シリーズコラム

【さんさん対談】"プラチナ社会"は誰のものなのか

プラチナ社会センター 松田智生氏 × エコッツェリア協会 田口真司氏

「プラチナ」が大いに盛り上がりを見せている。先日開催された第4回丸の内プラチナ大学には、就業時間中の開催にも関わらず70名を超える参加者が訪れ、活発な議論を交わしていた。続いて開催された第5回は、夜の時間帯で開催されたが、同様に大勢の参加者が集まり、すっかり"キラーコンテンツ"として定着した格好だ。プラチナといえば「シルバー」「セカンドキャリア」かと思いきや、参加者には若年層が目立ったのも大きな特徴だった。

そもそも三菱総研の「プラチナ社会研究会」がきっかけとなってスタートした「丸の内プラチナ大学」。プラチナ社会研究会からは分科会のひとつに位置付けられ、3×3Laboにとっては、これからの社会課題解決コンテンツのひとつという位置付けだ。この丸の内プラチナ大学は、いったいどんなものなのか、そして何を目指そうとしているのだろうか。

3×3Laboの仕掛け人、田口真司氏が聞く対談シリーズの1回目として、今回は渦中のプラチナ社会研究会をを立ち上げた仕掛け人、松田智生氏をお招きし、丸の内プラチナ大学の今後を熱く語り合っていただいた。

プラチナの始まり

田口:丸の内プラチナ大学は、三菱総研のプラチナ社会構想と連携していますが、まずはそのプラチナ社会構想が何なのか、どのような背景で立ち上がったものなのか、お聞かせいただけますか。

プラチナ社会研究会では、5分野で13の分科会が設定されている(プラチナ社会研究会のサイトより)松田:2010年ころ、三菱総研では受託型の仕事ばかりでなく、シンクタンクらしい課題解決の提言に取り組もうとしました。当時の社会課題といえばエコとしての「グリーン」、高齢者問題の「シルバー」でしたが、それらを包含し、それを超えるものとして打ち出したのが「プラチナ」というコンセプトだったんです。これは、シニア世代だけでなく、多世代のための成熟した社会を目指すものです。社会の課題を、CSRやビジネスの中でどう解決していくか、企業側からも取り組んでいきます。エコッツェリア協会とは、2014年策定の「大丸有サステイナブルビジョン」の策定委員会メンバーに加えていただいていたことからのご縁で、丸の内でもプラチナ社会構想を動かそう、という話になったんです。

田口:われわれも「CSV」という文脈で、社会課題解決をビジネスにどうつなげていくかに取り組んでいるので、ちょうど何か一緒できないかという話になったんですよね。イメージとしては「丸の内朝大学」のようなコミュニティをプラチナで作れないか、という話でした。昨年、CSRイノベーションワーキンググループの枠組みの中で、試験的にプラチナをテーマにしたイベントを開催したところ、集まったみなさんからすごく手応えを感じることができて、今年の「丸の内プラチナ大学」開催につながっています。

一方で、良い反応があったというのはあくまでもここに集まる「個人」からであって、実は「企業」「会社」からの反応ではなかった。企業は効率性を重視するがために、多様な社会性を生み出そうとする丸の内プラチナ大学とは簡単に結びつかない。これは今後も大きな課題のひとつかと思うのですが、ひとつ感じているのは、地方創生の文脈で丸の内プラチナ大学が活躍する可能性です。

松田:そうですね、前回のプラチナ大学でも長野県、佐賀県ほか遠方からわざわざ参加してくださった方がそれぞれの課題について、すごく積極的に話してくれたのは非常に手ごたえを感じました。ただ、地方の課題に取り組むのは失敗する例も結構あるんですよ。東京の論理を持ち込んで「東京ではこうだった」「大企業の発想ではこうだ」みたいなね。平場の目線に立てず東京や大企業の論理やると大体うまくいかない。

田口:企業の考え方で「すごいだろ俺」という"すごいだろ競争"をやるのはもう時代に合わないんですよね。

これまでのプラチナの手ごたえは

2014年7月、3×3Laboで開催された最初の「プラチナ」イベント、"セカンドキャリア分科会"の様子。立教セカンドステージ大学のメンバーがプレゼンを行った

プラチナ構想、丸の内プラチナ大学は多世代の成熟した社会構築を目指す。シニアをターゲットにしているのは、その切り口のひとつに過ぎない。逆に言えばシニアだけでなく、さまざまな層の人々が関わっても良いフィールドだ。

