめ、さまざまな取り組みが広がりつつある。2016年2月より耐震推進室を離れ、新たにライフサイクルケア推進部における共創マーケティング活動を担当している。プライベートでは、社内メンバーを中心とした有志による未来志向での対話グループ「&Future」を呼びかける一方、全くの有志メンバーによる「これからの教育フューチャーセンター」に参画。また、出身地である広島県福山市で「フューチャーセンターFUKUYAMA」を主宰し、街づくりのフューチャーセッションを開催するなど、対話によるさまざまな未来創造の活動に携わっている。

耐震ネット/レジリエンスの未来

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