田口:丸の内プラチナ大学の対象になるのはどんな人たちなのでしょうか。

松田:基本的には50~60代シニア、そしてバブル世代や団塊ジュニアといった40代の次世代シニアです。次世代シニアは約1,500万人もいて、そのなかの社内でくすぶっている人たちも視野に入れています。例えば、私のようなバブル世代は、合併が進んだ世代でして、銀行なんかは合併後に同期が2000人もいる、なんてのも珍しくない。そんな状況では出世なんてできるわけがないんですよね。能力があり優秀なのにラインからは外れてしまって、埋没してしまっている人がきわめて多いんです。

しかも、そういう人のほとんどが「好きなこと」をやれているかというと、そうじゃない。今働く人に問いたいのは、「好きなこと」「やりたいこと」をしていますか?好きな人と一緒に仕事していますか?です。多くの人が、「好きでもないこと」を「好きでもない人」としていると思うんですよね。

田口:いわゆる「社内失業者」のような人ですよね。優秀だけど仕事がない、そういう人材が、実は大企業ほどたくさん眠っていると思います。能力もある、経験もある、だけど仕事がない。これは非常にもったいないことですよね。こうした人材を掘り起して、「本当にやりたいこと」とビジネスをつなぐ事業を起こしたい。ソーシャルビジネスといえば若い人がやるイメージが強いですが、社会の仕組みを理解して、酸いも甘いもかみ分けた人材が取り組んでこそ、ソーシャルビジネスも本当の力を持つんじゃないかと期待しています。丸の内プラチナ大学のワークショップでも、セカンドキャリアを「自分のこと」よりも「社会のため」に使いたい、という純粋な欲求が見えてきたと思いますが、その点いかがでしょうか。

松田:「社会の役に立ちたい」「誰かの役に立ちたい」「儲けることが最優先ではない」という3つがこれまでの気付きであったかと思います。そしてもうひとつ分かってきたのが、やりたいことにも「いろいろある」ということ。ソーシャルビジネスや社会貢献というと「起業」ばかりがクローズアップされますが、「起業する人をサポートしたい」という思いの人もいるんですよね。以前、ある自治体の依頼でシニアの起業セミナーを1年間やったんですが、翌年誰一人として起業しなかったんですよ。翌年、その反省を活かして、母体は自治体が作ってあげて。営業部長募集、経理部長募集をしたら大勢集まった。つまり社長になるのはしんどいけど、部長ならなりたいということです。程よい距離感でお手伝いしたい、という人が結構いるんだなと。ですから、丸の内プラチナ大学でも「がっつり」と「ほどほど」を分けてやったほうがいいかなと。

田口:それは面白いですね。

松田:「好きなこと」を「気の合う仲間」とやって、「感謝される」。それがセカンドキャリアの目的なわけですが、実は自分が何をやりたいのか、分かっていない人が多いのも事実なんですね。大黒摩季の『ら・ら・ら』の歌詞みたいに、「私これから何をどうして生きていけば良いのだろう」と自分を見失ってしまっている。大切なのは「Will」=自分がやりたいこと、「Can」=自分にできること、「Must」=やらなければならないことを、自分で定義することなんです。丸の内プラチナ大学はそのための助走期間です。私は3つのモチベーションとして「成長実感」「誰かからの気づき」「青臭い議論」を挙げていますが、実はこの青臭い議論がすごく大事で、丸の内プラチナ大学では「これから私の20年どうあるべきか」のようなことを話し合える"第二の思春期"をやってほしいですね。

田口:今までの丸の内プラチナ大学でどんな手ごたえを感じていますか。

松田:すごく前向きな反応を得られていますよね。質疑応答もすごく真剣で、予定調和な受け答えにならないところが面白い。また、収穫だったのが、地方からの参加者が大勢いること、女性率が高いこと、そして、おじさんばっかりじゃないこと(笑)。若い人もいる。大いなる可能性を秘めているんじゃないでしょうか。みなが等身大で問題に取り組めているところもいいですね。年配の方が若い人向けに行う講演で嫌われるのは武勇伝や自慢話。これは主語が「俺が俺が」の「I(アイ)」なんですよ。それよりも「君たちと一緒に考えたいこと」というようなテーマだとすごく評価が高い。それは主語が「We(ウィ)」になるからなんです。丸の内プラチナ大学は等身大で常に主語が「We」だから、こういう手ごたえになっているんでしょう。

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プラチナ社会とは「我々」の物語.

プラチナ社会とは「我々」の物語

2015年7月30日開催の丸の内プラチナ大学の様子。若年層、女性の姿も多い。

丸の内プラチナ大学は、来年の本格開校を目指し、年内は試験的にプレ講座を行っていく。驚きなのは、そのカリキュラムもまた、受講生、参加者と一緒に創り上げようとしていること。共創による本当の市民大学なのだ。

田口:授業内容もみんなで一緒に考えるというのは面白いですね。受ける側も一緒に考えることで、参加意識も高まります。

松田:参加者がプログラムを考えるのは"co-creation"(価値共創、顧客共創)と呼ばれミシガン大学の教授陣が提唱したものです。「サービスは客と考える」という発想。IT系のサービスの多くが、企業側からの一方的に押し付けるものではなく、ユーザーが使い方を広げていっているのが良い例です。

田口:それもオープンなベースプラットフォームを作ることができたからでしょうか。よくあるシニア研修は体の良い"リストラ部屋"、"黄昏研修"ですが、前向きになれる場所になりました。

松田:そう、他にはない場所ですよね。

田口:運営する以上は収支を意識しなければいけないのは確かですが、一方でこれをあまり直接的で安易なビジネスにしたくはないんです。例えば地方へ視察、研修に行くプログラムをやるとしたら、ビジネスとして考えると参加費を取って利益を出す発想にもなりますが、ここでは交通費だけでやっちゃってもいい。そこから生まれた価値に対して課金するようなビジネス形態を考えていきたいです。

松田:プラチナ社会構想を地方へ持っていくと、みんなすごく興味を持ってくれますよね。東京から地方へ人を連れて行くことも大事ですが、地方の人に来てもらって、課題を話してもらうということもしてみたい。「平成の参勤交代」じゃないですが、地方との交流によって課題を浮き彫りにしていくことは必要じゃないかな。日本には大学は約800もあり、地方の大学との連携を進めたいですね。地方に行くと、60代で「もう年寄りで」なんて言うと怒られる。80代のおじいちゃん、おばあちゃんが元気でがんばっているので、60代なんてまだまだ若者扱いですよ(笑)。

田口:3×3Labo、丸の内プラチナ大学も全国にあっていいですよね。そんなことも夢見ているんですが、一方でどうやって人を集めるか、どんな人に来てもらうのかという問題もあるように思います。

松田:丸の内プラチナ大学に来ている人はすでに一歩踏み出している人。世の中の大半の人は忙しさや気恥ずかしさもあり一歩踏み出せない。その一歩踏み出せない中間層が大きなターゲットではないかと思います

田口:松田さんが紹介してくれるセカンドキャリアの成功例の人たちは、どうやって一歩踏み出しているんですかね。

松田:集う場所があったことだと思います。もともとどこでもやっていける人でははなく、3×3Laboのような集う場所があり、そこで仲間をみつけ、自分のやるべきことを見つけたと思います。セカンドキャリアの成功を因数分解すると、集う場所、仲間、助走期間かもしれません。
僕自身だって別にエースではなく、野球で言えばローテーションの谷間の先発みたいなもので、「とにかく5回まで持って試合を壊さないでくれ」みたいな存在ですから(笑)。

田口:丸の内プラチナ大学に来る人はみんな「普通の人」。それが大事ですね。実はこの層の課題は表面化していない。生活が苦しい、といっても貧困層に比べればマシでしょ?と言われる。悩みの受け皿がないんです。

松田:そうですね。困窮した層には福祉制度によるサポートがある。出来る人たちはどうぞご自由にで、真ん中の普通の人に対する支えがぽっかり空いていると思います。ピンチをチャンスに変える解の一つが丸の内プラチナ大学ではないでしょうか。

「我々の」未来に向けて

丸の内プラチナ大学とは、実は他ならぬ「私たち自身の物語」。これからどんな物語を紡いでいこうとしているのだろうか。

田口:今後のことですが、今年の下期で、参加者のみなさんと創ったプログラムを試したいと考えています。いくつかの科目を試して反応を見て来期に向けて準備する一方で、今年度中に始められるものはスタートさせたいところです。起業する、社長を作る、ということよりも、今はまず集まる場所を作っていくイメージを持っています。松田さんはいかがでしょうか。

松田:仰る通り集う場所を作ることと、私としては地域とつなぐことも考えたいです。プラチナ社会研究会とのシナジーもそのひとつ。今、研究会には510の産官学の会員が参加しており、地方自治体は120以上にものぼります。丸の内プラチナ大学を通じて、志のある人たちとつながって、地域の課題を俎上に載せていくことができればと思います。

松田 智生(まつだ・ともお)
株式会社三菱総合研究所 プラチナ社会研究センター 主席研究員・チーフプロデューサー

専門は超高齢社会における新産業創造・地域活性化。アクティブシニアのライフスタイル。2010年、三菱総合研究所の新たな政策提言プロジェクト「プラチナ社会研究会」を創設。著書に『シニアが輝く日本の未来』、『3万人調査で読み解く。日本の生活者市場』。(共著)
OECD都市の国際フォーラム・リードスピーカー、内閣府高齢社会フォーラム企画委員、 政府日本版CCRC構想有識者会議委員、総務省地域資源・事業化アドバイザー、高知県移住推進促進協議会委員、石川県ニッチトップ企業評価委員、国際ホテル・レストランショー企画委員


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